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二人一緒に明日を待ち続けよう




※グリーンが貴族というかまあお金には困らない程度の暮らしが出来る貴族らしき男、ブルーが偽名使いの花魁という設定になります。
※ブルーは地方から来た花魁さんという設定にしておりますので、特殊な言葉(ありんす言葉)を使います。あと、花魁用語を多数用いております。が、なるべく読んでいただける皆様に分かるような表記をしたいと思います。
※超若干の裏っぽい箇所があります。年齢制限を設けるほどではないと思いますが、とりあえず。





「………今宵も来られたのでござんすね」



金色のかんざしをいくつも髪に差して、綺麗な亜麻色の髪を結いあげた鮮やかな藍色の着物を着た彼女、アオイが目の前に座って微笑む。アオイという名前は、彼女が夜の花魁の仕事でしか使っていない名前らしく、意味を尋ねると、この着物のような海のような色をアオイと異国の言葉でいうそうだ。



「わっちが苦言を申しにいってないあたり、他の子らのもとへは行ってないようでありんすね」



初めて茶屋でアオイを一目見てからというもの、俺は暇さえあれば金をつぎ込み、アオイを逢瀬を重ねていた。その数はもう片手の指では数えきれないほどには重ねていたから、俺はアオイの馴染み、すなわち常連客になっていて。花魁であるアオイには俺のような男が何人もいつというのに、俺はこの茶屋ではこいつ1人だけに金を湯水のように注ぎ込んでいるだなんて。………時々、こういうことを思い返すと自分のことを嘲笑いたくなる。

それでも、その湯水のように流れていく金を惜しいとも思わない自分がいるのは事実であって。夜にしか逢えない彼女と会えるのならば、たとえ1回につき逢える時間がわずかであろうと、大量の金が流れることは覚悟の上なのだ。そういう恋を俺は今、しているのだ。―――目の前の彼女に向けて。



「金を湯水のように注ぎ込んで………。本当に、阿呆にも程がありんす」

「分かってる上で来てる、つもりだ」

「ぬし様のような良い家の方なら、もっと良い家の女なんぞ簡単に娶れるでありましょうに」

こんな、ぬし様以外の数多の男に抱かれた女なんぞ、けがわらしい。



アオイはそう言って自分のことを嘲笑う。



「それに、ぬし様と逢えるのも今宵でおしまいでありんす」

「………は、」

「別の馴染みの方に身請けされたでありんす。近いうちに、この茶屋から出ることになりんすね」

「………前から決まってたことなのか」

「いいえ?ほんの3日前に。………たとえ3日前にぬし様に言ったところでどうしようもないでしょう」



アオイのその言い方からして、俺よりも裕福な男から身請けを受けたことが分かった。身請けには莫大な資金がいる。俺がすぐに、しかもその男の身請け金よりも多くの金を用意することが出来ないと分かっているようだ。花魁は、馴染みが多ければ多いほどこうして突然身請けを受ける運命にある。―――望むものもあれば、望まないものだって。

アオイは綺麗に結い上げられた髪に刺さるかんざしを1本抜き取る。ほんの少し、髪が乱れた。彼女はそれをぎゅっと握りしめたのち、そろそろと着物の裾を畳に引きずらせて俺に近寄ってくる。それから俺の手を左手を取り、自分のかんざしを俺の手に乗せた。



「………何だ、これ」

「明日一番に身請けされるでありんす。せめて、1本でも」

ぬし様はわっちの間夫でありんすから。



やっと、やっと言った。どうしてこんな時に、こんな今更になって言うんだ。他の男に娶られることが決まってから、何で、どうして―――、俺を、好きだなんて。白い肌からは涙が一筋流れる。こんな風にこの目に涙を溜めたアオイを、俺は何度抱いただろうか。そのたびに、どれだけ幸せだと、思っただろうか―――。



「俺は、こんなの、いらない」

こんなのよりも、お前が欲しい。



俺は受け取ったかんざしをアオイに突き返す。アオイは驚いたような顔をして俺を見返した。身請けされた花魁を身請けをしない男が娶るなんてことはあってはならないことだ。アオイだって、俺だって、そんなことはもちろん分かってる。でも―――、



「足抜けになりんす………。一生、逃げる生活を強いられるでありんす」

「分かってる」

それでも、お前がいい。



昼間、彼女に会えない時に考えていたこと。花魁の彼女を身請けする金は、いくらそこまで生きていくのにさほど困ってない俺でも用意するのは難しい金額だってこと………。それでいて更に彼女はこの茶屋で一番の花魁で馴染みも多くて。彼女に逢う回数が増えれば増えるほど、自分の持ち金も減る上に身請けされる可能性が高くなってることだって分かってた。―――だから、自分の覚悟は、アオイから身請け話を持ち出された時にはもう、出来ていたのである。





「綺麗な、篝火でありんすね」



さっきまで茶屋で着ていた着物とはうって変わってみすぼらしいあまり目立たない色の着物を身にまとった彼女が、小船に乗って呟く。彼女の視線の先には、どこかの裕福な家の門の傍に置かれた篝火が、綺麗に燃えていた。その篝火は船が動けば動くほど、遠くへ遠ざかっていく。

これからこの小船はどこへ行くかは分からない。とにかく、ここへはもう帰って来れないだろう。彼女が今、外に俺といる時点で、あそこへ戻ると命を落とすことが決まったも同然なのだから。この船は夜の暗闇の中を動く。まるで、俺たちの今後どうなるか分からない運命のように。



「………なあ」

「なんでありんすか?」

「その言葉づかい、もうしなくていいだろ。あと、お前の本当の名前を知りたい」



俺がそう言うと、彼女はハッと気づいたように目を丸くして。きっと花魁としての暮らしが長かったから、その花魁の特徴的な言葉づかいが身に沁みついていたのだろう。少し笑った彼女は自分の本名を告げた。その直後に無間の鐘の鳴る音が聞こえて。―――嗚呼、俺たちの来世は、俺は身請けされた花魁を無断で連れ去り、アオイ―――、もといブルーは身請けされた男とは違う男と茶屋を逃亡したから、きっといいものではなく、もしかしたら死後は地獄に堕ちることになるかもしれない。けれど―――、現世ではきっと2人で幸せに生きていけると、そう願うばかりである。





二人一緒に明日を待ち続けよう





(お前の手をとって、生きよう)



鈴から頂きました!
ああああ花魁パロ!大好物の一つでございますよ!
ありんす言葉とか凄く好き!あんまりよろしいものじゃないのかもしれないけど。
取り敢えず緑青は幸せになるべき。
鈴ありがとー!




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