3

明日父さん結婚式の2次会だから…今日は胃に優しいもんにすっか。
まるで新妻が夫の体をことを考えているかのように今日の献立を立てていく。
バスケ部専用の体育館を抜けて下足室へ行こうとした瞬間、また呼び止められた。

「先輩っ」

「…………」

嫌な、予感がする。

だからと言って立ち止まってしまった以上、振り向かないわけにはいかない。

恐る恐るゆっくり振り返ると、掃除が終わったばかりなのだろう、息を切らした姫川が立っていた。

なんだ、姫川か。
嫌、十分恐ろしいか。

手には汗で湿ったタオルを持ってトコトコと走ってくる。
ひよこみたい。思わずそう思ってしまう。


「お帰りですか?」

「あっ…あぁ…」

やっぱり声はでかい。


「あ。あの、あの」

「ん」

「おおお疲れ様でした!」

「……ぷっ」

「??」


あはは、と声を出して笑うと、何故そんなに笑っているのかわからない姫川の頭からハテナマークがたくさん飛び出ている。


「お前、それ言うためだけで走ってきたの」

「はっはい。先輩を見つけたんでっ」

「タオル握りしめて?」

「はいっ」


なんとも、可愛らしい。
清野がからかうから少しビビっていたが、ただの可愛い後輩だと思えばなんともない。

それに、ここまで慕ってくれるのは嫌いじゃない。


「今日姫川凄かったらしいな」

「へっ」

「20周レース。30人以上の中で5位だろ。特待の奴等も何人か抜かしたみたいだし」

「えっとあっえっあのっ」


まさか褒められると思っていなかったのだろう。
暗闇でもわかるぐらい姫川の頬は火照っていて、タオルがどんどんグシャグシャになっていく。




「体力があるのはいいことだよ。技術なんかいつでもいくらでも身に付く。頑張れな」

「はいっ!!」

「っ……お疲れ」

「っしたっ!!!」



深く深く90度体を曲げて礼をすると、ブンっと音がなり風が吹き起こった。


くっくっくっ…おもしろい奴。


嬉しそうに笑いながらその場を後にすると、姫川はその智希の後ろ姿を見えなくなるまでずっと見ていた。


泉水先輩………。

もはや、目はハート型である。





そんな穏やかな空気の中、危険因子が潜んでいた。


「あいつ、なんかうぜぇな」

「泉水さんに軽々しく話しかけんなっての」

体育館の隙間から先ほどの一部始終を見ていた(実際には姫川の大きな声しか聞こえなかったが)
置田(おきた)・菅沼(すがぬま)・長谷部(はせべ)だ。

3人もまた、智希に憧れ普通科で入ってきた。


「ちょっと、やっちゃいますか」

「制裁制裁」

「やっぱスポーツマンだし、縦社会わかってねーとな」


ニヤリと笑うその影に、スポーツマンらしさなんて微塵もない。
3人はまだ智希のいた所を見ている姫川を睨みつけると、更衣室へ戻っていった。






「……………ふーん。くだらね」


その、さらに3人を見ていた。
佐倉だ。


大きく溜息を付きながら更衣室へ向かった3人から目を反らすと、やっと戻ってきた姫川を見つめる。


「……姫川…お前も…」


それ以上は声が出ず、佐倉も体育館をあとにした。



「忘れもんない?」

「うん。じゃあ行って来る。なるべく日付が変わる前に帰って来るよ」

「いってらっしゃい」

「いってきます」



土曜日の夕方、有志は呼ばれていた結婚式の2次会へ行った。
見送り家の鍵を閉めると小さく溜息をつきながらリビングへ向かう。

昼ごはんは一緒に食べたものの、折角部活も有志の仕事もないっていうのに夜は一人だと思うと少し憂鬱だ。
時計を見れば5時を回ったところで、何かおもしろい番組はないかテレビをつけたものの夕方の土曜日は正直、おもしろくない。


「そういえば晩飯どうすっかなー」

ソファにもたれて天井を見ながら呟くと、まるで盗聴でもされていたのかと思うほどタイミングよく携帯が鳴った。
体を乗り出してディスプレイを見ると、どうもメールではないらしい。

