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▼ (2)熱砂の花

「今宵熱砂の花をお借りします……アナタの魅力をいただくわ……だっ! またかよ!!」

乙女の涙を奪われて一週間、新たな予告状が届いた。

盗まれた乙女の涙は三日ほどで持ち主に返還されたが、奪われるのをあんなに恐れていた持ち主はあっさりと手放した。

即日競売にかけられ億の値がついたが、彼女は女優を引退するらしい。


そして今夜のターゲットは熱砂の花。


「熱砂の花……絵画ですね」


アルベルト・フリーマン作の20センチ四方の小さめの絵画だ。

じりじりと焼かれるような日差しときらめく多肉植物の赤い花が描かれている。乾ききった世界にひとつ凛と咲く花。力強い生命を感じさせる、そんな絵。

現実にある植物ではなくアルベルト・フリーマンの想像上の花らしい。


「バニーちゃん詳しいのね」

「以前仕事で美術館に行きました。その中にありましたよ。
アルベルト・フリーマンはあまり有名な画家ではないようですが、何故かこの絵だけは評価されて高値で取引されています」

おじさんに芸術を説明してもわからないだろう。

他のヒーローもしげしげと印刷された熱砂の花を眺めている。

「あらん?所有者は……ヤダ、知り合いだわ」

ファイヤーエンブレムは爪を噛む。苦々しげな表情に「良い」知り合いではないのだろうと判断する。


「この所有者Dr.サイラスなんだけど、美容外科医として有名なのよ。ドクターとしては……評判はいいけれど、愛人問題とかそっち系の噂がね……」

「こういうことはあまり言いたくないけれど、金以外特に魅力のない男よ。なのになぜかしらね……ああゆうのはすぐ破滅するタイプなんだけど……」

経営者としてなにか思うところがあるのだろう。ファイアーエンブレムは歯切れが悪かった。












熱砂の花


立派な額縁に入れられさらにガラスのケースに収められている。
今朝予告状が届いてから金にものを言わせて誂えたのだろう。警備システムが幾重にもはられていた。

「意味ねぇのによくやるぜ」

中はお抱えのガードマンとシステムだけで十分だと中には入れてもらうことは出来なかった。

虎徹さんの言う通りこれではまるで意味がない。確かに前回スワローテイルを取り逃がしはしたが、テレポーテーション系のネクストに対しコレではあまりにお粗末すぎる。



『いたわ!向かい側の家の屋根!捕まえなさいよあんた達!!』

プロデューサーの怒号に視線を移せば
大きな月を背負い、ピンと背筋を伸ばして立つ影。

「いい夜ですね」

仮面からのぞく形のいい唇を半月型に歪め彼女は笑った。


「!」

彼女の足が氷漬けにされる。

「私の氷はちょっぴりCOLD」

「あれあれまあ……困りましたね」

ちっとも困っていないような声で笑う。ステッキで軽くたたくがブルーローズの氷はきらめくだけで壊れる様子はない。

「さあっ!!」

後ろからドラゴンキッドが棍を振るう。

瞬間


「消えた!?」

スワローテイルが青い光を出し消えてしまった。
ブルーローズはフリージングリキッドガンを構え直しあたりを見回す。

「拘束していてもテレポート可能ですか」

どこだ。
邸の中の防犯システムは作動していない。まだ中には入られていないはずだ。

「!」

見つけた。
邸の塀の上、鳥除けのために鋭利に尖った装飾の上にスワローテイルが現れた。

「フフ」

余裕綽々といった笑み。

そこにファイアーエンブレムの炎が襲いかかる。
業火に足元を崩され落下しそうになったところで彼女は消えた。


次はどこだ。


「きっさまああああああ!!」


邸の中から怒号が聞こえた。
Dr.サイラスの声とともに異常を知らせるサイレンと赤いパトランプが点いた。

「だっ!!」

虎徹さんが能力を発動させ窓の強化ガラスを突き破り突撃する。

「あら、流石は正義の壊し屋ね」

「うっせ!そいつを返しな」

虎徹さんは指先をくい、と曲げ返せ、と繰り返す。

「あら、私が返さなかったことはないわ。ちょっと借りるだけよ」

彼女は既に熱砂の花を手に入れていた。

「心配しないで『熱砂の花』はすぐに返すわ」

形の良い唇をにんまりと歪め嗤う。

「ああでもDr.サイラス、アナタの魅力はいただくわ」
「やめろ盗っ人!それは」

しぃ、と彼女は人差し指を立てた。

「 Au revoir HERO」

ぱっと彼女は消えてしまった。










「で、なんかわかったかバニー」

「残念ながらなにも」


海外での犯行を見るに彼女はその地区に何度も現れる。
一通り盗んだ後に他の地区に移動、というパターンだ。

毎度後手に回るわけにいかない。なんとかしてスワローテイルのネクストを封じる手立てを考えなくては。

そう思いブルーローズ、ドラゴンキッド、ファイアーエンブレムに攻撃を頼み観察していたがなにもヒントを掴めなかった。

何度もヒーローTVのヘリから撮影された映像を見返すもテレポートのパターンも特に見いだせない。


「テレポートされちゃあどうにもなんねーよな。あ! 瞬間移動できたら遅刻しなくて済むな」

ヘラヘラと笑う虎徹さんを一瞥。

まったくこのおじさんはいい加減なことこの上ない。

「無駄口叩く暇があったら少しは考えてください。
スワローテイルはすぐに屋敷の中に入りませんでした。テレポートの能力になにか限界や法則があるのかも知れません」

目立つことだけが目的の場合、考えても無駄になるかもしれないが何も手を打たないわけにはいかない。


「スワローテイル、ねえ……」

何度目かわからない映像をまたリピートさせた。





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