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ゆるやかに、狂ってゆく


こつん、と頭に軽い衝撃を感じて目を覚ました。
直ぐ横にはヤミカラスが覗き込んでいる。
どうした、と尋ねる前にインターホンが鳴るのが聞こえた。

(誰だ…?)

ちょっとだけ寝癖の付いた髪を掻き毟りながら玄関に向かった。

「よっ」

半分ドアを開けたところで癪に障る顔が見えた。
よし、見なかったことにしよう。

「あっテメ、人の顔見た途端ドア閉めんじゃねぇ!」

ドアの向こうで騒ぎ出した馬鹿野郎に一発お見舞いする為、腰のボールを一つ手に取る。
するとそれとは別の声が聞こえた。

「ちょっとゴールド!人の家のドアを燃やそうとしないの!」

聞き覚えのある声だったし、何よりドアを燃やされては堪らないので、もう一度ドアを開けた。

「やっと開けやがったか…痛っ!」
「アンタの所為でしょ!ゴメンねシルバー」

そこにはさっきも見た癪に触る顔と申し訳なさそうにしている顔があった。
プラス炎出しっぱなしのバクフーン。

「珍しく時間に来ないから迎えに来たのよ」
「時間…」

そこでやっと思い出した。確か今日はキリストとやらの誕生日を祝う前夜祭だとか言っていた。
正直ご免被りたいが、主催が姉さんとあっては行かないわけにはいかない。
何より後が怖い。

「すまない、ちょっと居眠りしていた」

自分でも本当に珍しいと思う。
大体インターホンが鳴ったことすら気付かないなんて、最近のオレはどこか抜けている。
以前なら、こんなことなかったのに。

「ま、いいや。起きたんならさっさと行こうぜ」
「皆待ってるわよ」

すっと目の前に二本の手が差し出された。
一つは生傷だらけの、もう一つは自分より少し小さめの。

(…嗚呼、そうか)

この手があるから、オレは甘くなってしまったのか。

「…?どした」
「行かないの?」

でも、それを不快には思わない。

「…いや、行く」

そしてオレは、その手をとる。


ゆるやかに、狂ってゆく。


オレの、毎日が。


タイトル→monica様。




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