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▼ (12)祝福

華やかな世界の裏側

カカオさんに言われたその一言が頭から離れない。

サーカスはとても華やかだ。しかしその華やかさの裏側には先代の団長の行いあってのもので、
様々な理由があれどその行いは決して正当化できるものではなく非人道的と言わざるを得ない。


スワローテイルが狙った乙女の涙。
これも持ち主は華やかな映画の世界で輝く女優。
無名だった彼女は乙女の涙を手にし一躍銀盤のスターとなった。


熱砂の花を手に入れた美容外科医、茨の女王を所有していたロボット工学者。
それぞれの分野で活躍し脚光を浴びていた。

そして21カラットのダイヤモンドを持つトリニティ・サーカス団長カカオ・ロースト。

トリニティ・サーカスは世界各地で公演し興行収入は小さな国の国家予算を超えたとも言われる人気サーカス団だ。
彼一人、『魔法』が失われることを恐れなかった。

やはり彼がその『魔法』のネクストなのだろうか。

「……」

次で最後。
シュテルンビルトのメディア王……狙われるものはマーベリックさんの『何か』

一体何を狙うつもりなのだろう。

携帯電話を取り出しマーベリックさんの番号を表示させる。
両親が亡くして以来僕を育ててくれた。彼の助言でヒーローを目指し、この名前でヒーローになることを決めた。
ヒーローとして彼のものを守ることが出来ればーーだが、マーベリックさんはカカオさんの言う『魔法』の掛かったものを所持しているという事になる。

マーベリックさんは、それを使って……
そこまで考えてかぶりを振る。そんなはずが無い。マーベリックさんはそんな事をしない。

数コールのあと伝言サービスのガイダンスが流れた。

「……僕です。スワローテイルの件でお聞きしたいことがあります」










「どうしたんだい、バーナビー」

「スワローテイルの件でお聞きしたいことがあるんです」

久しぶりの社長室。
すぐに折り返しの電話があり、おじさんに「くれぐれも」とシャルルのことを頼んで一人アポロンメディアに戻ってきた。

マーベリックさんはいつもと変わらない慣れた手つきでコーヒーを入れている。

「マーベリックさんは、スワローテイルに狙われている物に心当たりはありませんか?」

「……無いね。予告状にも何を狙うのか書いていなかったし、私にはさっぱりだよ」

「魅力や魔法、と聞いて思い浮かぶものはありませんか?」

魅力、と小さくつぶやき、マーベリックさんは考え込む。

「……コンチネンタルエリアで活躍するヒーローで、
公にはなっていないが人を惹きつける、そういうネクスト能力を持つ女性がいるらしい」

「……え?」

コーヒーを一口。
ややあってからマーベリックさんは口を開いた。


「表向きは別のネクストということになっているが、事情を知るものたちは『祝福』と呼んでいる」

「それは……どういう……」

誰にも口外しないで欲しいと前置きをしてから告げられた言葉に僕は絶句した。


これでは、振り出しではないか。

「しつこいようだが、誰にも言ってはいけないよ、バーナビー」











「リックはカカオの前の団長」

「え?」

「リック・カーネギー。カカオがはぐらかしてたから教えただけ」

夜、またシャルルのボディガードとしてホテルを訪ねれば開口一番そう言われた。

「あ、ありがとうございます」

「あいつは練習中の事故で死んだ」

相変わらず彼女は色紙にサインを量産している。

「嬉しかった」

「え?」

ポジティブな言葉とは裏腹にその文脈から読み取れるネガティブさに思わず聞き返した。

「嬉しかった、とは……」

「あいつはみんなをいじめるから」

『華やかな世界の裏っかわ』
カカオさんの言葉がよぎる。

シャルルは色紙を力任せに折り曲げゴミ箱に乱暴にねじこんだ。

「リックは金儲けしか考えない極悪人」

新しい色紙を開封してまたペンを滑らせる。

「みんなリックが死んで良かったと思っている。リックが作ったサーカスもこの興行でおしまい。やっと……」

「!」

ドアがノックされた。

手でシャルルさんを制しドアスコープから外をのぞく。

廊下には私服姿のドラゴンキッドがいた。


「アニエスさんから連絡が来て、タイガーさんの代わりに行ってほしいって言われたんだ」

椅子に腰掛け足をプラプラと遊ばせている。

おじさんからは何の連絡もない。ホウレンソウとかよく分からないことを言うくせに、これだからおじさんは。

「……」

またシャルルは黙ってしまった。

サインの量産は中断し、ストレッチをしている。

「柔軟、手伝う?」

ドラゴンキッドがシャルルに話しかける。

見た目だけなら彼女らは同年代くらいに見える。いや、ドラゴンキッドの方が少し年上に見えるかもしれない。

これで推定二十歳以上とは思えない。

ぎゅ、とドラゴンキッドはシャルルの背を押す。

「うわーシャルルさん柔らかいね!」

「……」

「痛くないの?」

「平気」

足を180度開きぺたりと上体を倒す。

「ね、ねえ、じゃあこれは?」

これは、と言ってドラゴンキッドは……何をしているのだろう。

「ヨガのポーズなんだけどね、ここ伸びて気持ちいいんだよ」

「……どうなってるの、あなたの体」

「えっ?シャルルさんくらい体柔らかいなら楽勝だと思うよ」

「……理解出来ない」




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