『むぎちゃん、まだ宿泊先潰れてない〜?』
「むぎはそんなトラブルメーカーじゃあないのにい……んあっこんばんは!」
『こんばんは。でもさ、俺のなかではいつも何か困ってオロオロしてるイメージなんだけど』
「んんん……そんなことは……もうもう、むぎは……」
『むぎちゃんは?』
「……ホークスさんは今からお休み?」
『あれ、急に話しかえたね?』
「たまにはむぎの話術でホークスさんを持て成しちゃおっと
」
『ふーん……今書き物してるから、むぎちゃんと話してる間に終わったら寝れるかなって感じ』
「いつも多忙なのねえ……? むぎのお喋りに付き合わせてしまって大丈夫かしら」
『良いよ、むぎちゃんの話聞いてるほうが目が覚めるから……ってこれ前も話さなかった?』
「ホークスさんいつも忙しそうにしてるから心配になっちゃうのね。だから、むぎは……」
『それよりさァ、むぎちゃん何か面白い話してよ。小さい頃の話とか聞きたいな』
「ええ……! むぎの小さき頃はただ可愛いだけで、愉快なことなんてないのにい……?」
『聞きたいなあ、むぎちゃんの愉快な話。エンデヴァー事務所手伝うことになった経緯とか』
「ホークスさんてばむぎのことばっかり、聞きたがりのピヨちゃんなのねえ」
『へえ、何? 俺のこと知りたいの?』
「えっでも、ホークスさんてば名前すら教えてくれない意地悪なヒヨコさんで、むぎは……?」
『良いよ、むぎちゃんになら何でも教えてあげる』
「ええ! じゃあじゃあ、じゃあね、うんと、じゃあ、まず、お誕生日とか……?」
『あ、もしかして祝ってくれるの? うれしーなあ、十二月末だよ』
「あらまあ、正確な日付はぼかしちゃうのねえ?」
『たまたまだよ、二十八日。またその時期都内行くから、むぎちゃんも予定空けといてね』
「良いけど……何が欲しいのう?」
『むぎちゃんが欲しいなァ』
「むぎちょっと考えたけどね」
『……サラッと流すのね』
「だってホークスさん、大抵のものは自分で買ってしまうひとでしょう。ホークスさん、持ってるものに凄く拘りがあるほうだし、ファンの子たちに手作りのお菓子とか貰っても、目の前で一口食べるだけだし、むつかしい……んん? さっきのは、むぎに何か頼み事があるってこと?」
『んーん。でも、むぎちゃんてば、俺のことよく知ってるねえ。その調子で色々考えたら?』
「簡単にゆうんだから!」
『良いじゃん。普段むぎちゃんに色々考えさせられてんの俺だよ?』
「……そりゃあむぎだって、むぎも……ホークスさんがもっと分かりやすかったら楽なのにい」
『なら、簡単にむぎちゃんの手作りのお菓子とかでも良いけど?』
「でもホークスさん、素人が作ったもの食べるの苦手でしょ」
『はは、むぎちゃんほぼプロみたいなもんでしょ』
「それはそれは、それはそうかもだけど、でもそれはなんだか、なんかずるいような」
『何がずるいの?』
「……ホークスさんのこと好きな子たちがいっしょけんめお菓子を作って、ホークスさんもそれを分かってるから、そのあたり潔癖なの我慢して口にするのに、むぎはがんばれ!って気持ちじゃなくて、それが楽だからって気持ちで作ったお菓子を食べて貰うのは、なんかダメな気がするのね」
『……むぎちゃん、そういうとこたまに真面目だよね〜』
「むぎはいつも真面目でかわいい優等生だもん。だからね、むぎ考えました!」
『そっかあ、何考えたのかなァ? 真面目で可愛いむぎちゃんの考えたこと、聞きたいな〜!』
「ホークスさんは鶏肉が好きでしょう? だからね、良い鶏肉をそのままプレゼントされたら……あっでも、自炊する時間がないかも……でもでも、良い鶏肉は焼くだけで美味しいものね」
『それならむぎちゃんが俺んち来て、その鶏肉で何か作るとこまでセットにしてよ』
「ホークスさんてば、むぎの熟考をそうやって笑いものにするう……!」
『まあでも、お祝いしてくれるだけで嬉しいよ。プレゼントとか気にしないで』
「ああん、急にハードルがネコチャンになっちゃう」
『むぎちゃん、これは冗談抜きで……』
『二十八日の零時になったら一番に電話くれる?』
「でもきっとホークスさんの番号、お正月並に回線が混み合うのでは……?」
『……むぎちゃん、なんか俺のことすごく誤解してない?』