「…電話か」


透明なテーブルの上に無造作に置いていた携帯を取り着信者を見ると、そのまま通話ボタンを押して再びソファにもたれた。


「……よぉ。どうした」

『すげぇ、携帯ちゃんと持ってたんだ』

ケラケラと笑い声が少し篭って聞こえる。
電話をかけてきたのは、クラスで一番仲の良い真藤だ。


「なに」

『今暇か?』

「……別に」

嘘だ。
暇すぎて近くの公園にバスケでもしに行こうか考えていたぐらい暇だ。

『そうなんだ。時間あるならさ、飯行こうかなーって思って』

「………行く」

『暇じゃないんだろ』

再びケラケラ笑う声が聞こえた。
真藤もわかっているのだろう。それほど智希は忙しくないと。

「ご飯なら行く」

『いいのか、親父さん』

「今日は飲みに行った」

あぁ、だからか。とまた笑い声。
なんとなしにつけたテレビを消し立ち上がると、リビングを去り部屋へと向かう。

「それにしてもどうしたんだ、いきなり」

『いや、実はさ………』

「…………」

この沈黙は、経験がある。

「……合コンか」

『正解っ!なんかお前のこと気に入ってる女の子がいるみたいで、3対3で飯行かねーって』

「………真藤の奢りな」

『なんでだよっ』

部屋に入り扉を閉めると、ベットに崩れ落ち時計を見た。

「何時から」

『6時半。どうする、行くか?』

「んー。晩飯食いに行く」

『はいよ』

クスクスと優しい笑い声が聞こえなんだかその声に安堵すると、思わず寝てしまいそうだったので起き上がり音楽をつけた。


「どこで待ち合わせ」

『いつもの西口駅のミスド前』

「オッケー。んじゃあとで」

『おー』


ピっと音を立てて携帯を切ると、もう一度ベットに崩れ落ち目を閉じた。

合コンか。
つい先日だったら喜んで行ったのに、なんだか気が気じゃない。

佐倉だ。

あいつ、俺に彼女が出来たらどうするんだろう。
やっぱり、物分りの良い言葉を言うのだろうか。


それにしても自分は悪魔だな。


人の気持ちに付け込んで、と自己嫌悪する。


「……やばい。寝ちまいそう」


起き上がると音楽を止めパーカーにジーパンというラフな格好のままバスケボールを持って部屋を出た。

階段を降りながら携帯を見ると5時半で、30分ぐらい汗を流すため公園に行こうと思いつく。
携帯、そして家の鍵とバスケットボールだけを持って外へ出た。



4月といってもまだまだ肌寒い。
太陽はまだ沈んでいないけれど、寒さのせいか人通りは少ない。

土曜日の夕方ともなれば近所の子供達が親に連れられて家に帰ったり、買い物から戻ってきたりするというのに。

「やべ、寒いな」

運動しに行くからといって軽装過ぎたかと身震いすると、向こうから仲良さそうに手を繋いで歩いてくる親子がいた。

「…………」


子供は5歳ぐらいだろうか、前をドロだらけにしてニコニコしながら歩いている。
頬が赤くやんちゃそうな男の子だ。
そのドロだらけの子供に、怒っている様子は全くない母親が幸せそうに子供を見下ろしていた。

誰が見ても思う、幸せそうな親子。


「……母親か」


通りすぎたとき、ちょうど子供の声が聞こえた。


「今日ね、お父さんと一緒にお風呂に入る約束したの!」

「そう、よかったね」

「うん!」



「…………」



母親との記憶は全く無い。
恋しいとも思わない。
むしろ、後ろめたい。


智希は目を閉じその親子とすれ違うと、ぎゅっと手を握り少し、震えた。











家から徒歩5分ほどにフェンスで囲まれたバスケット場がある。
バスケット場といっても1面のみで、ここの土地の持ち主が元々バスケが好きで作ったらしい。

今では誰でも使っていい公共の場となったが、たまにガラの悪そうな奴等がタバコを吸っていたりするのでよく確認をしてから。


智希はiPodを付け音楽を聴きながらそっとコートの中を見ると、先約があったようでゴールが揺れる音がした。


「ち、先約か」

残念そうにその場を去ろうとすると、ふと誰かに似ていることに気づく。

「ん?」

もう少し目を凝らして見て見ると、佐倉だった。






「っ…ほっ」


もう何時間もここで練習をしているのだろう、汗だくだ。

シュートを打ってはボールを取り、またシュートを打つの繰り返し。
いつ終わるかわからないその表情は少しゾクっとした。


「………」

思わず、フェンスの扉を開けて入ってしまった。
イヤホンを取ってゆっくり中に入っていくと、気づいたのか佐倉が警戒しすぐ後ろを振り返った。

「っ…はぁ…はぁ……え、泉水さん??」

「あ、やっぱり佐倉か」


佐倉は本当に驚いた様子で持っていたボールを思わず落としてしまった。
ポンポンと跳ねながら智希の方へ向かっていく。

「お前んち、近所なの」

「あっ…いえ………秋田に…この辺でバスケできるところ聞いて…チャリで…」

「秋田?あぁ、特待の奴か」

「あいつはこの辺近所らしく…」

「へぇ」


なぜか佐倉は緊張していた。
いつものような余裕さはない。不思議だ。


「?なに、なんでそんな驚いてんの」

「いや、まさか休日も会えるって思ってなかったんで……」

「嬉しい?」

「はい」

「……………」


こっちが照れるっての。

言われた本人ではなく、おちょくろうとした本人が顔を真っ赤にした。


佐倉のボールを取り自分のボールと重ねて器用に持つと、照れ隠しのように近づいてボールを返した。


「……どうも」

「お前、どのぐらいここにいんの?汗びっしょりじゃん」

「……今何時すか」

「………5時半過ぎ」

「じゃあ…5時間ですね」

「昼からいたの??」

「はい」


呆れた……。そう顔で言うと、佐倉はクスっと笑い汗を袖で拭きながら返されたボールを手にして走り出した。


「泉水さんに追いつきたいからね」

「…………」

綺麗に弧を描いてシュートされたボールは、吸い込まれるようにゴールの中に入っていった。
思わずその綺麗なフォームは言葉を失う。


「先輩」

「……ん」

「ワンオンワン、しませんか」

「……別にいいけど汗だくじゃん」


落下したボールを拾い振り返ると、その爽やかな笑顔のままボールを床に置き指を差し出した。


「1日だけ」

「ん?」

人差し指を出して智希を見つめるその行動に、まだ理解は出来ていない。


「ワンオンワンで、10分以内に俺が泉水さんからポイント取れたら、1日だけ俺のこと好きになって」

「はあ?」

「いいでしょ、1日ぐらい」


ニコリと笑いその妖艶さに負けそうだ。

「1日だけって……」

「ずっとでもいいですよ」

「それは無理」

「即答っすか」


機嫌悪く口をへの字に曲げると、諦めないと智希に近寄りもう一度人差し指を出す。


「お願いっ!1日だけっ!」

「………いいよ。そのかわり本気出すからな」

「……了解です」


智希はiPodをコートの端に置くと、軽く柔軟をしながら佐倉の元へゆっくり歩いた。









「……容赦ないですね」

「いやあでも何回か危険だったよ」


佐倉はコートに寝転びゼーハーと息を荒くして倒れている。
智希も座り込み汗を流しながら空を見上げると、もう暗くなりかけていた。


勝敗は、智希の勝ちだ。



佐倉は悔しい反面、憧れの人とワンオンワンが出来ることに喜びを覚えていた。
これで1点入れてたった一日だけでも自分のモノになればいいのに…と、少し後悔は残るが。

「…また……勝負してくださいね」

「しないよ」

「なんで」

「賭けが、不純すぎる」

「…………」


言い返すことができず黙っていると、足音が聞こえ智希が近くにいるとわかった。
でも、顔はまだ上げない。


「お前は強くなるよ。頑張れ」

「…………」


じゃあ、と聞こえると、智希は再びiPodを身に付け歩き出した。
家に帰る気だ。

「………泉水さん」

「ん?」

イヤホンを耳に当てた直後呼び止められ振り返ると、へばって寝転んでいた佐倉が起き上がりあぐらをかいて座っていた。
段々暗くなり始めている中で佐倉の姿は薄暗く見える程度だけど、それでも整った顔はどんな表情をしているかわかる。
少し、辛そうだ。


