パンはパンでも
たべられないパン
なーんだ

「ほあよーごあいまーしゅ」

「おはよ、むぎちゃん。このお皿、テーブルに持ってってくれる?」
「ぉょょ? 今日は洋食なの……あっデニッシュ食パンさん!」
「角のパン屋さんの新作でね。美味しそうだったから買っちゃった、どう?」
「パンなら何でもむぎが出すのにぃ……浮気なのねえ?」
「いや、むぎちゃんの出すのは……あれじゃん……ちょっと食べづらいよ……?」
「あーつぎり♪ バタ〜たーっぷりマーマレードジャム♪」
「むぎちゃん、カロリー爆弾の量産はやめて焦凍起こしてきてくれる?」
「は〜い」
「はよす……おきた。飯の準備ごめん」
「おっ噂をすれば影、おはよう焦凍。ご飯の支度は、また次の休みは手伝ってね」
「おはよ〜しょうちゃん、何ジャムにするう?」
「そのカロリー爆弾はむぎちゃん食べなさい、私はバターだけで」
「デニッシュ食パンさんが『たっぷりのジャムをつけてたべて』と言っています」
「うそでしょ」
「へえ、そのパンの年は?」
「生後二日」
「昨日買ってきたやつだからね」
「望まれて生まれたパンじゃあなかったから産まれてすぐ養子に出されたのねえ……?」
「デニッシュ食パン……」
「角のパン屋のおじさんが望んで作ったパンだよ」
「おばさんは中途半端に流行り物に手を出すばっかりで品揃えがコロコロ変わるから忙しくて大変、お客さんから『もうナニナニは作らないんですか?』って聞かれる身になってって」
「むぎちゃん、なんでそんなご近所さんの愚痴に詳しいの……?」
「井戸端会議のむぎと呼んで」
「パンにも色んな事情があるんだな」
「ないよ」
「こんにちはブルーベリージャム♪ さようならバタートーストだったわたし♪」
「あっまた、そうやって人の朝食をカロリー爆弾に……!」
「しょうちゃんは訓練で体力を使うから、いっぱいお食べなさいね? はい、どーぞ」
「甘え」
「むぎちゃん、それもうデニッシュ食パンにジャム塗ってるっていうかジャムにデニッシュ食パン乗っけたやつみたいなもんだから……ほんと、太らないからって体に悪いと思うよ?」
「あらまあ……! じゃあ、もう一切れ乗っけてサンドイッチにしましょっと♪」
「根本的解決になってない」
「……むぎ、こないだ俺と約束したよな」
「なあに、しょうちゃん?」
「もう二度と個性を使ってのダイエットはしない、自力で体重を落とすって」
「ぴ」
「痩せるために誰が食べるでもないパンをぽんぽん体から出してゴミ袋に詰めて捨てるのは食べ物を無駄にしてるみたいで心苦しいから、二度としない。運動をして体重を落とすって」
「それは、それは……それは、しょうちゃんが一人でランニングつまんないからって無理矢理」
「またゴミ袋いっぱいのパンを燃えるゴミの日に出すのか?」
「むぎは……むぎは、燃費が悪いんだもん! 食べないとヘトヘトになっちゃうんだもん!」
「焦凍、むぎちゃんの意見も正しいよ……? むぎちゃんの個性は“そういう”のなんだからさあ」
「八百万はちゃんとメリハリつけてるぞ」
「百ちゃんはあ、だって百ちゃんは……むぎほどご飯食べるの好きじゃないもん……!」
「別に食べたいなら食べてもいいけど、ヒーロー科から移って以来トレーニングサボってるだろ。むぎは変なやつホイホイなんだから、ある程度鍛えといたほうがいい。あとで一緒に走ろうな」
「んににに」
「むぎちゃん……ほら、むぎちゃん、いっぱいジャム乗っけたよ? 温かいうちに食べよ?」
「むぎ、むぎ……むぎは、パンは食べないもん……太っちゃうからあ……!」
「あとで走って落とせばいいだろ?」
「やだあ! しょうちゃん、むぎのことチクチクしながら併走するもん!! たべない!」
「チクチク」
「いつもお菓子食べてゴロゴロしてるから体が鈍った、個性で体重落としても痩せたんじゃなくて窶れただけ、叔父さんの仕事場で遊んでる暇あるなら体作りしろ、ダンベル上げ下げ百回するまで叔父さんの仕事場行くな、腹筋してる最中に脇くすぐってカウントゼロにするもん!!」
「焦凍ぉ……!」
「……むぎがあいつの事務所行く必要ないだろ」
「行きたいんだから、意地悪しないで行かせてあげなさい。ちゃんと働いてるんだから!」
「時給十円」
「十円だけど働いてるもん……むぎ、ちゃんとお仕事してるもん……!!」
「よしよし、いつもどおりポポンと体重落としてから父さんの事務所へ行こうね……?」
「姉さんはむぎに甘すぎる」
「焦凍がしょーもないことでいじめるからバランス取ってるだけでしょ!」
「やだやだ、しょうちゃんがいじめなくてもデロデロに甘やかしてえ」
「ほら、癖になってる」
「あのねえ、仮にも年上相手にそういう口の利き方! 暫くむぎちゃんと二人にならない!」
「冬美ちゃんの隣でジャムパンたべるう」
「焦凍、物欲しげにこっちみないでご飯食べちゃいなさい。またランニングとか行くんでしょ」

prev next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -