2

すっかり審判をずっとやっていた所為で体も冷えてしまった智希は、阿部に頼んで上着を借りた。
あと5分で試合が終了する、その時だった。

「よし、智希出ろ」

「えっ。俺全然アップしてないんですけど」

「ハンデだ」

「………心臓発作で倒れたら祟りますからね」

「お前はそんなヤワじゃないだろ」

「………」


ピーっと長い笛が吹かれると、須賀の口から2・3年組選手交代と告げられる。

誰が出るのだろうと全員手を止め様子を伺うと、上着を脱ぎ交代である清野のゼッケンを着る智希が全員にうつった。
その瞬間新入生はプレイしているもの、していないもの全員が歓声を上げた。

「泉水さんだ!」

「出るんだ!」

「まじ!ちょ、ビデオ撮りたい!」

「……泉水先輩……」

一人、姫川は何故か頬を真っ赤に染めていた。


「まじすげ、お前の人気。ちょっぴり悔しい」

「お疲れ様清さん。かっこよかったスよ」

「……サンキュ」

嬉しそうに口端を上げ笑いかけると、パーンとハイタッチを決め選手交代でコートに立った。


「………」

「………」


今度は、一気に静まり返る。


…やりずれぇ。

そう思っていると、期待の新人佐倉が声をかけてきた。

「……ども」


「…どうも初めまして。凄いんだってな」

「………正直、去年の先輩達の試合、鳥肌立ちました」

「そりゃどうも」

ピっと笛がなり、始まりの合図が体育館に響く。

「はいよ智ー。うちのルーキーだって証明してこーい」

「……はーい」

先輩の前原(まえはら)樹(いつき)にきつめのボールを渡され、しっかり胸で受け取ると上体を一気に浮かせ、下げ、フェイントを決め軽く佐倉を抜いてゴールを決めた。

「っ………」




「すげー!」

「はえー!!」

「かっけー!」

一瞬何が起こったのか、佐倉にはわからなかった。
さっきまで自分の目の前にいて、へらへらした顔で返事をしていたというのに。

スポーツでかいた汗とは違う、また別の汗が滴り落ちた。









「礼っ」

「っしたー!」


部員全員が一斉に頭を下げると、新入生は恒例の体育館掃除が待っている。
シューズを脱ぎ部室へ向かおうとする智希に声をかけたのは、意外にも佐倉だった。

「先輩」

「…ん」

「…今日はお疲れ様でした」

「はいお疲れ。俺と喋ってるとサボってるって思われるぞ」

「すぐ行きます」

部室までの渡り廊下を次々2・3年が通っていくなか、先輩が通る度に頭を下げながらタオルで顔を拭き少し不機嫌そうに話を聞く。
早く帰りたいからだ。

「なに」

「俺、先輩がいるからこの高校入ったんです」

「…どうも」

「………先輩って、プレイしてる時と普通の時って全然違うんですね」

「そうか?」

正直、早く終わってほしい。
その思いの所為か気のない返事ばかりしてしまう。

4月といえどまだ肌寒くて、汗をかいたあとなので若干冷えてくる。


もう一度タオルで汗をふき取ると、用事がないんだったら…と佐倉に背を向け部室へと歩き出した。


「あ、泉水先輩」

「なーにー」

今度は振り向きもしない。足も止めない。

「俺ね」

「んー」


「先輩に惚れてますんで」


「………は?」

全く理解不能だ。
そんな顔をしながら振り返ると、女の子にモテそうな切れ長の目と筋の通った鼻をした男がニコっと笑っていた。

「じゃあ、また明日」

「…また…明日」

再び笑いかけると、体育館へ戻りモップを持って掃除を始めている。


……今年の俺は男にモテるのか?


そんなことを思ってしまった。

「部活どうだった?」

「あーうん、1年結構入ってた」

「何人ぐらい?」

「わからん。30人はいるんじゃね」

「そんなに?」

「でもだいたい半年すればいつも半分以下になるらしい。そんで1年たったら1桁になる」

智希が大好きで大切な時間。
自分が作った料理を必ず褒めてくれて、おいしそうに頬張る有志を見つめながら向かい合わせに座り、自分も食べる。
テレビはつけず、ずっと二人だけの会話の時間。


「後輩はどう?」

「………」

箸の手が止まる。今日の出来事を思い出し血の気が引いてしまった。

もちろん思い出した人物は姫川と佐倉だ。
全く違うタイプの二人だが、強烈さはまだまだ未知数。


「あー…うん。まあ、凄いやつが入った…っぽい」

なんとも後味悪い返答をすると、最後のから揚げを口に運んだ。


「凄いやつって、智より?」

「さあ」

今日のミニゲームで圧倒差だったとは言わない。


「でも智ほんと凄いよな。バスケは中学に入ってから始めたのに今じゃ全国プレーヤーだもんな」

自慢げに喉を鳴らすと、まるで自分のことのように陽気になり箸を遊ばせた。
丁寧な箸の持ち方で、食べ方も綺麗な親子。男二人暮しだとは思えないぐらい常に清潔だ。


ゴクンと味噌汁を飲み終えた有志は、台所へ行きお茶のお変わりを自分と智希にそそぐ。
モグモグよく噛みながら智希はありがとうと言うと、有志はまた向かいに座り嬉しそうに目尻を下げた。


