パンはパンでも
たべられないパン
なーんだ

589:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
【速報】TVマッスルに女史出演中


592:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
女史フルスロットルwww


593:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
グテーの話まだ?


594:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
おいやめろ、エンちゃんは一人っ子(事務所の公式見解)(なお姪はいる)だぞ!!!


595:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
女史「エンデヴァーのアッネやで」
エンデヴァーたそ「姉はいない」
マスコミ「ではこないだご一緒されてた姪御さんは!」
エンデヴァー「川で拾った」


597:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
>エンデヴァー「川で拾った」
かわいい


598:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
エンデヴァーはやはりおとぎ話の住人だった…?


601:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
いっぱいちゅき


602:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
川で拾ったなら自分の養子にしてやれよwwwww


603:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
まあ実際ヴィラン寄りのヤベー思想を喧伝しまくる女を姉と認めることは出来ないだろ


605:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
でもエンちゃんも顔はヴィランだし……(小並感)


606:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
エンデヴァーおじさんの家族構成はガバガバ


607:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
本スレからこっち流れてきた奴はちゃんと日本語で書き込めよ


608:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
本スレ女史の話題厳禁なの?


610:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
信者的にはエンデヴァーの主張だけが真実だからね


611:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
つか、いい加減本スレこっちでよくね
あっちオルマイスレに凸ってキチガイ信者釣るだけのキチガイスレじゃん


614:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
しかも釣ってスレに誘導したところで普通に論破されるという…w
一対多数で挑んだのに言い負かされてんの笑っちゃうでしょ


616:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
オルマイガチ勢は年期が違うからしゃーない


620:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
女史がぐでたまの話してるよー


623:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
なんか面白い新作エピソードある?


624:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
ない
強いていうなら女史がデグーにほぼ托卵してたのが確定した


625:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
娘の年齢知らないのはヤバいだろwwwww


626:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
エンちゃんはおねいちゃんの尻拭いができてえらいねぇ…


627:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
結局女史は何が言いたいわけ?
オルマイ批判?


629:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
女史、なんも考えてなくねw?


630:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
まあ「うちの子は去年小学校卒業したから14か18ぐらい」は何か考えてる人の発言じゃないわなw


632:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
一体本当は何才なんだよ


633:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
小学校を卒業したこととティーンエイジャーであることしか覚えていないwwwwww


634:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
性別も!性別も覚えてるもん!!


625:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
女史がメディアに娘の名前出さないのって娘に対する配慮とかじゃなくてシンプルに覚えていないだけなんじゃ


626:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
姪ちゃん今年高一でしょ
エンデヴァー叔父さんのせいでフライデーされた時に中二だった 発育いいな〜って感心したからよく覚えてる


628:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
>>626
お前女史より姪ちゃんの親権に近いぞ


630:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
逆に女史より遠い奴いなくない?


631:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
姪ちゃんの話になるとスレ伸びるよな
エンデヴァーの実子については何かないの?


635:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
ない
実子がネタにされる前に姪ちゃんの騒ぎがあったから規制がキツくなった
多分エンデヴァー的には姪のプライバシーとか死ぬほどどうでもよかったと思うんだけど、不倫・援交疑惑が許せなかったんだな
あん時はエンデヴァーの報復行為が凄まじかったわ


637:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
虎の子の末息子タンが雄英への推薦決まったって話なかった?


638:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
建前上「メイノプライバシーガー!」つってたけど、そのくせ自分は姪の情報ガンガン出してたし やっぱ自尊心が傷ついたんだよなあw
まあ、実際ゲスな記事だったからエンデヴァーがキレたのもしゃーねーわ


640:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
あんなクソ記事を真に受けるバカが少なくて良かった


642:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
信者は本スレへ帰ってどうぞ


645:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
あれ顛末どうなったの?


646:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
責任者解雇・編集総入れ替え・雑誌回収・慰謝料請求で結局雑誌そのもの廃刊なった


650:名もなきプロ市民:2XXX/10/18(水)
あれから目に見えてヒーローのゴシップ記事減ったよな
推しがデマ記事にメンタルやられて引退した経験あるから、エンちゃんのガチギレめちゃくちゃ溜飲下がったw

653:名もなきプロ市民:2XXX/10/16(月)
てか女史はなんで野放しにされてるわけ?
明らかヴィラン予備軍じゃん


658:名もなきプロ市民:2XXX/10/16(月)
女史は口がうまいしなあ


666:名もなきプロ市民:2XXX/10/16(月)
元プロヒーロー、しかも弟はNo.2ヒーローだもん
どんだけ危険思想に被れていてもヴィランになるはずがなくね?
一応娘もいるんだし


670:名もなきプロ市民:2XXX/10/16(月)
つーか全てを口に出さないと生きてけないタイプのバカ女なだけ
中二病引きずってるババア


671:名もなきプロ市民:2XXX/10/16(月)
今新聞からテレビまで公安に検閲されてて、言論弾圧!みたいに思う層がいるって話聞いた
元ヒーロー、現No2の肉親って肩書は何かと使いやすいんじゃない?


674:名もなきプロ市民:2XXX/10/16(月)
単に枕だろ




 轟火也子は静岡出身の著名な芸能人だ。
 その活動分野は文筆業のみならず、コメンテーターから女優業までと幅広い。もっぱら“犯罪心理学の第一人者”として紹介されるものの、デジタルハリウッド大学ヴィラン心理学部通信コース卒の彼女を肩書き通りの人物として受け止める者は少ない。心あるひと(この場合は暇人を意味する)がウェブ上で彼女について触れる時は大抵“コラムニストかぶれ”との但し書きがついたし、ツイッター等の気軽なSNS上では“棒読み女優”とか“シャシャリババア”と称されることもあった。
 仇名の多さでは最早“ダッシュババア”に並ぶ勢いだが、不運にも彼女の出版した本を“枕草子”と呼ぶムーブは定着しなかった。文才もないのにポンポン本を出すので、これは枕営業の成果に違いないという推理を元に生まれた揶揄である。匿名性の高いSNS上では負の感情を娯楽として消費する傾向も強く、火也子は何かと話題性の豊富な女であった。要するにアンチがクソ多かった。
 アンチの意見は筋が通っている。学も才もないくせに、裸の王様よろしく持ち上げられていて気に食わない。どうせ枕営業で仕事を取っているんだろう。それにしたって年増女の体に価値があるとも思えないけれど。彼女を語る上で肩書きは大した意味を持たなかった。殆どのひとは彼女のことを作家とも女優とも思っておらず、何らかの──所謂枕営業で成り上がった女だと考えている。明確な肯定こそないものの、それは芸能界に幾らかの関心を持つ者にとって周知のことであった。
 果たして火也子の芸能活動は彼女の体に支えられていたし、インターネット上でそう拡散されなかったにも拘わらず火也子当人は“枕草子”という揶揄を甚く気に入っていた。
 火也子の成功の裏には常に彼女の“不当な努力”があったし、結果として“真っ当な努力を続けてきた人間”からありとあらゆるチャンスを奪い取ったかもしれない。しかし火也子はそれを“悪いこと”だとは認識していなかった。所詮は需要と供給が一致したに過ぎない。火也子の意思が及ぶのは本の出版や番組の収録までで、それを供給された人間が如何思うかとか、利益回収が上手く行ったかという疑問は彼女の知ったことではない。火也子のメンタルはやたらと強靭だった。
 火也子は兎に角ありとあらゆるコネクションで仕事を得て、金を稼ぎ、超常社会への警鐘を鳴らすことを生き甲斐としていた。あまりに鳴らし過ぎたので、今やボケ老人さえ驚いてくれない。火也子という女はざっと、そんな人物であった。善なる者ではないが悪と断ずるには愚かすぎる。
 好色のお騒がせ女──轟火也子について語る時、最も端的な説明はこれであろう。

