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ついにリツをデートに誘った。
彼女は快く了承してくれたが、その場に誰かいるようだった。
微かに入り込んだ男の声。
部屋は家ではなくまるでホテルのようで。

「うーむ……」
約束を取り付けはしたが、気になる。
トレーニングをしなければと思いつつも先ほどの事が気になる。一心不乱に汗を流せば頭の中もサッパリするだろうか。

「どうしたんだよスカイハイ」

思案しているとワイルド君が声をかけてくれた。
彼なら相談にのってくれるだろうか。
意を決して口を開く。

「ワイルド君。実は、女性をデートに誘ったのだが……」

「え!? 誰!!?相手はリツか!?」

食い入れ気味に詰め寄られる。

「ど、どうしてわかったんだい?」

「ぅえ!?いや、まあ……カン?」

ワイルド君は勘が鋭いようだ。一発で当てられてしまうなんて、普段からそんなに態度に出ていたのだろうか。

「おじさんのカンはあてになりませんよ」

「バーナビー君!」
ヒーローの中で女性人気ナンバーワンの彼なら素敵なデートスポットを知っているだろうか。

「バーナビー君、ちょっと教えて欲しいんだが……」

「応援するぜ!いつだ?計画は立ててんのか?」

「明後日だ。そして計画は今からバーナビー君にどこか紹介してもらおうかと」

「なになにっ?スカイハイがデート!?」

「あらん、相談なら乗るわよスカイハイ」

わらわらと人が集まってきた。皆一様に心底楽しそうな顔をしているところを見るとなんだか話が大きくなりそうだ。








「え?リツさんとデートなんですか?」

外野が騒がしく落ち着いて話ができないのでスカイハイさんをカフェに連れ出した。
話を聞けばデートの相手はリツさんだという。

「そうなんだ。どこかおすすめはないかい?」

昨夜のペトロフ管理官の目が脳裏によぎる。

射抜かれるほど攻撃的ではなく、冷たく、冷静に、ひた、と見定めるような目。

見るからに妹のリツさんを溺愛していた。
そんなリツさんが恋の相手とはスカイハイさんも前途多難な恋をしたものだ。

「ショッピングとか映画とかどうです?リツさんの好きそうなものとかはわかりませんか?」

「さあ……」

「リツさんが普段住んでいるところはわかりますか?」

「イーストブロンズとしか知らないんだ」

ブロンズ住まい。
ならばあまり高級なところに連れていくとひかれてしまう可能性がある。

そういえばリツさんは下世話な話、結構稼いでいるのにブロンズ住まいだ。

ホテルで会った時はいろいろありすぎて冷静ではなかったとはいえ、兄妹なのに苗字が違う。今更気づいた。

まさか、結婚しているのでは……

ならば呑気にデートの相談に乗っている場合ではない。

「あの、スカイハイさん、リツさんの家族構成は分かりますか?」

「家族構成?いいや、知らないが……」

まずい。このままいくと知らなかったとはいえ不倫の応援をしてしまうことになるかも知れない。
まだ確定ではないとはいえどう切り出すべきか。

「……」

「バーナビー君?」

いや、ペトロフ管理官のご両親と正式に養子縁組していないだけかもしれない。

「ところで、リツさんに恋人がいないことを確認しました?」

結婚しているのでは、ではなく、恋人。
これなら不自然じゃないはずだ。

「恋人?いや、確認はしていないが……もしや……いやそんなはずは」

なにか心当たりがあるのだろうか。
先程より明らかにうろたえている。

「昼頃PDAからリツに連絡したんだが……その時姿は見えなかったが男の声がしたんだ」

「!」

「その男に私と出かける許可を取っているようだった。
しかも個人の部屋というよりはホテルのような部屋で……もしや恋人とのバカンス中に邪魔を……私はなんてことを……」

ホテルで男の声。
声の主はペトロフ管理官の可能性が高い。しかし平日の昼間に仕事を休んでリツさんの元に行くだろうか?

「でもその男の人から許可が出たんですよね。恋人なら自分の彼女が他の男性と外出を許さないと思いますよ」

「いや!リツは『スカイハイと』と言っていた。仕事仲間のヒーローならばと許したのかもしれない!」

みるみるスカイハイの顔が青ざめていく。普段溌剌として健康的な彼のこの様子はレアかもしれない。

「どうしようバーナビー君!!」

半ば悲鳴のような声を上げるスカイハイをなだめて席を立つ。

「直接確認してみます。ちょっと待っていてください」



カフェの外に出るとリツさんに教えてもらった携帯電話にかける。

2コール目ですぐに出た。

『もしもし』

「バーナビーです。いま大丈夫ですか?」

『うん、大丈夫』

覚悟を決めて単刀直入に切り出す。

「リツさんは今フリーですか?」

『フリー? ええ、司法局の名の元に動いてはいますがヒーローのような契約は結んでいませんよ』

そうではなくて。的はずれな回答に思わず脱力する。

「いえ、そういう意味ではありません。結婚していたり、恋人がいるかどうかを知りたいのですが」

『……え?それどういう意味ですか?こちらのケータイにかけるような事ですかそれ』

ああ、そういえばウロボロス関係はこちらに、と教えて貰ったんだった。

「すみません。アレは関係ないです。関係ないですが教えてもらえませんか」

『ミスターブルックス』

「!」

ペトロフ管理官の声。

『ちょっとユーリさん返『リツを口説くおつもりですか?』

「い、いえそういうつもりでは……」

『申し訳ありませんが、リツにはス『ユーリさぁん!! ごめんなさいバーナビーさん!! そういう意味ならフリーですけどどうしたんですか?』

「いえ、それだけです。ありがとうございました」

一方的に切る。
ペトロフ管理官にはなにか誤解されたようだがとりあえず知りたいことは知ることが出来た。

テーブルに戻りその旨を伝えればスカイハイの血色が戻った。とてもわかりやすい。

「そうか!本当に良かった!ありがとうバーナビー君!」

後はデートの内容だ。いっそさっき行きたいところを聞けばよかったのかもしれない。まるで僕がデートに誘ったようになってしまうが。

「スカイハイさんは行きたいところないんですか?」

「行きたいところ?リツとだったらどこでも行きたいよ!」

「……」

彼女の安全を考えた上でどこが一番最適だろう。

いっそヒーロースーツのままで夜のシュテルンビルトの上空でもデートしていればいいのに。

「映画とかが無難じゃないですか?その後食事してふらりとショッピングしたり……それかロビンバクスターに振り回された遊園地とか……」

苦し紛れに案を絞り出す。
ふと近くのテーブルの会話が耳に入った。

そうだ、これならデートにぴったりかもしれない。仕事で出入りしているのになぜ今まで気づかなかったんだろう。


「スカイハイさん、トリニティサーカスはどうでしょう?」



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