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▼ 21

夜遅くに女性の部屋を訪ねるのはあまり褒められたことではないがこの際仕方ない。

ロビーに着きPDAに連絡を入れれば部屋番号を教えられエレベーターに乗り込む。


1020号室
最上階だ。

ブザーを鳴らせばすぐにドアがあいた。

「こんばんは、バーナビーさん」

「すみませんこんな遅くに」

招かれるまま中に入る。かなり広い。部屋も続きで何部屋かあるようだ。

ソファに腰掛ける。

「お疲れ様でした」

紅茶を入れてもらう。受け取って一口飲んでから切り出す。

「今夜の中継のことですが」

「見ました。お疲れ様でした。情報が漏れていたみたいですね」

ほわんとした見た目に反して彼女はそこそこ頭がまわるらしい。話が早くて助かる。

「パワードスーツがあるのを確かにこの目で見ているんです。
作戦が決まってから決行までそんなに時間はなかった……なのに全部移動され全く関係ない人間が集められていました」

悔しい。今度こそはと思ったのに。

「そうだったんですか……
通じているのが警察なのか、メディア関係者か、ヒーロー事業に携わる者なのか……怖いですね。
バーナビーさん、あの組織関係では以降私のPDAには連絡しないでください」

「え?」

「これ、新しい携帯の番号です。名義は私ではありません。
できれば登録は私とわからないようにするか暗記するかでお願いします」

彼女は携帯に番号を表示させる。

「わかりました……」

「同じ境遇と言うのは失礼かもしれませんがバーナビーさんを信用してお話しします。
……私はウロボロスから逃げています。今回の休暇も、怖気づいて逃げたんです」

「!」

ウロボロスから逃げている?

「私のネクスト能力は父と同じ……父はウロボロスに利用されていました。
父が死に、あの組織は使い勝手の良いこの能力を探していると養父に言われて育ちました。
組織にこの能力を渡してはいけない。悪に力を貸してはいけない、と」

「それは……どういう」

リツさんは目を伏せた。

「なぜ、壊れたものを直すことができると思います?」

リツさんは目の前のカップを割った。
ネクストを発動し元通りに直していく。

よく見れば破片の周囲が靄のように溶け、ほかの破片の靄とくっつき元の形に戻っていく。



「なるほど、つまり元の能力は分解……破壊、ですか?」

「…………」

彼女はじっと両手を見つめていた。

「分子レベルで物質を操れます。分子の結びつきを変えたり壊したり戻したり。
正確に理解しなくてはいけませんが
人体の傷の修復も可能です。
訓練すれば離れたところからビルを粉々にしたり、人の命を奪うことも、簡単にできるでしょう。
心臓の筋繊維を運動が困難な程ズタズタにする事だって可能です。」

外傷を与えず、証拠を残さず人を殺せる力。


「あえて私はヒーローの補佐として仕事をしています。
能力に制限をつけて、さも修繕しかできないように装って」

あえて

そうだ、僕もあえて実名でヒーローをしている。

「なのにやっぱり怖くなって逃げました」

力なく彼女は笑った。

「バーナビーさんはすごいですね」

僕は凄くなんてない。

「情報が漏れている以上、親しい人でも信頼しない方がいいですね。私の番号も、このホテルのことも内密によろしくお願いします」

「わかりました。セキュリティ面ではゴールドのホテルの方が良いのでは?」

シルバーでも最上階のロイヤル。そこに連泊できるならゴールドステージのもっとセキュリティのしっかりしたホテルの方がいい。

「ホテルマンも信用できませんよ。エレベーターの業者にあの組織の人間が紛れ込んでいたんでしょう?」

確かに、そう言われてみればホテルマンも信用出来ない。

「ここも偽名で泊まっています。有名人のバーナビーさんを招き入れてしまったので移動しますけど」

「すみません」

彼女は相当用心深いようだ。


「!」


ノックの音が響いた。
思わず身構える。

「ドアベルではないんですね。大丈夫ですかリツさん」
「平気。家族だから」

「え?」

自分がここにいて大丈夫だろうか。そう尋ねる前にリツさんは小走りでドアに駆け寄りロックを開けてしまった。

「おかえりなさいユーリさん!」

ぎゅ、と抱きついた。

目を瞬かせる。あの人は確か司法局の裁判官だったはず。

裁判官はリツさんの頭をなでハグを返すとさも今気づきましたとばかりにこちらを見た。

「おや、お客様ですか」

冷たい目に射抜かれた。この居心地の悪さはまるで

「あのね、組織の件でちょっと」

裁判官はため息をついた。

「なるほど」

その一言ですべて理解したようだった。

「バーナビーさん、会ったことはありますよね。多分タイガーさんの裁判とかで……
私はユーリさんのお父様とお母様に育てられたんです。兄のようなものですね」

「いつも『妹』がお世話になっていますブルックスさん」

ひた、と見据えられたその目に冷たいものが背筋を滑り落ちた。






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