「自慢の息子だ」

「………」

ピタリと、智希の手がとまる。


「?」

「頑張るよ、バスケ。今年こそまじ初戦敗退はしない」

「ん」


有志は本当に嬉しそうで、智希の気持ちなんか微塵も気付かずニコニコ笑う。



自慢の息子、ね。


自慢になんかできないし、こっちは息子だと思ってないんだけどな。


チクリと、胸が痛い。
いっそひどい痛みだといいのに、その痛みは微弱だから心地悪い。











「あ、そうだ智」

「ん」

二人とも食事を終え、有志は洗い物をしていた。
リビングのソファで今日出された課題をやっていた智希は、集中していたため振り向かずノートを見つめたまま返事をする。


「今週の土曜な、部下の結婚式なんだ。式や披露宴には行かないけど二次会には呼ばれてるからちょっと行ってくる」


「……泊まり?」

「まさか。でも次の日日曜だから遅くなるかも」

「………ふぅん」


集中の糸は完全に切れ、上半身を台所に向けながら口を尖らせた。


落ち着いているほうだとは思うがまだまだ子供。
折角の週末を他人の結婚式なんかに邪魔されると、低レベルな考えをしてしまう。


「あんま飲むなよ、弱い癖にのせられたらベロンベロンになるまで飲むんだから」

「………はい」

過去何度か失敗をしたのだろう。
有志は肩を下げすみませんと言わんばかりに声を出した。



「だから晩御飯…」

「あーうん。適当に友達と食べてくるよ」

「じゃあお金…」

「いらない。お土産なんか買ってきて」

「……はいよ」










蛇口から流れる水の音はとても平和に聞こえる。
この平和がもうすぐ崩れ始めると、二人は知るよしもないのだけれど。









「先にお風呂入っていい?」

「………どうぞ」


今日は風呂場でか…。
そう思いながらシャーペンを動かす。

時計を見れば10時を過ぎていた。
課題と言っても明後日までにすれば問題ないので、有志のいないリビングに用はないと自分の部屋へ上がる。

家にいるときは携帯を携帯しないためよく彼女や真藤に怒られるが、今日は珍しく部屋着であるジャージのポケットに入れていた。
だからといってこまめにチェックをしているわけではないが。

「ん、メールだ」

バタンとドアを閉め部屋に入るとすぐ電気をつけ、オーディオのCDボタンを押しお気に入りの洋楽が流れる。
ハードではないがロック調の歌が部屋に響き溜息を付きながらベッドに腰を降ろした。


「……誰だこのメアド」

知らないアドレスだった。
迷惑メールか。そう思いながら受信箱を開くと、その文章と絵文字の使い方でなんとなく誰だかわかった。

「?……あぁ、あいつか」

内容は、以下の通りだ。


『久しぶり。元気?その…もう一回ちゃんと話し合いたいなって思ってるんだけど…智希はまだ私のこと好きでいてくれてるかな』

いわゆる、元カノだ。


「好きでいてくれてるもなにも……。携帯番号消去してたっての」



返信する様子もなく冷めた視線でその文章を読み終えると、3週間前の修羅場を思い出しベットに倒れこんだ。



『なんで私の誕生日一緒にいてくれなかったの!』

『ごめん』

『もういいっ!そんなにお父さんがいいんならお父さんと付き合えばいいじゃない!』

『っ………』


ときに、女は恐ろしいことを言うなと思う。
それが出来たら毎日コソコソと親の目盗んで親のこと思いながらオナってねぇっての。


「……あーヤりたい。シたい。ヤりたい。シたい。セックスしてー」

ゴロンと体を丸め辛そうに顔を布団に埋めると、それは意識があったのか無意識だったのか。
右手をジャージの中に突っ込んだ。


「………とっ…さん」


智希にエロ本も、アダルトビデオもいらない。
有志の顔を思い浮かべただけでソコは反応し、熱は次第に大きくなっていく。

下着の上から包み込むようにまだ小さいソレをやわやわと触ると、目を瞑り有志のことを思い浮かべる。


……今日もスーツ姿可愛かったなあ。


今朝は白いシャツに淡いピンクのネクタイをつけて、上下薄いストライプのかかったスーツを着ていた。

童顔だから前髪は下ろすなと上司に言われているみたいだが、一度智希が髪の毛をアップにした有志を見て全然似合わないと言ったため、いつも下ろしている。

そんなところがまた可愛い。


はぁ…。と、息が段々熱くなってきた。
直にソレを触ると膨張し始めていて、ゆっくりと上下に擦る。


肌も白くて、細くて、なにより綺麗で。
どんどん想像の中の有志は服を脱いでいき、頬を染めながら智希のことを見ている。


「…っ…父さん……とっ………さん」


もう少しで妄想の中の智希が妄想の中の有志に触れれる…となった瞬間、階段を登ってくる音が聞こえた。


「智ー。上がったー」


「っ……んーすぐ入るー」

「おー」


扉の前まできた足音はその返事を聞くとすぐまた降りていく。
熱くなった息と体を冷ますように、智希はCDを止め部屋を出た。

トントンっとリズムよく降りていきリビングを抜けると、有志はソファに座りテレビを見ていた。
Tシャツに短パンで肩にタオルを巻いている。

智希は普通に通るふりをして、しっかり短パンから伸びた有志の足を見ていた。
また、疼きだす。


やべ、痛くなってきた。


若干前かがみになりながら風呂場へ向かうと、まず有志が使用したタオルに顔を埋める。




「…いい匂い」

少し湿ったタオルをきつく抱きしめて、何度も深く匂いをかいだ。
有志が先に風呂へ入るときは、恒例となっている。


やっと服を全て脱ぎ浴室へ向かうと、キュっと蛇口を回しシャワーを出す。
段々暖かくなっていく水は智希の体には当たっておらず、タイルの床を直撃していた。

「っ……く…」

続き、再開だ。

声や音がなるべく聞こえないよにする為と、万が一有志が入ってきても湯気で中が見えないようにいつも高温のお湯を流しっぱなしにする。
立ったままのその行為は、再び智希の妄想によって熱を帯びて行く。


「……と…さん」

今度は、体を洗っている有志を思い浮かべている。
自分の目の前で体を洗いついでに髪の毛も洗っている。
たっぷりつけた泡が顔にもついていて、妄想の中の智希がそれを拭いてやった。
すると妄想の中の有志はにっこり笑い照れながらありがとうと言う。

「……父さっ……」



振り返った有志は顔を赤らめ智希の下半身を見ていた。

「……っ…っん」

半勃ちだったソレはすでに前を向いていて、智希は壁に左手をつきながら右手で緩く擦り上げていく。
有志に見られているのだと、妄想しながら。



『智…こんなおっきく……』

「っ…んっ……うん…父さん、舐めて」

『……うん』


妄想の有志はとても純情で素直だ。
見上げ智希に濡れた目でニッコリ笑うと、膝をついてソレを両手で包み込む。

『……もうこんなになって……流石若いな、凄く元気だ…』

「…うん……父さんの……裸見たから…」


そして妄想の有志はクスっと笑い少しためらいながらも口を大きく開けソレを半分含んだ。

「……全部入ってないよ」

『んっ…はっ…だっ……あっ…はっ…だって…大きいっ…んんっ』


さほど口の大きくない有志が一生懸命目じりに生理的な涙を浮かべながら頭を前後させている。
奥までいくと喉に当たるらしく辛そうだ。
しかし、智希はこの上ない気持ちよさでさらにソコを大きくしていく。
口に含みながら唾液のいやらしい音を立て鼻で息をし、さらに赤くなっていく顔を見たらまた興奮した。

