パンはパンでも
たべられないパン
なーんだ

(原作開始後、交際前)
「はーい! こちら、ウイングヒーロー・ホークスの彼女で〜す!」
 最悪。最悪も最悪、最低の事態である。
「むぎちゃん、ごめん。すぐ掛け直すから一旦切るね」

「親戚?」
 声音から年齢を察したのだろう。陽気な笑みを浮かべたままの女が笑いかける。
「遠距離恋愛中の恋人」
 空気が凍った。
「え、」

「いや、こーゆー場に普通彼女持ちが来るわけないもんね」
 ホークスは愛想よく笑って見せる。
「でも俺、騙し討ちで合コン参加させられたの知ってるでしょ? 最悪だよ」

「最愛の恋人に、こんな時間遊び歩いてるって思われるだけでも最悪なのに、初対面の見知らぬ女に彼女面されるとか、もう笑うしかなくない? さっさと帰っておけば良かった」

「悪いけど、俺、酔ってるから〜とか酒を言い訳に使うのほんと生理的に無理」


「むぎちゃん、ごめんね?」
『良いよう!』
 受話器の向こうで光り輝かんばかりの笑みを浮かべているのが分かる。少しは気にしてくれ。
「知り合いがちょっと悪酔いしちゃってさ〜! つっても知り合いの知り合いなんでホント偶然同じ場所に居合わせただけの他人なんだけど、酔っ払いの戯言に付き合わせてごめん」
「雑務中に昔なじみから“相談したい”って連絡来たから、それで指定場所行ったら、信じられないよ。合コンなんかやってて、うそーホークスだー! ほんと、俺は客寄せパンダかって話ね」
 ハハっと渇いた笑みが零れる。
「もう何年も会ってないけど、割りと仲良かったんだよね。でもダーメ、疎遠な奴からの急な連絡ってろくなことない。宗教・ねずみ講・選挙・合コン、このどれかだって痛感した」
 むぎは黙ってホークスの話を聞いている。何を考えているのかは分からなかった。

『ホークスさんも夜遊びしたりするのねえ』
 しみじみと感じ入ったような声だったので、一瞬あっけにとられた。

『ホークスさんしっかりしてるし、格好いいもの。女の人、つい構いたくなってしまうのね。
 むぎも、ホークスさんにお話聞いて貰うのとても好き。ホークスさん、聞き上手で、たまにちょっと意地悪なことがあるけれど、下らないお話にも付き合ってくれて、むぎ凄く嬉しい』

『お友達の気持ち、むぎ、少し分かってしまう』
『忙しいホークスさんにとって凄く下らないことだろうけど、付き合ってほしかったのね。
 嘘をついてしまったのは、ホークスさんに断られたくなかったのかな? ホークスさんは忙しいし、しなきゃいけないこととか、会わなきゃいけないひとが沢山いるでしょう。そういうのを考えると、“ただ自分がホークスさんに会いたいから、時間を作って欲しい”って言うのは我侭なようで、ちょっと怖いのかも。でも、だからって、嘘をつかれると傷ついてしまうのにねえ』
 むぎはゆっくりと、教え諭すような響きでホークスに語り掛ける。
『……ちょっと噛み合わなかっただけ。本当は誰もホークスさんを傷つけたり、嫌がらせするつもりではなかったのに、嫌な気持ちになってしまったのね。そういうの、とても辛いのよね』
『でもね、むぎ、お友達の気持ち分かるので、嫌いにならないであげてね』

『ホークスさんのことが好きだから、付き合ってほしかったのねえ』
 目頭に熱いものが滲んだ。泣きたくなるぐらい、むぎの顔が見たいと思った。

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