義伯母の故郷である渦の国は、先の大戦の余波で滅んでいる。
 渦の国は水の国の同盟国であるにも関わらず、先の大戦では火の国に加担した。今や戦勝国として増長した渦の国は、同国内に住む我々の同胞を虐げ、差別している──というのが、進軍理由。
 水の国の行動は素早く、抗戦らしい抗戦はなかった。あっという間に渦の国の軍事拠点である隠れ里を制圧した後、義伯母の弟の首を取った。義伯母がカンヌキを里から出したのは、そういう背景もあったのかもしれない。水の国の本当の目的はうずまき一族の血を取り込むことだったのだとも、第二次忍界大戦に備えて前線基地にするつもりなのだとか囁かれているが、何にせよ義伯母の苦悩は変わらない。尤も、年かさの忍者たちが血路を開いたおかげで、若い忍者は脱出に成功している。今は木ノ葉隠れの里の一角に居住区画を設けているものの、忍道を辞す者は少なくない。

 カンヌキが身を寄せることになった一家も、やはり亡命と同時に忍道を辞したのだと言う。
 温厚な笑みで「今はここで、医療忍者だった頃の知識を元に医者の真似事をしてます」と続ける夫婦はカンヌキより一回りほど年かさで、二人の娘を育てていた。おとなしいのと、うるさいの。
 カンヌキは「年頃の娘が二人いる家に男をあげるなんてどうかしてる」と憤る少女を見て、心底ウンザリした。その頃には既に女性相手には役立たずだと──義伯母には伝えてなかったが、“それ”が理由で婚約破棄されたばかりだった──分かっていたので、率直に「お前たちでは勃つものも勃たん」と告げた。カンヌキは一応彼女を安心させるつもり……いや、色気もクソもないことを嘲る気持ちがあったので、思いっきり頬を打たれるのも致し方ない。この場合、一般人のくせにと言うべきなのか、もしくはカンヌキが“忍者のくせに”なのだろう。もの凄く重い平手打ちだった。
 あらあらウフフな夫婦を尻目に痛みに打ち震えていたら、脇からぬれタオルを差し出された。

『フソウの平手打ちはとっても痛いのよ』
 義伯母と同じ赤い髪を腰まで伸ばした華奢な少女。それがムツとの出会いだった。
 この姉妹は極めて対照的な性格をしていた。フソウはなるほど喧嘩っ早く、すぐに手が出る。うずまき一族の血が濃く出ているらしく、隠れ里に産まれたのなら立派なくノ一になったであろう。ムツはその逆で、うずまき一族外から嫁いできた母の血が濃いらしかった。雨にも風にも負けてしまうような病弱さを有しており、夫妻は彼女のために火の国へ移ろうか考えていた。シスコンの気があるフソウも移住に賛成していたが、当のムツは雨隠れの里を気に入っているのだった。
 嬉しそうなムツに「ミト様が、あなたを暫く住まわせてやってくれってお願いしたでしょう。あなたがいるうちは、引っ越さなくて良いってことだわ」と言われた途端、フソウに足を蹴られた。恐らく「さっさと出て行け」ということなのだろうなと思ったが、ムツがいなくなるなり「さっさと死ね」と言われた。ガキは訳が分からん。カンヌキは様々なことに嫌気が指していた。

 人を殺すこと、人を貶めることはカンヌキのライフワークだ。
 そのライフワークを禁じられた今、カンヌキの毎日は退屈だった。増して雨隠れは陰気な土地だ。何日も何日も部屋の窓から雨が降るのを眺め、不意に「あの子供は何故ここから離れたくないのだろう」と疑問になった。それが、何もかもを無くしたカンヌキにとって唯一の疑問だった。
 ムツは、カンヌキの問いにすぐ答えてくれた。寝込んで、アカデミーを休んでいたからだ。
 カンヌキは、ムツのキラキラした瞳を覗き込んだ。お父さんもお母さんも、もう、痛い思いをしたり、苦しい思いをしないで良いから。馬鹿馬鹿しい……と思ったが、口には出さなかった。

 気まぐれから話しかけたのが悪かったのだろう。
 体調が戻ると、ムツは暇さえあればカンヌキについて回るようになった。
 ムツの言葉は、本当に稚拙で、下らなくて、知性のかけらもない、有り触れたものだった。
 たまに晴れると嬉しいとか、空気がひんやり冷たくて気持ちいいとか、雨の音を聞いているのが好きだとか。カンヌキは疎ましいだけの雨音混じりに、ムツの下らない話を聞いていた。
 晴れただ降っただ姦しい。でも、そういえば自分の母親も、こういう下らない話ばかりする女だった。カンヌキは母親の話が好きだった。きっと父親も、妻の唇から漏れる言葉を愛したと思う。
 カンヌキは人を殺したり貶めること以外で時間を潰す術を持っていないし、雨隠れの里は陰気に過ぎた。切れ目なく降る雨のなか、一人で無聊を囲うよりは下らない話を聞いているほうがマシというものだ。素直にそう言うと、ムツは声をたてて笑った。ムツはよく分からない生き物だ。
 正直言って、出会ったばかりの頃はムツの話なぞ殆ど聞いていなかった。でも、自分の隣でああだこうだ、一人で笑ったり怒ったりする彼女に絆されるまで時間は掛からなかった。
 半年も経つと、自分から彼女を探すようになった。別れの時には再会の約束もした。