 今を遡ること三十年前、プロヒーローを引退したばかりの彼女は若く美しかった。
 豊かな紅髪をなびかせ、均整の取れた肢体を惜しげもなく晒して闊歩する彼女は否が応にも人目を惹いた。何より火也子自身が“自分の価値”とやらを他人に見せつけ、誇示することに躍起になった。彼女は自分の価値を他者の尺度で切り売りされ、無意味に消費されることを厭わなかった。誰もが火也子と関係を持ちたがったし、そして彼女は男たちの誘いを一つとして断らなかった。
 下手な鉄砲も数を打てば当たるものだ。火也子がせっせと自分を切り売りした結果として、彼女を抱いた男の一握りは順当に年を重ねて出世した。一握りとはいえ、平均女性の百倍近い異性・同性と関係を持った彼女の手には大した“財産”が残る。ありとあらゆる炎上を経験した彼女がひっきりなしにメディアに露出し続けるのにはそうした背景があった。また一夜を共にする相手に貴賤をつけない性質……要するに色狂いだったのもあって、火也子は広告代理店の上役、スポンサー企業の取締役から、アシスタントディレクターや現場のバイトまで幅広く相手にした。
 かつて若く、仕事に情熱を傾けていた男たちは、筆下しは勿論、女の口説き方まで火也子の世話になったのである。尚且つ当の火也子にしろ些か容色が衰えたとはいえ、未だ若々しい。
 押しの強い火也子に指図されると、彼女に“抱かれた”人間はあっさり折れてしまう。

 尤も、火也子は今年で四十九歳の立派な“中年女性”である。
 性的消費という観点から鑑みて、女の価値が年と共にすり減っていくのは事実だ。火也子の信奉者も最早立派な家庭を築いているとか、年を取って丸くなったとか──もっとダイレクトに“性欲がすり減った”など諸々の事情から、彼女を相手にする者はうんと減った。業界人に限って言えば「あの人は枕で仕事してるから」ではなく「あの人はさんざ枕で仕事したから」なのである。
 それでも火也子の好色は留まるところを知らなかった。彼女と一夜を共にしたことのない、若く快活な男たちは肩を竦めて苦笑する。あの人はさんざ枕で仕事したからな。良い人生じゃないの? 若い頃は金で体を買われて、年取った今は金で男飼ってんだろ。それにしたって、あんなチンピラ崩ればっか相手にしなくて良いはずなのにな。こないだアシの〇○ちゃんが言ってたけど、自分で「傷害と恐喝の前科持ちだ」って自慢してたらしいよ。旦那さんも、知らぬが仏だな。
 荒れた唇から溢れた煙は重たげに棚引いて、霧散することもなく人肌に取りすがる。口さがない男たちの思考回路は、連日の徹夜とニコチンの多量摂取でぼんやりしているのが常だった。
 パリに行くとか言ってたけど、どうせ気に入りの男とセックス御殿にこもる気なんだろ。あの、ほら、え? お前知らないのか。山梨のさ、あー詳しい場所は知らんけど、兎に角別宅があんだよ。男連れ込むためのさあ。娘さんも旦那さんも知らないって言う。あ? 子ども? いるよ。

 轟火也子は好色な中年女だ。
 疾うにその容色を失った彼女が誰とどんな関係を持とうと、一から十まではっきり覚えている物好きはいない。柄の悪いチンピラやゴロツキを相手取るのも火也子の凋落を示すばかりで、果たして“飽きられたあとの彼らの行方”について知りたがる者はいなかった。皆、関わりたくないのだ。
 かつて若く美しかった轟火也子も老いた今となっては一人の“女”として扱われる機会を失い、若い男を買うことでその自尊心を満たしている……それだけのことだった。
 色惚け女の惨めな真実について語るのは、そう楽しいことではない。それ故に男たちの話題は結婚観から下半期のビルボードチャートに移り、その関心は火也子からは遠ざかっていく。
 彼らにとっては寧ろ火也子当人より、彼女の娘――時折エンデヴァーの遣いでやってくることがあった――のほうが余程興味関心をそそられる存在なのだ。何の因果か母親にも叔父にも似ても似つかぬ愛想の良さを振りまく美少女は男連中に人気があった。むぎちゃん可愛いよなあ。日本に置き去りだろうし、今頃一人暮らしかな。可愛い彼女が一人暮らし、彼氏は最高だよなあ。
 そうケラケラ笑いながら、すっかり短くなったタバコを吸い殻入れに棄てて去っていく。その頃にはもう、年増女の若い恋人の顔などおぼろげにしか思い出せなくなっているのだ。