『んっ…あっ…んんっ…智っ…また……またっ大きくなっ…んっ』

もう無理だと智希を見上げ顔を小さく振ると、有志の体で隠れている左手に気づいた。

「……俺のしゃぶりながら…自分の擦ってんの」

『っ……違っ』

「じゃあ左手も上げようね」


『あっ』

智希は有志の両腕を掴むとグイと引っ張り、必然的に咥えていたソレが有志の喉奥を攻めていく。
手の自由を奪われ膝立ち状態の有志は身動きが取れなくて、突き出される智希のソレを必死に咥え込んでいた。

『んっんっ…ともっ…ひっ…んんっ…やっ……下…触りたい…』

「じゃあやっぱり、弄ってたんだ」

『……うん、うん……ともっ…ひの…咥えっ…な…はら……ひぶんの……んんっんっ弄ってっ…』

鼻声の有志は一段と可愛い。
智希はフっと笑いながら有志を立たせると、自分の涎と智希の精液を口端から垂らすその姿に目を細めた。

「……可愛い」

『智っ…希っ……あっ』

有志のソコはもう天を向いていた。
いやらしく光る先端の雫を掬うと、小さい喘ぎ声を発しながら腰を一気に引く。
身長差があるため少し背伸びをさせるとがくがくと振るえ始め、すぐに腰に手を回し自分のソレとくっつけて揉み始めた。

『あぁっ!』

有志の腰が一段と震える。

「…気持ちいい?」

『っ…もちっ……気持ちいい…ょ…お……あっ…あっ』

有志は智希の背中に手を回し必死にしがみつくと、背伸びをしているため若干バランスが悪いのか時々ガクっと大きく崩れ落ちる。

「…しっかりね」

クスクス笑いながら持ち上げ再び立たせると、有志の首筋にキスを落としながら白いそのうなじに吸い付いた。


『あっ…あっ…ダメっ…きも…ち…気持ちいいっ……あぁっ…あっ』

「ごめん父さん、おれもうイきそう…」

『んっ…俺もっ…あっ…あぁっ…んっんっ…もうダ…メ…あっ…気持ちっ…』

「父さん…」

ニチニチと粘着質の音が響き段々智希の手に力も入ってくる。
重なりあったソレは完全に上を向き今すぐにでも張り裂けそうだ。

『あっあっ…出っ…出るっ…あっ出るっ…』

「父さっ……っ……!」

『あぁっあっ…智希いー!智っあっ…智希いい!!』





「………はぁはぁ…」



もちろん、出して満たされたあと目をあけると、智希の目の前には誰もいない。
規則正しくシャワーが水を押し出しているだけだ。


「………今日の父さんはちょっと純情すぎたな」

イったらすぐに冷静になる。
出したままのシャワーを下半身にあて、白濁の液を流しついでに体も洗っていく。


自慰の後は必ず虚しくなる。
椅子に座り髪の毛を洗いながらボンヤリ電球を見上げた。


「…早く彼女作らねぇとなー…」


そう小さく呟き大きな溜息をついた。




「泉水さん」

「………」

2時間目が終わりお腹がすいたので購買部へ行こうと渡り廊下を歩いていたら、あまり馴染みのない声で呼び止められた。
休憩時間ともあって周りがざわめく中で振り返ると、よく知っている人物に少し眉を顰める。

「……佐倉」

「ちは。どこ行くんですか?」

「……飯買いに。じゃ」

あまりこいつに近寄ってはいけない。
本能がそう言っていて、すぐに向きなおしポケットに手を入れながら歩く。

「……先輩、俺のこと避けてます?」

「…………」

ついてくるなよ。
正直嫌な顔をすると、佐倉は逆に嬉しそうに微笑んで智希の隣を歩いた。

「じゃあ、ちょっとは意識してくれてるってことですか」

「アホか。俺は男に興味ないの」

「俺も、男には興味ないよ」

「………」

姫川までいかないが色素のやや薄い髪の毛を風になびかせながら、挑戦的に智希を見つめている。
ゴクリと唾を飲んだ智希は、思わず立ち止まってしまい佐倉を魅入った。

「俺が興味あるのは泉水さんだけだよ。好きなのは泉水さんだけ」

「…………」


なんとも情熱的な告白。
でもなんだか少し、自分と被っていて。


「…なんで俺なんだよ」

ボソリと呟くと、また不機嫌そうに渡り廊下を歩いて行く。
急な動きに若干とまどいながらも佐倉も付いていき、やや自分より背の高い智希を見つめニッコリ笑う。

「先輩さ、一目惚れって信じる?」

「信じない」

「じゃあ運命は?」

「…………」


それは……そう言い、即答できず再び立ち止まった智希の腕を掴み歩き出した。

「ちょっ…なん…だよ」

「なんか、泉水さんと俺って似てる気がする」

「は?」

「とりあえずさ、確かめようよ」

「どうやって」


簡単に振り払うことは出来たけどなんだか振りほどけなくて。






購買部を抜け奥の廊下へ進むと、普段特別授業がない限り使わない化学実験室に入った。
智希の方が一年先輩だが、こんなところに教室があったなんて知らないほどあまり知られていない教室。

「……開いてんの?」

「さっき開けておいた」

「どうやって」

「………ナイショ」

フっと笑いながら自分を見る佐倉を見て、初めて少し、色っぽいと思ってしまった。



ガラガラガラ…

扉は本当にあいていて、薄暗い自然光だけの明かりが微かに見える。
あまり使われていないため、やや埃っぽい。

ガラガラガラ…

今度は扉が閉まる音が聞こえると、暗幕のカーテンをよけて奥に入り佐倉は智希の腕を引いて教壇の方へ導いた。


「…………」

そこまで純情でも、バカでもない。
これから佐倉がナニをしようとしているのか、もちろん気づいている。
だけど出てくるのは味気ない言葉で。




「……何。ここになんか用事なのか」

「…………」

しかし佐倉は全てわかっているのか、焦る様子もなく恐ろしいほど余裕の顔で教壇に手を付き片方の手で智希の顔を撫でた。


「………泉水さんって、あんま男くさい顔してないんだね」

「母親似だから」

「綺麗な人なんだ」

「……あぁ、綺麗だったよ」

その言葉が過去形だったことに気づいたのか、佐倉はハっとし申し訳なさそうに眉を下げる。

「3歳の時にな、交通事故で亡くなった」

「そうなんだ…」


再び智希の頬を撫でると、とても愛おしそうにゆっくりキスをする。

「……避けないんですか」

「避けようと思ったらもう目の前に顔があった」

触れるだけのキスを1秒。
何かが、始まる音がする。


「……言っとくけど、絶対俺はお前を好きにならないぞ」

「わかんないよ」



「わかるよ」

「………好きな人がいるとか?」

「…………」

「……報われない恋だとか?」

「…………」


佐倉はクスっと笑うと、智希の首に手を回し背伸びをして再びキスをした。
今度は深く、甘いキス。

「っ…んっ」

「………」

必然的に舌は絡まりあい、智希も腰に手を回し舌を出して答えている。
最初のキスとは違い数十秒キスをすると、どちらからともなく唇を離し唾液の糸を引いてゴクリと喉を鳴らした。