「だってホークスさんいつもむぎをオモチャにするから、むぎ勘ぐってしまうのね」
『まあ良いけど……なんか、むぎちゃんの声さァ』
「まあ、ついにむぎのめちゃかわボイスがめちゃかわなことにお気づきになって?」
『そう、そのめちゃかわボイス、聞いてるとめちゃくちゃ笑えてきて好きなんだよねえ』
「んまあ……むぎのめちゃかわボイスを聞いたら、ちゃんと“かわいい”って思って!」
『かわいいかわいい。むぎちゃんのめちゃかわボイスは流石にめちゃかわだな〜』
「もうもう、むぎ、ホークスさんとお喋りしてると怒ってばっかり」
『ふーん……むぎちゃん、俺のこと怒ってるの?』
「……怒ってないもん。でもプンプンして……そういうむぎは可愛くなくてイヤなのね」
『そう? 俺は怒ってるむぎちゃんも可愛くて好きだけど』
「んやー」
『どうしたの?』
「かどわかされちゃう」
『えっ何その言い草、もっと可愛く言ってよ。むぎちゃん得意でしょ。俺が悪いみたいじゃん』
「むぎがホークスさんに可愛いことを言えないのに、可愛いって言うのは“かどわかし”です」
『あ、なに? むぎちゃん照れてるの? かーわい、テレビ通話にしようよ』
「んん、でもホークスさん、ちゃんとパソコンの液晶みてお仕事しなきゃでしょ?」
『そうなんだよねー。ヒーローなんて言っても地味な仕事ばっかり』
「……いつもいつもお疲れ様なのね。ホークスさんみたいに物事を多角的に見て対応できるヒーローがいると、福岡のひとも安心して暮らせてハピ
だし、むぎ尊敬してしまう」
『エンデヴァーさんの次に?』
「ホークスさんは、叔父さんとはまたジャンルが違うもん。ホークスさんは……」
『俺は?』
「ホークスさん、とても頑張るので……むぎもちょっと“何かしたいな”になるのね。
叔父さんは凄く強いプロヒーローだけど、やっぱりちょっと不器用で、そういうのは苦手な人だったから、むぎはただ、やっぱり身びいきもあると思うし、叔父さんが好きだからお手伝いしよってなっているのね。でもホークスさんは、なんだか凄く器用に何でもこなして、一人でやってしまうので、お手伝いなんかいらないんだけど、だから……他人を動かす力があると思う」
『“他人を動かす”ねえ、初めて言われることだな。ほら、俺って敵が多いことで有名だから』
「んぬ。それは確かにむぎは的外れかもだけど、でも、でもむぎは、なんていうか」
「むぎは……ホークスさんが見てるものを、むぎ自身の力で見てみたいなって、思うもん」
『むぎちゃんは可愛いなあ』
「珍しく真面目にお喋りしたのにい!」
『いや、本当に。冗談とかじゃなくて、本当に可愛いなあって思ったんだって。俺みたいな人間にここまで甘いこと言ってくれるのってむぎちゃんだけだから、つい聞き入っちゃうんだよね』
「むぎが思うに、ホークスさんがそうやって冷やかすから皆口を閉ざしてしまうのでは?」
『冷やかされても冷やかされても優しいむぎちゃん、もしかして俺のこと好きなんじゃない?』
「嫌いだったらこんなにお喋りしないもん。分かっているくせに」
『むぎちゃんの口から聞きたいんだよ。ほら、なんだっけ……あの、めちゃイケボイス?』
「ホークスさんのいじわるう……!」
『むぎちゃんの不貞腐れた声が可愛いから、ついね』
「むぎもいつかホークスさんを弄んで、ホークスさんみたいなこと言うもん」
『俺みたいなことって?』
「……ほら、ホークスさんの声すごくカッコよくて好き、みたいに言って、ビックリさせるのね」
『他には?』
「うに、かっこ、その……低い声で、気の抜けた相槌返すの、可愛くて好きい……?」
『良いねえ、むぎちゃんに意地悪されるの新鮮で凄い楽しい』
「楽しんだら駄目だもん。もうもう、むぎを、むぎを新しい方法でイジメるつもりなのね」
『今俺に気を持たせるようなこと言って虐めたのはむぎちゃんのほうだよ』
「じゃあ、じゃあもう、これで喧嘩両成敗……! またむぎとナカピッピしましょ?」
『そうだね、末永〜く仲良くしよっか』
「むぎとホークスさんはなかよし
良かったあ
」
福岡―静岡
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