甘いワケ【R-15】

甘いワケ【R-15】




物心ついた頃にはもう、父親はいなかった。

『リコン』、だ。

だから僕に父親ができるとわかった時とても嬉しかった。
しかも、年の離れた兄も出来る。

家に帰るといつも一人。
母さんはいつも働いて、働いて、僕のために、働いて。

でも、僕は一人で。



まだ会ったことのない父と兄の話を聞くのが大好きだった。
早く会いたい。早く会って、家族になりたい

僕に家族が出来ると聞いてから3週間。ついに会える日が来た。

母さんに連れられて少し遠い街へ行く。僕はまだ小学生で、初めてきた一張羅に身を包み緊張でお腹が痛かった。

生まれて初めて行く高級レストラン。外観を見ただけでさらにお腹が痛くなった。

こんな所でどうやってご飯を食べたらいいんだ。ハンバーガー屋の方がよっぽど落ち着く。


「なぁに、陸。汗びっしょり。緊張してるの?」

「べ、べつに」

母さんに笑われ手を引かれると、テレビのドラマに出てくるような黒い服を着た男の人がドアを開けてくれた。

僕は母の真似をして男の人に会釈し、香ばしい匂いのする店の中へ入っていった。


「あら、もう着いてるみたい。早く行くわよ」

「う、うん」

慣れない蝶ネクタイなんかつけられて、さらに息苦しい。
流石高級なレストランなだけあって、中でご飯を食べているお客さんもみんななんだか高級だ。

母さんがあまり外食は好きじゃないから滅多にこういう所に来ないけど、なんとなくわかる。ここはふつうじゃない。


足早に母さんの後をついて奥へ行くと、大きな円卓に男の人が座っていた。

「遅れてごめんなさい」

「あぁ、大丈夫。俺も今来たところだ」

僕の、父親になる人。

写真で見たことはあった。スラっと背が高く、笑った顔はシワが目立つけれどとても暖かい。
写真を見ただけでわかる、きっといいお父さん。

「やぁ、陸くん。初めまして」

「はじっはじめっはじっ」

「もうね、ほんと緊張してさっきからずっとそわそわしてるのよ〜」

「そりゃこんな大人だらけの店に連れてこられちゃあ仕方ないよ。ごめんな。もっと静かな所にすればよかったな」

席を立って僕の前にくると、僕と視線を合わせる為しゃがんでくれた。
背が高いからか、僕の背が低いからか(成長期なんだ!)しゃがんでくれてやっと視線が合う。

片膝を地面につけて笑いかけてくれて、あぁ、写真の優しい男の人だって思ったらなんだか緊張が少し解れた、気がした。

「あ、あの」

「なに?」

「陸です。よろしくお願いします」

ぺこりと頭を深く下げると急に目の前が真っ暗になり、同時に息が少し苦しくなった。

「???」

「かっわいいなー陸くんは!」

「???」

抱きしめられていた。

「っ…………」


初めて父親にきつく抱きしめられた。母さんに抱きしめられるのとは全く違う力強さと囲まれる大きな腕。

なんだか涙が出そうになった。

「もう、やめてくださいよ。陸が驚いてる」

「あぁ、ごめんごめん」

くすくす笑いながら僕たちを見下ろしていた母さんが一言そう言うと、お父さんは簡単に離れてしまった。

なんてことしてくれるんだ。もうちょっとぎゅってしてもらいたかったのに。

「ほんと、容姿も中身も聖眞と真反対だな。素直でいい子だ」

「なに言ってるの。聖眞くんも素敵な息子さんじゃない。……そう言えば聖眞くんは?」

そう、僕にはお兄ちゃんも出来るんだ。

兄の存在は知っていたけれど、写真で見たことはない。とても忙しい人なんだって母さんが言っていた。

とても強いバスケ部の一員で、朝から晩まで練習や試合をしているらしい。
母さんも喋ったことはないけれど、とても頭が良くて運動神経もいいパーフェクトな高校生なんだって。