「…じゃあさ、こうしよう。俺はその人の代わりに抱かれるよ」

「……セフレってこと?」

「んーそうとも言うけど……」

少し不服そうで、口を尖らせ天井を見上げる佐倉。
こんな大胆なことをしてもまだ幼いその顔に笑みがこぼれる。

「俺、欲求不満だから毎日ヤろうって言うかもよ」

「いいよ。俺も泉水さんと毎日ヤりたい」


なんという殺し文句だろうか。
先ほどまで佐倉に付き合うのはよそうと思っていたのに、気づけば下半身が少し反応し始めていた。


俺ってほんと欲求不満…。


自分の分身に情けなく思いうな垂れると、再び佐倉が濃いキスを求めてきた。

「っ………」

「んっ……」


痩せ身ではあるが女の子みたいに華奢でもなければ柔らかさもない。
しかし佐倉のキスと発言、行動は智希の心を揺らがせていて、我慢できず腰を突き出した。


「…………お前、勃ってんじゃん」

「……泉水さんも少し反応してんね」

重なるその部分は熱を持ち始めていて、佐倉にいたっては形がわかるほど高鳴り始めている。


「辛いね、泉水さん」

「ん?」

「泉水さんは俺を毎日抱ける、でも好きな人ではない」

「…………」

「俺は泉水さんに抱いてもらえるけど、好きになってもらえない」




淡々と話すその言葉がなんだかとても冷たく聞こえて、暖房も何もないこの部屋がさらにヒンヤリ感じる。
気が付けばチャイムが鳴っていた。

でも二人はその場を動こうとしない。


「お互い、一方通行だね」

「………佐倉。本当にいいのか」

「いいよ。泉水さんに会うためだけにこの高校に入った」



正直、迷っている。
本当にいいのだろうか。
この選択肢に間違いはないだろうか。

セフレがいる友達は何人かいる。
正直、そこまでして性欲処理をしようと思っていなかった。

しかし思いのほか妖艶すぎる佐倉に少し、毒されたのかもしれない。

いい方が悪い、か。
魔法をかけられた、そんな感じだ。



「………俺、男は始めてなんだけど」

「俺もですよ」


お互いの方向が一致した時、智希はネクタイを緩めた。


グラウンドから離れているのもあると思うが、全く音は無い。
聞こえるのは二人の熱い吐息と唾液の交じり合う粘着音だけ。
そのため、興奮度ももちろんアップするわけで。


「……はっ…っ……泉水さんキスうまっ…い」

「……どうも」

智希は数週間ぶりのキスにやや興奮気味で迫ると、負けず劣らずのキスを返してくる相手に少しむきになりながら何度も角度を変え唇を貪った。
鼻で息をしながらお互いの唾液を交換しゴクリを飲み込む。佐倉は飲み込みきれなかった唾液を頬に流しながらうっとりと見上げた。



興奮する。
あんなに憧れていた、憧れから深い感情へ堕ちていったあの人が今、自分とキスをしている。
自分とのキスで下半身を高ぶらせている。
それだけで、再び佐倉の下半身は高揚した。


お互いのジャケットを脱ぎ床に敷くと、智希はゆっくり佐倉の背中に手を回し寝かせる。
緩めた自分のネクタイを外し机の上に置き、佐倉のシャツの中に手を入れた。

「……真っ平らだな」

「…胸大きい子が好きなの?」

「別に。胸はでかさより形派」

「あはは。でもごめんね、俺全く無いや」

「……ん」


でも、父さんにも無いしな。
むしろ運動とか全くしてないから佐倉より胸板薄っぺらいし。


有志のことを考えながらシャツの中の手を動かすと、小さな突起に触れ思わず条件反射でグっとつねった。

「っ……!」

「あ、悪い。痛かったか?」

佐倉は眉を顰め下唇を噛むと息を飲み込み甘い吐息を出した。

「…ちがっ…」

「ん?」

智希の首に手を回し少し恥ずかしそうに腰をくねらせると、腕を掴み自分の胸の突起へと導かせる。

「……」

「…気持ち…よかった…から……。もっと触ってください」

「………」

火がつくというのはこういう事だろうか。
いくら佐倉が色っぽいからと言って思わず男相手に興奮してしまった自分に嫌悪してしまう。

佐倉は目を潤ませ頬を上気させて智希の性欲を煽った。

「……乳首、気持ちいいんだ?」

「……ん」

「……へぇ」


嬉しそうに佐倉のシャツをめくり上半身をはだけさせると、ピンっとなっている胸の突起を口に含ませた。

「ふっ…んんっ!」

女性の胸に比べれば突起は小ぶりだがちゃんと感度はあるようで、舌でいやらしく何度も嘗め回すと佐倉の腰は振るえ、声を出すまいと思っているのか
右手の甲で自分の口を塞いだ。

智希はその様子を見上げながら、空いた手を片方の胸の突起に添え爪で引っ掻いた。


「ひっ…」

その叫び声は若干恐怖にも似ていて、少しやり過ぎたかと思ったが本人はまた腰をくねらせ頬を染めていた。


気持ちいいのか。


智希は親指の腹で胸の突起をきつめにグニグニと円を描くように押しまわした。

吸い付き、時折歯を立てられる刺激と爪で少々痛いぐらい押される刺激に、佐倉はどんどん息を荒げていく。


「…っ…あっ…泉水さん…っ…もっ…ち…」

「気持ちいい?」

「うんっ…うんっ」

顔を真っ赤にさせながらも何度も頷く佐倉。
下半身をモジモジと揺らしていることに智希は気づいていたがあえて触らず、今度は舌を首筋に這わせた。
もちろん、両手で胸の突起を弄りながら。

