貴方が私の家探しをするほど、そして見つけた日記を読むほどに暇を持て余す万が一に賭けて、遺しておこうと思います。
 押し付けがましい風に綴ってしまいましたが、実際、私が貴方に聞きたいことを、もう聞けないことを、ここに記すことで満足したいのでしょう。恐らく、貴方がこの日記を手にとったということは、私はもう死んでいるはずです。

 あなたへと向ける気持ちが恋だったのか、依存だったのか、はたまた憧憬や妬みの類なのか、私には分かりません。ただ、私はあなたの傍にいます。そして死んでからも、貴方を、ただ……貴方のことを、両親が死んで、デュークも私の手を離れた今となっては、貴方が私の全てでした。貴方が私の全てです。でも、だからこそ、もしも両親が生きていたら、デュークが傍にいてくれたら、私という人間の重さが貴方の肩だけを傷めない未来があったなら、そう考えると、如何しても貴方に恋することは出来ませんでした。
 両親が死んだのは自分のせいだと、独りよがりに死んでしまえば楽になります。もう自分は壁の外へ行くことが出来ない弱い女だと思い込んでしまえば、貴方を愛していると口にすれば二度と傷つかないで済みます。狂ってしまえば、痛みもありません。
 それでも貴方のそばで、私は最期の最期まで人間でいたい。だから、あなたの名前を呼びません。
 私は貴方を呼びません。もう、貴方を呼ぶための喉も、舌も動きません。それで良いと、今の私は思います。願わくば、自我の保つ限りそう思っていたことを、また貴方が最期まで私がそう願っていたと信じてくれることを祈ります。

 これから、私は貴方と共に壁外へ赴く予定です。そろそろ出立の準備に取り掛からなければならないので、ペンは置きます。
 いつか、この日記を読むあなたが心身共に健康でありますように。そして私たちの再会が、一分一秒でも永く遠のきますように。
 それでは、この手紙を、きっと口では言えないだろう別れで締めくくります。
 さようなら。有難うございました。

 ドリス・レイヴンズクロフトから、リヴァイ、私の最も尊敬する兵士へ


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