「すまない、急遽練習試合が入ってしまったみたいで遅れるらしいんだ」

「あら、そんな無理して来なくても…なんだか聖眞くんに悪いわ…」

「何言ってる。来月から家族になるんだ。早くお互いの事を知りたいだろ」

「まぁそうだけど…」

申し訳なさそうに口を曲げる母さんを下から見上げると、お父さんは優しく僕の頭を撫でてくれた。

「ごめんね、陸。もうすぐお兄ちゃんも来るからね」

「…はい!」

「敬語はいいんだよ。俺たち家族なんだから」

「はっ…はい」

「そうだよな、いきなりは無理だよな」

優しく笑う父はとてもかっこよかった。いつも母さんを下から見上げていたけれど、父さんはもっと見上げないとその顔が見れない。

大きな手に何度も頭を撫でられる。それだけで幸せだ。


僕たちが立ったまま話していると、黒い服を着た店員さんがやってきた。
母さんは自分のコートを渡し、僕はジャケットを渡す。

みんなより少し背の高い椅子に座り右隣を見ると、お父さんが黒い服の店員さんに何か話していた。

「一応コースだけど、なにか頼みたいものあったら頼んでいいから。陸はオレンジジュースがいい?ジンジャエール?」

「ジンジャー!」

「了解」

また頭を撫でてくれる。なにか言う度に頭を撫でてくれるんなら、ずっと喋ってようかな。

先に飲み物が運ばれてきて、おしゃれなグラスで乾杯をした。全てがおしゃれ。ほんと、何度も言うけどドラマみたい。

これからの生活がわくわくする。

料理も運ばれてきた。僕の料理と母さん達の料理は少し違うみたい。

おいしそうなオムライスにお腹が小さくグゥ、と鳴った、その時だった。



「ごめん、遅れた」



「?」



後頭部の先から声が聞こえる。
父さんまでは低くないけれど、どこか父さんと似ている声。

僕はテーブルに手をついて真後ろを振り返ると、少し息を乱した男の人が立っていた。

「聖眞、思ったより早かったな」

「そ?結構走ったからな」

「聖眞くん…!はじめまして」

「あ、ども」

「こら、ちゃんと挨拶しなさい」

「それより鞄とか置きたいんだけど」




「?????」




頭の上で色んな言葉が交わされていく。

父さんによく似た男の人は、黒い服の店員さんに鞄を渡し僕の左隣に座った。

「で、試合はどうだったんだ」

「勝ったよ」

「ほんと凄いわよね、勉強も部活も両立して」

「いえ」

お兄ちゃんはとても淡々と話した。母さんはちょっと興奮しすぎじゃないかな。そんなに質問ばっかすると嫌われるよ。

傍観者のように父、母、兄の会話を聞いていたら、突然お父さんの携帯が鳴った。

「……会社からだ。こんな時間にかけてるとはよっぽどの事だな…。すまない、少し席を外すよ」

「気にしないで行ってください。私もちょっと化粧室に…」

父さんが立ったすぐあと母さんも席を立って、僕にすぐ戻るからね、と小声で言うとどこかへ行ってしまった。

「…………」

「…………」

沈黙。

お兄ちゃんはテーブルに肘をついてメニューを見ている。

「………」

どうしよう。またお腹が痛くなってきちゃった。

お兄ちゃんはここに来てから一度も僕の顔を見ようとしない。僕のこと、嫌いなんだろうか。僕と家族になりたくないんだろうか。

涙が出そうだった。

滴が落ちて綺麗なテーブルクロスを汚すジンジャエールの入ったグラスは何も言ってくれない。
周りは楽しそうな笑い声や話し声が聞こえるのに、ここは全然楽しくない。

膝に手を置き下唇を噛むと、チラリと顔を上げて兄を見た。

綺麗。横顔だけでも凄く綺麗。

頬杖つく腕はシャツがめくられ肌が見える。たくましい。僕の腕なんかと全然違う。

かっこいい。

お兄ちゃんに好かれたい。

仲良くしたい。

でもまだお兄ちゃんはメニューを見ている。全然こっちを見てくれない。

