乱文倉庫
 (恋を教えての後)

奈良坂くん「こんなところまでつれてきて、どうした」
きよら「……先輩、暇……てーか、あー、私の話に付き合う……のも良いかな……って気分です?」
奈良坂くん「丸きりそんな気がなかったら、そもそもここにいない。おまえの用件次第だ」
きよら「あー……じゃあ、じゃあ良いっぐ」
奈良坂くん「とりあえず言ってみろ。聞いてみなきゃわからないだろう」
きよら「他人の足踏んで呼び止めるのやめてくださいよ。こちとら女の子なんですよ……あーと」
奈良坂くん「5、4…」
きよら「しろーくんの話、していいですか」
奈良坂くん「……菊地原と何かあったのか?」
きよら「や、別に……ただ、その……しろーくんと他人じゃないのって――先輩の前でだけ……だから」
奈良坂くん「おれがおまえのことを好きだと言ったのはちゃんと覚えてるか? まさか勝手になかったことにしてるんじゃないだろうな。二歳年上だから勉強も見てやるし、師弟だからボーダー内部のことならあらかた相談に乗ってやるけど、恋愛相談まで受ける気はないぞ」
きよら「お、ぼえてます! なかったことにしてたら、しろーくんのことだって言いませんよ!! だから、嫌だったら良いです。聞いてみただけ。はいさよーなら、こんなとこまでごそくろーありがとうございました!」
奈良坂くん「下の名前で呼べ」
きよら「は?」
奈良坂くん「おれのことを下の名前で呼ぶなら、聞いても良い」
きよら「じゃ、私帰りますね。またあし…離してくださいよ。私の髪はリードじゃないんですよ」
奈良坂くん「自分からおれをこんなところまで引っ張ってきておいて、何で嫌なのかぐらい言ってみろ。たかが呼び名だろう」
きよら「そんなん、急に下の名前で呼びだしたら周囲に変な風に思われるじゃないですか」
奈良坂くん「二人きりのときだけで良い――呼んだら、聞かないでもない」
きよら「……なんて呼べばいいんです? さん付け? 先輩? 呼び捨て?」
奈良坂くん「呼びやすいほうで良い。さっさとしろ」
きよら「呼ぶんで、逃げないし、髪ひっぱらないで……手も握らなくて良いんです!」
奈良坂くん「5、」
きよら「カウントもやめて……と、」
奈良坂くん「4、3…」
きよら「とーるさん!! ……焦らせないで下さいよ」
奈良坂くん「ああ」
きよら「呼んだんだから、しろーくんの話、きいてくださいね。そんで、手も離してください」
奈良坂くん「聞いて欲しいんじゃないのか?」
きよら「呼んだら聞くってゆった」
奈良坂くん「聞いてるだろう。何が不満なんだ」
きよら「手握ってるのがヤです。なんかぐーって引き寄せられるのが嫌です。もちょい、距離あけたい」
奈良坂くん「名前を呼んだら触らないとは約束してない」
きよら「ヒュー! 先輩の前世がイタリアにでも移住したんですかね?!」
奈良坂くん「照れるか茶化すかどっちかにしろ」
きよら「じゃあもう良いです。しろーくんの話します。ちゃんと聞いてくださいよ、とーるさん」
奈良坂くん「早くしろ」
きよら「あの、ついさっきのことなんですけど。しろーくんが、風間さんと喋ってるとこにね。なんかモサモサ世間話かしてるとこに、太刀川さんが来たんですよ」
奈良坂くん「(……思った以上に要領を得ないな)」
きよら「で、太刀川さん、風間さん好きじゃないですか。大学一緒だし。二人でちょっとしろーくんにわかんない話でもしたんだろなって、思うんです。そしたらね、」
奈良坂くん「(この話にちゃんと起承転結があるのかだけ聞きたいが、あるとも思えない)」
きよら「せんぱ、」
奈良坂くん「違うだろう」
きよら「……とーるさん、さっきからずっと聞いてな――っちょうわ、なんっ」
奈良坂くん「いい加減、椅子に座ったらどうだ」
きよら「それは口で言うべきでしょ、なんか先輩にしがみつく形になってるし、完全にこれ立ってるより辛いし床で膝打ちましたよ今これ、座るんで、ちょっと離してください」
奈良坂くん「腰が鍛えられるかもしれない。もうそのまま話を続けたらいいんじゃないか」
きよら「痛めるでしょこれ! わりとマジでちょっとこれトリオン体でなかったら腹筋のあたりやばいからね」
奈良坂くん「生身の女子にこんな手荒なことはしない」
きよら「トリオン体の時もしちゃだめですよ。いや良いから、離してくれたら体制立て直すから、ちょっと――ほん、人きたら首吊って死にますからね」
奈良坂くん「太刀川さんと風間さんがどうした」
きよら「はあ、あのですね。待って、私も椅子座る」
奈良坂くん「太刀川さんと風間さんがどうしたんだ」
きよら「二回も言わないで良いです! っていうか、これもう大分純粋にツマンネーから聞きたくないって思ってるあれですよね……?」
奈良坂くん「そうだな。ワクワクして続きが気になってしょうがない、という顔はしてないはずだ」
きよら「……ですよね。いいですけどね、別に。いいです、話しますよ。で、二人が喋ってて、そしたらみるみるしろーくんが不機嫌になっちゃってるのが、すごいかわいかったんです。それに気づいた風間さん、太刀川さんと喋りながら呆れたような顔するし、しろーくんのほっぺムニーって、すごい……かわいくてムービー撮ったんです」

