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目を輝かせてリツはステージに見入っていた。
「すごい……」
普段ネクスト能力を使ってヒーロー活動している中にいるとあちこち飛び回るのが普通のように感じてしまうが、
そこにエンタテインメント性を合わせたアクロバティックスタントは目を見張るものがある。
人間、動物、そしてネクストの三位一体を表すトリニティサーカスはどの演目も素晴らしい。
しかしその実、暗い歴史のあるサーカスなのだと聞いた。
トリニティサーカス団長であるカカオ・ローストが今の団長になる前はそのサーカスの実状は酷いもので、
ネクスト差別のひどい地域からネクストの子供を買う人身売買まで行われていたらしい。
カカオ・ロースト自身もその一人なのだと聞いた。
児童福祉法の制定により子供がサーカスに出られなくなると今度は見た目が成長しないよう食事を制限したりホルモンの阻害薬を飲ませたりして
見た目の成長を遅らせるようなこともあったと聞く。カカオ・ローストが冗談めかして話してはいたが、その被害者が誰であるかは一目瞭然だった。
そんなことが前団長……つまり五年前まで行われていたとは誰が予想しただろうか。
前団長は練習中の不幸な事故で亡くなったと聞く。
団長がカカオ・ローストに代わり、今は幸せだと、団員は口を揃えて言っていた。
同じ仕事仲間とはいえリツの関わらない仕事で得た情報を口外するわけにはいかないので彼女には言えないが。
眼下にはトリニティ・サーカスの一番人気であるシャルルがいた。
ピンク色に染め上げた髪を揺らしステージを翔ける。
細い体には無駄のない筋肉がつきしなやかに体を動かし宙を舞う。
ネクストではない彼女はどんな危険な演目も完璧にこなす。
危険だからこそやるのだとインタビューに答えていた。
「シャルルちゃん、でしたっけ」
「ああ、そうだね」
「凄いですねあんなに高いところに命綱もなしに……」
君だってワイヤー一本で高いところを移動するじゃないか。
一歩間違えればビルに叩きつけられたり、ワイヤーが故障すれば落下の可能性もある。リツの方がよほど恐ろしいことをしているよ。
とは言えずに苦笑いで返す。
サーカスで一番人気の演者よりもつい横のリツを見てしまう。
「!」
ステージに夢中のはずのリツと目が合った。
目が合ってはにかむ彼女はサーカスの一番人気の演者よりも輝いて見えた。
*
「で?」
「とても楽しかったよ!」
「そーじゃなくてよ ……サーカスの後飯食って終了か?」
「いけなかっただろうか?屋台を回って……手……手を繋いでしまったよ」
健全!!
スカイハイの頬が紅潮している。
手をつないだだけか。
もっと下心を持てば良いものを。
「ま、まあデート初回ならいいんじゃねーの……?」
なんて甘酸っぱい恋をしているんだこのキングオブヒーローは。
「バーナビーくんにもチケットを融通してくれたお礼を言いたいのだが……」
「バニーはサーカスの方でまだ、な」
そうか。とスカイハイは小さくつぶやく。
「早くリツには戻ってきて欲しいよ」
「まあ、そうだな」
リツがいないだけでスカイハイは心ここにあらず状態の時もしばしば見られる。
キングオブヒーローのモチベーションと俺の賠償責任回避のためにも是非早々にリツには現場復帰をしてもらいたい。
リツがなぜ休んでいるのか俺は知らない。
体調不良ってことにはなっているが、スカイハイと出かけられるくらいな訳だし恐らく違う要因があるのだろう。
ーー俺が考えてもしゃーないか。
力になってやりたいのもやまやまだが、きっとリツは俺に助けを求めたりしない。おじさんのお節介がすぎるとバニーちゃんにどやされそうだ。
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