旧 | ナノ

青の贈り物


ピンポーン。

欠伸を一つ噛み殺した丁度その時玄関のチャイムが鳴った。
壁にかかった時計に目をやると、とてもじゃないが人を訪ねるような時間ではない。

(誰だ、こんな時間に…)

幸か不幸か、今この家には自分以外誰も居ない。小さく舌打ちをして読みかけの本に栞を挟んで立ち上がった。



「やっ、グリーン元気してたー?」
「…」

そこに立っている人物を見て、何故だかどっと疲れを感じた。

「そんなあからさまに嫌な顔しないでよ。うー寒かった!」

そう言いながらブルーは掌を擦り合わせた。
確かに雪こそ降っていないが夜になると気温はぐっと下がる。現に今もかなり寒い。
いつもは色白のブルーの肌も薄っすらと赤く染まっていた。吐いた傍から息が白い霧になって闇に溶けていく。

「…入れ」

そう言ってオレはドアを大きく開けた。



「ほら」

カチャリ、と陶器の触れ合う音。先にソファに座っていたブルーは出されたカップに飛びついた。

「有難ー!グリーンてば気が利くー!」

散々寒いだの温かいものが欲しいだのと言っておいて、良い気なものだ。
自分の分のカップを持ってソファに腰掛ける。
ゆらゆらと立ち上る湯気を吸い込みながら、オレはやっと本題を切り出した。

「…で、こんな時間に一体何しに来た」
「あ、そうだった」

渡すものがあって、とブルーは鞄を漁り出す。

「何でこんな時間に…」
「ちゃんと理由があるの!」

ポツリと零れたオレの言葉にブルーは楽しそうに言った。
何だそれ、というオレの不満もさらりと流して、ブルーは時計を確認する。

「…うん、もう”今日”よね」

只今の時刻、午前零時五分。
訳が判らず黙ってコーヒーを啜っていると、急に目の前に何かを差し出された。

「はいっ!」

差し出されたのは淡い緑色の袋だった。受け取るには受け取ったが、未だ状況が飲み込めない。

「…何だコレ」
「誕生日プレゼント!」

ポカンとしているオレにブルーは笑顔で答える。視線を動かすと、十一月二十二日と表示されているカレンダーが目に入った。

「…」

そういえば、今日は。

「そうだったか…」

苦笑するオレにブルーは頻りにプレゼントを開けるように促す。綺麗に結ばれたリボンを解き、中を覗く。

「…おい」

どういうことだ、とブルーを軽く睨む。嗚呼、目がチカチカする。

「こんなのだったらグリーンも使えるでしょ?」

袋の中身は日常生活品だった。しかし問題なのはその色。

「何で全部青なんだ…」

コップに歯ブラシボールペン。何から何まで全部真っ青だった。

「おほほほほ、これからはブルーちゃんに囲まれて生活するといいわ!」

独占欲が強いのか、単なる嫌がらせなのか。
それでも内心喜んでいる自分をつくづく甘くなったものだと自嘲する。
しかしやられっぱなしは性に合わない。

「…判った」

色々な物の詰まった袋を床に置き、代わりに横に居るブルーの肩を掴む。
そのまま軽く押してやると華奢な体はいとも簡単に倒れた。
目をぱちくりとさせている顔の横に手を付くと、ソファが小さく悲鳴を上げる。


「お前毎貰ってやる」


その一言で、驚いた表情が次第に真っ赤になっていく。効果は抜群だったようだ。
ついでに、罵詈雑言を紡ぎ出そうとする形の良い唇を強制的に閉じさせてやった。






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