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「智?」


「………」


「…顔色悪いぞ?」


「えっ…あっ…」










俺以外に?

俺以外に?






俺以外に無条件で父さんに愛してもらえる存在がこの世にいるのか?





そんなの





そんなの















「パパーお腹空いたよー」


「あ、ちょっと待っててな」


「っ………」



















父さんと繋がってていいのは




俺だけ













「智、ほんと大丈夫か?」


「……大丈夫。ちょっと急な事が起きて頭混乱してるだけだから」


「そっか。でも顔色悪いし、部屋戻っとく?」


「ん、大丈夫」


「パパーご飯ー」


「ん、ちょっと待ってな」






有志の足に絡みついてねだる将太。
胸元あたりまである身長がフラフラと揺れ、甘えるようにきつく抱きつく。



智希はその姿をじっと見つめ、一生懸命自分に言い聞かせていた。










落ち着け。



まだこいつが父さんの子供って決まったわけじゃない。








智希は流れ出る汗をTシャツの裾で拭いふぅと深呼吸すると、空気を変えようとわざと明るく大きな声を出した。



「じゃ、ご飯にしよっか。今日はカレーだ」


「………」


「お兄ちゃんがね、いつもご飯作ってくれるんだよ」


「………」




思わず有志の『お兄ちゃん』という発言にピクリと眉を動かしたが、将太の頭を撫でて自慢するように言うその姿を見たら少し気持ちは和らいだ。

しかし将太はあまり良い顔はせず、じっと智希を見つめる。



「………この人、僕のお兄ちゃんなの?」


「……あー…」


「………」




智希を指差し、有志に問う少年。
小麦色に焼けた素肌からは若さが溢れ輝いている。


有志は少しバツが悪そうに咳払いすると、智希をチラリと一瞬見たあとすぐしゃがんで将太と同じ目線になった。



「どうだろうね、将太が本当におじさんの子供ならそうだよ」


「本当って言ってるじゃん!写真だって!証拠だって!」


「でも、お母さんにちゃんと聞かないと」


「ママがそうだって言ったの!」


「………」








有志は思わぬ所で少し……、感動していた。
















これが…子供か…!

智希は一度も駄々をこねたりワガママ言った事なかったからなぁ。
何言っても素直に聞いてくれたし、何も言わなくても進んで色々してくれたからなぁ。

智希可愛かったなぁ…。







「……父さん?トリップしてない?」


「パパ?」


「へ、あ、あ、うん。ごめんちょっと考え事してた」





はっと我に返ると、智希は腰に手を当て不思議そうな目で有志を見下ろし、将太は首を傾げて見上げていた。



でもこの子が本当に自分の子かどうかわからないなんて…。
なんて最低な大人なんだ…。
沙希に怒られそう…。




「と、とりあえず今日はご飯食べて寝て、明日ゆっくりお母さんとお話させてもらうからね」


「明日って、父さん仕事じゃん」


「あ、うん。その間智希この子見てて」


「えぇー!」


「えぇー!」


「お前が嫌がるなよ」



ペチン、っと小さな音が響く。



「っ!!痛いぃぃー!!!」


「えぇっ」


「えっ」



将太の頭てっぺんを智希の手のひらが軽く当たった、だけだった。
が。



「うぁあぁあああパパー!」


「え、え、え、え」


「そんな泣く程殴ってねぇし!」


「痛いいいい!!」





地響きのように泣き崩れ、有志の肩に顔を埋める将太。

どう見ても今のは絶対痛くないだろう、とは思うものの、泣き叫ぶ子供の扱いに全く慣れていない有志はとりあえず将太を抱きしめた。




「っ………」



智希の喉が鳴る。









「しょ、将太。とりあえず泣きやもうな」


「あのお兄ちゃん嫌いー!」













俺もお前大嫌い。



ぐっと堪える高校生。







「嫌いって……将太、ダメだぞ」


「……なにが?」




しがみつく将太を引き離し、鼻水と涙で濡れる顔をじっと見つめる。
先程の穏やかな顔は消え真剣な顔で将太を覗き込んだ。




「簡単に嫌いなんて言葉使ったら敵を増やすだけ。自分が言われて嫌なことは言っちゃダメだ」


「………」






やべ、俺心の中でこいつ大嫌いって言っちゃった…。



反省する高校生。







「…はい。ごめんなさい」


グスン、っと鼻をすすり小さな声で謝った。
ずっと笑顔だった有志が真剣な顔になったからだろう、将太は背筋が凍りピンっと直立不動になった。

有志は再び笑顔に戻り、優しく将太の頭を撫でる。




「将太偉いね、ちゃんと謝れる。お前はいい子だ」


「………うん」






うん、じゃねーよ。

離れろよ。




と、苛立始める高校生。








「で、智希も」


「俺?」


「加減したとはいえ、急に頭叩くのはよくない。さっき始めて会ったばっかなのに急に叩かれたら誰でもびっくりするだろ」


「……あー…」


「………」



じーっと智希を見つめる将太。
その隣で、少し不機嫌な顔をしている有志。



喧嘩両成敗か…。




「…ごめん。もうしない」


「……うん」


将太は小さく頷くと、鼻をすすり少し濡れた服の袖で再び涙を拭きとった。



智希との身長差が30センチ近くある為大きく上を向いて首が痛そうだ。

そんな光景を、ちょっとイイナ、と思ってしまった有志。



ゴホン、と咳払いをして膝立ちしていたのをやめ立ち上がった。








「よし、じゃあご飯食べようか」


「うん!」


「じゃあ、智希お兄ちゃんにご飯食べさせてくださいって言おう」


「え」



半ば強引に有志はズンっと智希の目の前に将太を突き出した。

目の前、と言っても智希からしたらだいぶ下だが。







「ご飯、食べたいです」



「……お、おぅ」




潤んだ瞳で見上げられ、急にしおらしくなったその表情に思わずキュンとしてしまった。







それから家族3人?で、夕食をすませ、とりあえず風呂に入ろうということになった。

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