 業界人には“セックス御殿”の名で親しまれる別宅は、静岡県境にほど近い場所にある。
 屋敷は大正時代にサナトリウムとして利用されていた建物を、その外観と間取りはそのままにリフォームした建物だ。地元では心霊スポットとして有名な洋館だが、火也子の知る限り幽霊が出たことはない。はす池として知られる明見湖のほとりに、その屋敷はひっそりと佇んでいた。
 この国の象徴・富士山にほど近いのもあって、明見湖一帯はウォーキングスポットとして名高い。しかし幾ら観光客がいたところで過疎化は止まらず、一番近い集落は数年前に廃村となった。山際故に冬場の積雪量も多く、秋〜冬にかけては殆ど陸の孤島と化す。そんな過疎地で暮らすのは不便ではないか──生来食事に対する欲が浅い火也子にとっては最寄りの食料品店まで車で一時間かかろうと大した難点ではなかった。不便と言えば肝試し感覚で訪ねてくるバカが引きも切らない程度のもので、それだって夏場に限った話である。火也子はこのセックス御殿を気に入っていた。

 セックス御殿は好きな時に好きなだけ好きな人間とセックスが出来て楽しい。
 好きなだけセックスが出来るということは、夫とか娘とか、そういう煩わしい生き物が存在しない事実を指し示す。まあ夫はまだ己の分を弁えている分、大人しいものだ。問題は一人娘で、甘やかし放題甘やかされて育ったバカは逐一「パパが先に映画デートのお約束をしていたのに、それをキャンセルして浮気なんてダメだよう!」と口やかましい。また、大人しいとはいえ、夫は芯から火也子に隷属しているわけではなかった。それ故、玄関ホールで棒立ちになっている不倫相手に向かって「帰ってください!」とキャンキャン吠える娘を諫めようとはしない。大抵の場合、火也子の浮気相手は男だ。必然的に、容姿の良い娘に詰め寄られて尚“不道徳”を貫ける者は少ない。

 そもそも既婚者の家にホイホイ出向いてる時点で、浮気相手がドバカであることは明白である。
 火也子は何らかの意図があって、浮気相手を家に連れ込んでいるわけではない。ただ忘れ物をしたとか、何も考えてないドバカが家まで迎えに来たとか、そういう些細な理由で浮気相手と娘がエンカウントする。そうすると、そのドバカはドバカなので娘の顔を見てポーッとなってしまう。
 普通に考えて、幾ら若作りしてようと四十九歳の年増より、十五歳の現役女子高生が良いのは自明の理。流石の火也子も、浮気相手の関心を娘に盗られて嫉妬するほど愚かではなかったし、浮気相手は何れも皆“盗られて悔しい”と思うほどの男ではない。娘と浮気相手が出くわすと、火也子はもう煙草に火をつけて、事の成り行きを見守ることに決めていた。夫が同席していた場合は、娘と浮気相手の間に割って入らないよう目で黙らせるのも忘れてはならない。大体の揉め事はヒョロヒョロっとした夫ではなく、我侭な娘に任せたほうが丸く収まるのだ。ある意味では、娘は便利だった。火也子の弟は、道徳観念に厳しい清廉潔白な人間である。そんな叔父の背を見て育った娘は不道徳に対して不寛容だったし、途方もない全能感から他者を屈服させることに鈍感だった。
 若いと言うのは、それだけで才能だ。それに加えて、容姿端麗であることは何物にも代えがたい。若く美しい娘が無意識のうちに“他人はみんな、むぎに良くしてくれる”と思い込むのは当然の帰結であった。しかし実際のところ──娘当人が気付いていないだけで──それは単に“むぎに良くしてくれない人が近くにいないだけ”なのである。何故と言えば、夫が娘を愛していたからだ。

 凡百の産まれに過ぎない娘を、火也子の夫は“我が家のお姫様”と称して可愛がる。
 夫は娘の尊厳が他人に潰されることを良しとは思わず、防犯機器やセキュリティサービスを目いっぱい用いて娘に近づく悪意を払う。それが世間一般の父親にとって“有り触れた手間”だと気づいたのは最近のことだ。どうやら“悪意を払おう”という意思さえあれば、ひとりの人間の尊厳を守るのは極めて容易な仕事らしかった。殆どの悪意から守られて育った娘は全能の存在だった。
 例えば、娘は喋る時に「目の前に立つ男に殴られるかも」とは思わない。この男の機嫌を損ねれば、酷い目に合うかもしれない。最悪殺されるより酷い目に合うかもしれないのに、娘は自分を“女”として見下す男たちに一切怯まず向き合う。それがどれ程危ういことなのか、娘には分からない。火也子がチンピラ共を“処理”していなければ、娘は早晩傷物にされていただろう。

