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▼ (16)誘拐2

「え?ええ?どうなってんだ?」

おじさんは目を丸くしてカカオさんを上から下まで何度も視線を往復させている。

「てっきりシャルルちゃんがスワローテイルなんだとばっかり……
てか身長……え? まじでどうなってんの?」

「ああ、股関節当たりから義足です。
足だけ短くすると裸やと違和感ありまくりですけど、それなりに調整した服ならちゃーんと普通に見えるでしょう?」

帽子をテーブルに放り、団員が持ち込んだパソコンの画面をのぞく。

「犯人はとある犯罪組織の末端です。
昔っからボクのネクスト能力をかけたモノは高値で取引されてましてねえ。
主に前の団長が取引してはったんですけど、も……」

画面をスクロールさせる。シュテルンビルトの地図に何箇所も赤い点が光り、動いていた。

「赤いのはうちの団員です。黄色いのがボク、ピンクがシャルルです。
ボクとシャルルは皮膚の下に発信器入れてるんですけどね」

画面にピンク色の表示はない。

「んで、ボクが団長になってからはソレを回収してまわってました。
サーカスで使うてるんは改善してあるんですけど……
昔のは副作用みたいなンが出ることがわかりまして」

副作用。
ぼうっとして動けなくなるアレだろうか。

「んー、やっぱ映らんみたいやね……あのネクスト能力の狭間におるみたいやねえ……バーナビーはん、シャルルは壁に引き込まれたんでしたっけ?」

「ええ。壁から手が出てきて、シャルルさんが「実行犯はディリック・レジャン。お取り引き何度も断ってる相手ですなー」

「お知り合いでしたか」

カカオさんは大仰にため息をつき型をすくめた。

「あんなバリバリの犯罪者と知り合いて……勘弁してほしいですわ」

カカオさんは何度も画面をスクロールさせるが、やはりピンク色の点は見当たらない。

「ディリック・レジャンは壁の中や地中を移動できるネクストです……一番最初の脅迫状を送り付けてきた犯人やと思います。
今日届いたウロボロス名乗った脅迫状とはまた別……のはずです」

「!」

部屋に電子音が鳴り響いた。

カカオさんはテーブルにおいてある携帯電話に手を伸ばす。

「……はい」

『シャルルは預かった』

「知ってます」

スピーカーに設定したのか相手の声がこちらにも聞こえてくる。
嗄れた男の声だ。

『チャームを仕込んだものと交換で返してやる』

「仕方ありまへんな。シャルルの命には代えられんしな。シャルルの声聞かせてもらいたいんやけど」

ガサガサと雑音が入った後、シャルルの声が聞こえた。

『……ごめんカカオ逃げらんない目隠しされてる』

「まあ仕方あらへん。生きてて何よりや。絶対助けるさかい泣いたらあかんで」

『チャームを仕込んだもの50個、二時間後までに用意しろ。取引場所はまた連絡する』

通話が切れ、カカオさんはため息をついた。

「カカオさん、チャームとは……」

カカオさんは目を伏せた。

「ボクのネクストの本質です。
魅了(チャーム)……もちろんサーカスのエフェクトはただの見せかけですよ。
やばいヤツは持ち主に魅せられたかのようにわらわら人が集まって、
まあ、何となくわかりますデショ」

サーカスの女性がカカオさんにジュラルミンのケースを差し出した。
鍵のかけられていないそれを開けると、中には様々な装飾品が入っていた。

「さーて、やりますよ。あんま見たらあきまへんで」










「さあて、さて。早く来てくれへんかね」

カカオさんは義足で危なげもなく屋根の上に登る。
屋根に登る意味はあるのだろうか。

シャルルとチャームを仕込んだものの受け渡し場所として犯人はイベント開催区画の端、海側の倉庫を指定してきた。
スワローテイルの格好をした彼はステッキとジュラルミンケースをもち、姿勢よくまっすぐ立っている。

『カカオ、ピンクの光が出た。ネクスト能力の影響下から出たみたいだ』

「りょーかい」

服に仕込んだマイクと帽子に仕込んだスピーカー。
僕らはすぐ近くに身を潜めて犯人を待つ。

カカオさんははじめヒーローの同行を拒んだ。
サーカスの団員のみで良いと言うカカオさんを説得しなんとか付いてきた。

遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。

『シャルルの光は移動していない。三人シャルルの方に向かわせた』

「……」

カカオさんはまっすぐ車の方を見ている。

やがて一台の黒いバンが現れた。

カカオさんは車から出てきた男目掛けジュラルミンのケースを放り投げた。

カカオさんの眼下にはいかにもガラのわるそうな男が一人、下卑た笑いを浮かべている。

「やっぱりあんたがスワローテイルか」
「約束通りチャーム50、中身確かめたらシャルルをはよ返し」

「はじめから取引に応じりゃこんな事にならなかったのになァ」

「わざわざスワローテイルが来てやったんやで。すぐに取り返したるさかい覚悟し」

ドン、と屋根をステッキで突く。
男は笑いジュラルミンケースに手をかけた。

「なんだしけてんな。メッキもん混ざってるじゃねえか」

「うっさいわ。シャルルはどこにおるん。車には乗ってないみたいやけど」

『保護』

スピーカーから聞こえたその一言でカカオさんは身を翻した。

屋根から飛び降り、そのまま男に飛びかかる。

「カカオさん!!」

カカオさんがステッキを振りかざすと、先端から鋭いものが飛び出した。

ーー仕込み杖か!

男の顔めがけ振り下ろす。

おじさんと共に能力を発動させ取り押さえようとするがハンドレットパワーを発動してもなお、彼の動きは早く感じられた。

ぎょろり、とカカオさんが横目でこちらを見た。

「!」

瞳孔の開いた目に射貫かれる。

カカオさんは男をなぎ倒し、取り押さえようとするおじさんの手を振り払う。
そのまま男を地面に倒し肘で首を抑え仕込み杖の先端を男の肩に突き刺した。

「誰の命令で動いた!」

「カカオさん!やりすぎです!」
男からカカオさんを引き剥がす。
おじさんが誘拐犯を拘束するが、ずぶりと男の脚が地面にめり込んだ。

「離せ!逃げられる!」

暴れるカカオさんを離すわけにはいかない。

「だっ!? コイツ!このやろ!!」

みるみる男は地面に潜り込み、ついには逃げられてしまった。

「どうしてくれる!」

振り向いたカカオさんはいつものような少しふざけた穏和さは欠片もない、鬼の形相をしていた。

「あいつのいた組織はとっくに解体されて!なのに要求は50!! これがどういう事か『カカオ』

スピーカーから聞こえた声にぴたり、と動きが止まった。

「シャルル?」

『バカカオうるさい。全部こっちに聞こえてる』
「怪我は」
『バカカオのせいで鼓膜が危ない』

カカオさんは地面にしゃがみこんだ。

「はぁ〜〜もぉええわ。あーもうサイアクやあああああ『うるさい』

シャルルとカカオさんは新しく別のホテルに移動、シャルルはメディカルチェックを受け一旦シャルル誘拐事件は収束した。



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