「後悔しないでくださいね」

「………お前を抱いたことか」

「えぇ」

手に持った自分のバスケットボールを見つめると、ポンと高く上に飛ばしてはキャッチしての繰り返しを続ける。
何を言えばいいか、迷っているのだ。


「……後悔、か」

「……なんか昨日の先輩、部活中ちょっとぎこちなかったから」

「そりゃぎこちなくなるだろ」

「そだね」

ははっと笑う佐倉の声がコートに響き空中に溶け合うと、どこからともなく電子音が流れてきた。
どこかの時計台が18時になったことを知らせているのだろう。

早く家に帰ってシャワーを浴び出かける準備をしないといけないのだけれども、
その場を動くことは出来ずただひたすらボールを高く上げ、キャッチする。


「……そうだ昨日、ごめんな」

「だから、同意の上なんだから別にっ」

「じゃなくて、部活で20周レースあるのにその……ずこばこと…その…」


尻すぼみに言葉は途切れ段々自分は何を言っているのだと恥ずかしくなってきた。
佐倉はあぁ、そういうことかと頷きながら立ち上がると少し嬉しそうに近づいてきた。


「別に。むしろ先輩とやれてすんげぇテンション上がったからその日いいタイムが出たのかも」

「お前ね…」


佐倉も自分のバスケットボールを拾いネットに入れている。
帰ろうとしているのだろう。
電気が急に付きほのかにライトアップされたそのコートには男二人しかいなくて、すぐ近くは道路だと言うのに車の通る音すら聞こえない。
まるで二人だけの空間のようだ。


「俺どうも、マゾみたい」

「………」


ゆっくり智希に近づき顔の近くでニコリと笑うと、淡いライトがさらに演出してとても妖艶に見える。
ダメだ、ここで盛っては。

智希は必死に理性を保とうとズボンのポケットに手を入れ出口に歩き出した。
佐倉もその後を着いてくる。

「……じゃあ俺、この後用事あるから」

「……あ、泉水さん」

「ん」

「携帯の番号教えてよ」

「……別にいいけど」


携帯を取り出していた佐倉に自分の携帯も突き出すと、赤外線通信で自分の情報を送り、そのあとすぐ佐倉の番号も送られてくる。
佐倉は嬉しそうに口を少し緩ませながら携帯を操作していると、あっと言葉を発し智希を見つめた。

「……なに」

「姫川」

「……姫川がなに」

佐倉と姫川、仲がいいのか?そう疑問に思っていると、佐倉は智希の腕を掴み眉間に皺を寄せた。


「姫川………って、泉水さんと仲いいんですか?」

「……なんで」

「いや、昨日……部活終わったあと二人で喋ってたし」

1年の名前も知らない奴3人がその姫川に何かするかもしれない。
言おうか、言うまいか。こめかみに汗を垂らしながら迷う。

言えば智希のことだろう、絶対姫川を助けると思う。
そんなことをしたら姫川はさらに智希のことを好きになるに違いない。

「…あぁ、あいつな、なんか俺のファンらしくて」

俺もだよ。ってか1年全員だよ。
心の中で佐倉が溜息を付きながら答える。
智希には、ライバルが多すぎる。

でもその中でも自分と同じ感情を持つ奴は、たぶん姫川だけだろう。
あいつはなんだか危険だ。




「んで、お疲れ様でしたって元気良く声かけてきたら、俺もお疲れーって言っただけ。あ、あと20周レース頑張ったなって褒めた」

ち、羨ましい。


「そうなんですか」

「なに、なんで姫川?」

「いえ、俺も最近姫川と喋るようになって、あいつだけ泉水さんと話してたから中学のときの後輩かなんかかなーって思っただけです」

「………ふーん」

特に引っかからなかったんだろう、緩い返事をすると携帯を取り出し時間を確認しやばいと目を大きく開かせる。
カシャンと音を鳴らしてフェンスの扉を開けると一度振り返り佐倉に叫んだ。


「じゃあまた部活でな、佐倉」

「……ありがとうございました」

「なんもしてねぇよ」

少し照れるように智希はコートを出て足早に去っていった。
佐倉はいない智希の残像を思い出しフェンスを見つめていると、教えてもらった携帯の番号を見つめ急に胸が苦しくなり目を閉じた。








「……やべ、待ち合わせギリギリになりそうだな」

家に着いた頃には6時10分を回っており、とりあえず風呂だと脱衣所へ急ぐ。

5分でシャワーをすませ髪の毛をドライヤーで乾かしていると、携帯がなっていることに気づいた。

「……誰だ…真藤かな」

ドライヤーを止めコンセントを抜くと、携帯のディスプレイを見てその人物に驚いた。

佐倉から、メールだ。



『今日はONEonONEありがとうございました。やっぱ泉水さんはすごいですね、まだまだ全然です』

「……そんなことないって…」

独り言でも謙遜は忘れない。

『俺の体のことは気にせず、ガンガンやってもらって大丈夫なんで』

「……なに言ってんだ」

『泉水さん』

「?」

その言葉で終わっていた。
なんだ、間違えて送信したのか?
そう思っていたが、スクロールを押すと下にどんどん下がっていく。

まだ、ある。



「…………」


最後の最後、本当に最後に。












『好きです』

「………」


それだけ書かれていた。





時間になり待ち合わせの場所へ行くと、真藤と藤屋がいた。
女の子はまだ来ていないらしい。

「よお泉水」

「なんだ、藤屋もいたの」

「いちゃダメかよ。俺はお前と違ってモテないからこういうことは積極的に参加しないとダメなの」


普段制服姿に慣れているため、藤屋の私服は少し新鮮だ。
色のあせたお洒落なデニムに薄手の白い長袖を着ていて、流石スポーツをしているだけあってシルエットは綺麗だ。
でも発言は相変わらず、バカだ。

