幸せは見えないんです
もうすぐ、“今日”が終わってしまう。
(クソっ…何で今日に限って…!)
マサラまでの道のりを走りながら、内心でそう毒づいた。 本当なら今日は予定を空けていた筈だったのだが、急な仕事が入ってしまったのだ。 それを伝えた時のブルーの顔が胸につっかえて取れない。
“仕方、ないわよね、仕事だもん”
少し前までの彼女なら文句の一つや二つ、加えてとんでもない交換条件を出してきたりしたものだが、今回はそれすらなかった。
成長した、ということなのだろうか。 しかし今のオレにはそれが逆に憂鬱だった。 いっそのこと散々非難してくれれば、多少は気が楽だったかもしれない。
やっとマサラに着いた。 そのままブルーを尋ねようかと思ったが、未だ今日とはいえ誰かを訪ねるには遅すぎる時間。 少し悩んだ結果、上着のポケットに押し込んでいたポケギアを取り出した。
ワンコール、ツーコール。
三回目は待たずに済んだ。
『…グリーン?』
スピーカーから聞こえた声が少し篭っていたような気がする。 兎に角謝罪をしようと思ったが、息が切れて上手く言葉が出てこない。 辛うじて戻ってきたことを伝えると、判った、とだけ言い残し通話が切られた。 ツーツーと虚しい音を立てている機器を再びポケットに戻す。 この状態ではかなりお冠のようだ。 自業自得だな、と自嘲の溜息を吐いた時、月明かりの中をかけてくる栗色の髪を見た。
「おかえり」
オレの前で立ち止まると、彼女は笑顔でそう言った。 何、で。
「…怒ってるんじゃないのか」
大分落ち着いた呼吸で目の前の彼女に問う。 するとブルーの顔から笑顔が消えて、少し不満そうな表情になった。
「まぁね?彼女の誕生日に仕事だなんて信じられないわ!」
…やっぱり怒っている。 先程叶わなかった謝罪をしようとしたが、それはブルーに遮られた。
「でも、ちゃんと会いに来てくれたから」
地面に落としていた視線を上げると、又笑顔に戻ったブルーと視線が合った。 つられてオレも少し微笑み、口を開く。
「生まれてきてくれて、有難う」
彼女は一瞬呆気にとられたような顔をしたが、すぐに照れたように笑った。 その様子がどうしようもなく愛おしくて、そのままそっと唇を落とす。
その直後、ポケットに詰め込んだポケギアが日付が変わったことを告げた。
Happy Happy Birthday!
(で、プレゼントは?) (…すまん) (えぇっ、無いの!?) (…) (信じらんないっ!罰として朝まで一緒に居ることっ!) (…それは罰なのか?)
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