悲しい。

ぐっと喉の奥が苦しくなり、兄から目を反らし閉じる。

やだな。帰りたい。お腹痛いし。

そう思って、ため息をついた。

「……退屈?」

「へっ」

突然声をかけられ驚きのあまり勢いよく顔を上げた。

するとさっきまでメニューを見ていた兄が僕を見ている。まだ頬杖をついて、眉を下げながら柔らかく笑っている。

「あ、いえ、あの」

「こんななんて書いてるかわかんないメニューばっかの店つまんないよな。まだハンバーガー屋とかの方がいいっての」

「う、うん!」

「ははっ、頷きすぎ。小学生だっけ?元気だなー」

「………」

綺麗だった。今まで見た男の人の中で一番綺麗だった。

ふつう兄は「かっこいい」になるのかもしれない。

でも僕の兄は、世界一、ううんこの世で一番綺麗だと思った。

そんな兄が、話しかけてくれた。


「えっと、陸…だっけ?」

「……はいっ!」

「元気ー」

また、笑う。綺麗に、笑う。

「俺もずっと一人っ子な上に親父しか扱い方知らないから、全然いい兄ちゃんになれないと思うけどよろしくな」

「はっ……はいっ!!」

僕の名前を知ってくれていた。

ただそれだけで本当に嬉しくて。

その日、その後。

記憶が全くない。





それから3ヶ月ぐらい経って、僕は正式に「大谷 陸」になった。引っ越しも気がつけば終わっていて、この大きな一軒家が新しい家。

生まれてからずっと育った小さなマンションは住み心地よかったけれど、いきなりこんな大きな家に移って不安も少しあった。
小学校は変わらないけれど、中学校は変わる。小学校からの友達とはお別れになる。

引っ越した日、新しくなった自分の部屋でぽつんと、段ボールの荷物も整理しないままベッドに座っていた。

広い家に、広い自分だけの部屋。隣はお兄ちゃんの部屋。


あの、レストランで初めて会った日から3ヶ月。何度も顔を合わしたけれど、兄は一度も僕に話しかけようとしなかった。

目も、合わない。

まるであの時僕に話しかけてくれたことは夢だったかのように、僕を見てくれない。

楽しみだった新しい家族。

なんだか凄く、不安で、不安で、不安で、寂しくて。

新しい部屋で僕は日付が変わってもずっと泣き続けていた。


新しくなったお父さんはとても優しかった。仕事が忙しいから土日でも会社に行っていたし、帰ってくるのも夜の11時を過ぎるのが当たり前だった。

それでも毎朝、どんなに前日遅くに帰ってきても寝坊せず一緒に朝食を食べた。
晩ご飯を一緒に食べれないから、朝ご飯は絶対一緒に食べよう。その時いっぱいお話ししよう。そう言ってくれた。

でもお兄ちゃんは、晩ご飯も、朝ご飯も、いつもいなかった。

「聖眞はまたいないのか。何度言っても朝に顔を出さないな」

「仕方ないですよ。朝練があるんですから」

母さんはそう言いながらも少し寂しそうだった。

子供の俺から見てもわかる。母さんは避けられてる。

うるさい大人は、誰だって嫌いだ。

母さんは好きだけど、味方することはできなかった。もし、母さんに味方してお兄ちゃんに嫌われたら…。


なんでだろう。ずっと一緒にいた母さんよりも、お兄ちゃんの方が気になるんだ。

声かけてくれない。目も合わせてくれない。

でもあの日、レストランで僕の名前を呼んでにっこり笑ってくれた顔が忘れられない。

本当はお兄ちゃんと色々喋りたい。一緒にでかけたり、お兄ちゃんの試合だって見に行きたい。

でも僕には、自分から声をかける勇気は全くなかった。



そんなある日。

「お邪魔します」

「?」

学校が終わり家に帰ると、母さんはいなかった。昨日町内会が夜まであるって言っていた。
だからお兄ちゃんが帰ってくるまで一人だと思いリビングでテレビを見ていたら、知らない女の人の声が聞こえた。

