▼ 離したくない温もり
「スカイハイの髪、綺麗だね」
「うん?」
リツがソファに腰掛けている私の背後に立つ時は決まって私の髪を触る時。
私の髪に指を差し込む。手ぐしでゆっくりと梳かれとても心地が良い。
「金色でキラキラしててお日様が似合う。ジョンともお似合い。フワフワだしサラサラだし」
「そうかい?」
ジョンとお似合いか。足元で伏せをしているジョンはリツの言葉を理解しているのか尻尾をパタンパタンと揺らしている。
「私の髪もスカイハイみたいに綺麗だったらいいのに」
「リツの髪は綺麗だよ、とても。おいで」
私の髪を弄ぶ指を掴まえる。
そのままネクスト能力を発動させリツを背もたれ側から私の腕の中へとふわりふわりと移動させる。
ぎゃ、だとか、危ない、だとか抗議する声はひとまず無視。
「リツの髪だって素敵だと、私は思うよ」
彼女が私にしたように、私も彼女の髪に指を差し込みゆっくりと梳く。
カラスの濡れ羽色とも表現されるオリエンタル特有のつややかな黒髪はするすると私の指の間を滑り落ちてゆく。
また指を差し込んで梳く。
何度も繰り返せば心地よいのかリツは目を閉じた。
ふといたずら心がむくりと膨らんだ。
可愛らしい耳のフチに指を這わす。そっと撫で軟骨をなぞり、そろそろと首筋へと指をすべらせた。
「くすぐったいよスカイハイ」
鎖骨をなぞりデコルテへと指を移動させればそこはうっすらと柔らかい丘陵の始まりの地点。
指を進めてしまいたいが彼女の洋服がそれを許さない。
心臓が今にも限界を迎えそうなほど早鐘を打っている。
まだだ。まだそこまではだめだ。
今にもどこかへ飛んでいきそうな自制心を奮い立たせる。
しっかりするんだ私。しっかりすべきだ。
うっすらとリツが目を開けた。
彼女は私に手を伸ばす。
髪を触りたいのかな、と少し背を丸めれば伸ばされた手は私の首に回され、不意をつかれた私はバランスを崩した。
唇に暖かく柔らかいものがくっついた。
「!」
キスだ、と思った時にはもうリツの唇は離れてしまった。
ふに、と軽く触れるだけのキス。
「んふふ」
幸せそうに君は笑う。
たったそれだけなのに胸が苦しくてその苦しみを誤魔化すようにもう一度今度は私からリツの唇を求めた。
願わくはこの小さな幸せが永遠であらんと、腕の中の華奢な体を抱きしめた。
離したくない温もり
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