「っ…んんっ…くすぐった…んんっ」

男だというのに佐倉は全く男くさい匂いをさせず、むしろシャンプーの匂いなのかボディソープの匂いなのか
ほのかに良い香りがする。


父さんも、いい匂いするんだろうな。

そう思った瞬間、智希の下半身が大きく反応したのがわかった。


耳の裏を舐めながらスイッチの入る音が聞こえると、そのまま低く小さい声で佐倉に問う。


「……下、限界?」

「っ…はっ…んんっ……はぁっ……はっ…」

智希の声に酔ったのか、即答できず胸で息をしている。
胸への刺激を止め床に手を付き佐倉を見降ろすと、目じりに涙を貯め髪の毛は乱れ真っ赤なその顔が見える。

佐倉ははぁはぁと深く甘い呼吸をしながら、ネクタイを外しただけでシャツは着たままの少しだけ見える智希の胸元にキスをした。
チュッ、と。痕がつくほどでもない小さなキスを一つ。


「…泉水さん、限界。触って」


見下ろしながら、こいつはなんて魔性なのだと思った。
今まで付き合ってセックスをしたどの女よりも興奮する。


智希は再び佐倉に深いキスを落とし舌を絡ませると、右手でゴソゴソと佐倉のベルトを外していく。
外からでもわかるぐらい佐倉のソコは膨張していて、同じ男ならわかる。とても辛そうだ。

チャックを下げ下着の上からソコを触ってやると、佐倉の腰が軽く浮き智希の背中に手を回す力が強くなった。

「あっ…っ……」

「……お前、ちょっと触っただけでイきそうなんじゃね」

「…だって…だって……泉水さんが俺の…触ってるって思っただけで……まじやばい…」


可愛いな。
素直にそう思ってしまう。

ボクサーパンツを押し上げているソレはすでにシミを作っていて、このままではひどく汚れてしまいそうだ。
下着をずらし全てを取り出してやると勢いよく飛び出してきた。
つい最近まで中学生だったというのに、形もちゃんとしている。



「……お前、先月まで中坊だったてのに、コレは良くないんじゃね」

ピンっと先端を爪で弾くと、それさえも刺激になるのか佐倉は大きく喘ぎながら腰をくねらせた。

「あぁっ……あっ……泉水さっ…そっ……そんなジロジロ見ない…で…」

羞恥はあるくせにソコはどんどん大きくなっていって、微かなシミだった液も湧き出る泉のように溢れてきた。
ソレを掴み先端から出る液体を使ってゆっくり擦ると、佐倉は腰を震わせながら大きく足を開きまた、手を回す力が強くなる。

「……恥ずかしいんじゃ…ないの?」

クスクス笑いながら大きく足を開く佐倉を覗き込むと、本当に感じているようで目からは涙がポロポロ零れていた、

「……恥ずかしい……けど……泉水さっ……も…もっと触っ…俺のっ…触って…」

途切れ途切れになっている言葉がまた卑猥に感じて、段々智希も下半身はきつくなってきた。
佐倉のこれは計算なのか天然なのか。
(有志以外の)男なんか絶対無理だと思っていたのに、今では異様な程興奮している。

カチャカチャと音を立てながら自分のベルトにも手をかけチャックを緩めると、ソレに気づいた佐倉がゆっくりと起き上がった。

「……なに?」

「……泉水さんの……舐めていいですか」

「……やらしいな」

「泉水さん相手だからだよ」

よろよろとなりながらも体勢を変え智希を地面に座らせると、股を割って股間に顔を埋めた。

「……はっ…はぁ…泉水さんの…」

今の佐倉は何かの中毒者と間違われるぐらい高揚している。
下着から智希のソレを取り出すと、完全とはいえないが半勃ちになっているソレをうっとりと見つめた。


「……おい、あんま見るなって。俺だって恥ずかしい」

「っ…泉水さんの……嬉しい……めちゃ嬉しい……反応してくれてる…」

「っ………」

智希は思わず恥ずかしくなって手で口を押さえた。
やっぱり恥ずかしいからやめろ、と言おうとした瞬間ソレを口に運ぶ。

「っ…っ…佐倉っ……」

「っ…んんっ…はっ…んんっ」

粘着質の音が響きリズムよく佐倉の頭が動いている。
智希はその気持ちよさに倒れそうになりながら床に両手をついて体を支えると、情けないことに硬度はどんどん上がっていった。


やばい…このままだと俺が先にイってしまう。


体育会系だからか、何故か後輩より先にイくことを恥だと思った智希はグっと腹に力を入れ
自分の唾液をたっぷり右手につけて高く上げている佐倉の尻に滑らせた。


「っはっ…んんっ??」


驚いた佐倉は思わず唇を外し顔だけ後ろを向けると、智希の指が自分のあらわになっている尻を弄っていることに気づきさらに驚いた。

「ちょっ…泉水さっ……」

「……男同士って…ココ使うんだろ」

「っ……」

もちろん、佐倉もわかっていた。



しかし泉水がそんなところを触ってくれると思っていなかったため少しパニックになる。



「でっでも…そんなところっ……」

「あ、ココは使いたくなかった?」

「ちがっ……んんっ!」

智希を見上げ抗議しようとした瞬間、濡れた指が一本挿いる。

「っ……んっ……あっ…」

「……なんか…すんなり入った気がするのは気のせい?」


ソコを使ったセックスは男女でも出来るため、多感な男子達の間でその話題になったことはある。
初めてソコを使うときは緩くなるまで舌や指、ローションを使ってよくほぐさないと損傷する場合もあると聞いていた。

しかし佐倉のソコは、唾液で濡らしていたといっても男子である智希の指がすんなりと入っていった。

これは、まさか。


「……お前、一人でする時ココ弄んの?」

「……んっ…あっ……んっ…うんっ…」

「…いつから?」

「……泉水さんに…抱かれたいって……思った…ときから……」

「……へぇ。いつも俺に抱かれてると思いながら一人でシてんの?」

「…うんっ…うんっ……」


強烈だ。
落ちそうだ。(落ちないけど)






