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▼ (13)開幕

早朝、スカイハイと交代しシャルルの隣の部屋で仮眠をとる。
昨日の昼間の騒動でだいぶ疲労がたまっていたらしく、シャワーを浴びてベッドに入れば何も考える暇なく眠りに落ちた。

PDAのけたたましい呼出音に無理やり意識を引っ張りあげられスッキリとしない頭で応答する。

『おーう、おきたか?先に会場行ってるわ。シャルルちゃんはスカイハイともう会場に居るってよ!
時間までに来いよー!』

寝起きからおじさんの顔のドアップ。
無言で通信を切った。

すぐにまたビープ音が鳴る。

『話は最後まで聞けって!
シャルルちゃんのお気に入りのチョコレートホテルに忘れたらしくてよ。
バニー、持ってきてく「わかりました」

最後まで聞かずに切る。約四時間の睡眠。頭をすっきりとさせるためシャワーを浴びよう。
シャルルの部屋を覗けばテーブルの上にあのチョコレートの箱があった。











会場に着けば既に人でごった返していた。
あちこちでカカオさんのエフェクトが飛んでいる。
マーチングの演奏や外に設置してある簡易ステージからの歓声。賑やかで華やかですれ違う人々は皆笑顔だ。
親子、恋人、友人。
幸せそうな姿を見るとどうしようもない感情が沸き上がる。
こんなものは、とっくに諦めたものなのに。



カラフルなテントに入れば既に公演が始まっていた。

昨日確認した、彼女が着替えや幕間の休憩に使うスペースに、
持ってきたチョコレートを置く。

「バーナビーはん!シャルルの忘れ物ありがとうございました〜あれないとシャルルのモチベーションがあれでして。
もーどないしよかと思いましたわ」

青い燐光が彼を縁どっている。ステージでも彼のエフェクトが飛んでいるのだろう。

「不審物も不審者も今のところ見つかってないみたいで。何事もなく終わるとええんですがね……」

彼はインカムをつつく。特別にヒーローともつながる回線を用意したのだとアニエスさんから聞かされている。

ヒーローTV以外にも舞台裏の撮影をしようと局のカメラやスタッフがあちこちにいる。
21カラットのダイヤの時といい、トリニティサーカスはメディアへの対応はとても好意的だ。

「明日からはヒーローの皆さんも交代で休みがあるんでしょう?
もしコイビトと見に来てくれはるんならチケット融通しますんでいつでも言うて下さいね」

……親指を立てて言い切る彼のその指を反対側にへし折りたくなった。











「バーナビーです。異常ありません」

『こっちも異常ナシ。ほんとに今日何かあるの?犯行予告イタズラだったんじゃ』

『こちらも異常なしだ!特に異常はない!』

二十分ごとに何もなくても報告。他のヒーローの報告を聞き流し、客席からは見えないステージの袖から舞台を見守る。

相変わらずシャルルは舞台の上では笑顔だ。
綺麗に整った顔に愛らしい化粧。
舞台用のメイクが施されている今は派手な仕上がりだが、せっかく整っているのだから普段から笑えばいいのに、と思う。そこまで考えて嘆息する。
ビジネス以外で笑えなくなった事情を鑑みるとそれも仕方がないのかもしれない。

シャルルは大きなネットのトランポリンで壁を駆け上がる。すこしでもバランスを崩してネットに触れれば変な方向に飛んでいくし、おかしな角度で落ちれば怪我だってする。
くるりと回ったりアクロバットな技を決めたりと彼女の演技は見ていて飽きない。

「よ!スゲーよなシャルルちゃん。シャルルちゃんだけじゃなくて周りの人たちもスゲーけど」

確かに目立つシャルルにばかりつい目がいってしまうが、ほかの演者の技術も素晴らしい。

「今折紙が楽屋の見回り行ってる。外も異常なしみてェだし、案外何も起こらねーまま終わるかもな。
昨日の件であちこちピリピリしてっけど……あ、そうそう、昨日のたこ焼き屋のおっちゃんが昼までに差し入れしてくれるってよ」

タコ焼き。タコが美味しいという知識はある。食わず嫌いがいけないという事も理解しているつもりだ。
だがどうしてもあの悪魔のようなうねる軟体生物のぶつ切りを口にする想像をしただけで全身が粟立つ。

「……僕は遠慮しておきます」

「あー、まあなんだ……昨日みたいにタコ以外も作ってくれてるといいな」



『ボンジュー・ヒーロー』

ヘルメットのスピーカーからアニエスさんのお決まりのセリフが聞こえてきた。

『折紙サイクロンからの報告よ……演者の楽屋に爆弾のようなものがあったそうよ。
バーナビー、あなた爆弾の知識あるわよね?今すぐ現場にGO!!』


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