荷物が軽くなる魔法
一緒に買い物に行くとひどい目に合う。重々承知している。片っ端から店に入り、同じく片っ端から試着していくのだ。その中から購入するのはごくわずか。を、10も20も繰り返せば、ちりも積もればなんとやら。いつの間にか両手はいっぱい。次は肩紐を首にかけようかしら。楽しげに笑うのはブルーだけで、すべての荷物を持たされたグリーンはげっそりとした表情でひとこと、笑えないなと呟くのだった。
と、いうこともあってあまりブルーの買い物には付き合いたくないグリーンだったが、じゃあレッドを連れて行きましょ、とかゴールドとデートしてくるわ、とか言われるとああそうか行ってくればいいとは言えないもので。レッドにもゴールドにも彼女がいることは知っている。ブルーにそういう感情を抱いていないことも。しかし、自分の彼女が男とふたり買い物に行くのを見過ごせるはずもなく、結局は渋い顔をして俺が行くと言えばブルーが嬉しそうに笑うから、まあいいかと思ってしまうのだ。
そのときは。 そのときは、まあいいかと思うのだが。
「…まだ買うのか?」 「え?だってまだブーツ買ってないわよ」
今日の買い物はジャケットじゃなかったのか。新しく買ったスカートに合うジャケットがないからグリーン選んでよ。そう言われた気がするのに。ジャケットはすでに買ってしまった。あとは気ままな一期一会ショッピングの時間だ。気ままな一期一会といっても、店という店を覗き服という服を見てまわるのだから、気ままさも一期一会の雰囲気もあったもんじゃない。必死である。荷物持ちがいるときに買わなきゃ、という気持ちが手に取るようにわかる。
「でも、ブーツを探す前にちょっと休憩しましょうか」
もうすぐ12時である。そろそろ昼食をとりたいところだ。 疲れちゃった、という彼女に俺はその10倍疲れたと思うものの、突っ込んでは負けである。オープンカフェの一席に腰掛けたブルーの足元には結構な数の紙袋やバッグが。自分の座っている席の足元も同じような状態だ。
「注文してくる」 「あたしランチセット」 「ドリンクはアイスコーヒーでいいよな?」 「うん、お願い」
足の踏み場もないところを注意して立ち上がってその場を後にした。
ランチセットと自分用のサンドウィッチを注文しトレイを持って帰ってくれば、ブルーの隣に見知らぬ影が。
「ね、荷物多いね。大変じゃない?持ってあげるから、一緒遊び行こうよ」
どうやらナンパのようである。彼女の容姿からすればよくあることなので、あしらい方も心得ている。あまり心配する必要もないのだが、とりあえず助けようと近づくと。
「うるさい。荷物を持たせる人はこの世にひとりだけって決めてるの」
思わず目を見開いた。固まったのも数秒、彼女の元へ近寄る。
「俺の彼女になにか用か?」
男がグリーンの顔を見て「げ、」と言葉を漏らした。トキワの最強ジムリーダーの名は飾りではない。 足早に立ち去った男から視線を外し席に座る。
「早かったね」 「空いてたからな」 「ふうん」
そう言ってグリーンを見たブルーが、あれ、と首を傾げた。
「グリーン、なんか機嫌いいわね」 「そうか?」 「そうよ。ショッピングのときはいつも不機嫌なのに」
なにかあった?と問う彼女には、教えてやるまい。 代わりに、少し笑って頭を撫でる。
今だったら、10や20、持ってやってもいいなと思った。
荷物が軽くなる魔法 (ただひとこと、君の言葉だけ)
みたから!四千打おめでとー! 姉さんの一言で上機嫌とは、意外と兄さんも単純な造りをしてるのかもしれない。笑
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