渦【有志の過去/泉水家】※ノーマル表現有り

3年前、智希に嘘をついた。









「なんだ泉水、まだ彼女はできないのか」


「……はぁ」



会社の飲み会で突然上司の真辺に肩を抱かれた。

忘年会シーズンの為店にはたくさんのサラリーマンや若者達がどんちゃん騒ぎをしている。

有志の会社もその一角で笑い、飲み、真剣な話をしている者もいる。

重里にいたっては潰れているのだろう、座席一番端に寄せられ体を伏せて眠っていた。




有志は飲めば大変なことになるとわかっているためずっと烏龍茶を飲んでいたというのに、真辺はジョッキ片手に冗談なのか真剣なのかわからない眼差しで有志の真隣に座っていた。




「どのぐらいいないんだ」


「……6〜7年ですかね」


「なんだと!」




普段は紳士で物腰柔らかい真辺だが、どうやらこの人物も飲めば変わる性格らしい。


ダンっとジョッキをテーブルに置いて有志の肩を掴むと、咳ばらいを一つして息を飲んだ。



「処理はどうしてるんだ。そういう店に行っているのか」


「しょ…!息子がいるのに行くわけないじゃないですか!」


「泉水!お前はまだ若い!智希君も心配だろうがそれじゃ腐ってしまうぞ!」


「や、でも再婚とか全く考えてないですし…むしろ誰かと付き合って智希との時間削られたくないですし…」



有志の子離れ出来ない発言はある意味会社の名物ともなっている。

子供が可愛くて仕方ないのはわかるのだが、有志の場合行き過ぎているというか歪んでいるというか。



「相変わらず智希くんのこと、大好きなんだな」


「そうですね。あんな可愛くていい子いないですからね。自慢の息子です」


「その智希君ももう中学生だろ」


「はい」


「最近バスケ始めて背も伸びてきたんだって?」


「はぁ…」


「そろそろ子離れして、お前も自分の幸せに真剣にならないと」


「俺の幸せは智希と過ごすことです」


「お前なー」




はぁ、と大きく溜息をつくと、テーブルに置いたジョッキを取り一気に飲み干した。


呆れる智希の親バカ発言に、真辺もそろそろ怒りが込み上げてきた。




「立て、泉水。行くぞ」


「え、どこに」


「いいから来いっ!上司命令だ!」


「わわわわっ」




強引に有志を立たせると、コートと鞄を乱暴に掴んで同僚達の静止を振り切り居酒屋を出た。


寒い。
そして捕まれた腕が痛い。




「真辺さん!どこ行くんですか!」


「………」



目が据わっている。
怖い。


有志は身の危険を感じたが振り払うことは出来ず半泣きになりながらついて行った。






「……ここでいいか」


「こっここ?!」




連れて行かれたのはとある風俗店だった。
いかにもやらしい、顔にモザイクがかかった若い女の子の看板。
ピンクのネオン。


大きく



「本番…有り……って!なんてとこに連れてきたんですか!」


「金は俺が払ってやる。1時間、ヤって来い」


「嫌ですよ!」


「社会人が店先で騒ぐな。いいな、絶対逃げるなよ。俺はパチンコにいる。勝手にいなくなってたら冬のボーナス無しだからな」


「最低だ!最低だ!」




「ちょっとお兄さん、うちの店先で最低とか言わないでくださいよ」


「あ、すみません」



騒ぎに気づいた店主が中から出てきて有志を睨みつける。

真辺は小さくなった有志の背中を押して無理矢理店にいれると、ポケットから財布を取りだし万札を何枚か店主に渡した。



「この店で一番可愛い子、こいつに相手させてやって」


「ちょっ!」


「あらお客様でしたか〜。どうぞどうぞ〜。今日は可愛い子が特に揃ってますよ〜」



店主は顔色を変え差し出されたお金を取ると、胸ポケットにすぐしまい有志を中に案内する。

二人に押された有志は踏ん張りながらも呆気なく中に入ってしまい、ドアの隙間からヒラヒラと手を振る真辺が最後に見えた。





「あ、あの俺ほんと帰らないと…」


「マナミちゃ〜ん、お願い〜」


有志の言葉など聞いてはおらず、しかし腕はがっちり掴んで受話器を取った。

受話器の向こうから微かに、は〜い。と返事が聞こえ、さらに有志は鼓動を早くさせる。



「あ、あの俺息子いるんでこんなところ来ちゃダメなんっ」


「子持ちのパパ、よく来ますよ〜。大丈夫大丈夫。うち完全秘密主義だから」


「そういうんじゃなくて…」



半ベソをかいていると奥の扉が開き、中から金髪ロングの若い女の子が現れた。


「マナミちゃん、ヨロシク」


「はぁい。わあ、結構男前ですねー」

「あ、いえそんな…」


「息子さんいるんだって」


「わぁパパなんだ!じゃあパパって呼んでいい?パパァ」


「ダメです!ちょっ…と!」



グイっと腕を組まれバランスを崩すと、そのまま部屋に引きずりこまれていく。



「うわああああ」


「ごゆっくり〜」



今度は扉の隙間から店主の満面の笑みが見えた瞬間、扉は閉められた。










薄暗い個室。
3畳ほどしかなく、部屋にはベッドと小さなソファー。