 別れの日、ムツはずっとずっと、歩けなくなるまでカンヌキについてきた。
 ムツのおかげで、カンヌキは彼女を抱えて今来た道を戻る羽目になった。その間も、ムツは多くの約束を交わしたがった。山に植えた苗木が花をつけるまでに会いにきてとか、川辺に成る桑の実を摘みに行こうとか、コケモモでジャムを作ろうとか、屋根を直さなければならないとか、沢山。

『私を忘れないで。必ず、私に会いにきてね』
 それが何なのか分からないほど子どもでもなく、でも“分からないふり”をした。

 一年ぶりに里へ帰ると、義伯母は酷く失望した様子だった。
 多分、やはり義伯母は本気でカンヌキに忍者を辞めて欲しいと思っていたに違いない。それが善意からと分かっていても、知らんふりをしてしまう。お前如き凡才はこの里に要らないと言われた気がして。結局義伯母の思惑からは外れたものの、それでも時間を作ってはムツを訪ねた。
 年を重ねる毎に“女”として成熟するムツに口づけ一つしないまま数年が経ち、やがて自分が不能であることも伝えて、「それでも良い」と──その言葉が結果的にはプロポーズになった。
 誰一人傷つけたことのないムツが、人を殺すことでしか生きられない自分に縋って「一緒にいられるだけでいいの」と咽ぶ。これこそが母親を殺した“呪い”だと、カンヌキには分かっていた。分かっていたけれど。カンヌキの素性を知ったフソウが、めちゃくちゃにクッションを振り回してカンヌキを殴る。人殺し。人殺し。人殺し。姉さんを連れて行かないで。
 私たち普通に生きていきたいだけなのに、あんたの地獄に私たちを巻き込まないで。
 その慟哭が示すものが何か、カンヌキは知っている。
 母親の幻がカンヌキに囁きかける。子どもは忍者にしないって約束したのよ。義伯母の憂い顔が脳裏に過る。あんな、未だ恋も知らない子どもに九尾を託すなんて惨い真似をしろと言うの。

 女はみんな、暗い顔をする。

 カンヌキは忍者だ。忍者の妻は不幸になる。度を越した男尊女卑社会の渦中に置かれることもそうだし、何人も何人も子を孕まなければならない。あまつさえ生まれた子は「里のために死ね」と聞いて育つ。十人近く産んだ子を皆戦争で亡くした女もいる。最後の一人が亡くなってさえ「ご立派な最期でした」と口々に言われるのだ。忍者に嫁ぐというのは、そういうことだ。
 ムツに、それを強いるのか? この陰気な土地でさえ天国のように感じている彼女に、両親を忍者に戻さないため移住を拒み続けた彼女を、恋情を人質にとって地獄へ連れ去ろうとしている。

 自分が見ている地獄を一人でも多くの人間と共有したかった。
 たった一人を除いて──そう望んでしまうことが全ての答えだった。彼女が好きだった。

 単純なもので、恋心を自覚するとすぐ下半身が使えるようになった。
 体と体を繋げる愛しさを知ると、必然的に妻はカンヌキの子を身籠った。その頃にはもう忍者を続けたいという気持ちもなく、ただダンゾウや大蛇丸といった自分が唆した連中への義理から働いているようなものだった。何れ里を出ることを見越して、貿易会社も興した。妻子に裕福な暮らしをさせたいと思ったし、雨隠れの里の治安状況を思うと他国への移住も視野に入れる必要がある。
 様々な思惑のなか生まれてきた娘は、カンヌキの不安を吹き飛ばすほどに愛しかった。ムツの腕に抱かれた赤子を見て、誇張なく「こんなに可愛い生き物は見たことがない」と思った。
 全てが完璧な幸せのなかで、カンヌキは我が子に幼い日の恩人の名を冠した。遥か昔、母親のお産を助けてくれたという娘の名前。この子には、他の命が生まれるのを手助けする人間になってほしいと祈った。この世の何もかもがこの子の生を祝福しますように。心の底から、そう祈った。
 僕の可愛いトバリ、君がずっと……しわくちゃのおばあさんになっても笑っていますように。

 僕の目に映る地獄が、君の目を通して浄化される。
 兄の死も、母の狂気も、父への失望も、何もかも君と出会うために在った試練に過ぎなかったのだと感じた時、カンヌキは自分の生を呪うことを止めた。そして、ゆるされたいと思った。
 今更虫が良い話だとは分かっていたけれど、自分が地獄へ導かんとした人々に許されたかった。良いひとになろうと思った。身勝手と分かっていても、そう願わずには居られなかった。
 それは多分、やはり、この腕のなかの命に難が及ぶことを恐れたからだ。自分が生み出した地獄が娘へ手伸ばすことだけは何としても避けたい……そう思うこと自体が身勝手と知っていても。


『トバリちゃん、いつの間にか手紙なんて書けるようになったのね』
 ダンゾウの留守を知って踵を返すカンヌキの背に、粘着質な声が触れた。

 薄々予感していたことではあるが、大蛇丸はカンヌキより遥かに優れた忍者へと育った。
 そんな大蛇丸をダンゾウが重用するのはごく自然なことで、いつからか二人の結びつきはカンヌキとのそれより強いものとなっていた。自分が門前払いを食らった屋敷から大蛇丸が出てくるのは何ら気にかからない。カンヌキの歩みを止めたのは、大蛇丸が口にした“手紙”という言葉だった。
 大蛇丸のすらりとした指先に、見覚えのある粗末な封筒があった。その宛名が読めないほどの距離ではない。素人の手製であると一目で知れる歪な封筒には「うずまきトバリ」と記されていた。
『あら……でも、なんで四つの子がダンゾウ様みたいなおじいちゃんと文通してるのかしらァ』
 口元を封筒で隠した大蛇丸の目が笑みを帯びて細められる。カンヌキは何も言わず──激昂するでも、絶望するでも、その手紙を奪い取るでもなく、じっとりと黙り込んだ。ただ、驚くほどストンと納得した。そして、目の前で自分を怒らせようと試みる男への哀れみのようなものさえ湧いてきた。自分のなかには「いつまでも自分を被害者の側に置く弱さ」があったのだと自覚する。
 随分長い間、カンヌキのなかには「自分が苦しんだから他人を傷つけて良い」という傲岸極まりない気持ちがあった。そうした身勝手極まる感情を振り回し、不意に我に返っては「どうせこの世は地獄なのだ」という極論で己の身勝手さを肯定してきた。これは、そのツケなのだ。
 カンヌキはダンゾウを孤立させ、彼の劣等感や欲望を良いように煽った。彼がどんな残酷なことでも何の躊躇いもなく出来るように、彼の耳元で「これが里のためなんだ」「父のやり残したことを出来るのはお前だけだ」と囁いてきた。今更、ダンゾウが手紙を隠していたことを詰ることは出来ない。その手紙を見つけた大蛇丸がカンヌキの眼前に突きつけることさえ……カンヌキは、それと同じことを彼らにした。彼らを自分と同じ地獄に引きずりこんだ報いは受けねばならない。
 手紙を奪い取って、文面を明らかにしたいとは思わなかった。そこにはきっと、娘の字で助けを請う文章が綴られているだろう。もし自分の手に渡っていたなら、何を犠牲にしてでも娘の下へ駆けつけたに違いない。でもダンゾウは、その手紙をカンヌキに渡さなかった。それだけのこと。

『あなた、最近可笑しいわよ。ずっとよ。ずっと、ずっと可笑しい……!』
 おぼつかない足取りで歩き出した自分の背に、大蛇丸が彼らしくもない罵倒をくれる。
 彼の言う“可笑しい”がどういう意味かは、カンヌキには分からない。衆道を嗜まなくなったことかもしれないし、受ける任務を減らしたことなのか、訳の分からない実験に首ったけになっていること、もしくはもっと前から、だれかをあいするとか、だいじにするということかもしれない。
 歪みの一因を作ったカンヌキが言うことでもないけれど、大蛇丸も誰かを愛するとか、大事にするということが出来ない人間だ。それ故に大蛇丸はカンヌキに執着していたし、カンヌキも、彼の中に幼い自分を見ることがあった。何より、たった一人残った母方の血族でもあったし、二人でよく母祖の地について話した。自分たちは寂しい者同士なのだと、そう思うことも。