ちょっと怖くなって、恐る恐る玄関へ行くと、制服を着た知らないお姉さんがいた。
隣でお兄ちゃんが靴を直している。

お兄ちゃんの友達かな…。
ドアの影からじっと見つめていると、お姉さんに見つかってしまった。

「?わ、もしかして大谷くんの弟?」

「ん?」

「あっはっはじっはじめっ」

「可愛いー弟いたんだー」

お姉さんはスリッパに履き替えずかずかと中に入ってくると、僕の目の前でしゃがみにっこり笑った。

「血は繋がってないけど」

「へー親が再婚したのは聞いてたけど、弟ができたのは知らなかったー」

「言う必要ないし」

「っ………」

なんだろう、胸が痛い。

「ヒカリ、俺の部屋2階だから」

「あ、うん」

お兄ちゃんは相変わらず僕の目なんか全く見ずすたすたと階段を登って行ってしまった。

「………」

お兄ちゃんの部屋が閉まる音と、全く何の音もしない玄関。


言う必要ないし。


僕は、お兄ちゃんにとって必要ないのだろうか。



僕は体も心もまだ子供だけど、わかる。あの女の人はお兄ちゃんの「かのじょ」だ。

お兄ちゃんはかっこいいからモテるんだ。彼女がいて当たり前だ。

お兄ちゃんは、かっこいいから…。


「っ…くっ……」

気づかないうちは僕は泣いていた。ツツっと頬に流れる涙。


その時僕は、兄の彼女に嫉妬していた。




それからあまり兄とは話さなくなった。あまり、ではないな。全く話さなくなった。

毎日のように母に聞かれる。

『どうして聖眞くんと仲良くしないの』

知らないよ。

僕が聞きたいよ。

どうして、僕と仲良くしてくれないの。




身長も伸び始め、周りに合わせるように「僕」から「俺」へ。

心も体も少しずつ大人になり始めた時、また母が家を留守にすることがあった。

今日は日曜日。俺はサッカーの練習があるから朝から出かけていた。

母は友達と買い物へ、父はとても忙しい時期らしく、日曜日でも出勤して行った。

朝から始まった練習は、日曜日ということもあり昼には終わってしまった。

あぁ、家に帰ったら兄と二人っきりだ。確か今日は何も予定がないってお父さんに言っていた。


どうせ家で二人っきりになっても、全く声をかけなければ顔も合わさない。

本当に兄弟なのだろうか。

いや、違う。兄弟じゃないんだ。

兄は俺のことを弟と思ってくれていない。


とぼとぼと、いつもより少しゆっくり歩きながら家に着くと12時を回っていた。

お腹が空いたからリビングへ行く。
母が作ってくれていたサンドイッチを横目で見ながら荷物をソファに置くと、手を洗いに洗面所へ向かった。

ザーっと流れる水しぶき。俺は手と顔を洗い一息つくと、再びリビングへ戻り昼食を取ることにした。

もぐもぐもぐもぐ。

「………」

もぐもぐもぐもぐ。

「………」

これじゃ変わらない。

母さんが再婚する前と変わらないじゃないか。
折角家族が出来たっていうのに、俺はまだ一人でご飯を食べている。

折角お兄ちゃんができたのに…。

「………」

段々腹が立ってきた。口をへの字に曲げながら荷物を持って2階に上がると、微かに声が聞こえてきた。

「?」

兄の部屋からだ。電話だろうか。
いや、誰か来てる?

そっと足音を立てずに耳を澄ますと、明らかにナニカをしている声が聞こえてきた。

「…?………っ!!」

ソレがナニかわかり、俺は急いで音を立てず自分の部屋に戻った。

ドアを閉めると音が響くから、半開きのまま中に入りベッドに顔を埋める。

隣は兄の部屋。隣からは……


「っ……あっ」



「っ……!!」


俺は枕に顔を埋め手のひらで耳を塞いだ。

声は聞こえなくなったけど、確信してしまったその行為に一気に体が熱くなる。


今、彼女が来てるんだ。

今、彼女とセックスしているんだ。


体の芯が熱くなり始め、やばいやばいと心を落ち着かせる。

でも聞こえた女の人の高い声と、ベッドのきしむ音。

俺だってもうソレがどういう行為か知っている。

自分の腹下に膨れあがったソレを感じながら、息を殺して耳を手で塞ぐ。

早く、早く終わって。早く出てって。


俺のお兄ちゃんから離れて。


1時間は経っただろうか、ずっと耳を塞いでいた所為かちょっと頭痛がする。
するとバタンっと大きな音が聞こえた。

兄の部屋から誰かが出て行ったようだ。

……終わった?