「藤屋はがっつきすぎなんだよ」

真藤が苦笑いしながら藤屋の隣に立つと、短髪を少し立たせて若干お洒落をしているようだ。
こいつも本気か、そう思いながら本日の主役は逆にやる気のない顔。
藤屋は相変わらずテンション高めに騒いでいるが、智希のそのテンションの低さに真藤は気づくわけで。

「どうした智、なんか元気ないな」

「そうなの?」

駅の近く、夕方ということもあって人通りはかなり多い。
店の前で腕を組み女の子を待つ3人の男子達は、正直かっこいい。
3人とも特待生のため、まだ高校生だが体もしっかりしていてスタイルがいい。
その3人の中でも一番背が高く目立つ智希は、やや落ち込み気味だった。

心配する二人をチラリと見て(藤屋は正直あまり心配していないようだが)苦笑いをした。

今、自分は自己嫌悪に陥っている。
もちろん、言わないけど。


なぜ佐倉を抱いてしまったのだろうか。
やはり、抱くべきではんかった。
あいつは遊びでもいいと言ったけど、これは重過ぎる。
あいつの想いは、深すぎる。


なんて軽率な行動をしたのだと落ち込み、溜息が増えた。


「風邪か?」

「いや、その………」

濁す。

「そこまで無理しなくていいから、辛かったら帰っていいぞ」

「えーでも泉水いなかったら意味ないんじゃ…」

「うるさい」

「はい」


振り返り藤屋を一喝すると、再び智希へ向きなおし少し心配そうに顔を覗き込んだ。


「いや、大丈夫。ちょっと合コン久しぶりだから緊張してるだけ」

「………」

「まじか!俺もめちゃ緊張してるー!」

正直、藤屋は煩い。
でもこの明るさはまねが出来ないから羨ましいとも思う。

「そうか」

「…ごめんな、心配かけて」

「いや、大丈夫」

真藤は少し納得いかないような顔をしていたが、すぐに煩い藤屋がその場の空気を洗い流してくれる。
ある意味、ありがたい。





程なくして女の子3人が現れた。
真藤の中学時代の同級生らしく、みんな普通に可愛い。
その中でも短めのボブに白いスカートと黒のジャケットを着ている柔らかい感じの女の子が、智希を見るなり頬を染めている。

この子が智希狙いか。
全員が感づいた。
当の本人智希もなんとなく気づき、でも気づかない振りをして話しかける。
するとその女の子はすぐ目を反らし智希の質問に対して簡単に答えると、すぐ離れていってしまった。

正直、可愛い。
藤屋が羨ましそうに智希を見ている。

でも、智希はもちろん、嬉しくないわけで。






近くのカフェに入り食事を始めると、同年代ということもあって話は盛り上がった。
その、智希のことが好きな女の子は『まりな』ちゃんと言うらしい。
少し恥ずかしがりやなのかあまり口数は少ないけれど、みんなの話を一生懸命聞いている姿勢がとても可愛く健気だ。


「まりなちゃんって、どこで泉水のこと知ったの」

「えっ」

「………」

「………」

空気の読めない藤屋は簡単にこんな質問をする。
まりなちゃんはさらに顔を真っ赤にすると、チラリと智希を見つめ目が合いまたすぐ反らした。


「………その、私もバスケしてて…」

「あぁ、だから好きになったんだ」

「……っ」

「っ…痛っ!!」

隣に座る真藤が藤屋のスネを靴の裏で蹴った。
もちろん、テーブルで隠れていて他のメンバーは見れないためなにが起きたのかとびっくりしている。
智希はだいたい予想がついたので呆れた顔をしながら運ばれてきたパスタを口に含んでいた。


「藤屋君って、デリカシーないよね」

「そうだね」

ケラケラと笑う女の子二人の隣で、まりなちゃんは顔を真っ赤にして何度もチラチラと智希を見ていた。
智希は、食べているだけ。




「藤屋呼んだの間違いだった。ごめんな、石川」

「いいよ、おもしろいし」

石川と呼ばれた女の子は、どうもこの食事会を主催したであろう人物だった。
少しサバサバしていて、長い黒髪が印象的な美人だ。

「なんで!俺盛り上げてるのに!」

「盛り上げ方を間違ってる」


真藤と藤屋の絡みに全員が笑っている。
まりなちゃんも、少し顔の赤みは引き一緒に笑っていた。

智希は、ひたすらご飯を食べている。

モテないわけではないので、今まで女の子と付き合ったことは何回かあるが、正直智希は少々女の子が苦手だった。
特に自分から話題を振るわけでもなく淡々と答えていると、普通なら愛想のない男と思われがちだが、ルックスが良いため逆にそれが大人っぽくてかっこいいと思われる。

実際、まりなちゃんも智希をさらに好きになっているようだ。









食事を終え会計を済まし全員外に出た。

「じゃあ、また」

「うん、また遊ぼうねー」

石川さんがニコっと笑い男性人に手を振った。
藤屋が大きく手を振って答えると、石川さんがケラケラ笑いながら答えている。
犬とご主人様みたいだ。

「そういやまりなちゃんとメアド交換したの」

「いや」

「え、してねぇの?」

勿体無いーと男二人から驚かれ少し不機嫌になると、俺にあーいう子は勿体ないよといいながら歩き出す。


「まあ確かに智相手にしちゃちょっと純粋そうだなー」

「ありゃ処女だな」

「だろうな」


男3人で駅まで歩くと、電車組の真藤・藤屋、このまま徒歩の智希で分かれる。


「じゃあな、また月曜日」

「おお。飯誘ってくれてありがとな」

「おー」

「じゃあな泉水!女の子関係の話ならいつでも乗るから!」

「はいはい」


改札で二人と別れると、まだまだ酔っ払いや会社帰りのサラリーマンが多い路地をゆっくり歩き出す。
ポケットに手を突っ込んで空を見上げると、星が見えない。
やっとのことで見つけた一番明るい星を見つめ大きく溜息をつく。



