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一番駆けで祝慶を





最後の書類にサインをすると、かけていた眼鏡を外してデスクに放り投げた。
普段かけ慣れていないので長時間かけていると目が疲れる。
目頭を押さえながら振り返ってぎょっとした。
既に帰ったと思っていた(正確には思い込んでいた)彼女が其処に未だ居たからである。
溜息を吐いてから立ち上がると背中が軋んだ。

「おい、起きろ」

ソファーに近寄って眠りこけている彼女を揺する。
二、三回声をかけると漸く小さな呻き声が聞こえた。

「…あれ、おはよぉ」
「おはようじゃない」
「んー…」

大体何だってあんなところで寝ていたのか。
今日は構ってやれないと先に言っておいたのに、眠くなったなら家に帰れば良かった話だ。
小さく伸びをして寝惚け眼をこすっていたかと思うと、ブルーははっと立ち上がり時計を確認する。
時刻を見て時間が無い!と奇声を上げ、大慌てで乱れた髪や皺の寄った服装を整える。
全く持って意味不明。

「…よし」

最後に鞄から取り出した鏡で自分の姿をチェックすると、ブルーはくるりと此方を向いた。
何かやらかす気か、と思わず身構える。

「誕生日、おめでとうグリーン」

聞こえてきたのはそんな言葉。思わずは?と聞き返しそうになったのは何とか留まった。
彼女の言葉を数回頭の中で反芻して、そういえばと時計を見ると日付を越えたばかりの時刻の下に一と二が二つずつ並んでいる。
やっぱり忘れてたのね!とぷりぷり怒る彼女に視線を戻すと礼の言葉を口にした。
それに機嫌を良くしたのか、ブルーは再び鞄を漁りながら話し始める。

「良かった寝過ごさなくて」

誰かに先越されちゃったら待ってた意味なくなるところだったわ、とブルーは苦笑した。
待ってた、って。

「お前、」

わざわざその為だけにこんな時間まで此処に居たのか。
そう問えば彼女は一瞬きょとんとした後、ふわりと笑った。

「大好きな人の誕生日だもの、誰よりも先に祝いたいじゃない?」



一番駆けで祝慶を



いつも以上に直球ストレートな言葉を貰って、流石に赤くならずに居られなかった。
彼女が未だ鞄を探っていて此方を向いていないのは不幸中の幸いかもしれない。






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