 ……火也子には、娘のような“完璧な全能感”を抱くことは出来なかった。
 特別何かの主義主張があるわけではないが、男女を比べた時に男のほうがフィジカルに優れているのは一つの真理だと確信していた。“個性”の如何でまた違ってくるとはいえ、男と素手で殴り合って勝てる女は少ない。それ故に、武を重んじる父親は火也子に期待しなかった。文武両道を修め、他人から「流石は轟先生のお嬢さんだ」と誉めそやされようと、父親にとっての火也子は“失敗作”だった。女に産まれたという、ただそれだけのことで父親は火也子を愛さなかった。
 火也子の世界は、悪意が当たり前のものだった。力と結果だけが全てで、少しでも弱みを見せるとすぐに心ない人間に付け込まれた。火也子の容姿が優れていたのも一つの原因なのだろう。
 目の前に立つ男に殴られることも、理不尽に組み敷かれることも、火也子の人生には色んな事があった。みんな、女というのは多かれ少なかれそういうものだと思っていた。
 火也子の若い頃、プロヒーローの性的消費に対する法整備は今ほど整っていなかった。その一方で女性ヒーローのコスチュームや活動内容を「性的である」と断じて改めさせようとする人々も少なくなかった。とはいえ、“コスチュームの露出における規定法案”には笑ってしまった。

 “個性”には、皮膚の露出が欠かせないものも少なくない。
 夫や娘のように体脂肪を物質に変換して出力する“個性”は勿論、議論の的となったミッドナイトその人にしろ最高出力を求めれば自ずと露出せざるを得ない。そもそもヒーローコスチューム自体、万人の“個性”に対応するだけの土台を整えるのに時間が掛かった。
 “個性”を使えばコスチュームが破損し、露出するのが当たり前。そんな時代が長く続いて、男性ヒーローの間では上半身裸のコスチュームが流行ったこともあった。喩え女性ヒーローがヴィランと対峙している最中であっても、そのコスチュームが破損すると男たちは執拗にシャッターを切る。わざと女性ヒーローを露出させようとするヴィランも少なくはなかった。自らの“個性”を制限してまで露出の少ないヒーローコスチュームに甘んじても、結局性的搾取は免れない。それなのにいざ女が端から露出の多いコスチュームを着ると“コスチュームの露出における規定法案”なのだ。
 火也子はありとあらゆるトーク番組に出て、件の法案提出を許したヒーロー公安委員会を批判した。火也子はヒーローという職に何の感情も抱いていなかったが、後輩たちはみんな可愛い。

 全てをひっくるめて考えた時、火也子は男よりも女が好きだった──たった一人、娘を除いて。


 火也子は赤いポルシェの運転席から降りると、くたびれた様子で右の太腿を撫でさすった。
 千葉の成田空港から山梨県端まで休みなく運転し続けたため、幾らか足がだるかった。
 憂鬱そうな顔で搭乗時間を待つ夫に「気が変わったわ。あなた一人でパリへ行って、その内合流するから」と言い放ってから五時間も経っていない。十六年住んだ家を売り払うついでに娘を捨てたのはおよそ十二時間前。火也子が“セックス御殿”に足を踏み入れたのは、午後七時過ぎだった。
 十月半ばになると、未だ雪こそちらつかないものの山際は酷く冷え込む。
 火也子は指先に火を灯し、シンと静まり返った玄関ホールを見渡した。埃こそ積もっていないものの、人の出入りがあった形跡も残っていなかった。中途半端な隠ぺい工作。どうせ近隣住民には「いつ来ても良いよう、出入りの庭師に管理を頼んでいるの」と吹聴してあるのだから、いるならいるで暖房の一つもつけといてくれればいいのに──火也子は深々としたため息を漏らした。