月曜日、もう一度佐倉に謝ろう。
そしてこういう関係はやっぱりやめようと言おう。

絶対好きになれないのに、体の関係だけなんて俺には無理だ。
そんなに器用じゃない。

今日何度目かわからない溜息を再びつくと、家の前にタクシーが止まっているのが見えた。


「ん?」


小走りでそこへ向かうと、ちょうど有志が帰ってきたところのようだ。
でも、何か様子がおかしい。


「………あれ、重里(しげさと)さん?」

「…ん?おお、智希くん」

見覚えのある顔だった。
有志の会社の後輩、重里卓哉(たくや)だ。

その重里はよいしょの掛け声で誰かの腕を肩に回し運ぼうとしている。


………、有志だ。




「父さん?」

「うん、ちょっと酔いつぶれたみたいで」

「…智ーただいまー」


自分で立てないのだろう、重里に寄りかかりながら顔を真っ赤にし、タクシーの中から現れた。

智希はよりかかっている重里に少し苛立ちを覚えた。
離れろよ、と心の中で低く唸る。



「ありがとうございます、もうここからは俺が運ぶんで」

「いいよ、リビングまで」

「いえいえ、ここまで送ってもらっただけで凄いありがたいんで、これ以上迷惑かけれません」

「………智希君…相変わらず大人だねぇ…」

「いえ、そんなことないですよ」

だって、単に有志から早く離れてもらいたいだけだから。



「じゃあ、あとはヨロシク」

「はい、本当にありがとうございました」

「じゃあねー」

「…………」


有志を抱えながら重里に一礼すると、乗ってきたタクシーでそのまま去っていった。
見送りが終わり家に入ると、玄関で有志がめんどくさいことになっている。





「たっだいまー」

「……はい、おかえり。それにしてもあんま飲むなって言ったのに何こんななるまで飲んでんだよ……」


玄関の段差のところに座らせると、すぐ家の鍵を閉めチェーンをかける。
座ったまま楽しそうに笑っている有志の靴を脱がしてやると、自分の靴も脱いで有志を抱きかかえた。

「わー抱っこされたー息子にだっこされたー」

「はいはい、とりあえずリビングいくよー」

「智希でっかくなったなー」

「………」

抱きついてきた有志。
智希は全神経を集中して理性を保っている。

正直酒くさいのだが、自分より細く薄い有志に抱きしめられると、そのままきつく抱きしめ返してしまいそうだ。

しかし、それが出来ない理由があった。
有志はどんなにベロンベロンに酔っていても次の日覚えているのだ。

そして次の日半泣きになりながら迷惑をかけた人全員に謝って行く。








「…よいしょ…っと」

「ふーあー」


まるで子供だ。
ソファに寝かせるとすぐ大の字になりケラケラと笑っている。
なにが楽しいのだろうか。全くわからない。


「はい、水」

「んー」


台所で水を汲み持っていくと、ゆっくり起き上がり渡された水を飲んだ。
気分が悪そうではない。

有志は酒に対して特にひどく弱いというわけではなかった。
酔っ払いはしても吐き気を訴えたり、次の日二日酔いになったりはしない。

ただ、若干幼稚化するのだ。


水を飲み終えるとまた足を大きく広げながらソファに寝転び、楽しそうに鼻歌を歌っている。
そんな有志を見ながら水の入っていたコップを取ると、台所へ持っていく。
すると突然有志に呼ばれた。

「…ともー」

「………なに」

コップを流し台に置きすぐリビングへ向かい声をかけると、有志はソファの上に正座で座っていた。


「…ちょっとこっち、座れ」

「……うん」

なんだこれ、新しいパターンだな。
顔はまだ若干赤いが顔は険しくなっていて、さっきまで鼻歌を歌っていた有志はどこへいってしまったのだろうか。

言われたとおり床に座り有志を見上げると、腕を組み眉間に皺が寄っていた。




「…お前、彼女はいるのか」

「…は?」

正直、意味がわからない。

「彼女はいるのかと聞いている」

「…今はいないよ」

「昔はいたのか」

「いたよ」

「…その子のこと…好きだったのか」

「……ねぇ、なにが言いたいの」


質問の趣旨がわからず顔を覗き込むと、思わずびっくりして腰が引いてしまった。


有志が、泣いている。


「ちょ、待って。なに、なんで。なに。ほんとわかんねぇ」

「…っく…ぅ……」


腕を組み正座したままで嗚咽を漏らすその姿は本当に変だ。
智希はどうしたらいいかわからず、とりあえず自分もソファに座り今度は有志を見下ろす状態になった。今はつむじしか見えないのだが。

「…どうしたんだよ、父さん。今日なにがあったの」

「………今日、2次会にいた課長に…」

「…うん」

「智希ももう今年17歳だって言ったら…」

「うん」

「彼女とか出来たんじゃないのーって言われて…」

「………うん」

「なんか」

「…………うん」

「凄く…」


心臓が、バクバク言っている。
なんだ。なにが起こるんだ。


「凄く、なに」

「…凄く………悲しくなって」




ダメだその先はなんだか危険な感じがする。
聞いてはいけない。




「なんで…悲しくなったの」


「…………」



まだ下を向いたままで、篭っているため聞き取りにくい。
組んでいた腕は膝のうえに場所移動していて、ぎゅっときつく握っているからだろうか、若干有志の手が白くなっている。