「泉水さっ……の指…長くて……ゴツゴツしてて……すげっ…気持ちいっ……んっ」

「……そりゃ、どうも」

なんだか照れてきて、佐倉に口でシてもらっていなかったのにソコはさらに硬くなっていた。
恥ずかしさを紛らわせるために、中の指を動かす。


「っ…あぁっ!ダメっ…でっ……出っるっ…う…からっ」

「後ろ弄っただけでイけるの?」

「…っんんっ…ううんっ……まだっ…あっ…あぁっ…あっ…まだイったことは…ない…けど……泉水さんに…弄られてると思っただけで…もうっ…俺っ……限かっ…んんっ!」


こいつ、ほんとに俺のこと好きなんだな。

なんだか、罪悪感が。


「いいよ、イって」

「あっ…あっ…いやっだっ…あぁっ…んんっ」

いや、といいながらも佐倉は腰を高く上げ2本に増えている智希の指を堪能し自らも動くと、本当にもうダメだ、と思った瞬間智希の腕を掴み動きを静止させた。

「……なんで止めんの?あとちょっとでイけただろ」

「…はっ…はぁ…はぁ…あっ……挿れ…くださっ」

「ん?」

息も途切れ途切れに。
肩で息をしながら大きく深呼吸すると、先ほどよりヨロヨロで四つん這いになりながら方向を変え智希に尻を突き出した。


「……挿れ…て…ください」

「……っ」


ゴクン。
大きく、喉が鳴る。


「…もう、いいの?」

「…もう、ダメです」


佐倉は肘を床に付いて尻を高く上げると大きく股を開いた。
智希から佐倉の蕾も、苦しそうに液を垂らしているソレも全て丸見えで、受け入れる体制は万全だ。


しかしココで、脳の奥にある言葉が響く。




本当に、いいの?




ここから先は進んではいけない気がする。
男を抱くことで今ままで以上に有志に対する思いが深く、辛いものになってしまうかもしれない。




本当に、いいの?



やっぱり……ダメだ。
そう思い床に手を付くと、佐倉はなかなか来ない智希を振り返り弱々しくニコリと笑った。



「いいんだよ、先輩。俺をその人だと思えば」


「っ………」



全てを見透かされている気がした。


「っ……挿れるぞ」

「っ…んんっ…はっんん」


佐倉の腰に手を付き自分のソレを蕾に押し当てると、ブルっと震えた中に先端を押し込んだ。

「っ…はっ…あぁっ…入ってっ…あぁっ」

「……っ…きついな…」


無理やり押し込めばいけないことはなさそうだが、それで佐倉に傷がいってはいけないと入り口のところで小刻みに揺れ徐々に入れていく。


「あっあっ…あっ…泉水さっ…あぁっ…んっ…その…動きっ…あぁっ」

「痛い?」

「違っ……じれっ…たいっ」

「怪我とかしたら…悪い……し」

「……どいっ…」

「ん?」


甘く喘いでいた佐倉が突然肩を震わせ声を押し殺した。
本当に傷をつけてしまったのではないかと焦り腰を曲げて顔を覗き込むと、佐倉は顔を真っ赤にさせて少し、泣いていた。


「…佐倉?」

「……ひどい…」

「えっ」


傷つけた??


「…俺…身代わりって覚悟したのに……そんなっ…優しくされたら……」

「……ごめん」


体ではなく、心を傷つけてしまった。
ごめん。でもそれでも、お前を好きになることは出来ない。




「いっそ、乱暴にしてくれた…ほうが……良いです」

「…それは出来ないな。俺の性格上」

「……だと思った」


クスっと笑った声が聞こえると、佐倉は床に両手を付いて力を込め自ら動いて智希を中に押し込んだ。

「ちょっ……」

「あっ…っ…くっ…はぁっ……挿っ…たぁ……」


ずずっと奥に挿っていく感触は、もしかしたら今までで一番気持ち良いかもしれない。
イってしまわないよう智希は歯を食いしばり佐倉の腰を掴むと、ゆっくりさらに奥に腰を突き出した。