俺は恐る恐る立ち上がり、下半身が反応していない事を確認しつつ部屋をゆっくり出た。

すると玄関の扉が開く音と、会話する声が聞こえた。
どうやら、彼女が出て行ったらしい。


2階の階段からそろっと下を見下ろすと、突然目の前に兄が現れた。彼女を見送って、2階に上がってきたのだ。


「あっあっあのっあっあの」

急に目の前に兄が現れ俺は驚いて腰を抜かしそうになった。
壁にもたれ言葉にならない言葉をはき続ける。

兄は驚いたようだったが、それほど気にした様子もなく俺の目を久しぶりに見て小さく呟いた。

「なんだ、いたの」

「っ………」


特に焦る様子もなく、それだけ言うとすぐ目を反らし部屋に戻ってしまった。

たった、それだけ。

たった、2秒。

興味なんか全くないんだ。



でも俺は、その一言に

俺に声をかけてくれて

目があった事が嬉しくて思わず涙が出た


その場に崩れ声を殺し泣いた。




兄に愛されてる彼女が本当に憎くて、羨ましかった。

少し髪の毛が乱れ、疲れた表情をした兄はとても綺麗だった。


同じ家に住んでいるというのに、あまり会わない。だけど、久しぶりに会うと胸が苦しくなる。一層想いが重くなる。

知らない、まだ経験したことがない感情が俺の中を掻きむしる。

兄はモテるようで、俺が中学2年に上がるまでに何人か家に来る女の人が変わっていた。

俺たち家族に紹介した事は一度もなく、父さんは仕事、母さんは自治体の役員をやっていたから、昼間いるのは俺だけだ。
親がいる時は絶対彼女を連れてこないけれど、俺がいる時は連れてくる。

それぐらい、俺なんていてもいなくてもどうでもいい存在なのだろうか。

兄とつきあう女の人は、悔しいぐらいキレイで、可愛くて、優しそうだった。


俺も女だったら…。

だったら、どうだというのか。

バカを通り越して、哀れだった。



それから俺は兄という存在を小さくするよう努力した。
兄はいないんだ、と思うようにもしてみた。


ダメだった。






でも、本当に、何が起こるかわからないもので。

久しぶりに引いた風邪に感謝だ。頭は痛いし、友達と遊びに行く予定もあった。
最悪、、、って思っていた日曜の午後。

寝ていたら兄が俺の部屋をノックした。一瞬夢かと思って息を飲んで無視してしまった。

声を出すと、兄が部屋に入ってきた。

夢だろうか。兄が俺の部屋にいる。

俺に全く興味のなかった兄が、俺の心配をしてくれてる…?

それからの事は、正直あまり覚えていない。

兄に咥えられた自分のソレの感触だけが、脳に響いている状態。

やっぱり夢だったのではないか。

次の日体調が良くなった俺は兄の部屋に行ってみた。ありがとう、と言うと。


「別にー。俺なんもしてないし。それより今日、する?」

椅子に座ってニコっと笑う。ドアの前で俺はぎゅっと拳を握り、あれは夢じゃなかったんだと喉を鳴らした。

嬉しい反面、恐怖にも似た感覚が、脳から足の先まで走り抜ける。

それでも俺は、一言だけ呟いた。


「……す、…る」

兄の顔は笑っていただろうか。わからない。

俺は心臓がドキドキしすぎて、倒れてしまいそうだった。



それから、晩ご飯を食べ終えると兄に勉強を教えてもらうという名目で俺は兄の部屋に向かった。ほんとに勉強を教えてもらう。

悔しいことに、勉強の教え方もうまかった。もっと、好きになるしかなかった。

課題が終わると、俺は風呂に入る。念入りに、念入りに、念入りに洗って、自分の部屋へ戻る。

すると入れ違いで兄が風呂に入り、20分そこそこで上がってすぐ俺の部屋に入ってくる。まだ濡れた髪の毛と、湿った肌、シャンプーの香りが部屋を漂わせ俺はそれだけで興奮した。


