Dream | ナノ

Dream

ColdStar

消えない違和感

翌日。

「それじゃ、気をつけてな」
「ああ。私達がエイジスに行っている間はコウタたちもリンドウさんの捜索をよろしく頼む」
「ええ……藍音達も気をつけてね」

アマテラスには殆ど銃弾が効かないと言う情報により、第一部隊にアサインされていたアマテラス討伐の任務については私とソーマ、それにアリサの3人で向かうこととなった。
私たちを見送ってくれたコウタとサクヤさんに僅かに手を振り、私たちは軍用車へと乗り込む。
最初にエイジスに向かった時はアナグラの地下プラント跡からだったのだがエイジス計画以降は移動用シップが用意され、移動時間も随分短縮できるようになった。尤も、崩落したエイジスにそれほど頻繁に行かなければならないという事態そのものが歓迎できるものではないのだが……

「……それにしても、こう言う言い方はよくないかもしれないですけどちょっと貧乏くじ引いた気分ですよね。サクヤさんとコウタは剣での攻撃ができないから、通常任務じゃなくてリンドウさん捜索に合流できるなんて」
「まあ、そう言うな。アマテラスを放っておいたらリンドウさん捜索どころじゃなくなるわけだから」

昨夜ソーマにも同じことを説明したような気がする、なんてことを考えながらアリサの言葉を軽く受け流し――アリサもそれを分かっているのかそれ以上文句を言ってくることはない。
ちらりとソーマの方を見遣ると、一度話したこととは言え自分が無理やりに言いくるめたことを私が重ねて口にしているのを見てどこか不機嫌そうな表情を浮かべていた。
尤もそんな顔をされた所で私に状況を変えること等できるはずもなく。リンドウさんが気になるのはアリサやソーマだけでなく私だってそうなのだが、だからと言って接触禁忌種のアラガミを放置して置けるかと言うとそんなことはないのだから。

「……でも、驚きましたよ。私たちも知らない間にリンドウさんの生存の可能性が出てきていたなんて」
「ツバキ教官からもサカキ博士からも『誰にも言うな』って口止めされていたからな」
「そんで律儀に黙ってた、って訳か。ったく、ほんとにクソ真面目だな藍音は」

呆れたようにぽつりと呟いたソーマの口調がどこか面白くなさそうなのも無理はないだろう。とは言え、私に文句を言っても仕方がないのは分かっているのかそれ以上ソーマが何かを言ってくることはない。
昨日の夜にだってその点は説明してあるし、私の立場からは話せない事もあるということをソーマが理解してくれていること――隊長として、そして恋人としてソーマのその理解に甘えていることを心の中だけで詫びながら軍用車の外に視線を移した。

「さて、そろそろシップへの乗り換えだな」

窓の外に海が見えてくる。そして遥か遠くに、ぼろぼろに崩れ落ちたエイジス島も。
リンドウさんのことは確かに気がかりだが、私たちの今の任務はアマテラスの討伐。自分に言い聞かせるように心の中でそう繰り返した所で軍用車は止まり……窓の外には、フェンリルのロゴが入ったシップが停泊していた。

「さて、行こうか。早く帰ってこれれば私たちもリンドウさん捜索に協力できるかもしれないし」
「リンドウがエイジスにいりゃあ一石二鳥なんだがそう上手い具合に行くわけねえだろうしな」

半ば冗談のように発せられたソーマの言葉に私もアリサも僅かに表情を緩めながら頷き、動きを止めた軍用車から降りる。
最初にソーマが、それに続いて私がシップに乗り込み……最後の1人となったアリサがタラップを上がって船内に足を踏み入れかけた、ところでアリサはぐらりとバランスを崩す。
私はほぼ無意識のうちに腕を伸ばし、アリサの身体を抱きとめるように支えかける――その瞬間、頭に流れ込んできたのは……アリサの、記憶。
――エイジスに向かう道中のアリサ。旅立つシオの姿。ハンニバルに吹き飛ばされる私……流れ込んできたアリサの記憶に、私は瞬間的に右手でこめかみの辺りに触れる。
その次の瞬間、目が合ったアリサは……驚いたように私をまっすぐ見据えていた。

「感応現象……ですよね、今の」
「ああ。アリサとの間に起こるのは随分久しぶりな気がするが」
「今……見えたんです。藍音さんの記憶……神機保管庫にいる藍音さんと……リンドウさんと、誰か。ぼんやりとしていて誰なのか分からなかったんですけど……あれは」
「……アリサ」

神機保管庫での出来事と言えば先日の……レンがリンドウさんの神機に触れようとした時のことだろうか。あの時その場にリンドウさんはいなかったが、リンドウさんの神機から流れ込んできたらしいリンドウさんの記憶がある。
アリサにリンドウさんの姿が見えた気がしたのはきっとそのせいなんだろうが、だが……

どうしてアリサには、レンの姿がはっきりと見えていないんだろう?

何かがおかしい、気がする。どうにもしっくり来ない――その場にはいなかったリンドウさんの姿が見えたのに、レンの姿が誰なのか分からないほどぼんやりとしか見えないなんて。

「……どういう事なんだろう」
「どういうこと、って……藍音さんの記憶じゃないんですか?」
「いや、間違いなく私の記憶のはずなんだ。だが……」

考えがまとまらない。言葉にならないまま、エンジンが音を立ててシップが動き始める。
何だろう。この、上手く言葉に出来ない違和感はなんなのだろう……

「すまない。少し、ひとりにしてくれないか」

ひとりになったところで答えが見つかるとも到底思えない。
だが、アリサの言葉が……なんだかぼんやりとしたまま私の中で漂っている奇妙な「違和感」にどこか通じている気がして……それが悪あがきだと分かりながらも、私はその答えを探して視線を凪いだ海面へと送ることしかできなかった。

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