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▼ (15)誘拐


「申し訳ありません我々ヒーローが付いていながら」

シャルルが誘拐された。

「……」

カカオさんは何も言わずソファに身を沈め項垂れている。
目を右手で覆い、唯一見えている口元はいつものように笑うことなくかたく結ばれている。

「今ヒーロー全員と警察で捜索しています。
シュテルンメダイユ地区の防犯カメラも解析していますので」

僕とおじさんはホテルに残りカカオさんの護衛及び誘拐犯からの連絡、接触待ちだ。

シャルルの誘拐はサーカスの団員たちにも伝えられた。
シャルルの事だ、すぐに逃げ出して連絡してくるだろう、犯人の財布の一つでもくすねてくるんじゃないかと笑っていた団員も三時間程経過したあたりでその表情に焦りが見え始めた。


シャルルをホテルに送り届け従業員用通用口から入ろうとした時だった。

壁から手が伸び、シャルルの襟首をつかみそのまま壁へと引き込まれてしまったのだ。

シャルルを引き込んだ壁はかたく、あとを追うことはかなわなかった。

あの手は確かに青く光っていた。
起こった事象からしてもネクストの犯行だろう。

明日の公演の為会場に残っていたカカオさんに一報を入れると、彼は珍しくその表情を崩した。

何があっても余裕綽々といった笑みを浮かべ、焦ることもない、ゆったりとした喋り方。


「!」


ドアがノックされた。

おじさんが開けると、団員たちがいた。皆一様に険しい表情をしている。

「カカオ、俺達も探そう」

「……」

口火を切ったのはたこ焼き屋の主人だ。

「あいつが逃げられねえって事はよっぽどの相手だ。
今までだって自力で逃げてきてただろう。
手足縛られてたってあいつは!」

僕達の方を見て言葉を呑み込む。

「俺らだってネクストだ。……なんとか言えよカカオ!」

何も言わない団長に業を煮やしたのか、ソファに歩み寄り乱暴にカカオさんの目を覆っている手を掴んだ。

「……痛いですやん」

「シャルルはまさに今アンタより痛いめにあってるかもしれないんだぞ」

このたこ焼き屋の主人は直情型のようだ。

「明日の公演はどうするつもりだ」

どうするも何も中止に決まっている。
シャルルが見つかったとしてもそのままステージに上がることなど無理だ。シャルル不在のまま公演をするのかもしれないが、いかにプロとはいえ団員たちの様子を見れば演技どころではない。

「……やるに決まってるデショ。寝不足やてブーたれんなや?
ネクストはココに全員集合、非ネクストは発信器とカメラ持って散らばり。
動けんやつはパソコン持ってココに缶詰めな」

よっこらせ、と小さくつぶやきカカオさんは立ち上がった。

「着替えて来ます」









「へ?」

寝室から現れたカカオさんをみておじさんは気の抜けた声を出した。
たこ焼き屋の主人はこめかみを抑えた。
「おいカカオ」
「もう仕方あらへん。タイガーはん、バーナビーはん、まだ捕まえんといて下さいね」

いつも見ている姿より頭一つ分以上小さい。
高そうな燕尾服に身を包み、帽子を胸に抱えて笑う。
腰を折って優雅に一礼。

「まあ、ニセモノの一人、ってとこですわ」




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