 はじめは、ほんの些細な寂寞感だった。
 年の離れた兄たち。いつも心の真ん中に父がいる母親。里のことにしか興味のない父親。
 小さな頃から、カンヌキは一人遊びの得意な子どもだった。誰もがカンヌキのことを「内気な子ども」と称して、カンヌキは一人遊びをしているのが好きなのだと決めつけた。事実、カンヌキは内気で消極的な子どもだったのだと思う。自分の望みを口にすることで、誰かの時間を潰してしまうのがイヤだった。兄たちに、母親に、父親にとって都合の良い子どもでありたいと願った。
 ただの一度で良いから、「カンヌキは本当に良い子だね」と褒めて欲しかった。
 あなたが産まれてきてくれてよかったと、そう言ってほしかった。
 どうしようもない業の果てに、自分の業を背負う必要のないムツが全ての望みを叶えて微笑う。あなたがうまれてきてくれてよかった。自分よりずっと年下にも関わらず、カンヌキは彼女に溺れた。いつだって、彼女を抱くカンヌキのほうが強烈な安堵感に抱かれていた。みっともないという気持ちも、フソウの慟哭も頭の中には残っていて、だから、どこか遠くへ逃げてしまえと、いつもそう思っていた。カンヌキが居ぬ間に、どこか遠くへ行ってしまえ。僕より若く、善良で、おまえを世界で一番大事に出来る男と逃げてしまえ。永の暇を破って妻子の待つ家の戸を開けるとき、カンヌキはそう祈らずにいられなかった。これがひとを愛するということなら、どうしてみんな何でもない顔で他人を愛することができるのだろう。妻が死んだとき、カンヌキは少し嬉しかった。この世界の何もかも、もう二度と誰もムツを苛むことはできない──カンヌキでさえ。

 しかし、娘の身に起こったことを許すことは出来なかった。
 終わりを失い、無限の狂気に憑かれた娘を救うために、カンヌキはあらゆる手段を講じた。
 まず痛覚を消すために脳を取り出し、心臓を切り取った。そして、いよいよ異物を孕んだ子宮を取り除こうとしたのだが……遂に傷一つつけることはできなかった。我が子可愛さに怯んだわけではない。腹部切開を試みても、メスで切る端から傷が塞がってしまうのだった。挙げ句の果てには、心臓と脳も再生する始末。何度も何度も試みたが、胎盤が完成するまで結果は変わらなかった。愛娘の体が異能を産む道具に作り替えられた事実は、繰り返しカンヌキの思考を焼く。
 異物を取り出したあとは再生能力も低下し、腹部から離れた末端組織──本来、中枢組織であるはずの脳の一部は壊死したままとなっている。子宮を動かす道具と化した娘は、培養液のなかで眠り続ける。その穏やかな寝顔を見つめながら、カンヌキは様々なことを考えた。腹部の異物がいなくなった今、目を覚ましても大丈夫なのではないか。はじめはトラウマから怯えるかもしれないけれど、痛みもなく、腹も平らで、僕がいるのに気づけば元に戻るかもしれない。再生能力が高いのは、うずまき一族の血と誤魔化せるだろう。娘と里へ帰る夢を見た。同時に、自分が死んだ後のことも考えた。十二歳のまま時が止まった娘を、この世界に一人残していくことについて。
 果たしてカンヌキが何を目的としているのかは、傍にいた大蛇丸にさえ分からなかっただろう。
 それもそのはず。カンヌキにだって、自分の目的なぞ分からなかったのだ。
 
 ただ一つ、自分が生きているうちにやらなければならないことがあった。
 人智を超えた異能の苗床として不死を得た娘を殺す方法を見つけ出さなければならない。


 この地獄に、君一人を残して行くまい……と。


 カンヌキはぼんやりと居間の天井を見上げた。
 初秋を匂わす乾いた風が唇を撫でる。じりじりとした苦味が喉に燻り、目元に残る幻をぬぐい去った。花も光も、何も存在しない。ふたりぼっちだ、と思う。カンヌキは、いつもそうだ。道連れなく生きられないのは、ひとりぼっちより性が悪い。自分のものではない涙が一粒、額に落ちた。
 天に伸ばした手は、やはり八歳の子どものものではなかった。無駄な肉が削ぎ落とされ、育ちきった骨が僅かばかりの筋肉に覆われた大人の手。水気のない皮膚は年輪として、過ぎた日々を思わせる。その手に、カンヌキより年嵩の──弱々しい体躯の老爺が触れた。枯れ葉のような手だ。
 この地獄のなかでは義伯母以外にたった一人、心からカンヌキを案じてくれたひと。

「……お、え……お前に、関わらせすぎた」
 無理に絞り出した声で詰ると、センテイの細い目が涙で埋まった。

 この男は希代の薬師だ。父親の片腕として多くの“虫”を駆除し、その望みを丹精してきた。
 膝上で逆さになった湯のみにはまだ温もりがあったし、その中身の半分以上は着物に呑まれてしまっているものの、きっと、そういうことも皆織り込み済みなのだろう。一体何の、どんな毒なのだろう……まるで見当がつかないことに思いはせた時、自然と温室の景色が浮かんだ。
 カンヌキが物心つく前から庭隅に佇む、ちっぽけな建物。白んだガラスのなかで咲き誇る花々を、カンヌキはことのほか恐れていた。母が死んでからは、何の食べ物も喉を通らないほどに。
 いつか、父親が毒を盛るよう命じるのではないか──母も兄も死んだ今、一等役立たずな末子なぞ邪魔なのではないか。そんな思いでいたカンヌキのために、センテイは毎日食事を運んできた。
 カンヌキのために持ってきた食べ物を一口ずつ毒味したセンテイが「何にもへえってません」と涙を零す。毎日、毎日、飽きもせずに繰り返し、センテイはカンヌキの毒味を務めた。
 義伯母の時と同じだ。結局、折れたのはカンヌキだった。父親の片腕であった彼が、決して毒を盛ることはないと思うほど愚かな子どもではなかった。父親の命があれば、やはりセンテイは毒を盛るだろう。ただ、もう──それがお前の毒で、お前の為すことであるなら致し方ない、と。
 幼い日の諦観がまざまざと蘇り、カンヌキは口端を歪めた。