「おし、適当に脱いで」

「う、うん」

兄はノックもせず中に入ってくると、髪の毛をタオルで拭きながら俺の勉強机に軽く腰かけた。
椅子に座らないあたりがまた格好いい。背が高いから似合う。

なんて、思いながら俺はベッドの上に腰を下ろして、まだ慣れない手つきで服に手をかける。その行為を、兄は見ていない。ずっとタオルで髪の毛を拭いている。

もっと見て貰いたいのにな…。と、思う反面、自分の裸を見られる事に対してまだ抵抗はあった。

ええい、と、勢いよくズボンと下着を一気に下げ下半身だけ半裸になると、ベッドの中程まで移動し足をM字に拡げる。もう、勃っている。

「にっ…できた…」

「おし」

そう言うと兄は濡れたタオルを椅子にかけ、ベッドに近づいてくる。もうこの時、俺の心臓は爆発寸前なわけで。


「まだ被ってんなー」

「そんな、数日で完全に剥けるわけないじゃん」

「ちゃんと風呂でも剥いて洗ってる?」

「あ、洗ってるよ!」

「んー…しかし完全に…分厚いなぁ」

「あっ…くっ」

ギシっと音をたてて兄がベッドに腰かけると、小さいながらも上を向き、それでもまだ被っている俺のソレを人差し指の腹でなぞった。

フヨフヨと動く俺のソレは情けない事にその刺激だけでまた大きくなり、我慢汁が溢れてきた。
俺はシャツの胸元をぎゅっと握り、歯を食いしばって目を閉じた。

抱きつきたい。このまま兄に抱きつきたい。こういう時、抱きついてもいいのだろうか。

男が男に抱きつきたいって、やっぱ気持ち悪いのかな。やだ、嫌われたくない。

うっすら目尻に涙をためながら目を開けると、兄がじっと俺を見ていた。

「な、なに」

「いや、そんな気持ちいいのかと思って」

「っ……」

「涙出ちゃう程気持ちいい?」

「あぁっ!」

人差し指と親指で俺のソレを摘み皮を上下させる。

弛んだ皮が何度も上にいったり下にいったり。なんて無様な映像だというのに、兄はそれがお気に入りらしく何分もそれを続けるのだ。


「やっもっ…やめっ…兄ちゃっ……やめっやめ…!」

「どんどん溢れるな、お前の精子」

「やっ…もっ…あっ……!」

兄にココを弄られるようになって4回目。俺のココは強くなるどころが、どんどん快感に弱くなっていっている気がする。

俺は射精感に足を震わせながら、どこかに落ちてしまいそうな感覚を覚えた。抱きつきたい。

イく直前はいつも思う。だけど抱きつかず俺は必死に唇を噛んで目を閉じる。

「そろそろ…出そうか?」

「んぅ…んっ……うん…」

「しっかり腹に力込めて、剥いててやるから自分で本体擦れ」

「んんっ…うん」

兄は俺の皮を一番下まで下げると、そのまま手を止め俺の顔をじっと見た。恥ずかしい。

「そ、そんな…顔見るなよ…」

「いいじゃん。ほら、早く擦れって」

「んっ!」

親指でぐっとソレを押され喉が鳴った。俺は涙を流しながら足を大きく拡げ、剥かれた自分の本体を両手で擦り始めた。

「んっんっんっんっ…んっ」

「そう…まだ痛いか?」

「だいぶ…平気…」

ヒリヒリした感覚はだいぶなくなり、ただ快感だけが押し寄せる。

だから、厄介だ。

「ダメっ…ダメっ……もっ…イくっ…」

「はえー」

頭の上からケラケラ笑う声が聞こえる。

「…るせ」

睨んでみるものの、全然迫力ないんだろうなと自分で思った。

「あっあっあっ…あっー!あっーーっ!!」


ドクドクと俺の精液が流れていく。
普通にならこのまま顔や服にまで飛び散ってしまい、再びお風呂に入らなきゃいけないんだけど、いつも兄が準備してくれていたティッシュで受け止めてくれる。

