黒珈琲
ブラックコーヒーが、苦手。
正直、こんなものの何処が良いんだろうと思っていた。 苦いだけで到底美味しいとは思えない。 でもそれはあたしがただ子供だっただけなのかもしれない。
一向に減る様子のない書類の束と格闘している彼にコーヒーを淹れてやる。 別に頼まれたわけではないけど、何となくあたしが勝手に始めたこと。 湯気の立ち上る黒い液体に満たされたカップを差し出すと、忙しく動いていたペンが止まる。 渡す時にちょっとだけ手が触れるのでさえ嬉しい。
でも、女の子は貪欲だから。 もっと触れたいと思ってしまう。
隣に座って彼の肩に頬を摺り寄せるとブルー、と小さく名前を呼ばれた。 顔を上げると緑の瞳と視線がかち合う。
「どうした?」 「……」
その問いには答えずに、無言で唇に人さし指を当てる。 彼は一瞬驚いた表情をした後、ふっと微笑んだ。 するりと頬を撫でる温もりを感じながら目を閉じる。
コーヒーの、香りがした。
「…意外と甘えたがりだな、お前も」 「グリーンだって人のこと言えないじゃない」
そんな憎まれ口を叩きながら、顔を見合わせて笑った。 唇に残る感触と香りが心地良い。
ブラックコーヒーが、苦手、だった。
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