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▼ (6)21カラットのダイヤモンド


「今宵21カラットのダイヤをお借りします。あなたの魅力をいただくわ……
えらく直球な名前だな、21カラットのダイヤ」

「21カラット……4.2グラムのダイヤよ。ブリリアントカットのルース、とくに謂れのあるものじゃないわ」

トレーニングセンターにアニエスさんが現れた。
そろそろこのパターンにも慣れてきた。またスワローテイルから予告状が届いたらしい。

「持ち主はトリニティ・サーカス団長、カカオ・ローストよ」

あの陽気な人か。

「ローストカカオ?美味しそうな名前だね!!」

「芸名よ」
アニエスさんに窘められ、ドラゴンキッドはなーんだ、と一瞬で真顔に戻った。

「トリニティ・サーカスには他にも犯行予告が届いているのは知っているわね?」

めいめい頷く。お陰様で交代でシャルルさんのボディガードをしなくてはいけない自体になっているのだから。

「ほんっと、話題の欠かないサーカスだわ」

ファイヤーエンブレムがため息をついた。

「話題?確かにテレビつければサーカスの話題ばっかりだけど。私シャルルって子とコラボのボトルラベルの撮影したわよ」

「……ほら、彼女幼く見えるでしょう?」

ふう、とアニエスさんはため息をついた。

「児童福祉法は知ってる? 公衆の娯 楽を目的として曲馬または軽業を行う業務」 に満15才未満の児童が従事してはいけない法律」

聞いたことはある。この法律が制定されて以降サーカスの数は減り続けている。幼い頃から訓練しなくてはならないのにそれが禁止されては後継が育たずサーカスの維持が難しくなるからだ。

「え?じゃあシャルルは?あの子どう見ても15歳未満じゃない!」

ブルーローズが立ち上がる。芸能界でも15歳未満のタレントは出演できる時間帯が限られるように、年齢は大事だ。

「そう。面白そうだから調べて番組組んだのに潰されたのよ! 私の苦労を! 一瞬で!!」

アニエスさんはくしゃりと資料を握りつぶしてしまった。

「だっ! 調べたって……何歳なんだあの子」

たしかにそれは気になる。

「……戸籍はロックされていたわ。以前ほかの国で市民団体が動いたことがあったんだけどね、裁判に持ち込んで見事サーカス側の勝利。

戸籍の年齢は裁判官にしか公開しなかったみたいだけれど、裁判当時シャルルは15歳以上であることが認められた。
しかもこの裁判は5年前よ」

「え?じゃあシャルルは最低でもハタチ過ぎてるの?」

「んまぁ!若さを保つネクストなのかしらっ ステキだわぁ!」

女子組が色めき立つ。シャルル本人がネクストという情報は無い。ボディガードを受けるにあたって一通り確認したがそのような事実はなかった。

まれに遺伝子やホルモンの異常で発育が遅いか止まってしまう人もいるらしい。シャルルはそのケースなのかもしれない。

その体質を生かしてサーカスを続けているのだとしたら彼女は……

そこまで考えて慌てて打ち消す。
ネクストである自分だって「特異」を売りにしてヒーローをしているではないか。

「なあバニー」

「……なんです」

「シャルルちゃんにチョコ買ってこうと思うんだけど、なんか店知らねえ?」












「いーやー!なんかもうホントすんまへん!シャルルちゃんに続いてダイヤの番までしてもろてほんまにもうなんてお礼したら……そや、シャルルちゃんのほっぺチューを「カカオは滅びるといい」

