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飲み込む毒すら甘い



ノックもせずにドアを開ける。
文句の一つでも飛んでくるかと思ったが、依然として部屋は静まり返ったまま。

(おかしいな、ジムに居るって聞いたんだけど)

後ろ手にドアを閉めながら首を傾げる。
きょろきょろと部屋を見回すと、探していた人物は確かに部屋に居た。
但し。

「…寝てるし」

現トキワジムリーダーはソファーに沈んでいた。
つかつかとソファーに歩み寄ってみるが余程熟睡しているのか目を覚ます気配は無い。
起こそうかと手を伸ばして、止める。

(本当、顔は良いんだから)

鋭い緑色は瞼に覆われていて見えず、普段刻まれっぱなしの眉間の皺も今は無かった。
何時もより幼く見える表情に思わず微笑む。

「お疲れ様」

そう呟いてそっと唇を寄せると立ち上がる。
起こしては悪い。

しかし、背を向けた瞬間ぐいと腕を引かれよろめいた。
そのままソファーに倒れ込み、更に視界が反転する。
瞳に映ったのは、先程まで隠れていた筈の緑色。

「寝込みを襲うなんて、随分な趣味だな」

ニヤリと口角を上げてグリーンが言う。
此処まで来て先程の自分の行動が恥ずかしくなってきた。

「何した?」
「べ、別に何も…っ」
「じゃあ何で赤くなる」

そう指摘されて慌てて顔を背けるが、全ては手遅れ。

「代わりに答えてやろうか」
「答えなくて、」

良い、と言う前に言葉は絡め取られて飲み込まれた。


飲み込む毒すら甘い


恥ずかしさを煽られる言葉を吐かれるより、こっちの方が何倍もマシだ。
そんなことを思いながら目を閉じた。



あとかたの栗様へ。相互記念。
タイトル:THREE WISHES様。

お持帰り用にどうぞ。






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