「あっ……あぁっ!」

床についていた手が崩れ落ち再び肘をつけると、高くなった所為で繋がっているところがよく見える。


うわーエロー。


その結合部分からゆっくり自分のソレを入り口ギリギリまで引き抜くと、再びゆっくり押し込んでいく。

「あっあっ…あっ…はっ……くっ…もち…気持ちっ……あっ…ソコっ…あっ」

「ココ?」

「あっ!!」

中のイイ部分に触れたのか、さらに高い喘ぎ声が教室に響く。
その瞬間締め付けも凄まじいのでうっかりイってしまいそうになりながらも我慢した。

徐々に出し入れのスピードを速めると、粘着質の音とともに肌のぶつかりう音も聞こえ始め
卑猥な空間が何もかもを酔わしていく。

「あっ…泉水さっ…あぁっ……あっあっあっ…んんっ」

佐倉も智希のリズムに合わせて腰を振り続けると、段々頂点に近づいてきた。
するとふと、脳裏に浮かぶ人物がいる。


有志だ。








父さんの中も、こんなんだろうか……。







「っくっ………」

「えっあっ…泉水さっ……んんっ」



そう思ってしまったらもう、堕ちたも同然だ。


佐倉が、有志に見えてくる。



「あぁっ…ちょっ…あっ…泉水さんっ…激しっ……あっ」

「っ……と……さ……」

「……っ」


佐倉は感づく、今この人は自分を抱いていないと。


「あぁっあぁっ……んんっ……あっ…いっ…イイっ…いいっ」

「気持ちいい?気持ちいい?…と……さ………ん」

「うんっ……うんっうんっ…気持ちっ…気持ちいいっ…よっ…」

「……おっ…俺も……」


智希は触れていなかった佐倉の前をそっと片手で包んだ。


「あっ…あぁっ…触っ…だめっ…あぁっ」

触れると佐倉のソコはブルっと震えすぐ達してしまいそうだ。



父さんも…凄く感じてくれてる。
俺で気持ちよくなってくれている。



腰の振る速度をさらに速めラストスパートだと言わんばかりに佐倉のソコを上下に擦り始めた。


「あっ…あぁっ…あぁっ…ダメっ…イっ…イくっ…イく!」

「…いいよ」

「あぁっ」

耳元でそう言ってやると、佐倉はその声さえも導くための材料になったのか、体全てを震わせ大きく腰を上げた。


「ぁっ…!あぁっ…あっ…イくっ…あぁっ…あっ…出っ…出っ…ーーっ!」


「っ……っ」


声にならない叫び声を発した途端、佐倉は智希の手の中ではてた。
智希も、一番の締め付けに耐えれずその数秒後に何度も腰を打ちつけながらはてた。












「………はい、タオル」

「…サンキュ」

イった直後二人共数分間動くことが出来ず寝転がっていると、佐倉がモソモソと起き上がりどこからともなくタオルを取ってきた。



準備万端だったんだな……。


教室についてある水道で手を洗いタオルで拭いていると、さっきまであんなに喘いでいた佐倉は涼しそうな顔をしてやってきた。

「…タオル、俺も貸してください」

「…ん」

佐倉はまだ下を何もはいておらずシャツ1枚だ。
二人の液が太ももを伝っている。


正直、めちゃめちゃエロい。



「……その、悪かったな」

「何がですか」

蛇口から流れる水の音が響く。


「いや、その……結構激しくした…から」

「別に。俺も気持ちよかったんで気にしてないですよ」

「っ………」


汚れた下半身を洗いながら智希を見つめると、ニコっと微笑み触れるだけのキスをした。


「それと…その……お前を身代わりに…」

「それは同意の上だから、気にしないでください」

今度は機嫌を損ねたのか口をへの字に曲げそっぽを向いてしまった。
まだ、蛇口から水の音が聞こえる。


気まずい沈黙を救ってくれたのは、チャイムだった。




「あ、昼飯の時間だ」

「そんな時間になるまでここにいたんですね」

「……その、体辛かったら今日部活休んでいいよ」

「キャプテンになんて言ったらいいですか。泉水さんに突っ込まれて腰が立たないんで休むって?」

「…………」


意地悪に笑う。
ちょっと、仕返しだろうか。


「俺は大丈夫ですよ。女じゃないし」

「でもっ……」

「その代わり」


佐倉は蛇口を閉め水を止めると、タオルで体を拭きながら智希に詰め寄った。


「その代わり、また、抱いてくださいね」

「…………」



何も、答えることは出来ない。

黙る智希を少し辛そうに見ながら笑うと、脱ぎ捨てた下着とズボンを身に付け
少し埃っぽくなったジャケットを手で掃いながら着た。


「じゃあ、いつでもシたくなったら呼んでください。本当に毎日でも、何時間でも、付き合いますから」


「…………」



ガラガラっと扉を開け今度は後輩らしい爽やかな笑顔を向けると教室を先に出て行った。












「……ごめん」

ポツリ、残された智希は懺悔する。



「ごめん……佐倉」





懺悔は、まだ終わらない。









「ごめん、父さん」












その日の部活、佐倉はいたって普通だった。









新戦力ともなった佐倉をはじめとする特待生が加わり、顧問の熱も上がって行く。
特待生だからと言って贔屓をしない須賀は一年生全員にグラウンド20周を告げると、早く終わったものから中に入り上級生と交わってのミニゲームを許される。

もちろん、マネージャーに全員分の周回をメモらせている為ズルは出来ない。


「それにしてもほんと泉水サマサマだよな」

「…なんすか」

準備運動をしている智希の肩に手を回しニヤニヤと顔を覗き込む。
いかにも嫌な予感がすると身震いする智希の耳元に話しかけた。


「今年は女子マネ希望もいーっぱい」

「…………」


語尾にはハートが見える。
特待生のクラスは男子のみだが、普通科は男女混合のため女子がいないわけではない。

同じく特待生の清野は嬉しそうにニコニコとストップウォッチやタオルの準備をしている女子達を見つめると、もう一度智希の耳に顔を近づけた。



「ででで。告白された?」

「…誰にですか」

清野の手を軽く払い今度は柔軟を始めようと床に座ると、同じく清野も座り込み同じ体勢で目を輝かせている。


「女の子達にぃ」

「……先輩、きもいっす」

はぁと大きく溜息をつくと、そんなんされてないですよと言いながら前屈をする。
体は柔らかくペタリと床に腹をつけると、つまらないのだろう、清野が智希の背中を強く押しさらに前のめりにさせる。


「いっ…いでででっいでっ!ちょっ!まじ先輩!痛いからっ!!無理無理無理!!もう無理!!!」

「ほんとはされたんだろぅ」

「さっされてないっ……いででで!!!」


「じゃあ、姫川には?」


「っ…………」


ピタっと止まる。
智希の呼吸も止まる。


「嘘っされたの???」

「ちがっ!…姫川にはされてませんっ!」

「……には?」

「…………」


しまった、と息を飲み前屈から逃れようと横に転がると、おもしろいおもちゃを見つけたように清野はさらに智希に覆いかぶさった。


「誰っ誰っ誰っ」

「ちょっ…先輩重っ……やめてくださいっ!」

「教えたら退いてやる」

「だから別に誰にもっ……」


「泉水さん」


「っ…………」

「おぉ、佐倉。どうした?」


ふざけている二人に声をかけたのは、佐倉だった。
なんだか佐倉の顔を見ることが出来ず床を見つめていると、変わりに清野が代弁してくれる。

「監督が一番最初に帰ってきた1年のシュート練習見てやれって」

「……泉水が?」
「俺が?」


ほぼ同時に聞き返すと、佐倉はもうグラウンドにでかける寸前だったらしく、タオルを首に巻いていた。
清野に押し倒されながらも顔だけを動かし見上げると、今日の昼あんなに喘いでいた佐倉ではなく高校一年生にしてはクールな顔があった。



やべ、思い出したら勃ちそう。


思わず目を反らしてしまい気まずくなると、佐倉はフっと笑い音を鳴らして出口へと歩き出した。




「泉水さん、俺絶対一番で戻ってきますから」

「おっ…おお……。頑張って」

「はい」


情けない格好の相手に微笑むと、小走りで出口へ向かいそのままグラウンドへ走っていった。



「……お前、ほんとモテんのな」

「男にモテても……」

「だよなー」


ゲラゲラ笑っていると、監督須賀の怒鳴り声が響き、清野だけが怒られた。















「あーグラウンド20周かー。考えただけで憂鬱だよなー」

「なー。まじダルい。佐倉って体力も自信あんの?」

「そんなに。普通より走れるだろうけど」


ストップウォッチを持った女子マネと一年生がグラウンドで軽く準備運動をしながらスタートを待っている。
本日陸上部はミーティングの為グラウンドを使わないからとても広々だ。