「どくを、もりました」
 酷く抑揚のない声だった。

「暴れねえで下さい。回りが早くなります」
 毒を盛られたのはカンヌキのほうなのに、センテイのほうがずっと青ざめている気がした。
「十二時間後に手足に痺れが出て、すこしっつ体が麻痺してきます。そのままほうっときゃあ明日には心の臓が止まる。だから……」センテイが引きつった声で繰り返す。「だから、どうか」
 それっきり、ボロボロと涙をこぼすだけ。泣きたいのは、こっちのほうだ。
 なんだかカンヌキは面白くなってきてしまった。全然動いてないのに暴れるなと言われるし、こんな、もう、そもそも余命幾ばくもないオッサンになって毒を盛られるし、しかも、ダンゾウにまで死ねと言われている。冗談でなく、本当に──大蛇丸の分の“やらかし”も背負って死ねと。
 死ぬのは良いとしても大蛇丸の罪まで被らされるのかとイライラしながら帰ってくると、バケモノが人間を引き込んでいた。よりにもよって、カガミの孫を。何の因果かと、聞きたくなる。
 カンヌキは、カガミが大嫌いだった。父親が一番愛した弟子。父親の写輪眼の研究に付き合い、それを知った一族に詰られ、見殺しにされた。バカな男だ。バカで、聡くて、忍才に溢れ、家族に愛され、カンヌキの父親からも愛されていた。カンヌキの欲しいものを全て持った男だった。

『はたけサクモ上忍は、立派な忍者で、オレの憧れの一人です』
 カガミと同じ顔をした子どもがサクモの名前を出したとき、ふと思った。
 キラキラした瞳。いつかの妻と同じ光が目の前にある。何の地獄も知らない子が、サクモの名を口にする。サクモがどうやって、どんな気持ちで括ったかなんて何も知らないくせに。
 サクモは、聡くて、優しくて、カンヌキの自慢の教え子だった。
 気配りの上手い彼は、会う度にカンヌキが受ける任務の数が多いことを詰ったものだ。ずっと一緒に忍者を続けていきましょう。そのために無理はしないことです。それがサクモの口癖だった。
 ここが地獄とまだ気づいていない子どもが、輝かしいもののようにサクモの名を口にする。

『オレは、はたけサクモ上忍は全部間違ってたとは思いません』
 そうだ。サクモは一人の人間としては何も間違ってはいなかった。

 ただ“利益より人命を優先した”だけの彼を、よってたかって責め詰った。
 第三次忍界大戦を目前に控え、金が必要な時期だった。中立国からの依頼を取り合うなかで、“木ノ葉隠れの里”のブランドイメージを損なうことは許されなかった。お前一人無事なら、有象無象はどうなっても良いのではないかと詰った。お前ほどの忍者が“替えの利く道具”に絆されてはならない。才能に欠け、汚れ仕事だけでのし上がったカンヌキにとって、サクモの気持ちはまるで分からなかった。そういう汚い世界で生きることに愛想がつきたのかもしれないとは、思っていた。
 何故カンヌキには、かつて義伯母が掛けてくれた言葉を口にすることが出来なかったのだろう。
 お前を非難する連中ばかりの世界からは逃げてしまえ。お前も、お前の子どもだって、忍者として生きることはない。忍者であることだけが人生ではないと、そう言ってやるべきだった。
 ……言ってやるべきだったけれど、カンヌキには言うことが出来なかった。


