旧 | ナノ

始まりの街




最近気に入っているその場所に、今日は先客がいた。

「…お前、」

オレの声に反応して振り返ったのは、見知った顔だった。
先日リーグでおじいちゃんと戦って、負けた女。

「あら、グリーンじゃない」

声をかけたのがオレだと判るとブルーは笑顔になった。
しゃがみこんでいた石から立ち上がると軽くスカートを払う。
とことこと隣に来るとくるりと向きを変え、オレと同じ向きに視線を向けた。

「此処、凄く綺麗に景色が見えるのね」
「あぁ」

唯一マサラ全体が見渡せる丘。
それはオレはこの場所を気に入っている理由の一つでもあった。

「こんな綺麗な場所で、貴方は育ったんでしょう?」

無言で夕日色に染まる町並みを眺めていたかと思うと、唐突にそんな言葉が隣から聞こえた。
視線を前から横に変えると、虚ろな表情の彼女が視界に入る。
その表情を見た瞬間、リーグで聞いた事実が脳裏に甦った。

”六年前、マサラから五歳の少女が大きな鳥に連れ去られる事件があった。”
”知らない…遠いところで…アタシ育ったわ。”

羨ましい、と微笑む彼女の笑顔に何となく違和感を感じる。
この地で育ったオレやレッドに対する嫉妬や幼き日の彼女を勾引かした奴への怨恨。
そんなどろどろした感情を押し殺して顔では笑っている。
そんな印象を抱かずに入られなかった。

「…お前だって、そうだろう」

ぽつりと零れた呟きにブルーの表情が無表情になる。
否、怒っていると言った方が正しいのかもしれない。

「アタシは此処じゃない所で育ったの、知ってるでしょ?」
「知っている」
「なら、」
「どんなに憎んだ所で、過去は変えられない」

冷めた視線を彼女に向けると、先程とは打って変わって泣き出しそうな青色と視線が合った。
それを見ていたくなくて、オレは瞼を閉じる。


「過去は変わらない、だが、未来は変えられる」


再び視界が開けた時、其処には大粒の雫を滴らせるブルーの姿。
一瞬ぎょっとしたが、彼女が少しだけ内心を見せてくれたのを嬉しいと感じる。

「アタシは、此処に居て良いの…?」
「当たり前だ、此処はお前の、」

故郷なんだ、と続けるつもりだった言葉は途中で途切れる。
腹の辺りに纏わり付く温もりが言わせてくれなかった。
微かに聞こえる嗚咽も聞こえない振りをして、そっと背中を摩ってやる。

(…他人から見たら変な光景なんだろうな)

そんなことを考えながら、背中にしがみつく自分より幾分小さな掌を守ってやりたいと思う自分が居た。




まるよし様リクエスト。緑→青になってるかどうかは疑問;;
※まるよし様のみお持帰り可。






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