実に、『ヤるだけ』の部屋。





「あのっ、本当に無理矢理連れて来られて…」


「マナミって言いまぁす。はい、鞄とコートお預かりしまぁす」


「あぁ…」



スルリと自分の体から抜けていく鞄とコート。

奪い返して部屋を出ればいいのに、できない。




「あの…お金は返さなくていいんで帰っていいですか?」


「えぇー!ヤろうよぅ。お客さんかっこいいしー。いつもはひどいブ男しか相手しないからテンション上がっちゃうー」


「いや、あの、その」



付けている意味はあるのだろうか。下着が透けるキャミソールをヒラヒラと揺らしながらピトっと有志にしがみつく。



元々こういう免疫がない有志は硬直し、逃げようと体をくねらせたがすぐ肩を押されベッドに無理矢理座らされた。



「かぁわいい。固くなっちゃって」


「や、ほんとに、あの」


「息子さんいるんだ」


「あ、はい。なので帰らないと…」


「息子さんはいくつ?」


「……中学生です」


「えぇー大きいー。見えないー。やるぅ」


「………」




会話らしい会話が出来ない。
帰りたい。
帰してもらいたい。

あ、でも帰ったら真辺さんに怒られる。




「い、1時間ほどここにいていいですか」


「うんっ。シよっ」


「ちょっ!」




そういう事しないで2時間ここにいたいんだ!

と、叫びたいけれどグニグニと有志の股間を揉んでくるマナミちゃん。
必死に防御するしかなくて、ベッドの上を何度も飛び跳ねる。


背広とシャツを同時に脱がされ前が開けた。
本当にこの子に無理矢理させられてしまう。

そう思った有志はマナミの手首をぎゅっと掴んだ。



「ほんとにやめるんだ!」


「きゃっ痛っ」


「あっゴメっ」



前屈みで有志を襲っていたマナミは声を上げ顔を歪める。
有志は思わず掴んでいた手を離しバランスを崩してベッドに倒れてしまった。


そこにマナミが上に乗りニヤリと微笑む。




「優しい方なんですね」


「いや、あの…どいてくれないっ…」


「大丈夫、私この店で1番うまいから」


「やめっ」



有志の腹の上で腰を降ろすと、右手をそっと有志の股間に這わせた。
全然硬くなっていない有志に少しムッと口を尖らせると、透けたキャミソールを勢いよく脱ぐ。


マナミがブラジャーのホックに手を回した瞬間、有志は両手で顔を覆い自ら見えないよう前を遮断した。これにはマナミも呆れてしまう。



「だだだ、ダメだって!ほんとに!」


「本当にパパなの?童貞みたいな反応じゃん」


「こ、こういう事は全然慣れてないの!」


「奥さんとはどのぐらいしてないの?」


「……10年前に他界したからいない」


「……そうなんだ……ねぇ、パパ。顔を隠さないで」


「…パ、パパは嫌だ」



マナミがそっと有志の腕を掴み振りほどくと、真っ赤な顔をした有志が現れた。

思わず胸がときめいてしまう。



「じゃあ…お父さん?」


「ちょっ!」



カチャカチャと器用に有志のベルトを外していく。
抵抗しようと肩肘をついて起き上がろうとした瞬間、ベルトが抜かれシュルっと音をたてて有志の腕に巻かれた。



「えっえっ」


訳がわからないまま混乱していると、ぎゅっと手首に圧迫感を感じた。


縛られた。


動けない。




「ちょっ…ほんとっ…息子が留守番してるからっ」


「どうしよう、なんかお父さんに恋しちゃいそう……」


「やっやめっやめろぉおぉぉぉ」






















「あっあんっあんあっあんっ」


「っ………」



もちろん有志は男だ。
舐められたり擦られたら勃つ。


頭上で女の子の甘い喘ぎ声が響いているけれど、今の有志には全く興奮材料にはならない。


ただの罪悪感だけが漂う。




出し入れされている自分のソレはある程度硬度があるが情けなく揺れている。

早く終われとぎゅっと目をつむり唇を噛む。










智希ごめん智希ごめん智希ごめん智希ごめん智希ごめん智希ごめん智希…智希智希智希智希…!!







念仏のように唱え、早く終わることだけを切実に願った。










・・・・・・・・






「……ただいま」


「おかえりー」


「あ、うん。………ごめんな」


「なにが?」


「いや、その、遅くなって…」


「そ?いつも忘年会はこのぐらいじゃない?ってか俺子供じゃないし遅くなっても全然平気だし!」


「ははっ…そうか…」


「…なんかあった?疲れた顔してる」


「ん、大丈夫……智希…ごめんな」


「だから遅くなっても平気だってば!」


「ははっ…はは…は……」


「?」








一気に老け込んだ有志を見つめながら首を傾げると、有志はニコリと笑いフラつく足取りでリビングを去った。














もう、真辺さんには絶対着いていかない。



シャワーを浴びながらきつく誓った有志だった。



END

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