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結局一睡もできなかった。

カーテンの隙間から光が漏れている。

「……バーナビーは強いな」

私は怖くて逃げた。
大丈夫だ、バレるはずが無い、せっかくの能力なのだから人の役に立ちたい。
そう思い上がっていただけ。

「準備しなくちゃ」

本来なら昨日の夜のうちにホテルを変えるべきだった。平和ボケも甚だしい。

重たい体を引きずるようにしてベッドから出た。











「もしもし、」

『どうしました?』

やっぱりユーリさんの声を聞くとほっとする。

「ホテル移動しましたノースの……それとお願いがあって」


移動したホテルの名前と部屋と暗証番号、そしてお願いを告げる。

『わかりました。持っていきますね』

「うん。ごめんねこんなこと頼んで」

『構いませんよ』


シュテルンビルトの主要な建物の構造を知りたい。
スケートリンクビルの時ような思いはしたくない。

この休暇を使って頭に叩き込むのだ。

ヒーローのスーツや体についても。

メカニックやメディカルセンターが全力で彼らをサポートしているけれど、これからはそうもいかないかもしれない。

今回の事件でヒーローに悟られたウロボロスは更に何らかのアクションを起こす可能性が高い。

前線にいる彼らをもっとサポートできたら……

怖がっている場合ではなくなってきた。

頭ではそう思っても心はそうもいかないのが人間の難しいところだ。

加えてヒーロースーツの素材、構造、そして彼らのCTやインボディ計測結果やその他身体に関する様々な詳細も頼んだ。
データは多いほうがいい。






*




ユーリさんが来るまでベッドでゴロゴロ。テレビをつければ昨日の突入作戦とルナティックのことでもちきりだった。



「!」

PDAが震えた。

「はい」

『やあリツ!』

ぱっと映像が映し出される。スカイハイからだ。
急いで前髪を直す。

『あさって、リツはなにか予定あるかい?』

「いえ、暇ですよ」

『そうか良かった!どこかに出掛けないか?』

出掛けて、大丈夫だろうか。

『……リツ?』

「あ、ちょっと待ってください」

ノックの音が聞こえた。
応対しようと腰を上げたところでドアが開いた。

「ああ、すみません通信中でしたか」

ユーリさんだ。
そうだ、ここのホテルはキーの代わりに暗証番号のロックだった。


「いいの。ねえあさってスカイハイと出かけたいんだけどいい?」

「ヒーローと一緒なら安全でしょう。お気を付けて」

ユーリさんはPDAに映らない位置に座る。

『誰かと一緒なのかい?』

「大丈夫気にしないでください。あさって楽しみにしてますね」

また、と別れを告げて通信を切る。


「持ってきましたよ。確認してみてください」

PDAの光が消えるとユーリさんからブリーフケースを差し出された。

「ありがとうユーリさん」

中身を取り出し目を通す。

「なにか気になることでも?」

「……んーん。昨日バーナビーさんが来たでしょ? それでちょっと考えたの」

複合商業施設、ジャスティスタワー、他の地区へ移動する橋、ステージを支える柱とワイヤー、
そしてヒーローについて。

「スケートリンクビルでドームが落ちそうな時私何も出来なかった。
予めきちんと設計がわかっていれば対処できたはずなのに」

今思い出しても苦いものが広がる。トニーという少年がいなければ大惨事だった。

「いつも事後処理が多かったから、設計図とかあって当たり前だったんだよね。
でもこれからはそういうわけには行かないんじゃないかって思うの」

ずっとその名を聞くことがなかった組織。
なぜ今になってウロボロスの名を聞くのだろう。

「なんだか嫌な感じ。これからもっと大変なことが起こりそうな、そんな感じがして怖いの」

地区ごとに資料を分けていく。
休暇を使ってみっちり頭に叩き込むつもりだ。

「怖いのは、できない事があるからかなって思ったの」

「危険なことはして欲しくありません」

「ユーリさん……」

「あなたは本来なら現場に出なくてもいいんです。すべて終わったあとに修繕をすればいい」

ユーリさんは立ち上がると一枚の紙を差し出した。

「これ……」

「あなたが出動した事件の公式資料の閲覧者名簿のコピーです
それと、司法局のデータベースにも不正にアクセスされた痕跡があったそうです」

名簿、と渡された紙にはすべて同じ名前が並んでいた。

「おそらく偽名でしょうが……」

私のことを調べている人がいる。なんのために。まさか

紙を持つ手が震える。

「大丈夫ですか、リツ」

「だい、じょうぶ」

もっと頑張ろうと決めたばかりなのに。もっと頑張らなくてはいけないのに。

「リツ」

「……」

鼻の奥がツンとする。震えが止まらない。

「私があなたを守ります。大丈夫、リツを危険な目に遭わせたりしない」

なんとか涙を堪えようとするが、視界がうるんで歪む。泣いてしまえばなけなしの意気地が涙とともに流れ出てしまいそうで。

「大丈夫」

「リツ……」

「平気」

ぐしぐしと袖で決壊しそうな涙を拭い、深呼吸。

怖いのは出来ないことがあるから。
出来ないことがあるのは知らないことがあるから。

気を取り直して紙の束に向き直る。
全部、覚えてやる。


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