ほんと、ナイスキャッチ。

「はぁ…はぁ…」

「まだまだ敏感だし、すぐ皮も元に戻っちまうなー」

「あっ…あんっ……ちょ…イったばか……なん……弄らないで……よ」

俺のソレをおもちゃのように指ではじく。ちょっと腹がたってきた。

「ってか…さ、…俺のこと小さいとか被ってるとか…言うけどさ…兄ちゃんのは…どうなんだよ」

「俺の?」

「うん……兄ちゃんの…見たい」

「………」

我ながらバカな事を言ったと思った。

黙る兄、どんどん熱が冷めていく俺。

「あっ…あのっ」

「いいよ」

「え」

「見たいんだろ、大人の」

「………」


まだ呼吸が整わない俺を置いて、兄はベッドに膝をついて体勢をあげると、寝間着の長ジャージに手をかけた。まさか、、、。

ごくん、と俺の喉がなる。


「これが大人の、な」

そう言うとズボンに手を突っ込みソレだけを外に出した。

「っ……」

「これ、通常時ね。お前の完全ん時よりでかいだろ」

「…ぅるさい!」


初めて直に見る他人のソレ。俺に跨りドヤ顔をする兄は正直うざかったけど、勃っていないというのにそれは大きさも、色も、形、全てが大人だった。

尻餅をつく俺に跨る兄のソレは必然的に俺の目の前にあって、数センチもすれば舐められる状況にある。

ふと、舐めてみたくなった。

「兄ちゃん」

「ん?」

「舐めても…いい?」

「……いいよ」

ニヤリ、と兄の顔が歪んだ。

俺はベッドに肘をついて体勢を少し起こすと、そのまま吸い込まれるように兄のソレを口に含んだ。

「んぐっ」

兄は自分のソレを持ち、膝立ちしたまま俺からの愛撫を受け止めじっと見下ろした。
俺はというと、もちろんした事はないし、兄にされた時もほぼ放心状態で何が起こっているかわからなかった。

だから全然気持ちよくないと思う。事実、兄のそれはそんなに大きくなっていない。
だけど必死に、兄を気持ちよくしたいという気持ちだけが今の俺を動かしていた。

「んっ……んっ」

「陸…うまいか?

「ふううん」

首を振る。

「うまくないか」

ケラケラと兄が笑う。

「そんなずっと舐めてるけどさ、顎疲れない?」

「ふんっ」

頷く。

「じゃあさ、やめる?」

「ふううん」

首を振る。

「………なんで?」

「………」

わからない。という、顔をする。

「いいよ、そんな舐めたかったらずっと舐めてて。俺はこっち弄ってみようかな」

「ふっ…んん??」

急に兄は体勢を少しずらし、俺の尻に手を這わせた。

え、なに。
なにするの。

困惑する俺を笑うように、兄は閉じた俺の足を無理矢理開かせ双丘の割れ目に指を入れた。

「んっ!」

「まだ入れてねえよ」

兄のソレが少し大きくなった。
口いっぱいに拡がる兄のソレを舐めながら、これ最大になったら絶対口ん中はいんないよな…と、少し冷静になって血の気が引いた。

「あーさっき陸が出したの、残しとけばよかった」

「んん?」

「陸、舐めて」

「っ…えっ…なにっ」

突然腰を引くと、人差し指と中指を出してきた。これを舐めろというのだろうか。

「………」

「…早く」

「……んっ」

さっきとは全く違う質感が俺の口の中に入ってくる。

兄の指は長くてキレイだった。
そういえば昔ピアノを習っていたって、お父さんが言ってた。

悔しいぐらいにかっこいい。

「ふっ…うぅ…んんっ」

「チンコよりでかくないんだから苦しくないだろ」

「んっ…でも…息しにくい」

「鼻で息しろよ」

「あ、ん……」

「いいね、その吐息。結構くるな」

鼻で息をすると兄が少し興奮しているようだった。
大人が興奮するポイントがわからない。

「よし、いいよ」

「んっ…」

「続いてこっちな」

「ふぐっ」

指を優しく抜かれると、入れ替わりで兄のソレが口の中に入ってきた。
少し嬉しかったのは、さっきより大きくなっていたことだ。
でもまだ、半勃ち一歩手前ぐらいだと思うけど…。

