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▼ (9)リハーサルと裏っかわ2

『爆弾が見つかったわ』

見回りをしていたロックバイソンが爆発物を発見した。
サーカスのテントからは離れた屋台などの備蓄をおさめた小屋に隠されていた。

『他にも有りそうね。ひとつ残らず見つけなさいよ、ヒーロー』

アニエスさんの指示で手の空いているヒーローが不審物を探す。

ゴミ箱の中や側溝、無造作に置かれたダンボールの中。
物を隠せそうな所は逐一覗いて回る。

その度に「シャルルをよろしく」「これ食ってけ」などサーカスの関係者から声をかけられた。

『ボンジュー!スワローテイルについて残念なお知らせよ』

ヘルメットのスピーカーから聞こえた内容に思わずため息をつく。

『ちょっと!ため息つきたいのはこっちよ!これじゃスワローテイル関係放送できないじゃない!』

スワローテイルの捕物を放送できたのは初回の乙女の涙と茨の女王のみだ。

21カラットのダイヤの時の映像を解析した結果、海外の映像から引っ張ってきたスワローテイルの情報は『偽者』のものだと分かった。

カツラの下からのぞいた自毛も、靴に忍ばせたローラースケートも前回現れた『偽者たち』から確認された。

『このまま逃げられ続けたらお蔵入りよ。せっかく怪盗なんて話題性あるヤツなのに!! 何が何でも捕まえて! 』


相当ストレスがたまっているのだろう。どんどん声が高く大きくなっていく。
そっとスピーカーのボリュームを絞った。

「おーいバニー!」

ガッチャガッチャとヒーロースーツの関節の音を響かせながらおじさんが駆け寄ってきた。

「言われた所全部見たけど何もなかったぞ。バニーん所はなんかあったか?」

「何もありませんでした。あれば連絡してますよ」

「そろそろ交代の時間だ。テントの方行くぞ」









ブルーローズと交代してステージの裏側で待機をする。
おじさんはステージと客席が見渡せる客席の上の方で待機。

驚いたことにシャルルは衣装のチェンジ以外はほとんどステージに立っていた。

「どないです〜? シャルルちゃん可愛いですやろ〜?」

声に振り向けば青く発光しているカカオ・ローストが立っていた。白と黒の市松模様の燕尾服につま先がクルクルと巻かれている靴、ギラギラと光るステッキを握っている。

「空中のアレはエアリアルっていいまして。うちのサーカスの目玉でもあるんですよ」

シャルルの他に派手な化粧をした女性が天井から垂れたリボンに体を絡ませ音楽と光に合わせて踊っている。
その下ではやはり派手な化粧をした道化たちがなにやらストーリー性を持たせた寸劇をしていた。

「!」

道化の持っていたビンが投げられシャルルの背中に当たる。

背中を抑えうずくまるシャルルに周りの道化たちは慌てだした。

「……大丈夫なんですか?」

「あれも演技です〜。マジメに凄いだけやとこんな流行りませんて」

エアリアルリボンからもうひとりの女性が降りて道化たちを叱り飛ばす。
ポンポンとその周りをカカオさんのエフェクトが囲み、よりコミカルに見せる。

道化たちを追い回し、ステージから追いやったところでシャルルは顔を上げてしてやったりと笑う。

「!」

赤い口紅の塗られた形の良い唇。

にんまりと笑うその形に既視感を覚えた。

まさか。
そんなはずが無い。

かぶりを振ってまたステージを見れば、今度は大きなライオンがいた。

シャルルはその鬣を撫で顔を埋める。

「よく懐いとりますやろ?」

ぽん、と背を叩き軽々とその背に飛び乗った。
ライオンはドォ、と低い声で応え走り出す。

「外の巡回中に色々聞きました」

「いろいろ……? なんでしょ……照れますなぁ」

カカオさんはステージを覗きながらエフェクトを次々と変えていく。

「あなたとシャルルさんのことや、前の団長さんのことです」

「……」

「前の団長さんがシャルルさんにしたこと。カカオさんのネクスト能力を搾取していたこと」

「まあ、終わった事ですわ」

カカオさんはこちらを見ずにステージを、シャルルを見つめていた。

「終わっていないと思うのは僕だけでしょうか?」

「……」

『バニー?』

スピーカーからおじさんの声が聞こえる。通信は繋いだままにしてある。

「スワローテイルが狙うものについてずっと考えていました」

客席から拍手が巻き起こる。声がかき消されないように拍手がおさまるまで待った。
カカオさんは白手袋を脱ぎポケットに無造作に押し込む。

「あれはあなたのエフェクトの一種ですよね」

カカオさんの手からたくさんの鳩が生まれステージへと飛び立っていく。
客席の上を周回し、何羽かシャルルの手に止まった。

「前団長に命じられて作った物……それをスワローテイルは回収している」

鳩をシャルルのかぶっていた帽子に入れ、取り出すとバラの花束が出てきた。それを彼女は客席に放り投げる。

「スワローテイルが盗み、あなたはエフェクトを消す。そして持ち主に返す。
偽物のスワローテイルはこのサーカスの団員ですね?」

「……」

カカオさんは何も言わない。

「スワローテイルは、シャルルさんなんじゃないですか」

ちらり、と横目でカカオさんは視線をよこした。

「違いますか?」

「さあーー、どうでしょ?」

「はぐらかさないで下さい」

シャルルが客席に手を振り、キスを投げながらこちらに歩いてきた。

「おつかれシャルルちゃ〜ん!ちょっとだけやけど休んどき。
ほな、交代な」

カカオさんはウインク一つ残し、手袋をはめステージへと出ていった。


『バニー、今の話……』

スピーカーからおじさんの声がした。酷く暗い声だった。

「……聞いた通りですよ」

シャルルはほかの団員に囲まれ酸素やら着替えやらもみくちゃにされていた。
ステージの裏に貼られたタイムテーブルを見るに、8分後にはまた彼女の出番が来る。

『どうすんだ』

「まだ確定ではありません。シャルルさんがテレポートのネクストかどうかもわかりませんし、カカオさんのネクストについても認めた訳ではありません」

『カマかけたってことか?』

カマと言えるほどのことじゃない。ただ自分の推理を垂れ流しただけだ。

「まだ不可解なこともあります。終わったあとまた直接聞くつもりです」

人がいいだけの団長ではない。
まだ何か彼は隠している。
おじさんのように何でもカンを信じる訳では無いが、何となくそんな気がした。





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