「…なんで…なの」






「俺、智希の彼女に嫉妬したんだ……」

「っ………」


だめだ。
だめだだめだだめだ。


有志の肩に手を伸ばそうとしていた自分の右手を必死に押さえ歯を食いしばると、眩暈がして倒れそうになった。

なんだ、父さん、今なんて言った。



「はっ…ははっ…なに言ってんだよ。父親のくせに俺の彼女に嫉妬した…とか…おかしいんじゃない……の」

精一杯の、言葉。
突き放そう。このままではやばい。
なにかあってからでは遅いんだ。



「…智、俺おかしいのかな」

「………そだね、ちょっと過保護すぎるんじゃない」

わざと明るい声を出して和ませようとしているのに、有志はさらに罪な言葉を吐いてしまう。





「違うんだ、俺。過保護とかじゃなくて…もっと、こう…」

「…………」


お互い、言葉が出ない。
その言葉がほしい、でももらってしまったら戻れなくなってしまう気がする。


智希の額に一滴の汗が流れた瞬間、狂ってしまった。








「俺、誰にも智希渡したくない」









「っ………父さっ」




ずっと下を向いていた有志は、その言葉を吐き出しながら智希の腕を掴み顔を上げた。




潤んだ瞳に自分の顔が写っている。





これは…夢?





「………っ……くそっ…」

「智っ」





何かが切れる音がした。

「父さん……」

「…………」


智希の理性は、崩れ落ちた。



「はっ…父さんっ……ん…」

「んっ……」


正座していた有志を押し倒しソファに体を預けると、今まで溜まっていたモノが吹き出すかのように熱いキスをした。


「っ…父さん…父さん」

「んんっ…智…希」


抵抗……しない?

それでもまだ少し残っている理性が問い掛けるけれど、キスを受け止め目を閉じ若干震えている姿を見たらまた弾け飛ぶ。


顎を掴み無理矢理口を開かせ舌を押し込むと、ヌルっとした感触に当たった。
有志の舌だ。


父さんの…舌……!


それだけでも興奮材料で、何度も角度を変えて舌を押し込んでいく。
すると有志もそれに答え智希の首に手を回し妖しく腰をくねらせた。


「キス、好きなの?」

一旦唇を離し笑いながらソファに手をついて見下ろすと、有志はゆっくり目を開け潤んだ瞳で智希を見上げた。


「キス…とか……久しぶりだから…」

「っ………」


これはひどい。
これは本当に、ひどい。


「久しぶりって…父さん彼女とかいなかったの」

「だって…あっ」


シャツの中に手をいれ胸の突起を見つけると、首筋にキスを落としながら軽く爪で引っ掻いた。
有志はビクリと腰を揺らし悶えているようで言葉が出てこない。
再び智希はクスリと笑う。そして耳の中に舌を入れながら低く声を発した。



「だって…?」

「んんっ!みっ耳っ……やめっ」

「気持ち良くない?」

「おっ…音がっ」

クチュクチュと脳に響いているようで、くすぐったいを通り越してとても卑猥だ。
どんどん有志の顔が真っ赤に染まっていき、智希の背中に回している手が力を込めていく。


「…続き、言って」

「はっ……智希が6歳の時に」

「……俺が6歳?」


なんでずっと彼女がいない理由が自分の年齢と関係があるんだ?

訳がわからず思わず愛撫を止め再び手をついて見下ろした。

すると先ほどより目が潤み息が上がっている有志を見て思わずゴクリと生唾を飲み込む。



「昔…智希…が……母親を欲しがってるかなって思って……聞いたんだ、一度」

「…………」


全く覚えていない。






『智、寂しい?』

『なにが?』

『お母さんがいなくて寂しいか?』

『?お母さん?』

『うん。もし智が寂しいんだったら父さん、新しいお母さんを…』

『いらない』

『え』

『お母さん別にいらない。僕はお父さんがいればいい』

『智希……』












「…………」

「だから俺っ……再婚はしないって決めたから…積極的に彼女作らなくて……」

「俺、ほんとにそんな事言った?」

「言った……!」

「…………」


症状は6歳ですでに出ていたのか。
なんだか呆れてしまい大きなため息を付きながら有志に被さりソファに崩れ落ちる。


「?」

有志は自分の肩に顔を埋める智希の背中をさすりポンポンと叩きながら昔のことを思い出していた。


「でも、な。その時凄く嬉しかったんだ」

「………嬉しい?」

再び起き上がり見下ろすと、有志は智希の頬を撫でニコリと笑った。


「独占欲……なのかな?6歳の息子に自分さえいたらいいって言われて、こいつは俺だけのものだって思った」

「…………」









あぁ、なんて愛おしいのだろう。




「父さん…」

「とっも……んんっ」


再びきつく抱きしめ深いキスを落とすと、有志も目を閉じそれに答えた。



「……父さんの裸見たい」

「嫌だ。お前みたいにいい体じゃないから…」

「そんなの関係ないよ。見せて、ね」

「あっ……」


有志に覆いかぶさったままシャツのボタンを一つずつ取り中を開けさせていく。
嫌だと言っていた有志は抵抗せずただ智希の指の動きを見ているだけ。

少し、沈黙が続く。


「…綺麗」

「………」

全てボタンを外し中を覗くと、普段日焼けしない部分は白く30を過ぎているというのにきめ細かく潤っていた。

有志は恥ずかしそうに顔を背け下唇を噛む。


背中を浮かせシャツを取り床に置くと、カチャカチャとベルトも外し始めた。
流石にそれには驚いたようで、有志は肘をついて起き上がり智希の腕を掴む。


「…こっち……も?」

「うん、全部見たい」

「でも恥ずかし…」

「大丈夫だよ、俺しかいないんだから」

「………」

不思議とその言葉は安心した。
誰かに見られるのは嫌だけど、智希ならいいかと思ってしまう。
再びソファに寝転び左手を胸のところに持ってきてぎゅっと握り目を閉じた。


「…………」

ジーッというチャックが下がる音に反応してしまう。
なんて卑猥な音なんだ。



「……腰、浮かせて」

「っ………」

少しとまどったが足に力を入れ軽く腰を上げると、両足首を高く持ち上げまるで赤ちゃんがオシメを変える時のような恰好をさせられた。
そして簡単にズボンと下着がスルッと剥ぎ取られ床に落ちていく。