 無論、今火也子の苛立ちの的となっている老爺は“出入りの庭師”などではない。
 火也子たちからは“ドクター”と呼ばれていた。呼び名の通り、極めて高度な医療技術を有する男である。火也子よりずっと、うんと頭の良い男だ。しかしIQと生活能力は正比例しない。
 組織を名乗るにはあまりに人数不足で、火也子の属する“コミュニティ”は明確な序列が敷かれているわけではない。それでもドクターは火也子より上位の人間で、隠ぺい工作にしろ何にせよいつも非協力的だった。暗に火也子を下に見ているのだろう。幾ら高度な医療技術を持っていたところで、資金繰りや研究場所の確保に至るまで火也子の手回しなしには何も出来ないくせに。
 ドクターを“庭師”と称することにしたのは、単なる嫌がらせではない。火也子の不在時にも人の出入りがあること、月々の電気代が“無人”らしからぬこと、諸々をひっくるめた時に「出入りの庭師に屋敷の管理を任せている」とあしらうのが無難であろうと判断したからだ。何度説明したところで、ドクターは「お前が足のつくような真似をしなければいい」としか口にしない。
 いっそ、ドクターの言うとおり神野の一等地に研究室を移してやろうか。火也子は苛立ちついでに、ドクターの希望する“移転先”について思い返した。ドクターに言わせれば、ここはあんまりに田舎過ぎるらしい。だからといって、あんな市街地のど真ん中にある廃倉庫を「窓も高いとこにあるだけだし、覆いをしとけばいい」などと言って紹介されるとは思わなかった。仕切りの一切ない廃倉庫で脳無なんか量産してみろ、近所のガキ共が大喜びで遊びに来てしまう。あっという間に悪夢と人体実験の国・神野ーウムランドの出来上がりだ。火也子はまだ警察に捕まる気はない。
 馬鹿馬鹿しいと思って研究施設の移転そのものを却下したけれど、件の廃倉庫については一応土地ごと購入しておいた。そのうちドクターをタルタロス送りにしたくなるかもしれないし。
 ドクターが邸内に滞在しているかいないかも分からないまま、火也子は再度ため息を漏らした。

 ひどく疲れていた。認めたくはないが、火也子自身も「年のせいだ」と思った。
 県境を三つ跨いで朝から運転し通しだったのだから、疲れていて当たり前。それでも、若い頃はこんな風ではなかった。昼から翌日の明け方まで不眠で執筆作業に勤しみ、脱稿と共に長距離ドライブに出たこともあった。二徹三徹平気で、目を開けている時はいつも活力に満ちていた。
 年を負うごとに気力や体力が目減りしていって、所詮“自分は取るに足らない人間だ”と身につまされる。せめて今日ぐらいドクターと顔を合わせたくないものだが、ドクターが火也子の来訪のタイミングを知らないように火也子も同様だった。火也子は重い足取りで玄関ホールを抜けた。
 リネン室脇に置かれた消火器を退かすと、非常ベルに偽装させたスイッチが壁面下部に現れる。火也子は消火器を蹴って退かした足で、スイッチを押した。漆喰の壁が押し上がることで、その後ろの隠し扉から地下の研究施設へ降りられる。子ども騙しと言われようが──透視の“個性”持ちでも同行していない限り──警察に踏み込まれた場合も、幾らか時間が稼げるだろう。
 ドクターから「まるで子どもの秘密基地じゃな」と言われたことが不意に思い起こされ、火也子は真顔になった。ほんとうに、ほんとうにドクターがいないといいのだけれど。

 頻りにため息を漏らしながらも、火也子は淡々と階段を下っていった。
 今は火也子の下で“研究施設”の役を与えられた地下空間はかつてワインセラーだったし、単なる倉庫として扱われることもあったけれど、一等最初は“回復が見込めない長期療養患者のための特別病棟”という──所謂座敷牢だった。あたりに重苦しい空気が立ち込めるのは陽光の有無に拘わらないだろう。二十メートル先の突き当りに位置する大広間へと続く通路の左右に、ずらりと鉄製の扉が並んでいる。その一つがうっすらと開き、光源の乏しい通路に青白い光を放っていた。
 火也子は眉間にシワを立てた。行儀作法について厳しく躾けられた彼女は、扉の開け閉めには殊の外うるさかった。資料や医療用品を腕一杯に抱え込んだドクターが蹴り開けた扉をそのままにして行くのはよくあることで、無論のことドクターは火也子の小言など意に介さないのだった。
 あのジジイは本当に──肩を怒らせた火也子は、ヒールを大仰に鳴らすことで気を紛らわせようとした。扉に近づくごとに、くぐもった水音が大きくなる。水音はゴボゴボと泡を立てては消えていく。ちょっとした気まぐれで、火也子は重たい扉を開けて中の様子を覗き込んだ。
 壁面に並んだ四角い貯水槽はコンクリート製で、水中の様子を窺い知ることは出来ない。ただ、貯水槽の上部は蓋をされることもなく、槽内の培養液を循環させる設備と共に肥大化した脳漿が外気に晒されている。その水中に何がいるのか、火也子には無論分かっていた。
 元々のオツムに相応しい物体と化した“それ”は、ほんの一月前まで火也子のペットだった。
 前科とノーベル賞の区別もつかないバカな男。歓楽街でサラリーマンに暴行を働いてたのを上手く──いざという時のため火也子はスタンガンや警棒を常に携帯することにしていた──ねじ伏せ、飼い馴らしたのは記憶に新しい。元々ドクターに提供するつもりで拾ったものだし、いい加減バカの相手をするのも面倒になったので早々に引き渡すことにしたのだった。