 わすれてしまえと、自分のなかに巣くう弱さが囁く。
 一つ苦しいことが起きると、更なる苦しみに身を投じることで自分の気持ちを塗り潰してきた。
 両親の死も、兄たちの死も、同期生たちの死も、妻の死も、弟子たちの死も、何もかも……狂おしいほどの苦しみの果てには、結局彼らが生きていたときと変わらない日常がある。ひと一人の死では何も変わらない世界に絶望することも、とっくに忘れてしまった。生きていくのは、簡単だ。この先も永遠に続くと思っていた“日常”がプツンと切り取られて、新しいものに挿げ変わるだけのこと。両親がいなくても、兄たちがいなくても、同期生たちがいなくても、妻がいなくても、弟子たちがいなくても、カンヌキは死ななかった。両親がいなくても、兄たちがいなくても、同期生たちがいなくても、妻がいなくても、弟子たちがいなくても、死ぬわけではない。失った直後は苦しいし、悲しいし、涙の一つも零すけれど、時が経てば朝が来て、新しい日常に順応していく。
 今生きていること以外は皆んな大したことでないと、そう思っていた。思うことで蓋をした。
 幾つもの“日常”のなかで、自分が一番幸せで、ずっと続くと信じていたかったものが何だったのか、脳が考えることを拒む。目映いばかりの光が視界を焼く。毒と無縁の閉塞感に喉が絞まる。
 あなたを愛していたのだと、幼い日の自分が訴える。

 忍者であることだけが人生ではないと、そう思ったことはただの一度もなかった。

 カンヌキはずっと、父親のような忍者になりたかった。
 父親のことを愛していた。父親に、愛してもらいたかった。認めて貰いたい、とも望んだ。父親と同じ忍者として生きることだけがカンヌキの全てで、妻も子も、弟子たちに至るまで皆、そういうカンヌキの業に振り回されて死んでしまった。全てを失っても、忍道を捨てられなかった。

「だから、どうか……その続きは何なんだ?」
 軽く咳き込むと、喉元に鉄の味が広がった。
「僕が死ぬのを待ってるんでなきゃ、さっさと言った方が良い」
「……以前、大蛇丸と記憶改ざんに纏わる忍術の話をされていらっしゃったでしょう」
 そういえば、そんなこともあったと虚ろに思い出す。

 砂隠れの天才傀儡師が里抜けしたと知って、大蛇丸がその技術力を欲したのが発端だ。
 色々話したけれど、結局火の国の気候は傀儡作りに不向きという結論が出て、酒席の戯れのままお開きになったのを覚えている。戯れに過ぎなかったのは、彼を仲間に引き入れるメリットがないと判断したからだ。大蛇丸曰く“私以上の人格破綻者”とのことだし、経歴的にも旨みがない。増してカンヌキの父親と同じ技術畑の人間ときた。既存の忍術に飽いた……もしくは探究心の強い忍者は時として専門性の高い忍術を生み出すものだ。自分にしか使えない、自分のためだけの忍術。そうした経緯で生み出された忍術は半ば血継限界に似て、汎用性が低い。尤も、カンヌキの父親は並み居る変人のなかでは随分親切な性質だ。結果はどうあれ、自らの生んだ忍術を標準化して後世へ残そうとした。ただ一つの誤算は、残そうとした忍術の殆どが既存の死生観をひっくり返すものだったこと。若い頃は面白がって研究したこともあったけれど、結局コハルやホムラの強い反対を受けて禁術指定となった。ダンゾウとヒルゼンは「違う使い道がある」と最後まで言っていたけれど、禁術指定になっていなければ今頃大蛇丸あたりに悪用されていたことだろう。
 その程度の倫理しか有していない大蛇丸は勿論、カンヌキも“砂遁による記憶操作”には強い興味を持った。「酒飲み二人で」と注釈はつくが──術の仕組みについても熱心に話し合った。

 “潜脳操砂の術”はチャクラ量や質に左右されず、純粋な知識によって顕現する術だ。
 目に見えないサイズの細かな砂で作り出した針を海馬に埋め込むことで、被術者の記憶をコントロールすることが出来る。ただ、大蛇丸は「脳は繊細な器官だから、出来ても精々既にある記憶の幾つかを思い出せなくする程度でしょう」と付け足す。カンヌキ自身も、それには同意している。

「改ざんというほど便利な術ではない」
 そして、ここに砂遁の使い手がいない以上は“潜脳操砂の術”の行使は不可能だった。
「消すだけでも、構いません」祈るような声音で、センテイが縋る。「ほんの、ほんの少し……」
 センテイはワナワナと小刻みに震える手で、自らの顔を覆った。
「たった一夜でも──たった数分、あの子を人間として生かしてくださるのであれば」
 離れがある方角から、プンと強い血のにおいが漂う。自分が辞した時より、遙かに濃く。
 カンヌキはゆっくりと目をつむって、心底追い詰められた気持ちで眉を寄せた。

『庭、すっげえキレー』
 センテイが美しく整えた庭を、二人の子どもが駆ける。

 自分の支配下にあるモノが言いつけを破るところを、カンヌキはずっと、はじめから見ていた。
 カガミの孫に引きずられるように庭を駆けるところも、猫を探して床下に潜るところも。それを制止しなかったのは、もしかしたらそれが“どこかにあったはずの未来”のような気がしたからだ。自分が忍者であることに固執しなければ、この庭を駆けるのはあの子だったかもしれない。
 カンヌキでさえ夢見た景色を目の当たりにして、この老爺に「夢を見るな」というのは無理な話だ。きっと、自分の見たい夢をみただろう。その夢のために、自分の守りたいものを踏みにじってでさえ実現させたいと祈っただろう。最早その祈りが“呪い”と化しても、花実をつけよと。