きよら「これ……かわいくないです?」
奈良坂くん「それにおれが同意していいのか? 菊地原は男で、おれも男だぞ。可愛いはずがないだろう」
きよら「かわ、かわいいです! しろーくんはかわいいし、かっこいいんです。風間さんのこと凄い慕ってて、普段ツンツンしてるくせに、しろーくんかわいい。わたしも、ぷって膨れたしろーくんのほっぺツンツンしたい。しろーくんのサラサラの髪、指で梳いて遊びたい。風間さんのそばで、くつろいでるしろーくん、かわいい。ぎゅってしたい」
奈良坂くん「どう考えても、男の菊地原が可愛いのはありえない」
きよら「そんなことない。とーるさんは感受性が貧しくていらっしゃるから……しろーくんが肩の力抜いてるとこなんて、昔は誰だって見れるものじゃなかったのに、風間さんのこと本当に信頼してて可愛い。ずっと見てたい」
奈良坂くん「……何故、そんなに菊地原が好きなんだ? そう目立つ奴じゃないだろう」
きよら「しろーくんはあんまり目立つタイプじゃないけど、優秀ですよ。頭もいいし、運動神経だって悪くないし、かわいいし、体引き締まってるし……目が合うと、きゅんってする」
奈良坂くん「恋は盲目とはよく言ったものだな」
きよら「それ、私なんかを好きって勘違いしちゃう先輩が言うんです?」
奈良坂くん「そうだな。そうでなきゃ、好きな女がおれ以外の男を褒めちぎるのを聞くなんてこと出来るはずがない」
きよら「……私のこと、嫌いになったら楽ですよー?」
奈良坂くん「言われなくても知ってる」
きよら「せん、」
奈良坂くん「間違えるのは三度目だ」
きよら「とーるさん、しつこいっすね」

きよら「嫌な気持ちに、なりました? 私が無神経で、気分悪いですか? でも、」
奈良坂くん「おれが傷ついても、如何でもいいんだろう」
きよら「どーでもいい、けど……でも、」
奈良坂くん「でも、なんだ」
きよら「……最近のとーるさん、優しくしてくれるから、なんかとーるさんにひどいことすると、嫌な気持ちになるし……だから私、とーるさんが嫌な気持ちになると困ります」
奈良坂くん「今ので、大分気分が良くなった」
きよら「と、あの近い。この椅子広いんだから、こんな満員電車みたいにくっつかなくても」
奈良坂くん「……きよ、」
きよら「だから!! 私ファーストキスなんですってば! はじめては、好きな人とする! せ、とーるさんの気まぐれに付き合ってられないんですってば!」
奈良坂くん「また気分が悪くなってきた」
きよら「そーですか、じゃあおうち帰ってください。一人で安静にしててください。離してください」
奈良坂くん「嫌だ」
きよら「あの、ほんと……馬鹿だって、叱ってくださいよ。何を言ってるんだって、呆れてください。とーるさんが、そうやって優しいの、困る」
奈良坂くん「困ってるおまえが面白いから、おれはそう困らない」
きよら「あっそーゆ、遊びですか! そんならよか、」
奈良坂くん「……見かけより、しっかりしてるな。休日もダンベルを振り回してるというのは嘘じゃなさそうだ」
きよら「あの、色々つっこみたいことが」
奈良坂くん「そうか」
きよら「ひとつめは、あんまり人がこない区画だっても、ここは本部基地です。知り合いが来たら悲惨なことになります」
奈良坂くん「当真さんや太刀川さんには自分から張り付いてるくせに、今更悲惨も何もないだろう」
きよら「まあね、でも今私のこと抱き寄せてるのはとーるさんですけどね! 当真さんも太刀川さんも、こんなガッツリ抱きしめてこないです。さっさと離して。私は、とーるさんの玩具じゃないんですよ」
奈良坂くん「玩具だったら、もっと好きにしてる。きよら、目上と話す時は顔を上げろ」
きよら「いやです。もうなんか、とーるさんと一緒だと疲れる。しろーくんと一緒にいたときは、凄く穏やかで、何もこわくなかったのに、とーるさんと一緒だと何されても心臓バクバクするし、何考えてるかわかんなくて怖い」
奈良坂くん「そういうことを、言われると」
きよら「嫌いになる? 呆れる? 冷める? 飽きる?」
奈良坂くん「……粉々に、傷つけたくなる。ボロボロに泣かせたくなるから、少し噤んでたほうが良い」
きよら「やっぱとーるさん、私のこと嫌いですよね」
奈良坂くん「おまえは本物の馬鹿だ」

ぎこちなく駆け引き


prevmenunext

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -