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スローペース




パシン、と乾いた音に続いて払われた右手がじんわりと痛みを訴え出す。
驚きに固まっていると次第に目の前の彼女の表情が慌て始めた。

「す、すまぬハヤト殿!」

あわあわと俺の顔と手を交互に見ては謝罪を口にする彼女に掌を振って平気である意を示す。
彼女と所謂恋人という関係になって早三ヶ月。忍である彼女が人一倍警戒心の強い人物であることは理解しているつもりだったが、未だ、信頼されてないのか。
そう思うとやはり多少なりとショックだった。

「別にハヤト殿が嫌いとか、そういう訳ではないのだ…」

ぽつりと聞こえたそんな台詞に、自分の心の声が出ていたか!?と焦ったが口を開いた覚えは無い。
頭上に疑問符を浮かべて落としていた視線を上げると頬にうっすらと朱を走らせながら必死で言葉を探している彼女が見えた。

「拙者、幼き頃より修業ばかりで…その、殿方と触れ合うことなど無きに等しい、故…」

どうしてよいのかよく判らなくて、と消え入りそうな声で言う彼女は既に耳まで真っ赤で。
それを見た瞬間先程のショックは我ながら単純だ、と思う程にあっさりと消え失せた。
無意識のうちに口許が吊り上がっていく。

「いいよ、気にしないで」

少しずつ、慣れていってくれたらそれで充分だ。
そう言いながら殆ど赤みの引いた右手で頭を撫でてやると、彼女はかすかに目を細めて微笑んでくれた。


スローペース


他人のテンポなんて関係ない、二人の速度でゆっくり、ゆっくり。








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