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▼ (10)リハーサルと裏っかわ3

『シュテルンビルトメディア王
あなたの魅力をいただくわ

私の最後の大仕事、キレイに撮ってね byスワローテイル

だそうよ』



スワローテイルからの予告状。
日時の記載や具体的なターゲットも記されておらず、対応に困っているのだという。

『最後の大仕事ですって。このチャンスを逃したらもうスワローテイルを捕まえられないわよ』


シュテルンビルトのメディア王


マーベリックさんの事だろうか。


『社長から話を聞いたんだけど心当たりはないそうよ。一体何を狙うつもりかしら』

ステージの裏でアニエスさんの言葉を聞く。
もう少しでシャルルの出番だ。
ほかの団員達とステージに出るようで、皆それぞれ動物を模した衣装を着て、
様々な大きな果物のオブジェを抱えている。


小走りで姿勢よく飛び出していく。
跳んだり跳ねたり並外れた跳躍力を見せる者もいれば、
体を肥大させゴロゴロと転がりながら出ていく者もいた。

入れ替わりでカカオさんが戻ってくる。

「はぁあああっ!!シャルルちゃんかわええっ! 見ましたバーナビーはん!シャルルちゃんのフワフワ白うさぎ!!」

ウサギ。
おじさんのせいでウサギはあまり見たくない。

「コンチネンタルではセクシー黒うさぎと小悪魔猫たんでブロマイド売れる売れる!
今回も期待できそうやわぁ〜」

ブロマイド。確か彼女のブロマイドは累計一億超えているとかロイズさんが言っていた気がする。

「蜜蜂やらお花の妖精やらもう何着てもシャルルちゃんは激カワ!!
あ、ダメですよバーナビーはん。
シャルルちゃんは渡しまへん。惚れてもええですけど渡しまへんから」

「……」

例え年齢的に大丈夫だとしても見た目年齢的に完全にアウトだ。
そんな心配は間違ってもされたくない。

「……まあ、もし惚れた言われたらロリコンやて週刊誌に売り込みますけど」

にんまりと彼は口角を上げて笑う。
綺麗な唇の形。
シャルルと同じ角度だ。

よく良く見れば耳の軟骨の形、目や鼻梁など類似点が見られる。
もしかして

屋台の店主もいつもくっついて歩いていたと言っていた。

「カカオさんとシャルルさんはご兄妹ですか?」

はた、とカカオさんの動きがとまる。目をしばたかせ、ややあってくすくすと笑い出した。

「バーナビーはんよう見てはりますなぁ。そのとおり、血を分けたブラザーとシスターですよ」

カカオさんはまた白手袋を脱ぎ、今度はたくさんの光の蝶をステージに飛ばした。

「片方だけにょきにょき伸びて、見た目の歳がこうも離れて、
気づく人はもうほとんどおりません……けれど、シャルルは間違いなくボクの『姉』ですよ」











リハーサルと称した関係者のための公演はすべて終了。
最後は演者全員がステージに出て挨拶をしていた。

観客がはけてからも会場の動きは止まらない。
ステージの装飾の変更、会場の掃除、
不審物がないかあちこち見回る。

ガード対象のシャルルはぐったりとソファに沈み、酸素と軽い脱水のため点滴を受けている。
カカオさんいわく、ステージのあとや合間はいつもこんな感じらしく心配する必要はないとのことだった。

今は彼女にドラゴンキッドがついている。


「なあバニー」

「何です?」

座席の下をひとつひとつ見て回る。ここが終わればまたもう一度会場の外の見回り。
警備会社も介入して入るが、その中に犯行予告の犯人がいないとも限らない。
出来ればヒーローのみで確認したい。

「なんか壮絶だよな」

壮絶。
なにが、と聞くのは不粋だろう。

「あんなちっちゃい子が、って思ってたんだよ。なのにもっとちっちゃい時から……いや、やっぱ何でもねえ」

おじさんは子供が好きなのだろうか。普段から言葉や行動の端々に子供を気にかける様子が窺える。

「なーんかさ、考えさせられるっつーかなんつうか……」

「サーカスの歴史については僕達がどうこう言える立場にありません。
彼らには彼らなりの……おじさん?」

「バニー、あれ、なんだ?」

カカオさんに話しかける作業服を着た男。
べつに不思議な光景ではないが、問題はその男の妙に膨れた脇腹のシルエットだ。
目立つほどではないが、気になる。

カカオさんの顔から一瞬笑顔が消えた。

「バニー、追いかけるぞ」

「目立つようなことはしないでくださいよおじさん。
私服のロックバイソンさんとファイヤーエンブレムさんにも応援を頼みます」


何でもないようないつもの笑みを顔に貼り付けたまま、カカオさんは作業服の男の後ろをついていく。

すれ違いざま、ステッキを持つ右手の小指が立ったのを視界の端でとらえる。

あらかじめ取り決めしていたヘルプサインの一つ。

「ーー私服のお二人にお願いがあります」

フェイスガードを下ろし小声で要件を伝える。

作業服姿のロックバイソン、屋台を担当する者のエプロンを身につけたファイヤーエンブレムがどこからともなく現れ二人を尾行する。


『ハァイハンサム。シャルルちゃんのグッズの保管小屋の中に入っていったわよ』

スピーカーからファイヤーエンブレムの声がする。ひそめられた声を聞き逃さないようにスピーカーのボリュームをあげた。

『……何かしら……脅されてるみたい。取引とか、チャー?とか、組織とか……リック?リックの時は、とか……よく聞こえないわね』

「相手は作業服の左脇腹に銃ないし何かしらの武器を隠し持っている可能性があります。注意してください」

『取引を断っているみたいね。何の取引かしらよく聞こえないわ』

取引。
真っ先に浮かぶのはスワローテイルが回収しているカカオさんのネクスト能力をかけた『物』だ。しかしそれはまだ確証が得られていない。

『まずいわね、団長さん銃突きつけられてるわ』
ファイヤーエンブレムの声の直後、遠くから爆発音が聞こえた。

「!」

『ごめん!シャルルさんがいなくなっちゃったよ!』
ドラゴンキッドの焦った声。
爆発音に護衛対象までいなくなるなんて。

『団長さんの所には俺が近い。バニー、シャルルちゃんを探してくれ!』

「ちょっと!大丈夫ですか!?おじさん!!」

煙を見るにファイヤーエンブレムとカカオさんがいる小屋の方だ。

『シャルルちゃんを探せ!バニー!』




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