エプロン少女と空腹少年
夕飯よ、と姉に名前を呼ばれて階下に降りていく。 今日の献立は何だろうかと考えているとぐぅと腹の虫が鳴いた。 期待しながらダイニングのドアを開けた途端、耳に入ってきたのは謝罪。
「ごめんねグリーン、今日ちょっと失敗しちゃって」
顔の前で手を合わせる姉に首を傾げると、彼女はテーブルを指差した。 そこに並んでいたのはお世辞にも美味そうには見えない料理達。 一瞬、言葉を失った。
(珍しい)
素直にそう思った。 普段の姉は何事も卒無くこなすし、特に料理の腕は素晴らしいものである。 そんな彼女が失敗したのだ。何かあったのだろうかと疑わざるを得ない。 しかしそれを問う前に席に着かされてしまった。
「味はそんなに酷くないから」
何故か笑顔でそう言う彼女に違和感を感じながら恐る恐る一口。 苦味やら渋味を予想していたのだが、それは大きく外れ。
「…」
普通に美味しかった。しかもいつもより格段に。 舌が味を認識してからは次々に更に手が伸びる。
「気に入ったみたい、良かったわね」
語尾に又しても違和感。 ふと顔を上げると台所の方からこちらを見ている青い瞳。 視線が合うとそろそろとダイニングに出てきた。
「…姉さん」
これはどういうことだ、と聞こうとして止める。 大体読めた。
「今日の晩御飯はブルーちゃんが作ってくれたのよ」
お茶淹れてくるわね、と姉は台所へ消える。 溜息を吐くと、ブルーの表情が曇った。 やっぱり美味しくなかったかな、と泣きそうな顔で笑ったので一番近くの皿から一つ箸で摘んで差し出してやる。 すると何故か彼女は真っ赤になった。
エプロン少女と空腹少年
食わないのか、と呟くと慌てて箸に噛み付いたブルーが可笑しくてつい笑ってしまう。 戻ってきた姉の持っていたお盆の上には湯飲みが三つあった。
君のチョコレートの煎餅さんへ。相互有難うございました!
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