乱文倉庫
(菊地原くんと通話の後)


きよら「……とーるさん?」
奈良坂くん『どうした』
きよら「んーん。寝るところでした? それとも勉強してましたか」
奈良坂くん『夏期講習のノートを纏め終えたところだ。もう少ししたら寝るつもりだった……おまえから掛けてくるのは珍しいな』
きよら「ポスター、捨てました」
奈良坂くん『ポスター? ……ああ、あれか』
きよら「正確にはゴミ袋突っ込んだだけで、まだ家にあるんですけど……もう飾れない状態です」
奈良坂くん『……別に、おまえが菊地原のことを慕ってるのはとっくから知ってる。捨てることないだろう』
きよら「いや当人から非難轟々でしてね。捨てろ、キモいって」
奈良坂くん『まあ言うだろうな』
きよら「……とーるさんと、セックスしたいな」
奈良坂くん『……唐突になんだ。深夜だぞ。それに、おまえはまだ十五だ』
きよら「ヤッてる子はもう普通にヤッてますって。それに、とーるさんは来月で十八歳じゃないですか。あと数か月で、私だって結婚出来る年齢になるんですよ。……しましょうよ」
奈良坂くん『まさか菊地原にポスターを捨てるよう強要されて、自暴自棄になってるとかじゃないだろうな』
きよら「ねえ、とーるさんのなかの私ってどんだけポスター大好きっこです? ……ちゃいますよ」
奈良坂くん『ポスター云々じゃなく、おまえが菊地原のことを特別に思ってるから言ってるんだ。異性愛じゃなさそうだから、おれは気にしない。おまえの部屋も、菊地原との関係も、おまえが好きなようにすると良い』
きよら「……さっきまで、しろーくんと電話してました」
奈良坂くん『そうか。ポスターの処分についてか?』
きよら「うん。破けないなら、今からそっち行って、破いてやるって」
奈良坂くん『おまえたちの家はそんなに近いのか。夏とはいえ、こんな時間なら外に出るのも億劫だろうに』
きよら「歩いて一分もかかんないですよ。向かいの家の、二軒隣。窓から身を乗り出したら、明かりついてるか見えます」
奈良坂くん『その距離なら行き来しやすいだろうな。まだいるのか? 流石にこの時間なら帰ったか』
きよら「とーるさんは知らないかもしれませんけどね」
奈良坂くん『急にどうした』
きよら「私……とーるさんの、彼女なんですよ?」
奈良坂くん『何を今更……知ってる』
きよら「ふーん、ほんとかな。うちね、夏になると一人暮らしみたいなもんになっちゃうんですよ。ママはバレエ団のサマーワークにかかりっきりで、パパは貿易会社に勤務してて、色んなとこ飛び回ってますしね」
奈良坂くん『……急にどうした。何か文句があるなら、はっきり言え』
きよら「……しろーくんに“今うちに誰もいないから、来て”って言ったら良かったかな」
奈良坂くん『……』
きよら「とーるさんの彼女なのに、こんな夜中にしろーくんと二人っきりってのは駄目だろうなって思いました」
奈良坂くん『……おまえが菊地原に会いたかったなら、好きにしろ。今夜はもう向こうも寝てるだろうが、次は自分がしたいようにしたら良い』
きよら「とーるさん、分かってない」
奈良坂くん『おまえの言い方が不明瞭なんだ。おれは菊地原に会うなとも、ポスターを捨てろとも言っていないし……おまえが菊地原と会いたいとか、ポスターを部屋に飾っていたいのなら、そうしていて欲しい。おまえと付き合っているのは、彼氏という肩書でおまえに無理をさせるためじゃない』
きよら「うん。わかってます。このまんまでも、とーるさんは気にしないなんてことは分かってました」
奈良坂くん『分かってるなら、なん』
きよら「でも、私だって……彼女なんだから、とーるさんのこと、もっと大事にしたいじゃないですか――とーるさん、私のこと、ちょっとでも好きですか?」
奈良坂くん『好きじゃなかったら、交際を持ち掛けない』
きよら「私が、しろーくんに“来て”って言わなくて、ちょっとでも良かったって思いますか?」
奈良坂くん『……そうだな。多少なりは、そう思う』
きよら「とーるさんが長居しやすい部屋にしたいから、ポスター外しましたって言ったら、ちょっとでも嬉しいですか?」
奈良坂くん『それは、少しは……』
きよら「とーるさんに“おれは気にしない”って言って欲しくないです」
奈良坂くん『……悪かった』
きよら「本当に私がしろーくんと二人っきりで会っても“気にならない”なら、それは私も……少しヤです」
奈良坂くん『菊地原と会おうとしなかったと知って、安心した。おれのために、ポスターを剥がしたんだと聞いて嬉しかった。……気にしないよう努めていただけで、本当は二人きりで会って欲しくないし、早く、忘れて欲しい』
きよら「もし……誰でも良いから甘えさせてくれる相手が欲しいって気持ちのままだったら、とーるさんと付き合ってないです。私はとーるさんの彼女なんだから、自分以外の男と二人っきりになるなって言って下さい。自分だけを好きでいろって、そう言って欲しいです」
奈良坂くん『それなら……おれとしては菊地原よりも太刀川さんとの接触を減らしてほしいんだが……』
きよら「それはそれ、これはこれ。太刀川さんとは本当に何もないですもん」
奈良坂くん『……まあ良い。見かけ次第引き剥がしに行くから、好きにしろ』
きよら「うーい」
奈良坂くん『気の抜けた返事をするな』
きよら「……とーるさん」
奈良坂くん『なんだ』
きよら「あの……しろーくんのことは、ずっと……特別だけど、でも、とーるさんのこと、もっと好きになりたい……って、思う、し……とーるさんにも、もっと私のこと……好きになってほしいです」
奈良坂くん『……』
きよら「そりゃ、そりゃね……しろーくんのこと好きだし、会いたいし、ポスター剥がす度胸がなくてしろーくんに電話したりもしたけど、でもしろーくんと会うより、しろーくんのポスターを部屋に飾っとくより、ちょっとでもとーるさんに私のこと好きになって欲しいって、思い……ま、した」
奈良坂くん『……そうか』
きよら「ポスター剥がしました。しろーくんも、端からしろーくんはポスター破りたかっただけなんだろうけど、でも……しろーくんにも、来なくて大丈夫だよって、そう言いました」
奈良坂くん『ああ』
きよら「セックス、しよ……?」
奈良坂くん『……キスも随分長いこと嫌だと言ってただろう。如何いう風の吹き回しだ。第一、夜中だぞ。もうバスもない』
きよら「今日じゃなくたって良いです。うちは夏中親がいませんし、とーるさんの都合の良い日なら、いつでも……とーるさんと、彼氏と彼女じゃないと出来ないこと、いっぱいしたいって思ったんです」
奈良坂くん『きよら、少しでも冷静でないと思うなら、早めに言え』
きよら「……れーせー、ではないかもしれないけど、」
奈良坂くん『そうだろうと思った』
きよら「でも……とーるさんに会いたいから、れーせーでなくて良いです」
奈良坂くん『おまえは……始末に悪い台詞を付け足すのが得意だな』
きよら「もう夜中だし、家に誰もいないけど……彼女だから、今すぐ来てって言っても良い……?」
奈良坂くん『……二十分待ってろ。家の前についたら、おれから電話を入れる』
きよら「コンドーム買ってきてね」
奈良坂くん『コンドームが必要になるようなことはしない』

奈良坂くんとポスター談義


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