▼ (14)見えないテロリスト
「……」
随分と小さな爆弾にため息が出た。
「折紙先輩……これ、爆弾じゃなくて演出用の装置です」
確かに火薬を使用しているし衝撃を与えて爆発させるタイプではあるが、
危険物としての使用申請はきちんとされているし、カートリッジ単体を火にくべたりハンマーで叩いたりしない限り危険はない。
「そ、そうでござったか……申し訳ないでござる……」
「いえ、気にしないでください。ただ、このような所に……持ち去り悪用できる様な所に放置してあるのは危険ですね」
『おーいバニー、大丈夫か? 』
スピーカーからおじさんの声がした。
「爆発物でしたが爆弾ではありませんでした。」
「も、申し訳ないでござる……」
相変わらず後の方でこっそりと見切れている折紙先輩をチラリと見て答える。勘違いするのも仕方がない形状なのだからそんなに萎縮しないで欲しい。
続いてアニエスさんの声。
『ハァイ、今ロックバイソンが不審者を確保したわ。団長のカカオ・ローストに会わせろと暴れていたみたいね……え?ドラゴンキッドも?
ドラゴンキッドも不審者確保。こっちはサーカスのテントに向かって銃を向けていたそうよ。
え?何なの次はスカイハイもなの?』
次から次へとアニエスさんに報告が入ってくる。
随分とこのサーカスをよく思わない者が多いようだ。
『……サーカスのテントの上に過激なラブレターが届いたみたいよ。
差出人は、ウロボロス』
*
「あちゃー、困りましたなぁ」
過激なラブレターこと脅迫状を読んだカカオさんは眉を八の字にしてため息をついた。
「うちはサーカスであって、テロリストの勧誘は困るんやけど」
ウロボロス。
父と母の、仇。
この人はウロボロスのマークを見てテロリストと言った。何か詳しいことを知っているのだろうか。
「……カカオさん、ウロボロスをご存知ですか?」
「いいえー。知りまへんなぁ……風の噂でテロリストゆう事ぐらいですかねぇー」
脅迫状はサーカスの団員のネクスト能力の特徴を羅列し、それらの者を物騒な言葉で勧誘する内容だった。
「このテレポーテーションって誰のことです」
「そんなネクストは居てません」
テレポーテーション
これはスワローテイルとシャルルを結びつけるものだ。
シャルルがテレポートのネクストならばスワローテイルの正体で確定だ。
「カカオさん」
「せやからおりません。うちのサーカス見ていれば分かるでしょう?
そんなすんごいネクストおったらもっと派手な演出に使いますわ」
カカオさんはネクスト能力を発動させ、
トランプのマークがあしらわれた脅迫状を燃やすように赤い光を炎のように揺らめかせる。が、見せかけだけで実際に燃えることは無い。
「それにしてもよう調べとりますなぁ……体の液体化は公表してへんしステージでもそうと分かるようには使うてへんし、
蜂になる子も公表してへんし、
んー?魅力結晶化、ねえ……へーえ」
カカオさんは三日月型に口を歪め笑った。
「ハーナビーはんはウロボロスに何か思うところがあるみたいですけど……まあ、よろしくお願いしますよ。
ウロボロス捕まえたらちょーっとお話せな」
*
結局その後もあれよあれよと不審者の確保、不審物の発見が相次
いだ。
すべて警察に引渡し、オープニングイベントは中止されることなく無事に全てのプログラムを終えた。
「もうボクくたくただよ……でもこのたこ焼き美味しいね!」
「お疲れさんでしたー!
いやーおかげさんでなんとか中止せんと済みましたわぁ……もう皆さんにはなんてお礼したらええか……」
おみやげに、と屋台の食べ物やらグッズやらを渡された。
「ほんまはこの後打ち上げにもお誘いしたいんですけど、お顔のソレ外せない人もおりますやろ?
食べれない飲めないは辛いやろしほらシャルルもご挨拶!」
「……ありがとうございました」
ピンクの髪の少女は無愛想にそう礼を告げるとぺこりと頭を下げた。
「でもいいんですか?結局脅迫状の犯人は捕まえられませんでした」
今日一日で拘束した人間の中には脅迫状の送り主はいなかった。しらばっくれているだけかもしれないが、ウロボロスの名前を見た以上何か引っかかる。
「シャルルちゃんの事はこれからも引き続きお願いします。
脅迫はまあ、こんな派手なことしている身では日常茶飯事ですからねぇ」
けたけたとカカオさんは笑った。
「ちょっとばかしシュテルンビルトは治安がよろしくないさかい今回はヒーローの皆はんにお願いしたんですよ。
普段の興行中は普通の警備員しか雇いません。たとえ脅迫状がじゃんじゃん届いたとしても」
「だっ そんなに届くもんなのかソレ……」
「金の匂いがするもんには力にものを言わせてたかろうとする下衆いたお人が多いんですわ」
それはサーカスに限ったことではない。大きな組織をまとめる人間はつねに気をつけなければならないが、いちいち相手にしていられないのも事実。
「ほな、今夜は早めに休むことにします。
シャルルー、ホテル帰るでー」
そしてその夜、シャルルは誘拐された。
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