「お前は、バカだ」
 カンヌキは目映さを誤魔化すように、目元を腕で隠した。頬を涙が伝う。
「本当に、本当に……おまえはバカだ。あれが人間でないことなんて、よく知ってるくせに」
 赤子の姿でありながら世の理に通じ、長じた後には全能となるだろう不死のバケモノ。
 自分の娘の胎から産まれた、自分の娘と同じ顔をした何か。早く殺さなければならないと、そう思っていた。自分の愚かさが産んだ“それ”を、忍者としての本能全てが“消すべし”と訴えている。
 カンヌキの憂慮が分からないセンテイでもあるまいに──カンヌキより遙かに里を愛し守ろうと腐心し続けたのに──そのセンテイが、バケモノ可愛さにカンヌキに毒を盛って脅している。
 センテイは何も言わなかった。多分もう、他に、カンヌキに望むことがないのだ。

「潜脳操砂は使えない。でも、案はある。そして、それをやるのはお前だ」

 月の無い深い夜、あのバケモノの再生速度はガクンと落ちる。
 時間はまだある。あれの体の仕組みも、よく分かっている。伊達に何年も嬲っていたわけではない。世迷い言としか思えぬ話も山と聞いた。あれが死なないのは、トバリが死なないのと同じだ。
 全ては仮定でしかないが、新月の晩、あのバケモノの体からは兎の女神の加護が薄れる。それは再生速度の低下からも明らかだ。しかし、どれだけ傷つけようと死ぬことはない。それは恐らく、この地上のどこかに新月の晩でもあのバケモノにチャクラを送る代替装置か何かがあることを指し示している。あまりに大がかりな延命措置の存在を感じ取ったとき、カンヌキは自然と「何かが、あれを必要としている」と思った。そして「何故、そうまでして」と、そう考えたとき、あのバケモノの体のなかで最も再生速度が高い箇所に思い至る。子宮を埋め尽くす異物について。
 四肢よりも心臓よりも脳よりも一番最初に再生し、物理的に関与できないもの。あれを壊してしまえば、どうなるのか……とふと思ったことがある。壊すことが出来なくとも、あの異物が行っていることを妨害することで、あのバケモノを殺すことが出来るのではないかと思った。
 海馬の再生優先度は、恐らくかなり低い。センテイがどの程度の損傷を与えているかは分からないが、乏しいチャクラで腹回りから再生するなか刻一刻と脳が壊れているはずだ。腹の異物にチャクラを流し込み、海馬の再生を阻害し続けることで、記憶障害に近い状態に持ち込める。
 勿論、ほんのちょっとでもチャクラを惜しんではならない。術者のチャクラが絶えた瞬間、あのバケモノは全ての記憶を取り戻すだろう──唯一心を許していた相手に踏みにじられたことも。

「お前はバカだ。お前一人は味方だと、そう思っているほうがずっと幸せだろうに」
 見なくても、センテイがどんな顔をしているかは分かった。

 目をそらしたまま起き上がると、ぐらつく体を叱咤するため手の甲に爪を立てる。
 毒には疎いが、自分の体の限界は分かる。センテイを手伝う時間を抜きにしても十時間ぐらいは保つに違いない。それだけ余命があれば、何とか雨隠れの基地までたどり着くはずだ。
「やることがあるから、お前の用を済ませたら僕はもう戻らない」
 センテイのことだから解毒剤は準備してあるだろうが、どの道カンヌキにはもう先がない。

「……息子を頼むと、言われました」
 思いがけない言葉に振り向くと、蹲ったままのセンテイが真っ直ぐな視線をくれる。
「母親もねえ、兄貴も死んで、手前ェも今から死んじまう。……だから、これからは暗部から抜けて、兄として父として、一人の人間として傍にいてくれと……あなたをひとりにするなと」
 単に政権が変わったから、父親の犬だから、それで忍者を辞めたのだとずっと思っていた。
 死の床についた父親が最後にセンテイを呼んだことを妬んだこともあった。何度も何度もセンテイは父親の遺言について話そうとしたが、その度に要らない、聞きたくないと拒み続けて、いつしかそんな話があったことさえ忘れていた。どうせ父親は自分のことなぞ要らないのだと拗ねて。
「二代目は、幼い頃から……戦場へ往くのがならいで……何人も弟君を亡くしてます。
 だから初代様を前線へ出さないよう、指揮系統を組み直しました。でも、うちはマダラを討つには初代様が……初代様が亡くなった途端に抜け忍が増えて、ご存じの通りに戦が起きました」
 息も絶え絶えに語ると、センテイは唇を噛んで俯いた。
「二代目が踏ん張らなきゃあ瓦解しちまってたんです、この里は」

