Dream | ナノ

Dream

ColdStar

marble

サカキ博士から指示を受けた仄暗い羽は割と容易く手に入り、それをサカキ博士に手渡した所今度は別のもの――漆黒の翼を手に入れてくるように、という指示を受けることになった。
どうやらそれもリンドウさんの一部、らしい。そう言えば漆黒の翼とやらもよろず屋から見かけたら売ってくれと言われていたような気がするが――ぼんやりとそんなことを考えていると、サカキ博士は笑顔を崩すことなく私の方へと鋭い視線を送ってきた。

「その様子だと漆黒の翼は見たことがないのかな」
「そうですね。よろず屋からは見かけたら譲って欲しいと言われていましたが」
「ふむ。……分かっているね、今度はそう簡単に譲ってはいけないよ」

なんて念を押されるのも前回の失態を考えれば当然のことだろう。
ともあれ、漆黒の翼を手に入れてくることがリンドウさんの生存確認に繋がる。どこかで手に入るものなのだろうかと、調べる為にエントランスへ向かったところで……ソファに座っていたソーマと目が合った。

「またサカキのおっさんに何か押し付けられたのか」
「……あんたは相変わらずサカキ博士に手厳しいな」
「藍音と違って、あのおっさんと仲良くする気になれねえだけだ」

言い放たれた言葉には苦笑いを浮かべることしか出来ず、私はそのまま受付にいるヒバリの方へと向かう。今アサインされているミッションのリストを見せてもらいながら……そこで、サカキ博士から頼まれていた漆黒の翼が報酬として提供されているミッションがあるのを確認してヒバリに声をかけた。

「最近出回っているこの『漆黒の翼』、これは一体何なんだろうな」
「さあ……私にも良く分からないんですが、恐らくフェンリルではない外部から持ち込まれているものだと思います。よろず屋さんでは高値でやり取りされているようですし……本当に、何なんでしょうね」

私たちのやりとりが聞こえているのか、遠くでよろず屋がこちらへと、何かを期待するような視線を向ける。だがそれには気がついていない振りをして、私は再びヒバリの方へと真っ直ぐ視線を送った。

「このミッションを受注したい」
「分かりました。どなたと同行されますか?」
「私、ひとりで」
「……クアドリガとセクメトを独りで、か。無茶なこと言ってやがるな」

ヒバリとの会話の最中、背後から聞こえた声に振り返る――振り返らなくとも声の主がソーマだということは重々分かってはいたのだが。
呆れ顔のままのソーマは私を押しのけるようにして受付カウンターの前に立ち、私に向けていた視線を外してヒバリを見遣る。

「俺が同行する。それでいいな」

私が何も言えなくなっている間にヒバリはソーマの言葉に分かりましたと短く呟いてキーボードを叩く。それを確かめると、ソーマは有無を言わせないといった様子で私の手を引いてそのままエントランスの階段を昇っていった――手を引かれるままエレベーターの前まで連れてこられた私を、ソーマは真っ直ぐに見据える。
その視線が怒りを秘めているような気がして……背中を、ぞくりと冷たいものが走った。

「藍音。サカキのおっさんに何を頼まれてる?」
「……それは」

話してしまうことが出来ればどれほど楽になれることだろう。だが、話すなと言われている。名指しで何度も、ソーマにも話してはいけないと。
勿論、本当は私だってソーマに隠し事なんてしたくはない。だが、今サカキ博士が調べていること……「リンドウさんの生存」がまだ確実ではない今その事を伝えてはならないと言うサカキ博士の、ツバキ教官の言っている意味が分からないほど私だって子供じゃない。
罪悪感と、責任と。ふたつの感情が私の中でぐるぐると渦を巻き――はじき出した答えは、とても単純でとても短いもの。

「極秘事項だ」
「……俺にも、か」
「ああ、ソーマにもだ」

はっきりと言い切った瞬間にソーマの瞳に一瞬だけ宿ったのが寂しさだったように思えたのは私の気のせいだったのだろうか、それとも。
その答えが出るより先に、ソーマは私に背中を向けていた。何故だろう、すぐ近くにいるはずなのにソーマの背中がとてつもなく遠く感じられる。

「ソーマ」

名前を呼んだのは本当に無意識の領域でのこと。
なんだか、目の前にいるはずのソーマが背を向けたまま私から離れていくような不安が不意に胸を襲う。だからと言って、今私が抱えている「極秘事項」をソーマに話すことができるかと言うとそれも出来ないわけで。
板ばさみの感情、交じり合ってマーブル模様になったままの心に気付いているのかいないのか……振り返ったソーマは声に滲ませた悔しさを隠すこともなく言葉を紡ぎ始めていた。

「……俺だってガキじゃねえ。藍音が隊長って立場にいる以上、他の神機使いに言えないことがあるってことくらいは頭では理解してる」

ソーマの言葉とほぼ同時にたどり着いたエレベーターに、再びソーマに腕を引かれる形で乗り込む。
エレベーターの小さな箱、世界から切り取られたような空間にふたりきりになった瞬間にソーマの腕が力いっぱい私を抱きしめていた。

「……けど、理解したからってお前が無茶するのを許したつもりはねえ」
「別に、無茶をしているつもりはない」
「藍音に無茶してるつもりがねえって言うんなら余計だ。無自覚に突っ走ってとんでもねえことしでかすのが藍音だろうが」

私を抱きしめたソーマの腕が解かれ、タイミングを見計らったかのようにエレベーターの扉が開く。

「悪いが俺は『俺の女』に無茶させるような真似を許すつもりはねえ。それがサカキのおっさんだろうが、藍音自身だろうがな」
「……心配しすぎだ」

それだけ私が愛されていると言うことなのだろう。それは、頭では分かっている。
だが、そのソーマの愛情が、優しさが……秘密を抱えていたこのときの私の胸には鋭く突き刺さって、とても……痛くて、仕方がなかった。

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