そんな事をふと思いながら兄のソレを口に含み頑張って吸っていたら、突然お尻の穴に指を一本入れられた。

「んんーーー?????」

「わっ、こえっ。歯たてんなよ」

「ふあっ…なっ…なにっ…ふんっ」

起き上がろうとしたら簡単に肩を押され再びベッドに背中を預けた。

なに、なに。

「力抜け。大丈夫だから。兄を信じろ」

「ふっ…ぐぐっ……ケツに指入れる兄なんか信じられるか!」

「だーかーらー大丈夫だって」

「んっ!」

兄の長い指が、奥に入ってくる。ぐりぐりと円を描くような動きで中に進入してきて、気持ち悪さと圧迫感で額に汗がたまり始めた。

「やっぱ最初は無理か」

「ふっ…うっ……」

「なに、泣いてんの?」

「こっ…怖いよ……」

「………」

「おねがっ…指っ…やめ……やめて……こ、怖い…よぉ…」

気がつけば俺の体は震えていて、涙を溜めながら見上げると兄は驚いた顔をしていた。

「…?」

「………いいね、それ。すっげぇくるわ」

「なにっ…あぁっ!やだ!指やだ!!指抜いてー!!」

「おらっ、休むな。ちゃんと舐めて俺をイかせてみろ」

「んんっ…ぐっ」

ひどい。
ひどい。

兄は指を何度も出し入れし、震える俺の体を押しつけながら腰を振り始めた。

大きくなり始めた兄のソレはどんどん大きくなり、苦い液体と喉奥に当たる嗚咽感で吐きそうになった。

やめて欲しくて、何度も涙を流しながら兄を見上げ懇願したというのに、兄はそんな俺を見下ろしながら笑いひたすら腰を振り続けた。

「っ……よし……出すぞ……全部飲み込めよ」

「んんんっ…!」

飲み込むとか絶対無理だ…!

イヤイヤと首を振り、唯一拘束されていない両手で兄の体を押し抵抗するけれど、体格差とか経験値とかいろんなものが勝てず気がつけば喉の奥に熱い液体が注ぎ込まれていた。

「んんーーーーっ!!」

「くっ……」

兄は目を開けたまま少し放心状態で何度か俺の口に腰を打ち付けていた。
喉奥に突きつけられた液体は必然的に俺の喉を通りゴクリと音を立てて胃に注ぎ込まれていく。

最悪。


「はぁ……あー気持ちよかったー…」

「………」


兄はようやく離してくれて、ごろんっとベッドの上に大の字になって寝ころんだ。俺は気分も気持ちも最悪で、兄に背中を向けしくしくと泣き始めた。

尻丸出して凄くかっこわるいけど、パンツを履く気力もわかないぐらい疲れた。肩を震わせ無言で泣いていると、背中に重くて熱いなにかを感じた。

兄だ。


「そんな泣くことかよ」

「うるさい。最悪。離れろ。もう近寄んな」

「陸だめだぞーお兄ちゃんにそんな口聞いたらー」

低い声と熱い体温と共に、兄が俺を後ろからぎゅっと抱きしめてくる。

「………」

気分は最悪だったというのに、兄に後ろからきつく抱きしめられて思わず許してしまいそうになった。
俺も兄の方へ向き抱きしめたい。兄の胸に埋まりたい。


「俺今日こっちで寝るわ」

「じゃ、邪魔なんだけど」

「いいじゃん明日休みだし」

「よくない!母さんが入ってくるかもしれないだろ」

「大丈夫大丈夫。最近俺たちが仲良くなって喜んでるみたいだしさ。お前に勉強教えてたら眠くなってそのまま寝たって言えば問題ないだろ。実際勉強教えてあげてたじゃん。学校の勉強も、学校で教えてくれない勉強も…」

「つっ…!!」

耳を舐められ俺の体は大きく飛び跳ねた。

「あははっ。ほんとお前っておもしろいな。これから楽しみー」

「ちょ、っと…ほんとにここで寝るのかよ」

「んー……。あー陸ー」

「なに」

ほんとは一緒に寝てくれることに凄く喜んでいるんだけど、ぶっきらぼうな態度になってしまう。兄はそんな俺なんか気にせず抱き枕扱いでぎゅっと抱きしめ耳元で囁いた。

「明日から1人でオナる時、尻ん中に指入れてやれよ」

「やっやだよ!」

「兄命令ー」

「やだ!!」

「……すー…」

突然寝息が聞こえ始めた。

「うそ…寝たの?」

「…すー…すー…」

がっちり後ろから固められているから、兄の顔を見ようと思っても見れない。ふと、先ほど兄にされた行為を思い出していた。

ゆ、指とか…全然気持ちよくなかったのに…。自分でするわけないじゃん…。

と、思いながらもきっとやってしまうんだろうな、と思いながら目を閉じた。

はぁ…寝よ…。……ん?何かを忘れている。


「っ…!!パンツ!パンツ履かなきゃ!!母さん入ってきたら俺下丸出し!!」

スースーする自分の下半身を見ながら、ベッドの下に落ちた自分のパンツを拾おうと思うんだけど、兄が離してくれず冷や汗が流れ始めた。

「ちょっ…まじ…無理っ…離しっ…!!!」

「んー……」

一層強くなる兄の力。

「ぜっ…絶対起きてるだろーーーー!!!!!」

回された兄の腕に怒りを感じながらも、どこか嬉しくてこのまま朝が来なければいいのにと思う自分がいた。



END

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