「っ………」

やっぱり、恥ずかしい。


足を閉じたくても股の間に智希がいるため閉じれない。
その為両手で前を隠し顔を横に背けると、すぐ両手首を簡単に掴まれ前を開かさせられた。


「やめっ……恥ずかしいっ」

「なんで。もっとじっくり見せてよ」


クスクス笑いながらからかうように言う智希を見つめると、目があっただけでさらに恥ずかしくなりまた顔を背ける。


「ちょっと、反応してるね」

「あっ…」

重みを増し始めている有志のソコに人差し指で下から上にゆっくりなぞると、有志の腰が揺れ甘い吐息が漏れた。


「っ…」

「父さん…」

「なに…」

「一人でする時どういう風にしてするの」

「えっ」

まさか何を聞くんだ、と驚き目を見開いて口をポカンと開けると、智希はニヤリと笑い今度は有志の頬を撫でた。


「オナニー。どうやってするのか見せて」


「………」

まだ驚いた顔のままの有志をよそに掴んでいる腕を引っ張り起こすと、ソファにもたれて座っている智希の股の間にすっぽりと入れた。
自分より一回り大きく育った息子に後ろから抱きしめられちゅっと音を立てて首筋にキスをされる。


「んっ……」

「はい、やって。俺ここから見てるから」


肩から顔を出し低く甘い声で囁くと、まるで魔法にかかったように有志は恐る恐る両手で自分のソレを握った。



「………んっ」

有志は真っ裸だが智希は服を着ているため触れている背中の部分がなんだかくすぐったい。
智希は愛おしい相手の腰に手を回し囲んで抱きしめた。
少々智希の手が邪魔だ…と思いつつ一人での行為が始まった。



「あっ…っ……」

「…まずはゆっくり全体擦るんだ」

「んっ…!」


耳元で実況されさらに熱く火照っていく。


「あっ……あっ」

「両手で全部包んで…先っぽを親指で刺激して…」

「んんっ」

「………先っぽ好きなの?結構きつく揉んでるね」

「やめっ…言う……な…んっ」


手に唾液をつけて先端に指を這わすと、親指と人差し指を曲げ円を作りその中に先端を入れてぐりぐりと擦っている。
クスクスと笑う智希を背中で聞きながらも、高鳴り始めた感情と酔いが合わさって止めることが出来ない。



「ちょっと見えにくいから、足上げてね」

「あっ…あぁ…」


両膝裏を掴まれ床に付いていた足の裏が宙を舞うと、そのまま引き寄せられソファの上に着地しM字に開脚させられた。
有志は顔を真っ赤にするが、今は羞恥より快楽が勝っているため手はやはり止まらない。


