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▼ (4)いばらの女王

「女王の庇護?なんだそりゃ」

「戻ってきた時には女王の庇護を受けられない、と言っていました。スワローテイルは『庇護』を狙っているのかもしれません」

ヒーロースーツを脱ぐことなくスタジオのすみで待機。
セットの設営を手伝おうと申し出た虎徹さんは即答で断られていた。
壊し屋の通り名は伊達じゃない。

「で、その庇護ってなんなんだ?」
「それが分かれば苦労しません」

あのまま尋問してしまいたかったがどうにもそう切り出せるような雰囲気ではなかった。

「今までの被害者にも聞き込みしましょう。なにか分かるかもしれません」

「ひご……なんかのネクストか?」

「まさか。物にネクスト効果を持たせるなんて聞いたことないですよ」

ネクストについてはまだまだ解明されていないことが多い。
物に対してネクスト能力を持たせるネクストだっているのかもしれない。

「それかあれだ、物自体がネクストとかな!九十九神みたいに」

「ツクモガミ?」

「そ。オリエンタルタウンの方じゃな、ものを大事に大事にしているとだいたい百年くらいで九十九神になるんだ。神つうか妖怪みたいなものなんだけど」

「は?」

「九十九神のネクスト……なんちゃって……そんな怖い顔すんなよバニー」

「とにかく、今回は守り抜きますよ。連敗だなんてヒーローの信頼が失墜します」

かつてルナティックが登場し、ダークヒーローともて囃された頃を思い出す。
あの時はヒーローの信頼を取り戻そうと様々なキャンペーンを実施した。苦い記憶だ。

「ヒーローの信頼を落とすのが目的、とかじゃねーの?」

「まさか。スワローテイルはヒーローがいない地域にも出没してます」

「だっ! 」


やはり『庇護』の線で調べたほうがよさそうだ。

スタジオの中心に置かれたいばらの女王はこちらの気も知らないで呑気に時を刻んでいる。

「中の人形を盗むためには出てきた瞬間を狙うしかありません。
どういう手を使うつもりかわかりませんが、現れる瞬間がわかっている以上利はこちらにあります」

からくり時計の仕掛けは見事なもので、無理に人形を取り出そうとすると粉々に割れてしまうように細工されていた。

「あと6時間か……退屈だな」

「ちゃんとしてくださいよ。まさかとは思いますが時計ごと奪われる可能性もあるんですからね」

「へいへい」











「そろそろね」

いばらの女王とスワローテイルの特番が始まり、順調に進行して行った。

製作者や他のからくり時計の紹介も済み後は時間になるのを待つのみだ。

ブルーローズがフリージングリキットガンを構える。

カメラには映らないが、ヒーローがぐるりと取り囲んでいる状態だ。


テレビ局の外ではスカイハイとファイヤーエンブレムが待機している。


『スワローテイルが屋上に現れたわ』

耳元のスピーカーからアニエスさんの声がした。
17時58分
いばらの女王が現れるまであと2分。


「スワローテイルです!ご覧ください当局の屋上にスワローテイルが現れました!」

すぐさま小さなワイプからメイン画面へと移る。

屋上では燕尾服にステッキを持ったスワローテイルがカメラに向かって優雅に一礼した。

「!」


スワローテイルの姿が消えた。

生放送中だがスタジオのセットの中に割り込む。

虎徹さんと僕、そしてドラゴンキッドで時計を取り囲む。

「みなさんは下がって!」

司会者やゲストを時計から離す。

スタジオのドアは閉じられていて、ブルーローズの氷で固められている。

「こんばんわ皆さん」

「!」

すぐ上から声がした。

振り向けば時計の上にスワローテイルが立っていた。

「生中継とは照れますねえ」

「さあっ!!」

ドラゴンキッドが棍で足払いを仕掛ける。

ふわりと跳んで良けるがさらに電撃がスワローテイルを襲う。

「きゃあっ」

ギリギリで避けるがツバメの尾のような裾が焦げた。


「これ、高いんですよ。もう」

裾をつまみ大げさにため息をつく。

「そこまでよ」

ブルーローズの氷でスワローテイルを固める。腰まで氷漬けにされたスワローテイルはそれでも余裕の笑みを崩さなかった。


「フフ」


「!」


からくり時計からメロディが鳴る。

オルゴールの様な軽い音に紛れ中のカラクリが軋み動く音がした。

一年、閉ざされていた中央の扉が開く。


皆一様に身じろぎもせずじっと魅入っている。
実況の声もしない。生中継である以上何かしらコメントがなければすわ放送事故か番組をしっかり回せとアニエスさんから叱咤されそうなものだが、耳元のスピーカーからは何も聞こえない。


じいいいいいいい、とゼンマイの音がして、人形が現れた。

いばらの巻き付くエメラルドの玉座に腰掛け、ひたと前を見据えるその姿は美しい、の言葉に尽きる。

他の扉からもバラを持った人形がせり出しくるくると廻り女王へと向き直りまるでバラを差し出し求愛するかのようなその演出に目が離せなくなった。

誰も、何も言わない。

女王の放つ不思議な輝きに目の前がクラクラする。

「ハーイおしまい」

オルゴールが止まり、人形が扉へと戻ろうとするとヒョイと女王をスワローテイルがつまみあげた。

「いばらの女王をお借りします。ジョージ・ブラウン、あなたの魅力をいただくわ」


黒い手袋の中に女王を握り込む。


「まて!」

慌ててスワローテイルを捕らえようとするがあと一歩届かず手は空を切った。

「だっ!」

一瞬遅れて突っ込んできた虎徹さんにぶち当たる。

誰も座らない玉座がドアの向こうに吸い込まれて行った。

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