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可愛くないのは君仕様





―人間なんていつか死んでしまうもの―


生まれたときから皆死に近づいていっている。
勿論自分がいつこの世からいなくなってしまうかなんて分かるわけがないし、分かったとしてもそれは運命(運命なんて言葉、貴方は嫌いかもしれないけれど。)受け入れる他に無い。

嗚呼、話が逸れてしまった。結局何が言いたいかって言うと、グリーンは死んでしまう前に自分がどうしたいか、考えたことってある?


私は、


「貴方の傍にいたいわ」
「恋人同士に有りがちな解答だな」
「不服?」
「誰もそこまで言ってないだろう、うるさい女だ」


はぁ、と小さく溜め息を吐くと私の方に向いていた回転椅子を再び机に向けてくるりと回した。眼鏡を掛け直して仕事に戻る。
「俺もだ」とは言ってくれないのね。…まあ、予想はしてたけど。

昨日寝る前に読んだ雑誌に特集がくんであった。別に何があったって訳じゃないけど、よく有りがちな「死ぬ前に食べたいもの」とか「死ぬ前にしたいこと」とか、そんな質問を有名人にしていたので、自分でも少しだけ考えてみた。
そこで急にグリーンの顔が浮かんできて、最期まで一緒にいたいのはこの人だなあ、なんて。

ふと、グリーンはどうなのだろうと考えた。
思い返せば私だけが囁いてきた愛の言葉。(然り気無く優しいのは相変わらず。)彼も最期に一緒にいたいのは私だと、思ってくれているのだろうか。
というより実は私のことなんて…嫌だ、考えたくもない。


「グリーン、」


こんな自分は嫌いだ。


ふっと、視界に影がかかる。そう思っている内に唇には柔らかな感触。それはいつもより荒っぽくて、すべての意識と呼吸を奪われた。
唇を離すと眉間にシワを寄せた彼がいた。考える間もなくまたキスの嵐。今度は小さくて優しいものを幾つも。


「"最期"より"いま"を考えるな、俺は」


椅子に座り直しながら眼鏡をとる。それをかけたままキスをしたのか、と妙な感心が生まれた。


「いつか死んでしまうなら、今を精一杯生きた方が得だろ」


呆れた彼は私の頭をぐしゃりと撫でた。いや、揺らしたという表現の方が正しいくらいに激しかった気がする。
当たり前のことだと付け足していたけれど、その"当たり前"が分かっていない人は私を含めて世の中に沢山いるわけで。


「あんたって考え方がおっさんねぇ…」
「誰がおっさんだ」
「あんた」
「二度も言うな、一度聞けば分かる。馬鹿じゃあるまいし」
「…ーッ!可愛くないやつっ!」


ムカつくー!と、軽く地団駄を踏みながら静かな瞳を睨み付ける。そして次の瞬間、確かに瞳の色が変わったのを見た。

私はベッドに腰かけているので、回転椅子から立ち上がった彼は今、私を見下げるような体制になっている。


「で?最期に俺と一緒にいたいブルーは、一体全体どうして欲しいんだ?」
「…え゙、」
「さっきの質問からすると、どうせ俺からの愛が感じられないーとか思ってたんだろう」
「なッ―!そんな訳、」
「無いのか?」


私の眼を真っ直ぐと見据えて、にやりと得意の不敵な笑みを口許に浮かべた。この笑いはどうも苦手。
いつの間にか彼は私の隣に落ち着いていて、ゴツゴツした男らしい手は何故か私の頬に添えられていた。
―いや、何故かなんて、この状況から考えると答えはひとつしか無いことくらい馬鹿でも分かる。


「"いま"を楽しまないとな?」


…なんてワザとらしく耳元で囁くから、こちらもワザとらしく拗ねたふりをしてそっぽを向いてみた。何だか負けた気がして悔しかったのだ。


ああもう。

あなたもわたしも、

ほんとうにかわいくないわ!



可愛くないのは君仕様。

(最初はあんなに素直だったのに、いつからツンデレに路線変更したんだ?)
(明らかにあんたのせいでしょー!?)



からんと様から頂きました!up遅れまくって申し訳ないです…!土下座
いつものからんとさんとはちょっと違った雰囲気で凄い素敵です。
有難うございました!




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