乱文倉庫
(菊地原くんと和解後)


菊地原くん『え、本当に冗談とかじゃなくぼくのポスターあるんなら気持ち悪いんだけど』
きよら「本当にある、し、自分でもちょっとアレかなって……思わないでもない」
菊地原くん『ちょっとどころか大分アレでしょ。正直今縁切りって言葉が脳裏によぎったしほんとにちゃんと剥がして誰にも見られないように千切って捨ててよ。ていうかそんなもんいつどこで入手したわけ』
きよら「風間隊がA級上がった頃、なんかで刷った奴だったと思う。テレビ局の入り口あたりに積んであった……千切るのかあ……」
菊地原くん『あーなんかあったかも、そんなんゴミになるだけだと思ったんだけど本当に貰ってく馬鹿なんていたんだ。しかも顔見知りで絶交中だった奴のポスターを』
きよら「……しろーくん」
菊地原くん『何? まさかほんとに手で千切ってるとか? 馬鹿じゃないのシュレッダーぐらい家にあるでしょ』
きよら「あ、シュレッダー使っていいんだ。いや、それもだけど……まあまだ千切る度胸が出てこないんだけど……この、薄っぺらい紙のなかのしろーくんは、しろーくんじゃないんだなって……思って」
菊地原くん『言っておくけど、ぼく日本語じゃないと理解出来ないから……泣いてんの?』
きよら「んーん。しろーくんと、喋ってるなあって……しろーくんは、しろーくんって呼ぶと、応えてくれるんだなって……ちょっと思って……」
菊地原くん『それ、サイズなに』
きよら「バストサイズ?」
菊地原くん『ポスターだよ、ポスター。B4とかA3とかあるでしょ。用紙サイズ。シュレッダー通るサイズなわけ?』
きよら「あー……多分、A3……? 折って入れれば、普通に入る」
菊地原くん『どうせきよらのことだから詰まらせるよ。ビリッて半分か四分割ぐらいに小さくしといたら』
きよら「つ、シュレッダーの奴をもっと信頼してやれよ……!」
菊地原くん『信頼してないのはシュレッダーじゃなくておまえのことだから――早く、破きなよ』
きよら「心配しなくても、ちゃんと捨てるってば……! 気持ち悪いのは分かるけど、でも、だって……三年ぐらい、ずっと……これが私の“しろーくん”だったんだもん……」
菊地原くん『馬鹿じゃないの。キモい』
きよら「おっバッサリ! 知ってたけど、余計に心のナイフの切れ味が鋭くなったね……?」
菊地原くん『きよらこそ、鬱陶しいテンションになったくせに。……知ってたけど』
きよら「……そうだね」
菊地原くん『早く破いて』
きよら「わーった、わーった。破くって、思いっきりビリッって!」ビ
菊地原くん『……三センチも破れてないでしょ』
きよら「気のせいだよ」
菊地原くん『はあ……だから、きよら』
きよら「あーこれ完全に破れた。完全に一刀両断ですわ」
菊地原くん『電話、してるじゃん』
きよら「……してるね? もしかして、声大きすぎる?」
菊地原くん『もう声量とかそんな気にならないから。昔みたいに至近距離でわーわー泣かれると五月蠅いかもしんないけど……電話したいとき、したら良いじゃん。声掛けてくれたら、ふつーに喋るし。ぼくに用があったら、家近いんだし、ぶっちゃけ迷惑だけど――会いに来たら?』
きよら「しろーくん、迷惑なんだけどって一言入れる意味あった?」
菊地原くん『入れとかないと即来るでしょ。……四年半、そっちはぼくのストーキングしてたかもしんないけど、』
きよら「しろーくんは私のこと、昔のこと根に持ってキツく当たってくる、無神経で嫌な女ぐらいにしか思ってなかった」
菊地原くん『……大体そんなとこ』
きよら「……もう、日付変わるしね。時計も読めない子供じゃあるまいし、行かないよ」
菊地原くん『ポスター、破いた?』
きよら「だから折ってシュレッダー突っ込むって! 私もそろそろ……あの、お付き合いしてる人がいるし……芸能人ならまだしも――初恋のひとのポスター貼りっぱなしは、駄目でしょ。剥がすよ……ちゃんと捨てる」
菊地原くん『……如何でも良かったら、やな奴とも思わないから』
きよら「うん」
菊地原くん『ポスターなんかと喋るぐらいなら、ぼくに電話して煙たがられるほうがマシだとか思わないの』