「姫川って体力なさそうだな」

特待生の一人で背も高くごつい男、秋田(あきた)が姫川を見下ろす。

「普通だって。ってか秋田同じ中学で一緒にバスケしてたんだからどのぐらいかわかるだろ!」

「へぇ、姫川と秋田って同中なんだ」

「うん。佐倉は?」

「俺は県外。今じいちゃんちに泊めてもらってんだ」

「へぇ」


意外そうにそこにいた全員が声を出した。

「そこまでしてこの高校来たのって……」


「…………」



姫川の質問にニヤリと答えると、キャンプテンの大谷が笛を吹いて一年生全員をこちらに向かせる。



「いいか、さっきも監督が言ってたけど、一番最初に体育館に戻ってこれた奴は俺等上級生とミニゲームそしてフォームの練習が出来る。おいしいご褒美だと思って頑張れー」

「っす!!」


体育会系の雄たけびがグラウンドに響くと、一斉に全員がスタートラインに立った。

「2位以下は隅っこでずっとドリブルとパス練ねー」

「えええええええ」


また、雄たけびが。




よーい、と声を張った大谷だが、そうだそうだ、とまるで今思い出した様にわざとらしく言うと、折角やる気が出たのにと後輩達に野次られる。


「ちなみに去年20人いた新入生で、グラウンド20周レースでぶっちぎりの1位を取ったのは泉水だ」



「っ………」

「おぉー」

「やっぱりか!」

「すげぇ」

「流石だな!」



野次も歓喜に代わり、智希を称える声が響いている。
姫川はさらに惚れましたと言わんばかりに目を輝かせ、佐倉は嬉しそうにニコリと笑う。



「そんでもって、あいつの持つ20周の記録、歴代で1位だ」


「…………」

今度は沈黙に変わった。
空気が一瞬にしてピリっと痛く感じるほどで、さっきまで煩く喋っていた部員もマネージャーも鳥肌が立つほどじっと大谷を見つめている。




「早く、ここまで登りつめてこいよ」


大谷の甘く、しかし険しい言葉が部員全員に突き刺さる。


「よーい」


はっ、と気づいたら最後、気持ちを切り替えることの出来るものが好スタートを切れる。



「スタート」


一斉にマネージャーはストップウォッチを押し部員達は高ぶった感情のままグラウンドを走り始めた。














「おかえりキャプテンー」

「うす」


大谷は女子マネたちに愛想を振りながら後を任せると、早々に練習を始めているバスケ部へ戻った。
各自シュート練習、ドリブル、基礎をしている。


「いやあ今年の一年は可愛いねぇ」

「なに、またサドッ気発揮?」

「大谷さんって優しそうな顔してドSだもんなあ…」

「あははは」


否定しねぇし…。
そこにいる部員全員が心の中で突っ込みをいれる。



「とりあえず楽しみだよ。誰が一番最初に来るか」

「俺は秋田だと思うなー。あいつまじ体力ありそうー」

「いや、佐倉だろ。あいつ無駄のない走りしそうー」

「え、でも羽田(はた)とか…」


「そこ!煩い!練習しないなら帰れ!」

「……っませんでした!」


こちらも毎年恒例。
一番最初に帰って来る1年を当てるという先輩のみが味わえるゲーム。
ちなみに去年は全員智希が一番だと言っておもしろくなかったようだ。








時間は過ぎて、出口の扉が開く音がする。
一番乗りの1年生が帰ってきたようだ。

先輩達は楽しそうに手を止め出口を見つめ誰だ誰だと賑わう。
この時ばかりは顧問の須賀も興味があるため一時中断することを許した。

智希も、汗をリストバンドで拭いながらその扉を見つめる。




「え、結構早くね?」

「泉水のタイム越したか?」

「いや、残念だがあの超人タイムは越せてねぇよ」

「でも誰だ?これなら歴代3位確定なタイムなんじゃね?」


ざわざわと響く講堂の中に一番乗りで入ってきたのは。






「……1番、佐倉戻りました」



佐倉だった。




















「やっぱ佐倉ってすげぇんだな」

「2位の秋田と5分近く離れてたし」

「なんか周回遅れ何人もいたらしいぜ」

「すげー」

「去年の泉水を思い出すな」

「俺っすか」


更衣室で部活を終えた上級生が着替えながら今日の20周レースについて話していた。
1年生は例により体育館の掃除中だが、専ら話題は佐倉なわけで。

「でもやっぱお前の超人タイムには追いつかなかったな」

「当たり前っす、簡単に抜かしませんよ」

「でも歴代3位だって。すげぇなー」


智希はふと、思った。

もしかしたら今日俺がズコバコしたからちょっとタイム落ちたのかも。

なんだか少し、罪悪感だ。


「姫川ってのも凄いんだな」

「ぶっ」

「ん?どした智希」

「別に」


姫川の話が聞こえただけで反応してお茶を噴出してしまった。
乙女のように智希を見つめる姫川には困っている。

実際は、それをみてからかってくる清野に、だが。


「あんまパっとしない奴だなーって思ってだけど、5位だろ」

「俺今日初めてあいつ知った」

「ひでー自己紹介の時あいついたのにー」


ゲラゲラと笑う更衣室の中で智希は携帯を開き有志からのメールが着ていないことを確認すると
大きなスポーツバックを背負い先輩に一例した。

「お疲れ様っしたー。お先失礼します」

「おー」

「あ、智。今日飯食いにいかね?」

「すみません、俺飯当番なんで」

「こいつ毎日飯作ってるって、この前言ってただろ」

「あっごめっ…そうだった」


ご飯に誘った先輩渡辺(わたなべ)がすまなさそうに智希に謝ると、智希ももう一度先輩の方へ振り返り目じりを下げ笑った。


「いいっすよ。また今度昼飯誘ってください」

「おぉ!」

「じゃあ、お疲れ様っす」

「お疲れー」





バタンっと扉が閉まる音が聞こえ、先ほどまで1年生の話題で盛り上がっていたメンバーも少々複雑そうな顔をしている。

「あいつすげぇよな毎日遅くまで部活して、んで家帰って飯作って」

「でもそんな母親がいないことは気にしてないみたいですよ」

「そうなの?」

後輩であり智希と同学年の阿部が携帯をいじりながら口を開いた。


「なんか、母親がなくなったのは小さすぎて覚えてないって」

「確か3歳とか言ってたな…」

「そら無理もねえな。母ちゃんが恋しい時期はもう越えてしまったんだろうな…」


勝手に妄想し、勝手に悲しくなっている先輩達は、とてつもなく良い人なんだろう。


「でもあいつ、一度も母親をほしがったことないんだって」

「へぇ」

「そんなもんなんかねぇ」




平和に語るこの光景は、きっと智希にとっては息苦しいものになるだろう。

なぜ、母親を欲しがらないか。
突っ込まれたら何も答えることは出来ない。
それは、わからないのではなく、言えないからだ。

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