 ここは、父親と伯父が見た夢のなれの果て。
 伯父たちは隠れ里システムに望みを託したが、或る意味では隠れ里が成立した時点で更なる戦火は確約されていたのかもしれない。隠れ里システムは忍界のみならず様々な方面に影響を与えた。
 戦国時代が終わり、同国内の忍一族の連盟からなる隠れ里システムが普及すると、それまで暗黙の了解として主軸に据えられることがなかった人的資源が大々的に利用されるようになる。
 例え資源に乏しい国であっても、優れた忍者を輩出することで外貨が稼げる。一人の力で国を豊かにすることも出来る。人々は同国内で奪い合うのを止め、他国から奪うことを覚えた。
 隠れ里システムがあらゆる忍一族にとって希望だったのは無論カンヌキにも分かっている。しかし人的資源が一番役立つ事業が“戦争”である時点で、伯父の夢は絶望と表裏一体の“業”だった。
 そんな業は壊れてしまえと、一体何度呪ったか分からない。

「お前は、親父たちが夢見た未来より……僕より、親父より……あの子が大事なのか?」
 知らず知らず、声が震えた。詰る響きで、問いを続ける。
「それほどまでに大切なら、何故お前のいない世界に追い出す」
「安全で、穏やかで、俺しかいねえ世界に、いってえ何の意味があります」
 センテイが引きつった声で応じた。何かをかみ殺すように、一音一音丁寧に言葉を紡ぐ。


「この庭の外がどんな地獄でも、俺はあの子を追い立てます」


 握りしめた拳から血が滲んでいた。
 本心では、センテイ自身が“あれ”と一緒にいたいのだということが痛いほどに分かる。
 カンヌキも繰り返し、我が子との距離に苦しみ、葛藤した。いつまでも一緒にいたい。我が子を害する全てから守ってやりたい。ずっと赤子のままでいてほしいと、どんなにか祈っただろう。
「その独りよがりで、里も……親父さえ裏切って?」馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに頭を振る。「お前の選択を恨まない保証など、どこにもないのに……きっと、お前の祈りは災いを呼ぶ」
「そしたらあの子が、祈るでしょう」
 カンヌキの皮肉に対して、センテイは間髪入れずに応じた。
「俺の祈りが地獄を生んでも、必ずあの子は祈ります。誰にも災いが及ばぬように、と」
 あんまりにはっきり言うものだから、カンヌキは毒に犯された身の上も忘れて笑ってしまった。
 センテイは脈絡もなく笑い出すカンヌキにギョッとしたものの、すかさず立ち上がる。「坊ちゃん、大丈夫ですか」その台詞も、随分なものだ。息も出来ないほど笑うカンヌキの体を、センテイは自然な仕草で支える。背を撫でるゴツゴツした手は、子供の頃から変わらない。
 実の兄たちよりずっと年が離れていたけれど、一番年上の兄のように感じていた。
 カンヌキの後始末や尻拭いが得意で、植物について詳しくて、父親の代わりに忍者とは何たるかを教え導き、余暇を過ごす友だちでもあり、カンヌキがどれほど愚かな人間でも側にいてくれた。

「僕も、お前の一世一代の賭けが成就するほうに賭けよう」
 ぶるりと大きく震えた指先には死の気配が絡む。
 すっかり小さくなった背に両手を回すと、センテイも毒の回りを察したらしかった。正確には「弟とも息子とも見守ってきた相手に毒を盛ったことへの実感が湧いてきた」と言うべきなのか。
 ワナワナと震える指がカンヌキの背を撫でる。心細げな声音が解毒剤の存在を告げるが、カンヌキは何も聞こえなかったふりで、きっと、センテイが最も聞きたかっただろう言葉を紡ぐ。

「センテイ。あの子が庭の外に誰か見つけるまで、一緒にいてやってくれ」

花々の青い骨

 全ての地獄は、はじめは小さな祈りだった。
 この世界が産む資産も時間も、何もかもが有限で、人が群れ集まれば個々の才能に応じた格差が生じる。ただ祈れば何のリスクもなしにそれが叶うわけではない。神がいないなら、自らの力で切り進むしかない。そうした現実の前に、所詮“祈り”は自らの欲を満たすための方便にしかなりえなかった。祈りなど自己正当化の一種に過ぎない。それが例え純粋な善意によって生まれたものであれ、寧ろ、その祈りがうつくしければうつくしいほど苛烈な業を産む。
 業と化した時点で罪なのか、それとも遅かれ早かれ絶望をまき散らすなら、祈った時点で罪なのか。一つの祈りが結実した暁に一つの地獄を産むのなら、その“願望”を如何するべきだろう。

 きっと、たぶん……その幾重にも連なる地獄のなかで祈るから“命”なのだ。
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