きよら「……うん」
菊地原くん『ぼくは自分が何したかとか思い返してクヨクヨするタイプじゃないから、正直ボーダーで再会してからずっときよらのことは鬱陶しかった。どうせ正隊員にもなれないと思ってたのに、どんどんランク上ってって、風間さんや古寺とかぼくの見知った人とふつーに喋ってるし、なのに……ぼくはなんて呼んだら良いかもわかんないし、そっちも、ぼくのこと呼ばないし』
きよら「……酷いこといっぱい言ったよね。嘘もいっぱいあるけど……火力低いチビとか、そういう、ここ一年の煽りは大体心からの本音だった……ごめんね」
菊地原くん『いい性格に育ったよね、ほんと』
きよら「風間さんより火力低くて、太刀川さんより背も低いけど好きだよ」
菊地原くん『それ、比べる対象がひどすぎるから――ぼくはきよらのことそんな好きじゃないけどね』
きよら「しろーくんの好きな人って風間さんと歌川くんぐらいでしょ」
菊地原くん『さーね。風間さんは好きだけど、歌川は考えがとろっちくてあれだし……きよらのことは、正直言うと嫌い。四年前から。でも、こうやって電話で喋っても良い嫌いなやつって、きよらだけだから』
きよら「刺さんないけどゴリゴリ削ってく奴だねこれ。チーズ削る奴みたいにゴリゴリ削ってくタイプの鋭利さだね」
菊地原くん『きよらのことは嫌いだけど、ポスターと交友深めさすぐらいだったら、こうやって電話で相手してやるほうがまだマシだから、さっさとポスター破って。それでも破れないなら、今すぐそっち……やれば出来るんじゃん。最初っからそんなポスターさっさと破いて――そんなんと、喋ってないでさ……馬鹿じゃないの。三年も……』
きよら「……来なくても、大丈夫だよ。大丈夫。夜遅くに、ごめんね」
菊地原くん『謝られるの鬱陶しい』
きよら「うん」
菊地原くん『今日も一人なの』
きよら「うん。でも、藍ちゃんも、奈良坂先輩も、古寺くんも……電話かけられるひと、まだ起きてる時間だから。しろーくんと喋りたくって、しろーくんに電話した」
菊地原くん『あっそ。ぼくは寝るとこだったけどね……暇だったから』
きよら「そっかあ」
菊地原くん『そーだよ』
きよら「……」
菊地原くん『……』
きよら「しろーくん」
菊地原くん『うん』
きよら「また……電話して良い? めでたくポスターとは交友を深められなくなったわけだし、他に喋る人もいるけど……」
菊地原くん『好きにしたら。めんどかったら即切りするし、今日みたいに暇なら付き合ってあげるしさ』
きよら「……ありがと」
菊地原くん『きよら』
きよら「うん?」
菊地原くん『ぼくのこと呼ぼうとしなかったのって、なんか意味あんの。他人ごっこなら、フツーに菊地原って呼べばよかったじゃん』
きよら「……しろーくんも、私のこと鈴原って呼ばなかったよ。あれ、とか、あいつ、とかで……なんで?」
菊地原くん『……』
きよら「……」
菊地原くん『……そー呼んだら』
きよら「うん」
菊地原くん『本当に、他人になって……自分が、きよらのこと……きよらのこと、好きだったのも、忘れそうだと、思ったから』
きよら「へへ、いっしょだ」
菊地原くん『うわ。やだなー』
きよら「しろーくん、私のこと嫌いで、私は……でも……そこだけは、おんなしだったんだね……」
菊地原くん『……泣いてる』
きよら「……うん」
菊地原くん『一人で泣けるように、なったんだ』
きよら「そーだね。もう、あと数か月で……十六歳だし、最後に、しろーくんに縋って泣いたのは、五年よりもっと前になっちゃうね……」
菊地原くん『子守りから解放されてせーせーしたけど、次の五年までには部屋の片づけぐらい一人で出来るようになってててよ』
きよら「うん」
菊地原くん『もし五年後もこんなんだったら、本当に縁切るから』ブッツーツー
きよら「しろーくん、縁切ってもなんでもいいけど、電話切る時ぐらいは言えよ……?」

菊地原くんと通話


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