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リツを調べている人間がいる。
この怯え様を見ると言わない方が良かったのかとも思えてくる。
否
隠しておいたところで危険が迫っていることに変わりはない。知らせて意識させておいた方が良いだろう。
私はリツの本当の両親には会った事はない。が、リツの父親がリツと同じ能力のネクストであったと……聞いている。
*
「あなた……その子は?」
「リツという。まだ4歳だ。事件に巻き込まれてな……家族を失ったんだ。ユーリ!リビングに来なさい。紹介したい子がいるんだ!」
父に呼ばれて顔を出せば小さな日系の女の子がいた。
「ユーリ、この子の名前はリツ。今日からこの家で一緒に暮らす」
父のズボンにしがみついて大きな黒い目いっぱいに涙を湛え今にも泣きだしそうだった。
「はじめまして、リツ」
かがんで目線を合わせると、ついにぽろりと涙がこぼれた。
「あらあら大変」
母親がリツを抱き上げてあやしていた。
リツはすぐに元気になって、
この日から家の中はとても賑やかになった。
リツが寝てから父親から話をされた。
リツはネクストだということ
リツの父親はリツと同じネクストで犯罪組織のため能力を使うことを拒み殺されたということ
リツの能力がバレると犯罪組織に狙われるということ
実際、入所したばかりの孤児院が襲撃されたという。
リツは死亡したことにされ名前を変えて新しい戸籍を作り秘密裏にヒーローにあずけられた。
「ユーリ、リツを守ってあげなさい」
当時まだ能力に目覚めてもいない子供にこんなことを言うなんて。
そんな危険な子供を預かるなんて。
父親に直接言えはしなかったがそんな不満を抱いていた。
「ゆーり、かみのけ、きれいだねぇ」
舌足らずな言葉で、毎日髪の毛を触らせろとまとわりついてきて。
父に植え付けられた正義をあの時はまだ純粋に信じて、憧れていた私はリツの事を守るのだといつも一緒に居た。
*
リツは設計図などの紙の束を広げる。
この量を暗記しようというのか。
「んー……」
ブツブツとなにやら専門用語のようなものをつぶやきながら書き込みをしている。
コピーだから書き込むのは構わないが、集中している時の彼女の字は読めたものではない。
ミミズが毒をもられてもんどり打っているかのような字だ。
私はアレを筆記体とは認めない。
集中しているならしばらくはこちらも暇になる。
持ち帰った仕事をするためにパソコンを開く。
資料をめくる音、ペン先が紙を擦る音。
ずっと続くと思われたその心地よい静かさはこの事態のために用意したリツの携帯電話の音により中断された。
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