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pierced earring





ほら、と自分に向かって投げられたのは白くて四角い物体。
掌に収まったそれを改めてみると、ずいぶん昔に自分もお世話になったものだった。

「ピアッサー?」
「開けてくれ」

何て事だ。あのグリーンがピアスを開けると言い出すなんて!

「な、何で?どうしちゃったのグリーン!」
「良いだろ別に」

お前だって開けてるじゃないか、と言われては黙るしかない。
パッケージを破いて中身を取り出す。

「右?左?」
「左」

そのままでは開け辛いのでピンで横髪を上げてやる。
見た目とは裏腹に意外と指通りのいい髪質でちょっと手こずった。
どの辺にしようか、と考えながらふと沸いた疑問を口にする。

「ねぇ」
「何だ」
「何でアタシなの?」

すると大人しく前を向いていた彼がこちらを向いた。
質問意図が判らない、といった表情をしている。

「や、開けるだけならあたしじゃなくてもいいじゃない?」

わざわざあたしの所に来なくたってナナミさん辺りなら丁寧にしてくれそうなのに。
グリーンは二、三度瞬きすると再び前を向いた。

「お前の初めては俺が貰ったからな」
「………なっ!?」

意味を理解するのに少々かかったが、理解した途端顔に熱が集まってくる。
発言した当人はくつくつ笑いながら続けた。

「だから、俺の初めてはお前にやるよ」

恥ずかしいけど、何となく嬉しい申し出。
未だかっかしている顔を軽くはたいて調子を戻すためにいつものように軽口を叩く。

「ならグリーンにもあたしと同じ痛みを味わってもらおうかしらぁ?」
「…お手柔らかに」

冷静に返しながらもちょっと身体が強張ったのをあたしは見逃さなかった。








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