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▼ (11)リハーサルと裏っかわ4

シャルルの控え室に急いで向かえば、ソファに沈んでいたはずの少女の姿は無かった。

点滴台は倒れ、引き抜かれたチューブの先からは絶えず輸液が流れ水たまりを作っていた。

「ごめん、控え室がノックされてサーカスの人がきて、寝てるシャルルさんのかわりにお弁当受け取ったんだけど……」

爆発音がして窓から外を確認し振り向けば既にシャルルの姿はなかったらしい。

ドラゴンキッドは唇を強く噛み締めている。
シャルルが仮説通りスワローテイルならば恐らくその一瞬でどこかに消えたのだろう。
誰が側にいても恐らく同じ結果になったはずだ。

「ここにいても仕方ありません。とにかく探しましょう」
『だっ!? シャルルちゃん!?』

探しましょう、と踵を返したところでスピーカーからおじさんの声が響いた。

『バニー! シャルルちゃんはこっちだ!』

「!」

ヘルメットのフェイスシールドを下ろしおじさんの位置を表示させる。
場所は約1キロメートル先の小屋ーーさっき爆発のあったところだ。

「おじさん、状況は」

『団長さんは無事だ。腕に銃弾がかすってるけどな。その銃弾がショー用の火薬に当たって爆発』

『んで、銃ぶっぱなしたヤツ取っ捕まえてたらいつの間にかシャルルちゃんがいてだな……』










「馬鹿じゃないのカカオ」

「それはコッチのセリフやでぇシャルル。ドッカンドッカンいうてる所に突っ込んでくる子がどこにおるん? え? 明日開幕やねんよ?
アホなんも一生懸命な女の子もアイドル的に合格やけど、プロとしては不合格どころか失格やで」

地べたに座り込み、ニコニコと笑顔のままでカカオさんはシャルルの頬を摘み、
シャルルは無表情で拳をカカオさんの喉にグリグリと押し付け圧迫している。

「ヒーローはんに助け求める合図はしとったんよ。ほれ見、タイガーはんとファイヤーエンブレムはんにロックバイソンはんが助けてくれはっ「それでも怪我してる」

カカオさんの二の腕は銃弾がかすりジャケットが裂け血が出ている。止血のためカカオさんのハンカチで圧迫してはいるが病院で縫った方が良さそうだ。

「これくらいヘーキやがな。ダンテに噛まれた時に比べたらかゆいかゆい。
あ、ダンテいいますのはうちのサーカスにおるライオンのことで……まあ、安全ですよ?」

噛まれた前歴があって安全と言い切るとは。

苦々しく舌打ちをする犯人を見る。
行列誘導用の丈夫なロープで縛り上げられ、警察が到着し次第引き渡すことになっている。

「なーんでこんなことしたんだよ」

「……」

おじさんが事情聴取もどきをしているが、犯人が口を開くことは無かった。










「カカオさん」

やらなければいけないことが沢山やるからと病院での手当を頑なに拒み、簡単に手当をした後またカカオさんは現場に立ち指示を飛ばしたりと忙しそうだった。

「はいなんでしょ?さっきの件の事でしたら警察に話したことで全部ですよ……サーカスの売上を献上しないと明日滅茶苦茶にしてまうでーって」

「リックさんとはどなたです?取引きについてもお聞きしたいのですが」

カカオさんはニコニコといつものように笑っている。

「……バーナビーはん、こーゆー業界のそーゆー所はつついたらあきまへん。
正義のお人に言うのもなんですけど、昔っからしがらみが多くて……
バーナビーはんが知らないだけでここ、シュテルンビルトもようさんあるとおもいますよ。

華やかな世界の裏っかわ」

意味ありげに目を細める。
唇の前に人差し指を立て、にんまりと唇を歪めた。

「サーカスも、スワローテイルがおっかける魔法も、

ヒーローも、ね」




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