「んっ…んっ」

「……父さんって見られながらするのが好きなの?」

「ちがっ」

「だってこんなに足開いてるし……」

「だってお前がっ」

「拘束してる訳じゃないんだから、閉じようと思えば閉じれるでしょ」

「……なんか…いつもより性格悪い…ぞ……」

「ごめんごめん。あまりにも可愛いから虐めたくなった。続き、シて?」

「………」

きつく有志を抱きしめこめかみに何度もキスを落とす。
少し不服そうだった有志だが、智希の甘い魔法にまた動かされていく。


「んっ…んっ」

丸めて筒状にした右手で大きく擦り、左手で睾丸をグニグニと揉んでいく。
体は全て智希に預け、顔をうつむかせながら低く喘いだ。


「…溜まってるの?玉腫れてない?」

「あっ……んっんっ…最近……やってなかっ…」

「……なんで?」

有志の行為を肩から見下ろしクスクス笑うと、有志は大きくなり始めたソコを震わせながら手をとめた。

「………」

「?」

「…最近、ヘコんでたから」

「ヘコむ?なんで?」

「この前智希が合コン行ったり…誰かと付き合ったことあるって聞いて……ショックで…」

「………それって…嫉妬?」

「…うん」

「この一週間、俺と関わった女の子に嫉妬してたの?」

「………うん」



なんて、可愛いんだろうか。



「ごめんな、でも俺…ずっと父さんのことが好きで…」

「本当?」

「うん」


抱きしめられ胸の辺りで交差する智希の腕を掴み頬を擦り寄せた。
耳元で聞こえる吐息が熱い。


「ほんとにずっと…父さんのことが好きで……でも言えなくて…その感情を女の子で無理矢理満たしてた」

「……可哀相」

「…うん。本当に悪いことしたって思ってる」


その時佐倉の顔が浮かんだ。
好意を持ってくれていることを利用して、絶対に好きになれないのに体を重ねていた。
最低だ。


さらにきつく抱きしめ肩に顔を埋めると、有志が少し震えながら愛おしそうに智希の髪に自分の頬を擦り寄せた。


「……嘘」

「…嘘?」

「可哀相とか…思ってない」

「………」

「凄く嬉しい」

「……父さん」

「智希……」


有志の頭を掴み少し強引に後ろを向けさせると、甘く開くその唇にキスをした。



「んっ…んんっ」

「っ…父さん…父さん……好き…すげぇ好き」

「はっ……んっ……智っ……」

違いの唾液を交換してごくりと飲み込むと、有志の口端から飲みきれなかった唾液が流れた。


「ヨダレ垂らして…可愛い」

「んっ」


口端の唾液を指先ですくい絡めると、中断されていた有志のソコに手を添えた。


「あっ…」

「ココ、もう上向いてるね」

「んっ…」

衰えていないソコを包み軽く擦る。


「あぁっ」

足を大きく開きながら顔を天井に向けて叫んだ。

「そんな気持ちよかった?」

「んっ……ココ触られるの………久しぶりだから……凄く興奮すっ…る」

「………ふーん」


過去、有志のココを触った人間全てに嫉妬した。
もちろん、実の母親にも。

「……母さんも、ココ触ったんだ」

「んっ……うん」

「ふーん」

「あっ…智っ……あぁっ痛っ」


急に根元をきつく掴んだ。
痺れるほどの痛さではないが軽く生理的な涙が流れる。


「…他には」

「えっ…」

「父さんとセックスした奴、他には」

「あっあっ…智っ……痛い…」

低く明らかに怒っている声でさらに根元をきつく握りしめた。

「何人」

「あっ…そんな……いない…あっ」

「母さん以外に何人」

「はっ…んんっ…ん……ふた…り…」

「二人?」

「うん」

「二人だけ?」

「うっうん……智に…母親を…と思ってた…時……付き合ってる人がいて…。でも智希が…母親いらないって言ったから…そのあとすぐ関係が微妙になって…別れた」


あぁ、俺が6歳の時か。
全く思い出せないけど、6歳の自分よくやったと褒め称えた。


「もう一人は?」

「………」

言わない。
何かを隠しているようだ。

「もう一人は?」


「はっあぁっ!」

きつく掴まれていた根元が外されたと思ったら先端に爪を立てられあまりの快楽に腰をくねらせ大きく喘いでしまう。
しかしまたすぐ根元を掴まれジワリと甘い痛みが残る。


「あっ…あっ…もう…一人……は……っ…ぞ……で…」

「なに、聞こえない」

「あっはっ…っ……課長に連れられて…風俗で…」

「……まじ?」

「ん……うん…課長にずっと彼女がいない事…心配されて無理矢理……」

「…………」


驚いた。
いくら無理矢理とはいえそういう類いは無縁だと思っていたため開いた口が塞がらない。


「でっでも…本当に風俗はその1回だけっ…で……もう二度と行かないって決めたし…課長にもはっきり断って…」

「いつ」

「え」

「風俗行ったの、いつ」

再び怒っている声。


「……さ…三年ぐらい…前」

「ふーん…中学生の息子を夜中一人にして風俗行って女とセックスしてたんだ」

「ごっごめん……!もう絶対行かない!しない!」

「絶対?」

「うん……」

「俺以外の奴にココ、見せない?」

「あっ…んんっ……うん、うん」

有志のソコを握り直して今度は優しく擦って愛撫する。
すると腿を震わせながら何度も頷いた。


「約束、ね」

「うん…あっあっ!」


ちゅっと首筋に痕をつけて、スイッチが入ったかのように激しく有志を擦り始めた。


「あっあっ…ダっダメっ…だ…そんな激しくされたら…あっ」


「いいよ、イって」

「あっ…離しっ…手…あっ汚れるっ」

「あぁ、父さん先っぽが好きなんだったね」

「あぁっ!」

右手で擦りながら器用に左手を先端に這わせると、溢れ始めている白濁の液をすくいグリグリと押していく。


「んんっ!」

よほど気持ちよいのか、恥ずかしいと言っていた両足は宙を舞い何度も腰を打ち付けている。

「もしかして、尿道とかも好き?」

「あっ……あぁっ!」

溢れ出る入口のところをきつく押すと、初めての快感で腰が浮いた。
それを見た智希はクスクス笑いながら手を止め有志から離れる。


「へっ…」

突然刺激を止められ情けない声が出る有志の頭を撫で、リビングに置いてある救急箱を取りだした。


「智…希?」

「うん、ごめんね急に止めて」

戻って来た。
肩で息をしながらソファに座る有志を見下ろす。

ソファ、洗えるタイプでよかった…。

ソファについた有志のシミを見つめながら床に座ると、今度は有志が智希を見下ろす感じになる。


「……なに…探してたんだ?」

「うん。父さんが気持ち良くなる道具だよ。はい、じゃあ膝立てて」

「……ん」

この素直さはいつか風呂の中で妄想した有志に匹敵する。


言われた通り智希の前で再びM字になると、液で光りユラユラと動いているソコをあらわにした。


「もっと開いて。自分で膝持って」


「……うん」


素直であっても恥ずかしいのは変わらないようで、膝を掴みソファにもたれ顔を反らせた。
すると智希に先端を口づけされピクリと跳ねる。

「…凄い…これが何度も夢見た父さんの…」

「っ…あっあんまジロジロ見る…な」

激しく勃起したソコに再びキスをすると、有志は舐められる…そう思いぎゅっと目を閉じた。


「っ…んっ……あっあっ…あ?えっ…あぁーっ!」

違う。舐められた感触じゃない。
先端に何かが入れられた。

驚いて起き上がり自分の下半身を見ると、智希が左手で有志のソコを支え、右手で綿棒を先端に押し込んでいた。


「ちょっ…何してっ」

「気持ち良くない?」

「やっやめっ…あぁっ!」


綿棒の先端は波になっている形状で、智希はグリグリ回しながら奥へ進めていく。
ピリっと痛みを感じる中でソコはどんどん甘い刺激に変わっていく。

綿棒が3分の1ほど入った所で手を止め放置すると、ソファに手をつきガクガク震え口を手で押さえている有志の頬にキスをした。



「気持ちいい?」

「とっ智っ……おっおかしくなるっ……」

「いいよ」

「あぁっ!」

ピンっと綿棒を弾くと、眉間にシワを寄せながらとても辛そうに喘ぎ跳びはねた。
綿棒と先端の入口からドクドクと液が溢れ出てきて、もう限界だと全身が震えている。


「智っ…ほんとこれっ…これダメっ……だって…」

「うん、可哀相なぐらい父さんのチンコ腫れてるよ」

「っ……言うっなっ…あっ」


わざと卑猥な言葉で甘く囁くと、その言葉に反応したのか少量の白い液体が先端から溢れ出た。

「あっあっ…智っ……前っ…前擦っていい?」

「自分で擦るの?」

「もう我慢できなっ…」

小刻みに腰を揺らしている有志は涙を流しながら智希に頼んだ。
智希はニッコリ笑うと綿棒を再びグリグリと回し、同時に全体を擦り始めた。


「あっあっ…そんなっ…一辺にされたらっ……あっ!あぁっ!」

「父さん、イって。俺ココで見てるから思う存分出して」

「あっあっ智っ…智希ぃっー!」

「もっと俺の名前呼んで」




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