 何より、やたらと火也子の娘の情報を聞き出そうとするのが決め手となった。
 火也子の携帯から娘のメールアドレスや携帯電話の番号を転送した痕跡を見つけると同時に、ドクターに話をつけた。娘に下心のある……それも前科持ちの雄を野放しにするわけにはいかない。
 確かに火也子は母親としての務めを殆ど放棄してきたが、その分娘の装いや美容のためとあらば金に糸目を付けず援助してきた。チンピラ如きにくれてやるために金を掛けたわけではない。
 件のチンピラとは、幾夜もベッドを共にした。そこに一切の楽しみもなかったと言えばウソになるだろう。しかし生きたまま頭蓋骨を割られる男を見ても、火也子の心はピクリとも動かなかった。火也子は「大概お前さんも悪趣味だね」と揶揄されつつ、ドクターの手ずから行われる“人体実験”に最後まで同席した。尤も、それを“人体実験”と呼ぶのは火也子だけで、ドクター自身は単に“手術”とだけ称するのが常だった。何でも“人体実験”と呼ばれるのは、何の確証もなしに体を弄繰り回してるようで不快らしい。火也子もドクターの前では彼に倣うよう努めていた。実用段階に至ってないのを踏まえて考えると“人体実験”が相応しい気がするものの、老人のプライドほど面倒くさいものはない。どちらにせよ、拷問に近い所業なのは間違いのだ。汗、涙、血、糞尿──体の穴という穴から体液を漏らして呻く害獣を見下ろすのは火也子にとって楽しいことだった。
 こういったチンピラの人格が損なわれようと、火也子にはそれが悪いことだとは思えなかった。
 どうせ火也子と出会う前にも、欲望のままに他人の尊厳を踏みにじってきた男だ。
 身寄りもない。友と呼べる者もいない。私怨を抜きに、社会のゴミとしか言いようのない人間である。チンコを勃てる以外に能のない下等生物のくせ、自らの分を弁えず、火也子のものを手籠めにしようとした愚か者。火也子の娘は、こんな下劣な人間が触れていいものではない。
 ……何故、分からないのだろうか? どれだけ相手を変えても、火也子の娘に会うと皆もう彼女が欲しくなるのだ。殆ど紋切り型と言って良い反応を見る度、火也子には不思議で堪らなかった。
 娘が育った家庭は歪なものだったが、金銭的に不自由させたことはない。
 物心つく前から娘を溺愛する夫は勿論、火也子にしろ彼女の欲しがるものは何でも買って与えた。それは衣類や家具のみならず、庭の一部を潰して訓練場を建ててやることもあった。
 斯様に裕福な家庭に産まれついて、幼稚園から中学校までずっと偏差値の高い私立校で育まれた“温室育ちのお嬢様”が、何故自分のような下劣な男のものになると思うのだろう。
 見るからに高嶺の花と分かりそうなものなのに、男たちは火也子と同様に、娘も自分の相手をしてくれるものと期待してしまう。彼らの期待が根元からポッキリ折れる様を見るのは爽快だった。
 もう二度と人間らしく生きることは出来まい。全身を薬物で弄繰り回され、脳機能は殆ど破壊されている。この男の生は終わったのだ。あとは精々、“あの方”のお役に立って頂戴な。

 火也子は冷笑と共に扉を閉めた。
 ゴミが相応の待遇で持て成されてるのを見たからのみならず、気分が良かった。
 貯水槽の前に置かれた手術台はすっかり乾いていた。恐らくここ数日はドクターが留守にしているものと思われる。火也子は途端に足取り軽く、通路の突き当りを目指して歩き出した。

prev next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -