パンはパンでも
たべられないパン
なーんだ

『むぎちゃんから電話してくるの珍しいね? 折り返そうか?』
「んん、長くならないからだいじょび! それより、今ねむねむでいらっしゃった……?」
『流石に寝てたら出れないよ。ま、むぎちゃんから電話あるなら起きるけど』

『むぎちゃん?』

「今、ちびっとホークスさんにチヤホヤされたくなってしまって、それでお電話したのね」
『あーエンデヴァーさんに叱られた? よしよし、ちゃんと話して偉かったね〜』
「あの、今こうして甘やかしてくれてるホークスさんはむぎのお友達なのね?」
『俺はそう思ってるよ。週に何度も通話して、一緒に遊ぶこともある。友だちだよね?』
「あのね、むぎはね」
『うん』
「ホークスさんてば時々怖いけど」
『それ当人に言う……?』
「あのでも、いつも、からかうふりして優しいのね」
『お世辞代わりのフォローありがと』
「お世辞じゃないもん。お話してて楽しいし、色んなことを知っていて凄いなって、ホークスさんてば一人で色んなものを楽しんでて、その話を聞くのが好きで、むぎはとても感じ入ってしまう」
『なに、愛の告白?』
「むぎは危ない橋は渡らないもん
『俺は青田買いにぴったりな男だって方々から評判なのに……告白じゃないなら、どうしたの?』
「それはその、歯に衣着せぬと評判のむぎちゃんながらちょっぴり言いづらいのだけれど」
『あ、借金の保証人にはならないよ?』
「お金は友情を壊すのねえ……! あの、そう、それでね?」
『股は緩くても財布の紐だけは締めとけってのが先祖代々の言い伝えでね。それで?』
「あの、怒らない?」
『まさかむぎちゃん、マスコミに俺のスリーサイズ売った?』
「ホークスさんのセクシーデータ、おこづかい稼ぎに売ったらおこぴっぴされてしまう……?」
『むぎちゃんならギリギリ許してあげよっかなあ。ま、いいや。言ってごらん』

「……なんでむぎなんかとお友達でいてくれるのう?」

「あっあの、ちびっと、むぎ、叔父さんに叱られぴっぴなのね? それで、むぎったらつい」
『むぎちゃんは本当にひとが傷つくことを言わないよね』
「ああん、さっきの怖い発言をノーカンにしてくれてるう
『はは、水に流したわけじゃないからむぎちゃんが元気になったらキッチリ詰めるよ』
「ホークスさん、やっぱり怖いのねえ」
『こんなに良くしてるのに、怖がられるなんて心外だな〜って……だからさ、むぎちゃん。
 俺もむぎちゃんと一緒だよ。むぎちゃんは優しいし、俺の知らないことを沢山知ってる。むぎちゃんの話を聞くのは楽しくて、こうやって話してると色んな発見がある。それって可笑しい?』
「ううん、ううん……あのあの、ホークスさんのせいではないのね」
『そうだよね、むぎちゃんはエンデヴァーさんが好きだもんなあ。何言われたの?』
「それは、まあ沢山……でも、なんていうか、言うほどではなかったのね。分かってたんだけど」
『うん』
「叔父さん、あまり怒らないの」

「勿論、面倒なことをいっぱい背負わされてしまったからプンプンではあるの。
 突然おうちに居候が増えるのって大変だし、プンプンなのは仕方ないでしょう。でもむぎには怒ってなくて、ママとパパを怒っていて、むぎがヒーロー科をクビになっても、元々むぎにプロヒーローになってほしいとも特別思っていなかったのだから、怒らないのは当たり前なのね」

『……怒られたかった? 寂しい? もっと構って欲しい?』
「ううん。ううん……むぎ、何かしてほしかったわけでは……わからないけれど、それは、ママもパパも、叔父さんもむぎと別の人間なのだから、むぎの望み通りにならないのって当たり前で、」
『俺はエンデヴァーさんは兎も角、むぎちゃんの両親は責務を果たしてないと思うけど』
「あのあのでも、何というか、もう良いの。むぎは、むぎの気持ちを整理できないむぎに“ニャン!”ってなってしまうのね。今もこうやって、ホークスさんに甘えてしまっているわけだし」
『俺を利用するのが嫌?』
「んん」
『俺は構わないよ。むぎちゃんのこと嫌いじゃないし、誰でも良かったわけでもないでしょ』
「ホークスさんてば包容力がありすぎなのねえ。流石抱かれたいプロヒーロー第二位
『てか正直オールマイトさん二十年連続一位なんだから、そろそろ選外になるべきじゃない?』
「セクシーキングの座を貪欲に狙っていくう……!」
『ちなみにむぎちゃんなら誰に票入れる?』
「むぎ一押しはプッシーキャットの虎さん、おてての肉球がとってもキュート
『そこは義理でも俺に入れよ〜?! ま、それは冗談として……むぎちゃんの悪い癖だよね』
「虎さんは可愛さと漢気を兼ね揃えた素敵なヒーローだもん!」
『むぎちゃん、流石に男の趣味を咎めたわけじゃないから安心して?』
「もう、むぎったら虎さんの魅力は万国共通だって知っていたはずなのに……恥ずかしい
『マジで引くほど筋肉好きだよね。まあ良いけど……俺も割りと筋肉あるし、全然ふーんなんだけど……まあ……まあ、すっごいズレちゃったけど、むぎちゃんの悪い癖って飲み込み癖だよね』
「でも、今はホークスさんを捕まえてお喋りしてるよう」
『んー? でもさ、十五の子どもが自分の感情をコントロールできないのは当たり前じゃない?』
「ホークスさんは産まれながらに出来そう
『それはちょっと買いかぶり。まあ、確かに俺もそんな人に恵まれてないから、話す相手がいないみたいなのはあったけどね。むぎちゃんの場合は、俺っていう話し相手がいても言わないじゃん』
「……電話をかけておきながら謎に遠慮をしちゃうむぎちゃん
『かーわい。ほら、何がそんなに辛かったのかホークスお兄さんに話してみな』
「もう、口説かれちゃう…… でも、その……そうね、むぎは……その、むぎは自分が叔父さんの役に立ちたいなって、でもそれって叔父さんにとっては迷惑なのね。ホークスさんも分かると思うけど、猫ちゃんの手も借りたくなることなんてないでしょう。だから、なんていうか、むぎは分かっているはずだったの。叔父さんの役に立ちたいってのは、むぎの我が儘だって」
『うん』
「それなのに……むぎってば、いつの間にか見返りを求めていたみたい。
 叔父さんは立派なプロヒーローで、叔父さんを必要としてくれている人は沢山いて、むぎは単なる姪なのに、叔父さんの態度にがっかりしてしまったの。そして、寂しくなってしまったのね」
『で、誰かに優しくされたいなって思ったんだ』
「そうね。でもやっぱり一番は、その、ホークスさんに叱ってほしかったの」
『……お、え? 俺がむぎちゃんを叱ることなんてあった?』
「ごめんなさい、叱るのとは少し違うかも。ホークスさんは優しいけど、いつもダメなことはダメと言ってくれるので、むぎが我が儘を言ったらプイってそっぽを向くのではなく、むぎを叱ってくれると思ったの。ホークスさん、まだ叔父さんほどにはむぎに迷惑かけられてないし、きっと、」
『あーそっぽ向かれたわけね……はいはい、何となく事の子細がわかった。そりゃキツいわ』
「生真面目な叔父さんと愉快なむぎちゃんはちょっぴり相性が悪し
『むぎちゃんも十分真面目。そうやって戯けるのは、自分や他人が傷つくのが怖いからでしょ』

『……むぎちゃん、泣いてる?』
「もう……もう、ほ、ホークスさんてば、スルーしてくれなければ!」

「むぎったら、本当に本当に子どもみたい。最近ホークスさんのお声を聞くと安心するの」
『そんなことで安心するなら、いつでも掛けてきなよ。出れるときは出るから』
「んふふ……お仕事忙しいものね。むぎも、ちゃんと、ホークスさんみたいにしっかりしたいな。
 赤ちゃんみたいにベソベソ泣いても何にもならないのに、むぎはむぎなりに頑張ってきたのだから、これからもそうやって頑張っていけば良いのに、何だか少し不安になってしまったの」
『ゆーて俺もそんなしっかりしてないけどね。職業的に、そういうのは言っちゃダメなんだけど』
「ああん、自分に厳しい一面にファンになっちゃう
『むぎちゃんさァ、少しは俺を推そうよ……来月撮り下ろしカレンダー出るからよろしくね?』
「無限回収しちゃお ……むぎが言うことではないのだけれど」
『なに? 転売厨死すべきとか?』
「むぎは転売なんてしません 集めたグッズは家を失しても死守
『今度は家も守ろうね。グッズの話じゃないなら何?』
「んん、それは……あの、プロヒーローでも超人ではないってのは、むぎ分かってるつもりなのね。叔父さんも私生活では四十五歳のおじさんだし……愛用の枕から加齢臭が漂うお年頃
『それはあんまり知りたくなかったかもな……』
「夢が崩れる瞬間
『てかむぎちゃんなんで枕の匂いなんか知ってるの?』
「黙秘 という冗談はさておき……あのね?」
『うん』
「むぎは、正直今のプロヒーローを“平和の象徴”として扱う風潮は好ましくないです。
 勿論そうならざるをえなかったというのは分かるけど、でも……プロヒーローを消費することでしか平和を維持出来ないのだとしたら、むぎたち市民もヴィランと変わらないのではないかと思う。それは叔父とはいえ近親にプロヒーローがいるから、身内可愛さにそう思ってしまうのかもしれないけれど、やっぱり正しい行いをする者は報われなければならないでしょう?」
『うん』
「むぎはホークスさんや叔父さんのことをプロヒーローに相応しいひとだと思うし、尊敬もしているけど、でも、プロヒーローだから人間らしい葛藤や苦しみはないんだとは思いたくない。泣きついたむぎが言うのはおこがましいけど、ホークスさんもホークスさんの力が及ぶ限り努力した結果今のホークスさんになったはずで、だから、その……ううん、何て言ったらいいのう」
『ゆーっくり考えて良いよ。一応俺、今日は午前休だからさ』
「ありがとう……あの、あのね? きっと、ホークスさんのこと頑張っているなって思うの。
 不安になることがあっても、苦しいことがあっても、自らを奮い立たせて進むでしょう。
 むぎと同じ不安や苦しみを知るひとが頑張っているのを見ると、頑張ろうと思うの。むぎにできる限りのことで正しいことをしよう。正しいひとに優しくしようって、心からそう願えるから」

「……寂しくてもいいから、むぎは自分の我が儘で正しいひとを傷つけたくなかったの。
 ほんの少しだけ“何故むぎばっかり”って思ってしまったのを、ホークスさんに叱って欲しかったのね。でも、むぎが努力してることも分かってほしくて、年上のお友達に甘えてしまいました」

『むぎちゃんは十分真面目だし、沢山頑張ってるのもわかるよ』
「欲しがりに優しい
『頑張ってるの知ってるから、本当はむぎちゃんのすぐ目の前で優しくしてあげたい』
「……ありがとう、ホークスさん。むぎ、本当に元気が出ました」
『いや、ちゃんと対面で慰めたいから次会う時まで元気がないと良いんだけどね。ションボリしてるむぎちゃん好きだから、またそっち行くまでに“しょうちゃん”とガッツリ揉めといてよ』
「んもー! むぎのションボリを昼メロ感覚でカジュアルに消費するう……!」
『はは、まあそれは冗談として……また大変だと思うけど、いつでも電話掛けてきて』
「うん」
『むぎちゃんの話聞いてたらエンデヴァーさんを納得させるツボも何となく分かったし……今度は冗談とか言ってはぐらかさないから、本当にどうしようもなくなったら俺んとこ来なよ』
「ありがとう。むぎ、お友達のなかでホークスさんのことが一番好き」
『……お友達のなかで、ねえ。むぎちゃん、俺以外に友だちいないとかいうオチじゃないよね?』
「今ので三番目ぐらいになったのねえ」
『あーじゃあ二人はいるわけだ。サポート科で友だち出来たら教えてね、お祝いするから』
「すっかりぼっちキャラ扱いされてるう……!」

福岡―静岡



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