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「トリニティサーカスですか?」

『そうだ!今仕事で出入りしているんだがとてもすばらしいよ。一度きちんと見てみたくてね。付き合ってもらえるかい?』

「ええ喜んで!」

トリニティサーカス。世界中を回っているサーカスだ。

道化芸、空中芸、ネクスト能力を使用したり、都市部では見られない大きな動物たちも曲芸をこなすらしい。可愛らしい少女がおどっているCMはテレビをつければ頻繁に目にする。

「あ、でも仕事で出入りって……?」

『ああ、主にワイルド君たちが担当しているのだが、サーカスの一番人気の演者に脅迫と犯行予告があってね……』

そんな事があったのか。知らなかった。

『仕事は抜きにして是非リツと一緒に見たいんだ!』

「そうなんですか。楽しみにしてます」

待ち合わせを決めて通信を切った。
楽しみだけれど気をつけなければ。

いつもスカイハイといる時はトレーニングセンターか現場、事後処理の時。こうやって仕事を抜きにして二人で会うのは初めてだ。

ふとホテルのクロゼットに視線をやる。

そういえばデートに来ていくような服なんて持ってきてない。
いつもはトレーニングウェアや動きやすい作業服で、
この仕事を始めてからは私服も突然の出動に対応できるようなものしか着ていない。

「買いに行きますか?」

「うん……ちょっと勉強中断します……」

視線一つで察してくれる兄は服の相談にも乗ってくれるだろうか。











落ち着かない。
普段着ることの無いワンピースは歩く度に裾が心もとなく揺れる。


ユーリさんに送ってもらい、スカイハイとの待ち合わせ場所についた。
まだ約束の時間の一時間前。

何かあった時(縁起でもないけれど)のために周辺を下見しておきたかった。
半径2キロメートルのイベント開催区画全てトリニティサーカスが借りているらしい。
ユーリさんに頼んで直前に見せてもらったイベント区画使用の申請書を(これの管轄は司法局ではないはずなのによく手に入ったものだ)思い出しながら見て回る。

赤、黄、白の縞模様の大きなテントにその周辺にはイベントグッズを売る簡易店舗やいい匂いのする屋台が並んでいた。

屋台が使用しているガスボンベの数や風船用のヘリウムなど「万が一」になりうるものを全て頭に詰め込む。

「!」

サーカスの演者だろうか。
派手な服に身を包んだ女性がいた。

日傘をさし、オカッパのように切りそろえられた黒髪、目玉のイヤリング。

市松模様のメガネの奥にある目と一瞬視線が交わった。

「?」

周りを見ていて目が合ったという感じではない。不思議なその感覚はモヤモヤと胸の中に残った。











待ち合わせ時間の十分前に戻ると既にそこには私服姿のスカイハイがいた。

「やあリツ!」

「すみませんお待たせしちゃいましたか」

今日も笑顔が眩しい。
スカイハイの案内でテントの中に入る。
席は二階の最前列。開演三十分前で既にほとんどの席が埋まっていた。

「!」

私服のワイルドタイガーがいた。
「ス……キースさん、あそこ……」

「ああ、ワイルド君だね。バーナビー君もだけれど二人は今日はシャルルという女の子のボディガードだよ」

「え?」

「オープニングイベントでは私も待機していたよ。何事もなく無事に終わったけどね」

そうなんだ。
トリニティ・サーカス関係の仕事についてはちょくちょく聞いていたけれど、
ボディガードだと聞いていたので私には関係ない仕事だと特に気にしていなかった。


「始まるようだよ」

スカイハイの言葉とともに、会場の照明が落ちた。



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