愛想の良すぎる陽気な団長と、愛想の悪すぎる看板娘。

カカオさんの宿泊するホテルの部屋でダイヤを見せてもらう約束だった。


「うちのサーカスに代々受け継がれてるダイヤですわ」

「まだカカオで二代目だけどね」

「あかんでぇ、シャルル。これはなあトリニティ・サーカス宣伝のええ見せもんになるんや、話し合わせて盛っとき」

腰を折り目線を合わせてから
しぃ、と彼女の唇に人差し指を立てる。

「……」

この人たちは本当に商魂たくましいというかなんというか。

カカオさんの手の中には滑らかな別珍素材のケース。

「開けますけど、お気をつけて」

に、とカカオさんが笑った。

気をつけて。その意味を理解する前に蓋が開かれた。

「!」

この感覚は……

目が離せない。よく見るタイプのブリリアントカットのはず。
ただのルースで、なにも装飾のないダイヤは不思議な輝きを放っているように見えた。

「ハイおしまい」

「!」

蓋が閉じられた瞬間、ようやく瞬きができた。茨の女王を目の前にした時のように、指先一つ動かせる気がしなかった。

「気をつけな、ヒーローさん方が魅入られたら洒落になりまへん。しっかりお願いしますよ」

にい、と半月型に歪められたカカオさんの口はまるで道化師のように見えた。









「何だありゃ」

ボディガードをブルーローズとファイヤーエンブレムに交代してもらい、あずけられたダイヤのケースを見つめる。

「わかりません。ですが恐らく茨の女王の時と同じ感覚でした。
やっぱり何らかのネクスト能力がかけられている可能性は高いでしょう」

カカオさんは何か知っているようだった。が、聞き出す前に仕事があるからと逃げられてしまった。

「団長さんは平気みたいだったな、アレ」

「ええ……」

「スワローテイルはこの特殊な力を持つヤツを狙ってると考えて良さそうだな」

珍しくおじさんは真面目な顔をして考え込んでいる。


特殊な力を盗んだものから抜き取り、用済みのものは返却する。
一応そう考えればスワローテイルの行動と合致する。
だが、何のために?
どうやってその特殊な力を抜き取るのだろう。

「!」

PDAが振動する。

『ハァイ、新情報よ』

アニエスさんからだ。

『画像の解析の結果、スワローテイルの身長は155センチ、恐らくウィッグ。うなじ辺りに違う色の毛が出ていたわ。地毛は恐らく栗色ね』

155センチ……シャルルさんと同じか少し大きいくらいか。

『靴の裏にはローラーが付いていたわ。出したりしまったりができるタイプみたいだけど、こっちでは使った映像は撮れてないわ』


「……」

『ホテルの外はロックバイソン、ドラゴンキッド、スカイハイが固めてるわ。
トリニティサーカスの全面協力で団員全員衣装を着て待機してくれるそうよ。もちろんカメラも自由!気合い入れなさいよ!!』

視聴率の鬼だ。

「視聴率の鬼……」

ボソリとおじさんが呟いた。おじさんと同じことを考えただなんていやだ。

「んで、コレどっちが持つよ」

別珍張りのケースに収められたダイヤ。

「僕が持ちます」

おじさんに持たせたらすぐに奪われてしまいそうだ。













『出たわ!スワローテイルよ!!』




ヘルメットのスピーカーからアニエスさんの声。
視界の端に小さく映し出された映像にはドラゴンキッドから逃げるスワローテイルが写っていた。

「……」
なんだろう、微かな違和感を感じる。

「おっ? ドラゴンキッドのやつやるなー」

棍を振り回し、さらにその先から雷撃を繰り出す。スワローテイルは防戦一方のように見えた。

「なぜ……」

なぜテレポートで逃げない。

いつもより動きが悪い。いや、違う。

「そのスワローテイルは偽物かもしれません」

『え?どういうこと、バーナビー』

「直接見なければ分かりませんが、スワローテイルの身のこなしとは違います。
一般人にしてはよく動いていますが、とにかくドラゴンキッドが戦っているスワローテイルは偽物の可能性が高いです」



「正解」

「!」

すぐ後ろから声がした。

「こんばんわ、タイガー&バーナビー」

優雅に一礼する彼女に飛びかかる。待ってやる必要は無い。

「だっ!バニっ!?」

拘束しようとのばした手は空を切る。振り返ればおじさんがスワローテイルの手を掴んでいた。

「捕まえたぞ!観念しな!」

「……」

スワローテイルは嗤っていた。
蝶の仮面に手をのばした、瞬間。

「!」












『はぁ!?馬鹿なのあんた達!!タイガーだけならともかくなんでバーナビーまで!!』

「だっ! ……ともかくって」

「すみません、僕がいながら」

スワローテイルにダイヤを奪われてしまった。

あの仮面が妖しく煌めき、これは、と思った時には遅かった。あの仮面も今まで狙われていたものと同じく変な力を宿した仮面だったようで、動けなくなってしまったのだ。

『ごめん、偽物にも逃げられちゃった』

『すまない、こちらもだ』

『シャルルちゃんは無事よん。でもこっちにも偽物が出て逃げられたわ』

あちこちに偽物が現れたようだ。
完全にこちらが遊ばれたことになる。

『偽物はドラゴンキッドの所に一人、ブルーローズの所に一人、ブルーローズが追いかけてる最中にファイヤーエンブレムの所にも現れて、
さらにスカイハイの前にも現れた』

偽者は全部で四人。全員がヒーローから逃げ切るとは。

「ん?ファイヤーエンブレムとブルーローズはシャルルちゃんのボディガードだろ?離れたのかよ」

『ブルーローズが離れた時点でシャルルちゃんはクローゼットの中に隠れてもらったわ』

「だっ! 無事だったからよかったけどよ、あぶねーだろ」

『とにかく、ミスターローストに謝りに行きなさい。今すぐよ!!』




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