幸福を君へ捧げましょう
「………何か、今日のグリーン優しすぎて怖い。」
「俺は今日に限って大人しいお前が怖いが。」
「どういう意味よ。」
「そういう意味だ。」
喫茶店で向かい合って座ってそんな会話をしていたら、グリーンに額を指でぴん、と弾かれた。痛くはない、けど、やっぱり何か違和感。
「自分から買い物に付き合ってくれる上にこれまで奢ってくれるなんて、何か申し訳ない通り越して怖いわよ。あんたあたしに何やらせる気?」
「人の好意は素直に有難く受け取っておけ。」
「仕事は?」
「………思い出させるな。」
心底嫌そうな顔でため息をつくグリーンに、あたしはちょっと笑う。悪いと思うけど、グリーンが仕事よりあたしを選んでくれたのは嬉しい。
「…いいことって重なるものね。」
「…?何だ?」
「なーんでもっ。」
グリーンは知らないかもしれないけど、今日は一応あたしの誕生日だ。 プレゼントとかそういうのは要らないけど、でもやっぱり、好きな人が傍に居てくれるのは嬉しい。無自覚なプレゼントを貰ったと思えば大儲けだわ。
「…お前、今日はやけに控えめだな。」
「今日みたいなあたしは嫌い?」
「阿呆。」
「いたっ。」
またでこぴんされた。何よ、グリーンの癖に生意気。
「…一応訊くが、ブルー。」
「何よ。」
「今日は何の日か知っているか?」
はぁ?とすら言えず、あたしは目を丸くした。 知らない訳ないじゃない、自分の誕生日平気で忘れるのなんてグリーンくらいよ。
グリーンは真剣な、というか心配そうにあたしを見てくる。こんな顔の奴にこんな表情で見詰められたら、いくらあたしでもちょっと耐えられない。 取り敢えず目を逸らして、それからちょっとずつ視線をグリーンに向けた。
「……何の日って、」
「あぁ。」
「………あたしの、誕生日?」
「何故疑問形なんだ。」
気が抜けたように笑うグリーンに、少しだけあたしも落ち着いてまた普通にグリーンと向き合う。
「だって、自分の誕生日忘れるあんたがあたしの誕生日覚えてるなんて思わないじゃない。それに、何も言わないし。」
「何も?………あ。」
何かに気付いたように、グリーンは小さく声を漏らした。 だって、誕生日プレゼントのつもりであたしに付き合ってくれているのにただ「出掛けるぞついてこい。」なんだもの。そりゃ気付かないわよ。
「……まだ、言ってなかったか。」
「何もね。」
変なとこで天然なんだから。 あたしが笑うと、グリーンはいつも身に付けているウエストポーチから何か取り出して、あたしの前に出した。
それは綺麗に包装されていて、青いリボンで緩く結ばれていた。
どうしたら良いかよく解らなくてただグリーンを見るしかないあたしに、グリーンはさっきとは比べ物にならないくらいの、とびっきりの笑顔を見せた。
「誕生日おめでとう。それから、俺に出会ってくれたことにも感謝してる。生まれてくれてありがとう、ブルー。」
女の子が見たらもれなく腰砕けになる笑顔で言われたあたしは、まだお礼の一つも言えないまま顔に熱が一気に貯まるのを感じるしかなかった。
「…どうした?」
「……………あ、ありが、とう…。」
俯いてしか言えなかったけど、グリーンはあたしの頭を撫でてくれた。 その掌がすごく優しくて、あたしは何だか嬉しいとかそういうのを越した気分になって、もう少しそれに浸っていたくなった。
顔を上げたらこの掌がまた無くなってしまうのがちょっと寂しく思えたのもあって、あたしはもう少し笑顔のまま俯いていることにした。 誕生日だもの、それくらい許されるでしょ?
蓮様改め白石由様から頂きました! 姉さん誕生日おめでとー! 兄さんの笑顔ってレアですよね。
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