パンはパンでも
たべられないパン
なーんだ


@end_no1Love

 こわい。

 怖いの一言である。
 連れのスマホ画面を注視したホークスは、画面いっぱいに広がる怪文にクラクラした。
 トイレと言って席を外したむぎが、ロック解除されたままのスマホを置いていったのは実に一分前のことである。「信頼されてる……」と思ってホッコリしつつ、つい、その、無防備に捨て置かれた個人情報を手に取ってしまった。無論、他人のスマホを見るのは悪いことだ。しかし、この状況で意中の相手のスマホを気にせずいられる人間が何人いるのか。鉄の理性を誇るエンデヴァーであれば勿論可能であろう。尤も、ホークスに理性があればあんな女を好きになったりはすまい。
 様々に思い悩みつつ、ホークスはむぎのツイッターホームを覗き見た。
 自分について何か書いてないか、今日のデートへの意気込みがないか……そんな甘い考えで、他人のスマホを盗み見てはいけない。そう、悪いのはホークスだ。意中の相手が45才既婚男性を熱心に推してようと、その同業者に対する妬み嫉みを漏らしていようと、責めることは出来ない。
 オールマイトが殆どロイヤリティフリーなのは確かにホークスも思っていたし、むぎちゃんもそう思ってるんだwと草まで生えたが、ここまで実叔父が好きだとは思いも……いや、まあ何となく分かっていたのが余計もの悲しい。こないだ弁当会社の株を買い占めてたのはそういう……?とか、むぎの考えが分かる自分のことまでイヤになる。株主総会でエンデヴァーコラボ弁当を希望したのにエンデヴァー事務所に使用料の見積依頼を出したら高額請求されて話が立ち消えになったとか、グッズを出そうとするとすぐオールマイトの使用許諾が緩い話をされるとボヤいて、不愉快そうだったのが走馬灯のように思い起こされる。どう考えても“こっち側の人間”なのに、エンデヴァーと無縁の一般市民みたいなツイを量産してるのも怖い。エンデヴァーは何が好きかな〜って、エンデヴァーの好物どころかお茶の入れ方からコーヒー豆のブランドまで趣味を熟知してる女のツイートとは思えない。まあ、流石のむぎちゃんも顔見知りに対して「は〜エンデヴァーエッチ!」とは言えないのだろうが……流石のちゃんも推しの説教までは喜べないらしい。

 そうやって、むぎちゃんのスマホ片手にうんうん考えていると、
「むぎのツイ垢さん見てるのう?」
 自分の脇からにゅっと生えてきた人影に、思わずスマホを取り落としそうになる。
「……は、早いね……?」
 涼しい顔で俺の前に座ったむぎちゃんは、案の定多量のハンバーガーが乗ったトレイを持っていた。音を立てずにトレイを置いたむぎちゃんが、何の衒いもなく俺に手を差し出す。
「おっきい方じゃないもん。ホークスさんも、むぎのアカウントフォローする?」
「誰がフォローしてるの? まさかエンデヴァーさんはフォローしてないよね」
 フォロー欄を確認したい気持ちに駆られたが、それは流石に甘えすぎだろう。
 俺も全く悪びれていない顔を作って、スマホを返す。むぎちゃんは自分の下に戻ってきたスマホを検めもせずトレイの横へ置くと、ハンバーガーの山を崩しにかかった。プレーンの一番安いハンバーガーにパクつきながら、空いてる右手を折ったり戻したり。俺は、その白くて長い指と、指先にちょこんとついてる形の良い爪をじっと眺める。むぎちゃんの仕草の一つ一つ、声の一音一音に至るまで、何時間一緒にいても飽きることがないのは不思議だと思う。これが恋かな、とも。
「んと……んとね、んと……」台詞と台詞の合間でハンバーガーを頬張って、モクモク咀嚼し、飲み込む。「バーニンちゃんとかあ……? エンデヴァー事務所のひとは結構繋がってるう」
 口寂しさから何気なく吸いかけたシェイクの中身が、容器のなかで弾け飛んだ。
 ゲホッゲホッと咽せていると、席を立ったむぎちゃんがオロオロしながら背を撫でる。「あらまあ……!」「だいじょぶう……?」と心配そうにしつつ、一言「可食部が狭いのねえ……?」とつけたしたせいで余計むせ込む。コイツ、撫でるスペースが狭いことを可食部扱いしやがった……!

「……事務所の皆、知ってるの?」
「知ってるよう」
 ようよう息が整ったので確認すると、むぎちゃんは何でも無い風に言い放った。
 先ほどみたむぎちゃんのツイートが頭の中でぐるぐる回る。「全く エンデヴァーはエッチなんだから😤」とか「 あたしもエンデヴァーの喉仏になりたいよ〜💘」とか、むぎちゃんのあれやそれやを……事務所の……エンデヴァーさんのサイドキックの皆が……? 表情筋が強ばる。
 むぎちゃんはハンバーガーの最後の一つを食べ終わると、まるで正餐でも頂いたかの如く持参のウェットティッシュで口元を拭った。無辜の実叔父をスケベ扱いする女には、とても見えない。

「皆、毎日むぎのツイート見るの楽しみなんだって
 福岡に帰ったら、サイドキックたちに優しくしよう。ホークスは思った。

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